石川県加賀市、xID、LayerXが「安全かつ利便性の高い電子投票システム」の構築を目指す
石川県加賀市とデジタルIDソリューションを提供するGovTech企業のxID(クロスアイディー)、そしてブロックチェーン企業LayerXが、加賀市の政策に関する電子投票実現に向けて連携協定を締結したことを12月3日に加賀市役所で行われた連携協定締結会見で発表した。
この協定に基づき、加賀市を実証フィールドとして活用し、xID社およびLayerX社が今後開発するデジタルIDとブロックチェーンを活用した「安全かつ利便性の高い電子投票システム」の構築を目指していくとのことだ。
連携協定締結会見には加賀市の宮元陸市長、xID社代表取締役CEO日下光氏、LayerX代表取締役CEO福島良典氏が参加した。
なおxIDはすでに2019年12月に加賀市と連携協定を締結済みだ。xIDはマイナンバーカードを活用したデジタルIDソリューション「xID」を推進している。加賀市のマイナンバーカード普及率は2019年12月において20%未満であったのに対し、現在(2020年12月)は約46.5%(日本全国2位)に増加しているようだ。
宮元陸市長の連携協定実現への想い
会見ではまず加賀市は少子化や転出超過による人口減少の傾向が続いており、南加賀唯一の消滅可能性都市であることが説明された。
そのような状況下において宮元市長は「デジタル化による利便性の高い行政サービスの提供を進めること」が優先事項であると連携協定実現への想いを語った。
「加賀市とxID株式会社とLayerXの3社で市の政策に関する電子投票の実現に向けた連携協定を結ばせていただくということになりました。加賀市が2018年に”ブロックチェーン 都市宣言”をさせていただきましたが、それ以降ブロックチェーンを市の行政システムの中にどう実装していこうかという試みを今日まで、少しずつ進めてきたわけです。
具体的には2019年にxID株式会社さんと連携協定を結ばせていただき、マイナンバーカードと連動するスマートフォンによる個人認証アプリを導入することによって、デジタル基盤を作っていこうと進めてきました。
そして今回、LayerX福島CEOにも連携協定会見へお越しいただいています。電子投票に向けて3社それぞれ協議を重ねながら、デジタル化が今進んでいるこの状況の中で、どう実装していこうか、研究を進めていきます。
現在コロナ禍のど真ん中で、非接触型の新しいニューノーマルと言われる生活様式をどう構築していけばいいのかが世界的に大きな問題になっています。
xIDの日下さんはエストニアと日本を股に掛けて、お仕事をされていますが、エストニアでは国民の半分くらいの人が自宅のコンピュータなどから投票を行なっておられるようです。つまりエストニアでは実際に電子投票システムが構築されて、運用されているということになります。
加賀市もこれからニューノーマルの世界を迎えるにあたって、住民の意向をどう市の政策に反映していこうかということを考えていく大切な時期に差し掛かっていると思います。
そういう意味では私たち3社が進めようとしていることは非常にタイムリーで、おそらく日本でもほとんどない試みだと思います。
加賀市はまず公職選挙法に則った電子投票をやろうというわけではなく、オンラインシステムによって、住民の意向を電子投票的な形で、どう汲み取っていくか、その意向を行政にどう反映していくかを考えていくことが最初の第一歩だと思っております。
いずれは公職選挙法に則った電子投票の世界は必ずやってきます。この3社協定はそれを実現するまでの1つの事前段階です。いずれはそういう時代になるはずですので、そのためにいろんな実証事業を組み立ていきます。
xIDさんは個人認証でマイナンバーとの連携をしながら、それをしっかりスマホで電子申請や行政の手続きをすることを既に進めています。
LayerXさんは投開票のプロセスの透明性とか投票内容の秘匿性を統一した電子投票プロトコルを既にそれを開発されております。いわゆる電子投票システムの極めて重要な要件を自社開発で進めておられる日本でも有数の企業です。
これから両社と連携をしていくことによって、私は住民の意向というものを的確に反映できるシステムを作っていけたらいいなと思っています。
今アメリカ大統領選挙、色々と聞くところによると大混乱しているようです。もしLayerXさんとxIDさんのシステムが大統領選挙で使えれば、ああいうことになっていないのではないかというくらい先進的なシステムです。
そういうことも踏まえながら、これから加賀市が将来の電子投票に向けて、このお二方と先陣を切るぞという意気込みで進めていければと思っています。
電子投票の簡単な具体例としては、駅名を選ぶときに住民からの電子投票による選択や市の政策の賛否を問うような意向調査などを考えています。そのようなことに電子投票を少しずつ利用しながら、精度を上げ、実証を積み重ねていこうと思います。
加賀市が電子投票基盤にブロックチェーン技術を重要視する理由
続いて加賀市が市政のデジタル化を進める上でブロックチェーン技術を重要項目として捉えているのかについてxIDの日下氏が説明した。
「国としてもSociety5.0は人間中心の社会ということで、例えばマイナポータルの「ぴったりサービス」というものがあります。
いわゆる個人最適なデジタル社会の実現、行政サービスでは公平性などが当然確保されなければいけないです。
例えば主婦の方にぴったりな行政サービスを提供しようとなると、データを活用するというのは必須条件になってきます。そうなった場合にデータ自体が改竄されてしまっていたり、流出してしまっていたりすると、データのプライバシー、要はデータを活用することと市民の方の漠然とした不安が出てきます。つまり私のデータ漏洩するのではないかという不安です。
