フレセッツが暗号資産(仮想通貨)ウォレットユーザーのプライバシー向上技術開発に成功
フレセッツ株式会社が暗号資産(仮想通貨)ウォレットユーザーのプライバシー向上に関する新技術の開発に成功したことを6月8日発表した。
フレセッツ株式会社は⼤規模事業者向けに暗号資産ウォレット管理システムを提供する企業。
今回発表された新技術では、暗号技術「プライベート情報検索(Private Information Retrieval:PIR)」を用いることで、ユーザーのもつ暗号資産の残高や履歴といったプライベートな情報をサーバ側に一切知られることなくサーバから取得することができるとのこと。また同新技術はPoC実装に成功しているとのことだ。
なお今回のPoC実装では、完全準同型暗号ライブラリ「Microsoft SEAL」を用いたPIR実装「Microsoft Seal PIR」を独自に改良したものを用いて行われているとのこと。
暗号資産ウォレットは、ユーザの残高情報に相当する「Unspent Transaction Output (UTXO)」と呼ばれるデータセットや、送金・入金されたトランザクションの一覧をいずれかのサーバーに問い合わせ、これを必ず取得する必要がある。しかしどのアドレスがクエリされたかといった情報をもとに、ユーザの持つ暗号資産のアドレス、残高、履歴などがサーバに筒抜けになってしまい、特に巨額の暗号資産をもつユーザに対しては大きなプライバシー上の懸念があったとのこと。
そこで今回新たに開発された技術を用いることで、サーバーにどのようなクエリが発行されたのかが数学的にわからない状態で情報の取得を行うことができるため、プライバシー上の懸念は払拭されるとのことだ。
PoCの実装はビットコインのメインネット上に存在する約5,400万件のUTXOセットを対象に市場価格6万円程度の廉価PC(Intel NUC BOXNUC8I7BEH)で行われた。その結果、検索速度が約2.2秒、UTXO一件あたりの取得速度は約40ミリ秒の実測値が表れたとのこと。
PIRのビットコインへの適用可能性はビットコインの国際学会に相当する「Scaling Bitcoin 2019」でも提言されていたが、このアイディアを実装し現実的な処理時間で検索が行えるものは今回開発された新技術が世界初となるとのことだ。
編集部のコメント
フレセッツ株式会社は、主に暗号資産(仮想通貨)交換業者向けの暗号資産ウォレット管理システム(EWM)やブロックチェーン技術者の育成プログラムなどを提供をしています。
同社は今年1月に、日本企業として初めてMPCアライアンス(暗号化による秘匿技術の研究と普及を目指す組織)へ加盟したことを発表していました。
なおプレスリリースによるとPIRによるビットコインのアクセス秘匿化は、
(1)サーバ側でUTXOセットをビットコインアドレスの昇順でソートし、それに対してクライアント側から二分探索をかけることで目的のUTXOセットの位置を探索する。
(2)ひとつのアドレスに対して複数のUTXOが対応する可能性があるため、単純な二分探索ではなく、レンジ探索つきの二分探索を行う。
(3)レンジ探索つきの二分探索によって目的のUTXOセットのインデックスの範囲を洗い出した後に、実際にUTXOセットに対してクエリを発行し、目的のUTXOセットを入手する。
といった流れによって行われるとのことです。
コメント:大津賀新也(あたらしい経済)
(images:iStock /dalebor・gintas77)