一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が暗号資産(仮想通貨)に関する「2021年度税制改正に関する要望書」を自民党「予算・ 税制等に関する政策懇談会」に提出

一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が暗号資産(仮想通貨)に関する「2021年度税制改正に関する要望書」を自民党「予算・ 税制等に関する政策懇談会」に提出

仮想通貨(暗号資産)の業界団体である一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が11月4日に行われた自民党「予算・ 税制等に関する政策懇談会」で2021年度の税制改正の要望書を提出したことが明らかになった

この要望書は暗号資産交換業及び暗号資産(仮想通貨)関連デリバティブ取引業の自主規制団体であるJVCEAと自民党「予算・ 税制等に関する政策懇談会」にて業界団体として唯一参加し毎年要望を行ってきたJCBAが、2021年度税制改正にあたり、両協会の会員である暗号資産交換業者及び暗号資産関連ビジネス事業者により税制改正が求められる事項を整理した上で、とりまとめられた。

この要望書を作成した背景として「日本は暗号資産領域で2017年4月に施行された改正資金決済法により世界をリードする立場にあったものの、一方で暗号資産(仮想通貨)に関連する現行の国内税制の適用を回避し活動拠点を海外に移転する事業者も散見されるなど、今後見込まれる暗号資産を利用した資金決済分野の革新や、暗号資産を決済手段として用いるブロックチェーン技術の応用による経済社会の高度化に際し、我が国の優位性を損ない、また次世代技術を用いた産業の戦略的な取り込みが危ぶまれる状況となりつつあるものと思料すること」があげられている。

また要望書の目的は日本の税制度も今後見込まれる暗号資産を利用した資金決済分野の革新や、暗号資産を決済手段として用いるブロックチェーン技術の応用による経済社会の高度化の可能性に備えるためのようだ。

要望書の骨子として「1、暗号資産のデリバティブ取引について、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、デリバティブ取引に係る所得金額から繰越控除ができることを要望する。

2、暗号資産取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、暗号資産に係る所得金額から繰越控除ができることとする。

3、暗号資産取引にかかる利益年間20万円内の少額非課税制度を導入する。」の3つが提言されている。

編集部のコメント

補足として要望書の3つの骨子に関する両協会の見解を記載します。

【1】暗号資産のデリバティブ取引について、20%の申告分離課税とし、損失については翌 年以降3年間、デリバティブ取引に係る所得金額から繰越控除ができることを要望する。

(1)金融商品先物取引等の決済については先物取引に係る雑所得等の課税の特例として20%の分離課税となるところ、これと同様に、暗号資産のデリバティブ取引については20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、デリバティブ取引に係る所得金額から繰越控除ができることを要望する。

(2)改正法においては、暗号資産に関し金融商品取引法の枠内での規制も受けることとなるが、これは暗号資産の支払手段としての性質だけでなく、金融資産としての性質を認めたものである。

金融商品取引法は、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図ることを目的とするものであり、社会的に有用ではない資産の取引を制限することを目的とする法制ではないことは同法第1条から明らかである。

JVCEAは、登録業者と共に、暗号資産デリバティブ取引が、上記の金融商品取引法の目的を達成するべく、業界自主規制の整備をはじめとする体制の高度化を図ることで、社会的に有用な暗号資産デリバティブ取引の実務を形成せんとして活動している。

税制もまた、暗号資産デリバティブ取引を金融商品取引法に位置づけた趣旨を踏まえ、暗号資産デリバティブ取引を通じて暗号資産の公正な価格形成を図るという政策目的を実現するため、暗号資産デリバティブ取引につき、他の金融商品先物取引等の決済の場合と同様の扱いを認めていただきたい。

(3)改正法により暗号資産が金融商品として位置づけられたことにより、暗号資産につき、 金融資産性をもつ支払手段という複合的な性質をもつことが明確化されたことになる。したが って、租税の公平性・公正性の観点からも、暗号資産デリバティブ取引につき、他の金融商品 先物取引等の決済と同様に、20%の分離課税とすることが求められていると考えている。

【2】 暗号資産取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失について は翌年以降3年間、暗号資産にかかる所得金額から繰越控除ができることとする。