そして例えばマイナンバーと銀行が連携したら、私がせっかく貯めたお金が銀行に見られるんじゃないか、など。こういった技術がわからないからこその不安というものをきちんと担保してあげることが重要になってきます。
市長が加賀市としては皆さんのプライバシーをお守りしますという公言的なお約束をするのではなく、技術的にデータのプライバシーをどう担保していくのかを考える上で、ブロックチェーンはしっかり実用を視野にれるべき技術だと考えてました。
その中でも電子投票というのは民主主義の砦みたいなところです。市民の意見を反映させるというもので小さなものを含めて、パブリックコメントもですが、民意が本当に正しく反映されているのを市民自体が自分で確認できるというのは重要なことです。
ブロックチェーン技術を使えば、行政自体のガバナンスが腐敗していても、技術でしっかりと担保されていたら、行政側と市民がお互いにフェアな透明性を担保できるようになります。透明性はブロックチェーン技術を市政で活用する上で2つ目の重要なポイントです。
プライバシー保護と透明性というものを一見相反するものを、どうやって両立していくかを考える上で、ブロックチェーン技術が非常に重要だと思っています。
「信頼あるデータをどうデジタル社会として活用していくのか」、これが重要なテーマになってくると思います。今後加賀市でも、市民のデータつまりパーソナルデータを活用して、最適な使いやすいサービスを提供していくことは間違いなく必須になってきます。
そういった上で、市民の方の漠然とした不安を1つでも多く解消していきながら利便性の高いサービスを提供していこうということがブロックチェーン技術を採用していく背景としてあります」
「ファーストペンギンになりたい」という市長の想いを実現
LayerX福島氏はまずデジタル化された重要データのガバナンスの難しさについて説明した。
福島氏は「行政のデジタル化が進んでいくと、市民の皆様の重要なデータをデジタル上に預けることになります。
デジタル上に預けるということは便利さもある反面、いろんな人が攻撃をしてきたり、そのデータを使って権力のある人が悪いことするなどのリスクがあります。そしてそんなことが起こらないために、行政はいろんなガバナンスの仕組みを持っています。一方デジタルの世界でガバナンスを守ろうとすると、物理の世界と比べるとすごく難しい。
電子投票もそのようなことがハードルとなって、なかなか実現していませんが、そこを技術的にクリアできるようにサポートを推進をしていきたいです。
あとはプライバシーの問題です。市民のすごくセンシティブなプライバシーに関わるようなデータを守りたい。例えば投票データ。誰々に投票するといった情報が漏洩するなどということはあってはいけないので、そういうことが起こらないように(開発に)取り組んでいこうと考えております」
そして次に福島氏はLayerXが電子投票基盤にブロックチェーン技術を活用する理由を説明した。
「LayerXが電子投票にフォーカスしてやっていく理由ですが、それはきわめてシンプルで、電子投票が実現できれば基本的に全ての行政の手続きのデジタル化が可能になるからです。
電子投票というと、多くの人はどうしても投票みたいなイメージを持ってしまいますが、そのプロセスとしては、まず本人確認が必要で、その後必要なデータへのアクセスが可能となる。透明性や公平さが担保できるように設計されています。
投票の場合は集計がありますが、ブロックチェーン技術を電子投票に活用することによってシステムを運営する側ですら何かしらの結果を改ざんすることはできません。
一方、今のデジタル技術だけで電子投票を運用する場合に、最も怖いのはシステムの攻撃者に結果を改ざんされてしまうことです。またはそのシステムの運営者自体が結果を変えてしまうことです。
そんなことあるのかと皆さん思うかもしれないのですが、今回アメリカの大統領選挙でまさにそこが争点になってます。
本当にちゃんと開票したのかとか。郵送された都合の悪い投票用紙をどこかに隠していないかなど。そしてこれを証明するのはめちゃくちゃ難しいのですよね。
ただブロックチェーンという技術を使うと、このような改ざんや不正がシステム的に誰の手によってでもできなくなります。
誰かの意思によってでなくシステムとして担保されるというのがすごくポイントになってくると思っています。それによって電子投票の取り組みはすごく意義がある取り組みになると思います。
もしこれが実現できれば、おそらく世界でもほぼ事例がないです。本当に初めての事例になります。
私が市長と初めてお会いして話したときに「ファーストペンギンになりたい」とおっしゃってくれました。
私は色々な行政の方とお話しするんですが、「ファーストペンギンになりたい」と言ってくれる方は初めてでした。ほとんどの人が過去に実績はあるのかなどを聞いてくださるのですが、加賀市長はそうではなく「初めてのことをやりましょう」って言ってくれたことがすごく私の中で印象に残っています。
だからどうせやるなら一番難しくて、はじめてのことをやりたい。電子投票の実現に向けて第一歩を踏み出します。まずは電子投票のライトなところにはなりますが、そこから取り組んでいこうと考えています」
記者のコメント
今回の協定では、全国に先駆けてブロックチェーン技術とデジタルIDを活用した安全かつ利便性が高い電子投票システム(インターネット投票)の構築を目指すため、次の4つの連携が進められていく。
(1)デジタルID及びブロックチェーンを活用したオンライン行政サービスの推進
(2)電子住民投票実現に向けた共同研究及び開発
(3)地域の民間サービス等とのデータ連携推進
(4)より高度なサイバーセキュリティ対策
いかなる国や地方自治体もまだブロックチェーンを活用した電子投票を実現していない。この3社の取り組みは、日本から世界へイノベーションを提示できるきっかけになることを期待したい。
取材:竹田匡宏(あたらしい経済)、大津賀新也(あたらしい経済)