日本ブロックチェーン協会(JBA)賛助会員のSBI R3 Japanの山田宗俊です。この記事では、最近、注目されているユースケース”サプライチェーン”、これに関連して、コロナのワクチン配布に関する課題がどう解決されるかをご紹介します。
ブロックチェーンの“キラーアプリ“が叫ばれて久しいですが、とうとう見つかるかもしれません…
デジタル時代のサプライチェーン
さて、世界で検討されているユースケースのうち、なんと半数近くは“サプライチェーン”関連です。そもそもなぜ”サプライチェーン”に”ブロックチェーン”を掛け合わせたいのでしょうか。既存の技術では解決できない何かがあるのでしょうか。
サプライチェーンは文字通り”チェーン”のようにサプライヤーとバイヤーが連なっているイメージがあります。しかし全て別会社なので、別々の業務システムを利用していますし、取引や製品に関する情報も別々に管理されます。企業間で勝手にデータ連携して同期されるのではありません。
これまではこのやり方で良かったかもしれませんが、”デジタル”を前提とした時代の変革期において、私たちは今までとは違う戦い方(生き残り方)が問われています。
サプライチェーンの文脈においては、個社として、高品質なモノを低コストでお届けすれば良かった時代から、サプライチェーン全体としてのレジリエンス、説明責任、そして競争力が問われる時代へと移行しています。この実現は個社では困難です。なぜなら必要な”デジタル”データが個社では揃わないからです。
データ連携すれば良い!?
サプライチェーン全体として戦うためには、サプライヤー/バイヤー間の協働が必要となります。データ連携して、互いに情報を持ち合うことがその手段となります。
例えば、在庫に関する情報を企業間でリアルタイムに共有することで、販売状況(在庫状況)が把握しやすくなり、需給の変化に迅速に対応できます。
このようにデータ連携はメリットがありますが、その実装は簡単ではありません。なぜなら、サプライヤー/バイヤー間は友達ではなく互いに利益の相反する関係にあるからです。
バイヤーは仕入額から”ゼロ”を一個取りたいですし、サプライヤーは売上に”ゼロ”を一個足したいです。相反するインセンティブがある以上、相手を信頼して、自分の手元にあるデータが、相手方でも同じ状態で保持されていると願ってはいられません。もちろん一つの考え方として、集中型サーバーでデータを集約し、サプライヤーとバイヤー双方にアクセスさせることもできます。
しかし、このサーバーを提供するサービス事業者からデータが漏洩する可能性は否定できませんし、何よりも自社の”原価情報”が他社により集中的に管理される手法に、気持ちよくデータ提供できる事業会社は少ないでしょう。
ブロックチェーンが出来ること
そんなある日ブロックチェーンという技術が登場してきました。
ブロックチェーンは、端的には「データに原本性と信頼を与え、企業間で共有する技術」と言えます。データは“書き換え放題”、“コピーし放題”のため、残念ながら原本性がありません。ですので企業間でデータを共有しても、”一つの意見”として受け取れますが、企業活動の礎としての”事実”として使うことはできません。
まさにこの部分を解決するのがブロックチェーンです。ブロックチェーンは、企業間で合意したデータに対改ざん性を与えます。データが分散して保存されていたとしても、一当事者の都合だけで変えることができません。変更には当事者”間”の合意を必要とします。
ブロックチェーンがあれば、企業間で合意したデータを”事実”として保持し合えるようになります。ブロックチェーンがこのような技術であるため、“サプライチェーン“のような複数のプレイヤー間でデータ共有するとメリットが出る場面において活用可能性があり、世界中が注目しているのです。
コロナのワクチン配布は簡単ではない
さて、コロナについても、この文脈で考えてみましょう。
現在、世界中でワクチン開発競争が行われています。WEF (世界経済フォーラム)のレポートでは200億人分のワクチン確保が必要との話もあります。
世界の人口が約80億人弱なので、2回接種だと160億人分です。実際は配布に伴うロスが発生するため、例えばロス率を20%として、100億人×2回で200億人分、20%分を引いて160億人という計算になります。ここで言うロスとは”廃棄”という意味ですが、本当にそれだけでしょうか。
例えば、WHOのような国際機関がインドの5歳以下の子供たちを優先的に接種させようという方針を出したとします。計画はできますが、実際に実行するのは困難が伴います。
なぜならワクチンはみんな我先に打ちたいからです。冷凍トラックでワクチンを運搬するとき、おそらく強奪や盗難は起きてしまうでしょう。
また物理的なワクチンと”デジタルツイン”になるデータの改ざんも起きる可能性があります。そこにインセンティブがあるからです。この状況で、どうすれば世界中にワクチンが公平に配布されたことを確認できるでしょう?
