バイナンス幹部ら、独立企業とするバイナンスUSの口座管理=ロイター

バイナンスがバイナンスUSの口座を管理

大手暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)の幹部が、バイナンスUSの5つの銀行口座の管理者であったことが銀行記録から発覚した。なおこの銀行口座には、米国顧客の資金を保管するための口座も含まれている。

当時の銀行記録によれば、米シルバーゲート銀行(Silvergate Bank)は、2019年と2020年にバイナンスCEOのチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao:CZ)氏とその側近で同社幹部のグアンイン・チェン(Guangying Chen)氏に口座を操作する権限を与えている。

またバイナンスUSの従業員は、会社の給与を賄うためでさえ、チェン氏のチームに支払処理依頼をしなくてはならなかったことが会社のメッセージから明らかとなっている。

バイナンスUSは、バイナンスから「完全に独立したアメリカにおけるパートナー」と公言して活動しているが、今回明らかとなった事実はバイナンスがバイナンスUSを厳しく管理していたことを裏付ける形となった。

新たに分かったバイナンスUSの銀行記録と社内メッセージにより、同社の財務管理がシルバーゲート銀行の口座にも及んでいたことが明らかとなり、それにより秘密裏にアクセスが許可された方法も詳しく説明され

米証券先物取引委員会(SEC)は数年にわたるバイナンスへの調査を経て、6月5日にバイナンスへ民事訴状を提出。SECはCZ氏が米国の法律を回避するための「web of deception:欺瞞の網」の一部としてバイナンスUSを秘密裏にコントロールしていると非難した。またSECは、少なくとも2020年12月まではバイナンスUSのスタッフが同社の銀行口座を「コントロールする権限を持っていなかった」ことも指摘している。

バイナンスUSは、バイナンスが同社の銀行口座を操作していたことを否定。

バイナンスUSの法務責任者クリシュナ・ジュヴァディ(Krishna Juvvadi)氏は今年4月、ロイターに対し、バイナンスUSの運営会社であるBAMトレーディング(BAM Trading)の社員が2019年の創立以来「独立的な管理権」を持っていると伝えていた。

しかし、本記事の質問に対して、バイナンスUSの広報担当者であるクリスチャン・ヘルテンシュタイン(Christian Hertenstein)氏は、2021年後半に、現在の同社最高責任者であるライアン・シュローダー(Brian Shroder)氏が就任して以来、「バイナンスUSの社員以外が同社アカウントを管理したりアクセスしたりしたことはない」とコメント。ハーテンシュタイン氏は、ジュヴァディ氏が示した期間と自身が回答した時期との食い違いについて説明しなかった。

また、バイナンス及びシルバーゲート銀行はこの記事に関するコメント要請に応じていない。

なおバイナンスは6月5日、SECの申立てに対し「非常に失望した」、「私たちのプラットフォームを強力に擁護する」という声明を出している。

規制当局から注目を浴びるバイナンス

バイナンスはワシントンの規制当局らから、これまで以上に厳しい視線にさらされている。

CZ氏はバイナンスUSの財務を秘密裏に管理することで、米国の規制当局の監視下にあるバイナンスとは別に、世界最大級の市場である米国の市場において、バイナンスUSの拡大を確実に行えるようにした。

米国証券先物取引委員会(CFTC)は3月、CZ氏を始めバイナンスの複数の事業体を起訴。

CFTCは、バイナンスが投資家保護を目的とした米国の規制を回避するために「意図的に事業体を構成」し、商品取引法(CEA)を故意に回避したとして、複数の違反行為を指摘した。

CZ氏は、民事告発は「不完全な事実の繰り返し」だと述べている。

なおCFTCはこの記事について無言を貫いている。

ロイターは2月、CZ氏の側近チェン氏の右腕が、シルバーゲート銀行のバイナンスUS口座の1つにアクセスし、CZ氏が経営する取引会社メリットピーク(Merit Peak)へ2021年1月から3月にかけて、4億ドル(約538億円)以上の送金を行ったことを報じた。