(1)暗号資産交換業者を含む複数の暗号資産取引所やウォレット、サービスの間で送金・受 取が起きるため、暗号資産の取得単価を各事業者が把握できないという暗号資産取引の性質上、 納税義務者からの自主申告による徴税を行う必要がある一方、その確定申告に必要な損益計算 は非常に煩雑であり、要申告者が確定申告を行わないことも危惧される。

同時に、登録された 暗号資産交換業者を介さない取引については捕捉可能性が極めて低い。こういった事態に対応 すべき税務当局の負担は大きく、ひいてはトータルでの税収減にも繋がるおそれがある。この ような暗号資産取引の特殊性に鑑みれば、利用者による適正な申告を促進し、もって健全な納 税環境を整備することが目下重要な課題であるといえる。

しかしながら、現状、暗号資産による利益は分離課税対象とはされておらず、このことが利 用者による適正な申告を妨げている側面がある。そこで、分離課税によるメリットを享受でき る機会を設け、同時に暗号資産交換業者を中心に税計算の簡素化も実現できる取り組みは、よ り健全な納税環境の整備を推進するものと思料する。

(2)このような施策が講じられることにより、暗号資産の取引参加者が増加すれば、暗号資 産の価格安定にもプラスに働き、トータルでの税収増に加え、利用者にとっても、非登録事業 者や海外市場ではなく、犯収法上の取引時確認の義務が課されている国内登録交換事業者を利 用した取引を行うインセンティブになり、暗号資産取引にかかるマネー・ローンダリング対応 等の点でも健全性の向上が期待できる。

(3)なお、暗号資産の現物取引につき20%の分離課税とすることは、【1】のとおり、改 正法のもとで暗号資産に係るデリバティブ取引につき20%の分離課税とすることと併せ、制 度内での整合性を維持する観点からも重要であると考えている。

【3】暗号資産取引にかかる利益年間20万円内の少額非課税制度を導入する。 

(1)暗号資産取引について、20万円までの利益にかかる非課税制度を導入することが、既 存の制度との整合性の観点から適切である。

(2)暗号資産によるモノ、サービス購入時は、その時点で含み益があれば実現したとして課税となるが、実務上、決済利用の都度含み損益の計算を行うことは非常に困難である。

この点、 決済利用の態様によっては、仮に利益が発生したとしても少額にとどまるというケースも十分想定され得る(例えば暗号資産を購入した後あまり時間をおかずに決済利用していく利用態様 など)。

そのようなケースにおいても、例え少額であっても利益が出れば必ず確定申告を要す るとなると、決済利用の都度利益の計算が必要となり、利用者の事務的・心理的負担等が大きく、ひいては暗号資産の決済利用の促進を阻害する大きな要因となる。

一般的な決済利用であれば、通常は20万円もの含み益が発生することは基本的には想定されないことから、既存の制度に準じた20万円までの利益に対しての少額非課税制度を設けることで、利用者における上記の事務的・心理的負担等を取り除くことが可能となる。これにより、本来の制度の期するところに従い、暗号資産の決済利用が促進されるものと考えられる。

(3)暗号資産は、初期の熱狂の時期を過ぎ、資産面からは通常の金融商品と同様のものとし て社会に受容されるフェーズに入ってきている。

これに伴い暗号資産行政も、改正法の施行を もって一連の改革を一段落し、態勢の整備された事業者の新規登録を進め、また新規の暗号資 産の市場における取引開始も進捗している状況にある。現物取引とデリバティブ取引の双方が 各規制法のもとで適正に執り行われることで、市場における価格発見機能が強化されつつある今、暗号資産は、交換媒体として決済に広く利用されるための素地が整ってきたといえる。円滑な決済の促進という資金決済法の目的を達するため、税制においても、暗号資産を用いた決済に対して、人々が感じるディスインセンティブを取り除くことが必要である。

また、公平・ 公正な税の実現という税制の目的からも、暗号資産の複合的な性格を踏まえつつ他の決済手段と劣後させない少額非課税制度の導入が求められていると思料する。

(2021年度税制改正に関する要望書より)

税制度の歪みが生じているのは、本来、暗号資産は決済手段として利用される見解のもと租税上の取り扱いを整理してきたにも関わらず、徐々に資産性の帯びるものであるということで法制上は資産として取り扱われるようになったことが大きな原因だと考えられるのではないでしょうか。

(images:iStock/pgraphis・sayu_k・Who_I_am)

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

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