ワクチンDBで集中管理!?
一つの方法はワクチンDB(ワクチン・データベース)です。ワクチンDBで集中的に一元管理すれば良いでしょう。さてこのワクチンDB、誰が管理できるでしょう?WHOですか?国連ですか?
このワクチンDBは世界中の人々の健康、生死に関わります。それだけの価値があり、それだけ狙われやすくなります。また仮に、誰かがこのDBを管理できると仮定しても、そこに世界中のワクチンデータを集約するのは至難の技でしょう。
ワクチンを開発する製薬会社、製薬機器メーカー、物流会社に病院…世界中の関係者にデータ連携をお願いしないといけません。結果、データのサイロ化が目に見えています。
データの信頼性はどうでしょう?集中型ワクチンDBが一方的にデータを受けるだけでは、誤データや重複データや不正データが混ざり込み、汚くなったデータベースほど手が付けられないものはありません。データの出所も同様に信頼性に関わります。
このように、ワクチンDBはシンプルな解決策に見えますが、実際のところ、誰も答えを出せない課題を提示してしまう結果となります。ただ我々はこの課題をクリアーしなければなりません。
コロナのワクチンが透明性を持って配布されるためには、オープンかつ改ざん不可能、誰にも集中管理されることのないプラットフォームが必要です。ここでブロックチェーンが登場します。
ブロックチェーンで公平なワクチン配布を実現
ブロックチェーンでは分散型で必要なデータを持ち合います。
例えば製薬会社はいつどれだけワクチンを製造した、というデータを保持しているでしょう。物流会社はワクチンをどれだけの量、どこからどこに搬送したかのデータを、病院はいつ誰にどのワクチンを投与したかのデータを持つことになるでしょう。
これらのデータは、今のまま各プレイヤーが自社のデータベースに持っていればいいのです。必要なデータだけを、共有する必要のある範囲内で、ブロックチェーンを通じて他プレイヤーと共有すれば良いのです。
例えば物流会社と製薬会社がワクチンの受け渡した事実を検収時に合意したデータとしてブロックチェーン上に刻んでいきます。これをプレイヤー間で繰り返していけば、ワクチンのトレーサビリティーを追うことができます。
このやり方であれば、一か所に世界中のワクチンデータが集中することもないので、狙われる危険も回避出来ます。後は国や国際機関がオブザーバーノードと呼ばれる参照専用ノードを建てて、“ボタン一つでデータ収集“すれば良いのです。
今回は、”サプライチェーン×ブロックチェーン”の考え方で、コロナのワクチン配布に伴う課題を検討してみました。これ以外にも、サプライヤー/バイヤー間のデータ共有が安全に実現できることで、様々なメリットが生まれます。2021年以降、”デジタル”を前提としたサプライチェーンを見据えた動きが活発化し、”キラーアプリ”が見られる日も近いでしょう。
寄稿:日本ブロックチェーン協会(JBA)賛助会員/SBI R3 Japan株式会社ビジネス開発部長/Cordaエバンジェリスト 山田宗俊
(参考URL)
(images:iStock/Who_I_am・Vit_Mar)