ブロックチェーンはコロナ禍に流通の管理や信頼のおけるデータの置き場所として、中国を始め海外でいくつもの新しい活用事例が生まれた。
例えば、自らの健康状態のデータ管理といったクリティカルな部分や、寄付金の管理でブロックチェーンが使われている。これらは政府・企業らが早急に必要なシステムを新たに立ち上げるときにブロックチェーンが活用された事例だ。
今回はこのような急造のブロックチェーンシステムではなく、このコロナ禍で私たちが経験したことから、今後の不測の事態にブロックチェーンを活用した備えについて解説させていただく。
新型コロナウイルスによる経済への打撃
移動の自粛・活動の自粛・店舗営業の自粛、2020年はあらゆる活動を新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために自粛が呼びかけられた。有効で安全な治療薬が見つかっていない状況下で新型コロナウイルスに感染してしまうと、人間自身の持つ回復力によって治癒するのを待つしかない。
聞くところによると、重症化してしまった場合かなりの割合で1ヶ月以上の長期入院になるとの情報もある。つまり重症化してしまうと医療機関には大きな負荷がかかるのだ。
その対策として感染拡大を防止することが重要となり、感染する機会を極限まで減らすために、ありとあらゆる自粛が求められた。
この自粛にあたり、一番打撃を受けたのは言うまでもなく経済だ。
自粛とともにあらゆる経済活動が停止し、業種によっては売上が1円も上がらないといったことも起こってしまっている。
これまで当たり前のように行ってきた経済活動が、新型コロナウイルスの影響でできなくなり、売上が立たなくなる。この状態のままでは、それまでの蓄えで耐えしのぐか、もしくは耐えられないものは廃業するしかないだろう。
もちろん、こういった状況で廃業を待つだけに甘んじるわけもいかなく、人々は知恵を絞り、今までとは違うことを行い新たな収入源を得ることで、耐えしのぐ時間を確保する方向に動いた。
飲食店ではテイクアウトでの営業を営みネットショップを開設したところも少なくない。事実各種ネットショップ開設プラットフォームは、このコロナ禍で、かなり店舗数を伸ばした。BASE株式会社の2020年第2四半期の決算によると、前年同期の約3倍の流通総額となった。
そしてネットショップや特にクラウドファンディングでは、ただ商品を売るだけではなく、商品にプラスして寄付を送れるようになっているものも多く登場した。
普段通っているお店につぶれて欲しくないと思うユーザーと、支援してほしいというお店のニーズが一致し、このような動きは加速していった。
さらに、ネットショップで売られていたものは、現業に直接関係するものだけではない。オンラインミーティングで使える、店舗の画像を使ったバーチャル背景を販売するといったことも行われた。
これも店舗を救いたいユーザーの気持ちを上手く捉えた商品である。こういった事例のように、店舗はあらゆる方法で新しい商品を売り出すことにより、生き延びる方法を模索していった。
フリーランスがサバイバルするためには
このように商品を取り扱っている店舗ビジネスでは、商品を変えることで生き延びる策が打てたが、スキルを売り物にしているフリーランスではどうだろうか?
