「トルネードキャッシュ」への制裁を解除
米財務省が、暗号資産(仮想通貨)ミキシングプラットフォーム「トルネードキャッシュ(Tornado Cash)」への制裁を解除したと3月21日に発表した。
発表によれば、財務省は「デジタル資産への金融制裁の適用による法的・政策上の課題の見直し」に基づき、この決定を下したという。
一方、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)による国家支援のハッキングやマネーロンダリングへの懸念は依然として強く、サイバー犯罪への制裁執行を継続すると強調。また、大量破壊兵器や弾道ミサイル計画の資金調達能力を制限するために、北朝鮮への制裁も行っていくとした。
財務省は、米国ユーザーに対し、リスクを伴う取引には十分注意するよう呼びかけた。
スコット・ベッセン(Scott Bessent)財務長官は「北朝鮮などの違法行為者によるデジタル資産の悪用を防ぐことは、米国のリーダーシップを確立し、国民が金融革新の恩恵を受けるために不可欠だ」と述べた。
「トルネードキャッシュ」に対する制裁の経緯
「トルネードキャッシュ」が提供する暗号資産ミキサーは、複数ユーザーの取引を混ぜることで匿名性を確保する技術だ。プライバシー保護目的で開発されたが、その特性がサイバー犯罪に関与した資産の洗浄に利用され、問題視されていた。
財務省の外国資産管理局(OFAC)は、トルネードキャッシュがサイバー犯罪者の資金洗浄を助長していると判断し、2022年に制裁を実施した。特に、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」が盗んだ4億5,500万ドル以上の資金洗浄に関与したと主張されている。
しかし、この制裁はイノベーションを阻害しプライバシーを侵害するとして、業界内から批判の声も上がっていた。
2023年11月、米控訴裁判所は「制裁は財務省の権限を超えている」とし、OFACの権限を制限するとの判決を下した。米国巡回裁判所のドン・ウィレット(Don Willett)判事は「トルネードキャッシュのスマートコントラクトは財務省の規制対象となる『財産』には該当しない」と指摘した。
トランプ政権下で任命されたウィレット判事は、「制御不能な技術はOFACの制裁権限外にある現実の問題」を認めつつ、インターネット時代に適応するために法律を更新することは議会の責務だと強調した。
なお、この訴訟には暗号資産取引所コインベース(Coinbase)が資金提供している。
また2024年2月、イーサリアム財団(EF)は、トルネードキャッシュ開発者アレクセイ・ペルツェフ(Alexey Pertsev)氏の弁護費用として125万ドル(約1.9億円)を寄付することを発表。
ペルツェフ氏は、トルネードキャッシュを通じた12億ドル(約1,800億円)の資金洗浄を助長した罪で、オランダの裁判所から5年4ヶ月の懲役刑を言い渡されている。
参考:発表
画像:Reuters