JCBとLayerXが次世代BtoB取引履歴インフラに関する共同研究を開始
株式会社ジェーシービー(JCB)と株式会社LayerXが複数企業間をつなぐ次世代BtoB取引履歴インフラに関する共同研究の開始について合意したことを12月22日に発表した。
この共同研究を通じてプライバシーに配慮した利用者主体の商流情報の流通を実現し、それらを活用した高度なサービスを可能にするデジタルサプライチェーン構築に向けた取り組みを推進していくようだ。また共同研究の目的はオペレーションの効率化とJCBの強みを生かした新たなモデルを検討していくことのようだ。具体的には、JCBならではの強みを生かして地域金融機関、BtoB決済に関わるソリューションプロバイダー等との協業も視野に入れているとのこと。
この共同研究ではプラットフォームの前提となる業種や業界を超えた取引情報の共有に際して、取引情報をブロックチェーン上に記録することで改ざんが困難な確かなデータ流通をさせるとのこと。
LayerXのリリースでは「社会実装に向けては取引情報をブロックチェーン上に記録することだけでは十分ではなく、データ保護、プライバシーの観点から、取引情報の閲覧権限を主体毎に柔軟に設定可能な仕組みが情報の提供者に求められます。例えば金融機関や会計士等、業務上必要のある事業者には開示する一方で、不必要な事業者には開示しないというようなデータコントロールが考えられます。さらに与信情報の照会・確認等に必要となるデータ演算を、データを秘匿したまま行う高度なプライバシー技術が要求されます」と記載されている。
そこでこの共同研究では、PCやスマートフォンなどの端末に備えられたプロセッサのセキュリティ機能である「TEE (Trusted Execution Environment) 」を応用し、LayerXが開発したソリューション「Anonify」をブロックチェーンと組み合わたとのこと。「Anonify」はプライバシーを保護した上で, ブロックチェーンを改ざん不可能なデータ共有基盤として用いることを可能にするシステムで、通常のブロックチェーンのように状態遷移の履歴を平文のまま記録するのではなく、TEE(Trusted Execution Environment)を通して、暗号化された命令データをブロックチェーンに記録していくソリューションである。それにより取引情報の秘匿性・信頼性を担保し、利用者による開示情報の取捨選択を実現することによって取引情報プライバシーの確保を図る。
今後JCBとLayerXは「ビジネス領域におけるBtoB決済におけるトランザクションの記録・活用」に加え「デジタル通貨を用いた国内外送金などの金融取引に関するAML/CFT強化に向けたトランザクション識別と追跡性担保」を可能にする将来的に必要不可欠なインフラへの応用も視野にいれて研究開発に取り組んでいくとのことだ。
12月23日17時15分加筆あり
あたらしい経済編集部はLayerX社リードエンジニアの恩田壮恭氏とJCBイノベーション統括部次長の間下公照氏へ取材を行った。
LayerX社リードエンジニアの恩田壮恭氏へ取材
ーVisaもTEEを活用したCBDCソリューションを検討していますが、他の環境と比較して、なぜTEEが選ばれているのでしょうか。
TEEは、システム運営者すらアクセス不可能な秘匿領域をハードウェアレベルで保証します。
プロセッサをベースとした技術であるため柔軟な計算能力を有し、ゼロ知識証明や準同型暗号といった技術に比べ、エンタープライズの実際のユースケースに即した技術だと考えています。
JCB様とBtoB取引履歴インフラの共同研究を開始するにあたり、TEEを活用した当社ソリューションAnonifyの有用性を十分に発揮できると考えております。
ー率直にAnonifyの野望を教えてくださいませ。
プライバシー保護とデータの利活用の両立は、非常に難しい問題ですが、社会のデジタル化に必ず発生するニーズです。 Anonifyの応用先は、今回のようなBtoB取引履歴インフラにとどまりません。
11月に発表したつくばスマートシティ協議会への加入、今月3日に発表した加賀市との連携協定など、インターネット投票や行政システムといった多分野での社会実装に向け、既に取り組みを開始しております。
JCBイノベーション統括部次長の間下公照氏へ取材
ー2020年12月にCBDC発行に向けた準備を行う狙いはなんでしょうか。
CBDCはまだ全容が明らかになっておらず、日本国内においても諸外国においても検討途上と認識しております。
しかし、現代の人々が慣れ親しんだ決済システム(各種カードや電子決済など)との比較において、今後課題になると思われるいくつかの外部機能が見え始めております。
その1つが取引の履歴をいかに記録するか。スマートコントラクトからの決済自動化やプログラマブルマネーといった流れを考えると、取引履歴の記録もおそらくはブロックチェーン・分散台帳の活用が視野に入ると思っております。
しかし、金融取引の履歴をチェーン・台帳活用となってくると、また、そのインフラを社会基盤として活用することを想定するとなると、ブロックチェーン・分散台帳技術特有のいくつかの課題を乗り越える必要が出てくると考えます。
我々の考ええる課題の1つは、「秘匿性」。
他事業者や他者と取引履歴インフラを共有するとなると、ちゃんと秘匿できることが重要なポイントとなりますが、ブロックチェーン・分散台帳技術ではノード間で台帳の共有を行う形を取るが故に、秘匿性を担保しにくい。
そういった課題解決には、コンセプトの練りこみとともに技術の作りこみが不可欠となりますが、相応に時間がかかると考えております。我々は2-3年先には使える状態に持っていきたいと考えており、そのためには今のタイミングは決して早すぎはしないと考えております。
ーCBDCの実現可能性、実行時期に関してどのように捉えていますでしょうか。
CBDCそのものは各国当局の政策判断によるものであり、その可能性・時期は我々には判断しかねます。
しかし、リブラの議論やデジタル人民元の議論により、各国での検討が加速していっており、夢物語ではなくなりつつある、時期が早まりつつあるという印象を持っております。
一方で、こういった議論が進むことで、CBDCの実装以前に、民間でのデジタルバリューやステーブルコインの取り組みが加速する可能性は高いと考えます。
また、M2Mやスマートシティといったモデルの実現が近づいてくると、そういったユースケースに適合したプログラマブルマネーの取り組みも増えてくるとみております。
今後2-3年くらいの間に、CBDCが先か民間コインが先かは別にして市場形成の機運が盛り上がってくると考えており、その時間軸にあわせて、CBDCや民間コインの外部機能としての取引履歴インフラの検討を進める必要があると考えております。
編集部のコメント
12月18日にVisaが中央銀行デジタル通貨(CBDC)のオフライン決済ソリューションの可能性に関する論文発表しています。このような動きから、クレジットカード会社はCBDC、ブロックチェーン、プライバシー技術を1セットとして捉え、CBDCが流通するための研究・実装していく段階に入りつつあるのではないかと考えられます。ちなみにあたらしい経済編集部は2020年4月23日にJCBへポッドキャストで取材したコンテンツを公開しています。聞いていただけると理解がより一層深まると思います。
コメント:竹田匡宏(あたらしい経済)
(images:iStock/pgraphis)