バイナンスは、口座に送金したユーザーは預金をしているのではなく、米ドルステーブルコインのバイナンスUSD(BUSD)を購入しているとし、顧客の預金と会社の資金の混同を否定している。

しかしSECは6月5日、バイナンスら提訴の訴状の中で、CZ氏とバイナンスはメリットピークの口座にある数十億ドルの顧客資産を混同していたと告発している。

バイナンスUS関連口座の主要な管理者はチェン氏

バイナンスUSの取引プラットフォームは、当時の最高責任者であったキャサリン・コーリー(Catherine Coley)氏のもと2019年半ばにBAMトレーディングによって立ち上げられた。

しかし、バイナンスUSはバイナンスの「米国パートナー」として単独で運営されていたという。

2019年12月にバイナンスUSの従業員間で交わされたメッセージによれば、シルバーゲート銀行は、CZ氏の側近チェン氏がバイナンスUSの銀行口座を管理することが「問題ないことを確かめる」ために、銀行決議書にサインするよう、コーリー氏に求めていたという。

なおロイターが確認した決議文書には、コーリー氏がBAMトレーディングに代わってチェン氏に「口座開設、取引、その他の操作」を許可するよう記されていた。

またこの文書に詳しい人物によれば、コーリー氏は同文書に署名したとのことだ。

コーリー氏は2021年にバイナンスUSを退社。同氏の弁護人で弁護士のジェームス・マクドナルド(James McDonald)氏はコメントの要請に応じなかった。

さらに複数の口座を管理するチェン氏

その後チェン氏は、「顧客の預金口座」・「後にメリットピークに送金する法人顧客用の口座」・「その他の3つの口座」という計5つの銀行口座の「主要管理ユーザー」として活動するために、シルバーゲートとさらなる契約を結んだことも、2019年12月から2020年1月にかけての銀行記録で明らかとなっている。

コーリー氏は同年末のメッセージにて、自分と財務チームはBAMトレーディングの口座の管理者ではなく、閲覧アクセス権しかないことを同僚に伝えている。

この取り決めによりコーリー氏は、バイナンスUSの財務に関するコントロールができなかったとみられる。シルバーゲートの銀行ポータルにおいて「私たちは何も変更できない」とコーリー氏はメッセージで綴っていた。

バイナンスUSの広報担当者であるハーテンシュタイン(Hertenstein)氏はロイターに対し、「少なくとも2021年以降、アクティブなバイナンスUSアカウントである[プライマリーアドミン]はバイナンスUS関係者のみだ」とコメント。

また同氏は、チェン氏が操作していると裏付けられたいくつかのアカウントについては「機関投資家の顧客アカウント」であると述べ、活動内容の詳細などは回答しなかった。

また会社のメッセージから、チェン氏が管理者の承認を受けたのち、同氏の右腕でバイナンスの幹部であるスーザン・リー(Susan Li)氏がバイナンスUSの給与の支払いなどの口座取引管理を担当したことも明らかとなった。リー氏はバイナンスUSの社員に対し、給与支払いの依頼を受けた後、「私の方で承認した」とメッセージを送っている。

ハイナ(Heina)のニックネームでも知られるチェン氏は、少なくとも2021年初頭まで口座を管理していた。同氏が署名したシルバーゲート銀行の書類には、同氏の住所が上海と記載されている。

バイナンスUSの社員が同僚に送った2020年5月のメッセージによれば、バイナンスUSが機関投資家向けに提供する新たな銀行口座に関して、シルバーゲートが「ハイナが最終書類に署名するのを待ち続けている」と記されている。

顧客資産の混同は否定、詳細の説明は避ける

ロイターは、チェン氏とリー氏が、バイナンスUSの顧客用預金口座から資金を動かしたかの確認は取れていない。またチェン氏及びリー氏もロイターの質問に答えなかった。

バイナンスUSのハーテンシュタイン氏は「顧客の資金が悪用されたり、混同されたりしたことはない」と述べている。

コリー氏と同氏のチームは、2020年の間、バイナンスUSへ同社の銀行口座管理権を付与するようリー氏に繰り返し求め、またある時には規制当局がこの状況をどう見るかについての懸念を示すメッセージを送っている。

