国内初の「デジタル債のDVP決済」と「デジタル通貨での証券決済」が実証
野村総合研究所(NRI)、野村證券、BOOSTRY(ブーストリー)、ディーカレットDCP、三井住友銀行の5社が、「新たな決済スキームを利用したデジタル債の新規発行」および「デジタル通貨を利用した証券決済の概念実証(PoC)」に関して協業したことを3月14日に発表した。
今回の発表では同5社による協業の他、協業にて行った、国内初となる「デジタル債のDVP決済」と「デジタル通貨での証券決済」に関する実証結果も報告されている。なお本実証プロジェクトは、BOOSTRYの新たなシステムと三井住友銀行の銀行サービスを組み合わせた新たな決済スキームをNRIが新規に発行するデジタル債に取り入れ、デジタル債取引市場の拡大に向けて決済リスクを低減したDVP決済をデジタル債(セキュリティトークン)取引のスタンダードな決済方法の一つとして立証することを企図したものである。
そして「新たな決済スキームを利用したデジタル債」は、「株式会社野村総合研究所第15回無担保社債(社債間限定同順位特約及び譲渡制限付)」として、総額30億円が発行された。引受証券会社兼デジタルストラクチャリングエージェントは野村證券、財務代理人 兼 社債原簿管理人 兼 決済事業者は三井住友銀行、デジタル証券管理プラットフォーム開発はBOOSTRYとなる。ディーカレットDCPは「デジタル通貨を利用した証券決済の概念実証(PoC)」にのみ関わった。
「新たな決済スキームを利用したデジタル債の新規発行」では、「デジタル債として国内初のDVP決済の立証」と「国内事業債の発行時決済期間として過去最短となる『約定日+1営業日』での決済の実現」が成果として挙げられている。なお「DVP(Delivery Versus Payment)決済」とは、証券と資金の授受をリンクさせ、代金の支払いが行われることを条件に証券の引渡しを行う決済方法。逆に、証券の引渡しが行われることを条件に代金の支払いを行うことにより、仮に決済不履行が生じても取りはぐれが生じない決済方法でもある。
「デジタル債として国内初のDVP決済の立証」では、BOOSTRYの「ibet for Fin」のスマートコントラクトの新機能と三井住友銀行の銀行サービスにより、デジタル債の売買取引情報と決済関係者間の銀行送金情報を照合することで、日常的に利用する銀行口座を使った「DVP決済」を実現したとのこと。
これまで国内のホールセール向け債券においては、証券保管振替機構(保振)の残高記録を利用してペーパーレス化された債券(振替債)では、保振の機能による「DVP決済」を一般的に実施して決済リスクの削減を図っているのに対し、デジタル債では保振を使わないため、デジタル債の「DVP決済」が行われていなかったとのこと。
なお「ibet for Fin」は、ブロックチェーン技術を用いて発行等が行われるデジタル債(セキュリティトークン)を取り扱うためのブロックチェーンネットワーク。BOOSTRYが開発主導し、コンソーシアム事務局として運営・維持を行っている。ちなみに「ibet for Fin」にはブロックチェーン基盤として、エンタープライズ向けの「クオーラム(Quorum)」が用いられている。
また「国内事業債の発行時決済期間として過去最短となる『約定日+1営業日』での決済」が実現し、決済期間が短縮したことは、取引約定後の決済リスク削減と、資金調達を行う発行体に調達資金を速やかに受渡せるメリットができたとのことだ。
「デジタル通貨を利用した証券決済の概念実証(PoC)」では、既存のデジタル証券決済プロセスにおいて前提利用されている法定通貨をデジタル通貨に置き換えた場合でも、オペレーションとして実行可能であることがテスト環境にて疑似的に確認できたとのこと。BOOSTRYがDVP決済用に用意したシステムは、銀行口座による伝統的な法定通貨決済だけでなく、ディーカレットDCPが提供するデジタル通貨「DCJPY」の決済においても汎用的な利用が可能であるとのことだ。
このようにことは将来的に、デジタル通貨決済を活用した証券取引のSTP(証券の発注・約定から決済までの一連のプロセスをシステムで自動連携)化や、「約定日+0営業日」決済、リアルタイムグロス決済の実現、債券の金利・償還金の自動支払といった証券決済の効率化、高度化が検討可能になるとのこと。
また他の通貨種別、口座種別への拡張、他のデジタル通貨との相互接続により、証券決済関係者の利便性を向上させることも可能とのことだ。
参考:野村證券
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