企業活動において、売上が減少したときの大きな施策としてコストカットが挙げられる。コストカットはキャッシュアウトを減らすことから行い、まずは内部の雇用を守る方向に動く。(今回は雇用が守れないケースも多くあったのは事実ではあるが)。
すると、まず外部の雇用がカットされることになる。雇い止めや、契約打ち切りなどがそれにあたる。しわ寄せが来るのは、派遣社員や業務委託先であり、その中にもちろんフリーランスも含まれる。
店舗ビジネスの場合は、商品自体やその提供方法を切り替えることで生き延びることを図った。それはその他の企業であっても同じことで、従来の商品やサービスが売れなくなった場合、時流にあった商品やサービスを立ち上げることで、生き延びを図ることができる。ロジックとしてはフリーランスにとっても同じであり、商材を変えていくことになる。
しかし、ここで大きな問題が発生する。フリーランスは新しい商材を売り出すことが非常に難しいのである。フリーランスと契約する企業は、専門性に価値を感じスキルの高さにお金を払っていることが多い。
よって、実績のない新しい仕事は、発注側にとってのメリットが無くなってしまうため受注することが難しい。こういった事情もあって、フリーランス向けの給付金の重要性が説かれ、事実として持続化給付金の対象にも加えられた。
また、新型コロナウィルスをトリガーとして、1つのスキルや商材だけで売上を立てていくのは非常に難しいことが浮き彫りになった。コロナ禍で時間の空いてしまったフリーランスの方々はこの時間を使って新しいスキルの習得に時間を費やした方もいただろう。
ここで、実績を貯める場所としてブロックチェーンに白羽の矢が立つ。ブロックチェーンの最大の特徴である「書き込まれたデータは改ざんされることなく残り続ける」ことを活用し、自らの実績をここに貯めていくのである。
実際にクラウドソーシングのプラットフォームはその役割を担っているが、それぞれのプラットフォームで実績が分断されてしまっている。
ブロックチェーンであれば、プラットフォームが分断されること無く、実装によってはグローバルに使うことの実績置き場として活用することが可能である。
ブロックチェーンでのスキル証明がもたらすメリット
ブロックチェーンに実績を置くと、大きく2つのメリットが挙げられる。1つは書き込んだ時点のデータがずっと正しい状態で保持され続けること。実績を上げた事実は記録として、消えること無くブロックチェーンが続く限り残り続ける。
もう1つは、実績の当事者の間でそれぞれの実績を証明しあえるという点である。実績を上げた当人、そしてその実績となる成果物を受け取った発注者それぞれがデジタル署名をつけることにより、「誰が」その実績を証明しているのかという点も記録することができる。
また、副次的な効果もある。ブロックチェーンに書かれたデータは、誰でも検証可能であるという特性を活かして、不正な実績を積み上げていないか検証することも可能となる。
言い換えると不正に書き込まれた実績は、不正した事実ごと書き換えられない形でブロックチェーンに残り続ける。これは何を意味するかと言うと、最初は不正を検出されなかったとしても、あとから不正を検出することができ、不正した事実も消えること無く残るのである。
更にこの実績のシステムでは「誰が」実績を認めたかの情報も記録されるため、不正した人物も特定され、個人のブランドにも傷がつく結果となる。
すると、最初は不正を働くものも出るかもしれないが、時間とともにユーザーの理解が進み、不正が割に合わないことが浸透し、正しい実績しか記録されないといった自浄作用が生まれてくるのである。
ここまでの話ではいいことずくめに見えるが、実際にそう簡単ではない。
実際にこういったプラットフォームは、あらゆるところで構想されるものも、まだ現実的に運用されるシステムが出来上がっていないのである。その課題の一つに、フォーマットの問題がある。
客観的に実績というデータを扱うためにはどういった要件があるのか、5段階の数値なのか、実績を文章で残すことは可能ではあるが定量的な評価にはならない。
また、実績にもありとあらゆく形が存在し、そのすべてをカバーするにはどうすればいいのか。なかなか解くには難しい課題である。よって、今後は有効なフォーマットが生まれてくることを期待している。
スキル証明は企業で働くビジネスパーソンにも重要になる
また実績を記録したいという要求があるのは、フリーランスだけではない。最近は企業に所属する個々人にフォーカスして、企業は個々人それぞれのスキルの集合体であるという見せ方をするようになってきている。
私の所属する株式会社ガイアックスもまさにその流れに乗っており、先日の社員総会では、それぞれが特化したタレントをもつことが重要であり、武器となるスキルを身に着け、日頃から実績を貯めていく重要性が全社員に向け発信された。よって、このような実績を貯める場所は重要な役割を担うことになるだろう。
もう一つ、このコロナ禍、リモートワークがかなり浸透し、会社に所属しなくても仕事ができることに気づいた人も多く、副業やフリーランスへ転身することに興味を持つ人も増えた。フリーランスに起きていることが、企業に務める会社員にも同じことが起こっていると考えてよいだろう。
今回の新型コロナウイルスにより、一つのスキルだけで生きてく難しさが露呈し、複数のスキルを持つことが注目された。
こういった不測の事態が起きてから動くのではなく、平時のうちに、いろいろなトライをしてスキルを伸ばし実績をブロックチェーンに貯めておくことにより、リスクヘッジをする。人間はこの未曾有の事態で学習し、新しい生存戦略を学習したのだ。
これから勝ち残る人に欠かせないものは、ブロックチェーンなのかもしれない。
寄稿:日本ブロックチェーン協会(JBA)アドバイザー/株式会社ガイアックス 開発部マネージャー 峯荒夢
(images:iStock/Vit_Mar)