バイナンスUSの財務担当者は11月、リー氏に対し、「規制の観点から、BAMトレーディングが独自のログイン権を持つことは理にかなっていると思う」と書き送っている。

ロイターは以前、コーリー氏はリー氏に対し、メリットピークへの送金がコーリー氏の管轄外で行われていることに懸念を示したことを報じている。

なおバイナンスUSは、口座の管理、あるいは口座管理がいつ終わったかも含め、チェン氏の役割についての質問に答えていない。

同社広報担当者のハーテンシュタイン氏は、同社の「経営陣が問題の時期から完全に入れ替わった」ため、「ひとつひとつの詳細について話すのは難しい」とコメントしている。

バイナンスUSの法務責任者ジュヴァディ氏は、メリットピークへの資金の流れはすべて適切であったと主張。

内部調査では、メリットピークへの送金と、バイナンスUSのプラットフォーム上にあるデジタル資産口座からの引き出しはすべて一致したとのこと。ジュヴァディ氏は「すべての資金はメリットピークに帰属するものである」と述べている。

しかしジュヴァディ氏は、メリットピークの取引活動や同社におけるCZ氏の役割についての詳しい説明は避けている。

関連ニュース

参考:バイナンス
※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
Exclusive-Crypto giant Binance controlled ‘independent’ US affiliate’s bank accounts By Angus Berwick and Tom Wilson
Reported by Angus Berwick and Tom Wilson; Edited by Janet McBride and Michael Williams

翻訳:髙橋知里(あたらしい経済)
images:Reuters

関連するキーワード

この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

合わせて読みたい記事

【11/1話題】イミュータブルがSECからウェルズ通知、アルゼンチンLABITCONFがサトシの正体明かすと告知など(音声ニュース)

イミュータブルが米SECからウェルズ通知受ける、「IMX」証券性の疑いか、アルゼンチンのカンファレンス「LABITCONF」、サトシ・ナカモトが正体明かすと告知、フランクリン・テンプルトン、「オンチェーン米国政府マネーファンド」をイーサL2「Base」に展開、Crypto[.]comがSEC登録ブローカーディーラー買収、米国ユーザーに株式取引機会提供へ、セキュリタイズ、トークン化資産の管理機能統合の「Securitize Fund Services」立ち上げ、米マイクロストラテジー、「21/21プラン」で420億ドル調達を計画、ビットコイン購入資金で、BIS、中国主導の「中銀デジタル通貨」プロジェクトから離脱、Sui対応の携帯型ゲーム機「SuiPlay0X1」、格闘ゲーム『サムライスピリッツR』リリースへ、ヴィタリック、イーサリアム最後のチェックポイント「ザ・スプラージ」解説、バイナンス共同創業者、「Web3が身近な社会実現目指す」と語る。伝統的金融や規制当局と協力の姿勢も=BBW

Sponsored

アルゼンチンのカンファレンス「LABITCONF」、サトシ・ナカモトが正体明かすと告知(有識者コメントあり)

アルゼンチンで11月1日から開催されるビットコイン(Bitcoin)のカンファレンス「LABITCONF(Latin American Bitcoin & Blockchain Conference)」にて、ビットコインの考案者であるサトシ・ナカモトが自身の正体を明らかにすると、同カンファレンスの公式Xよりプレスリリースが出された

フランクリン・テンプルトン、「オンチェーン米国政府マネーファンド」をイーサL2「Base」に展開

米大手資産運用企業フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton)が、「オンチェーン米国政府マネーファンド(OnChain U.S. Government Money Fund:FOBXX)」をイーサリアム(Ethereum)のレイヤー2(L2)ブロックチェーン「ベース(Base)」上でローンチした。フランクリン・テンプルトンが公式Xにて10月31日発表した