米SEC、暗号資産業界に対し、引き続き厳しい態度

米SEC、執行による規制から一歩も引かず

これまで暗号資産業界は、これまでSEC(米国証券取引委員会)が暗号資産への証券法の適用時期を明確にするための法律の議会承認を待たず、公式に法律策定を行う代わりに、その都度強制執行しているとして、批判をしてきた。

最新の例では、昨年米司法省とSECの両方からインサイダー取引で訴えられたコインベース・グローバル(Coinbase Global)の元マネージャーが、今週SECの訴えの棄却を求めている。また自分が取引したイーサリアムベースのトークンがSECによって証券として定義されることを知らなかったと主張している。

コインベースの元社員であるイシャン・ワヒ(Ishan Wahi)氏は、2月8日に電信詐欺の共謀を認めたが、刑事事件の答弁聴取でも該当トークンは証券ではないと主張している。

ワヒ氏の弁護団は「暗号資産規制に対するSECのアプローチの唯一の特徴は、その不確実性だ」とSECの訴訟を投げ出す形で2月6日の申し立てで主張した。

コインベースは、ワヒ氏と彼の兄弟が取引したトークンは証券ではないと明言している。そして彼の弁護士は、議会はどのトークンがSECによって規制されうるかを投資家に伝えていないと伝えている。

またワヒ氏は「今のところ暗号資産の利用者はSECの取締りを受けるかどうかを推測しているだけであり、それは持続可能ではない」と主張している。

報告では「ある時点で、強制捜査によって単発のトークンが証券かどうかを明らかにするSECの曖昧な戦略は、法制度の基本的な保護に反してしまうことになる」と説明されている。

なおSECはそうは考えていないようだ。今週、暗号資産企業に関わる法律事務所が、イーサリアムのブロックチェーンネットワークとERCトークンは米国法上の証券ではないという判決を求める宣言的判決を求める訴訟を起こしたことに基づき被告を激怒させた、「曖昧な戦略(Delphic Strategy)」の変更を急ぐつもりはないようだ。

なお宣言的判決とは、米国の司法制度において、当事者にとって法律的な不確定な事柄を解決するための司法の判断のことをいう。

Hodl Lawという法律事務所は、デジタル資産と暗号資産に関する法律サービスに注力していると自称し、昨年11月にサンディエゴの連邦裁判所でSECを訴えている。

そしてHodl LawはSECが暗号資産に対する規制範囲を拡大するために何年にもわたる意図的な遅延と難解化に関与していると主張している。Hodl Lawは、このようなSECの戦略は、トークン保有者にコインが証券であるかどうかについての公正な通知を行わなかったと主張している。

Hodl LawはSECのワヒ氏の事件を引き合いに出し「SECが具体的な指針を示さないとされているため、同法律事務所を含む数百万のイーサリアムユーザーは、イーサは証券ではなく、イーサリアムに関連する取引も証券取引ではないという宣言的判決を切望している」と主張。「そうでなければSECが強制措置で急襲するかどうか、イーサリアムユーザーには見当もつかない」とHodl Lawは伝えている。

2月6日の書面でSECは、Hodl Lawと委員会の間にはっきりとした事件や論争がないため、法律事務所は憲法上の地位を欠き、裁判所は宣言的判決の下で管轄権を持たないと米国連邦地方裁判所のジェームズ・ロレンツ(James Lorenz)判事に主張し、訴訟を投げ出す技術的な議論を提示している。

しかしそれだけではなかった。SECは証券取引法の解釈について暗号資産利用者に警告する義務はないとも伝えている。

またSECは「Hodl LawはSECが連邦証券法の下でHodl Lawの権利を説明する義務や将来的に起訴しないことを約束する義務があると主張しておらず、そのような義務を課すような法律も指摘していない」と述べている。「その核心は暗号資産やデジタル資産に関する規則をSECが公布することを望むHodl Lawの願望を示しているだけだ」と。

またSECは「法律事務所のSECの調査可能性に対する一般的な不安と、暗号資産やデジタル資産に対するSECの見解に関する憶測は、訴因にはならない」と述べている。簡単に言えば、Hodl Lawと他のすべてのイーサリアムユーザーは、議会が決めたことをSECが執行するのを待つしかないと主張したのだ。

そのSECの姿勢は、Hodl Law事件の棄却を求めるSECの他の主張の強弱にかかわらず、暗号資産業界を刺激することになる。

SECは、ワヒ氏とHodl Lawのケースについてロイターに対してコメントを控えた。ワヒ氏の弁護士であるジョーンズデイ(Jones Day)のジェームズ・バーナム(James Burnham)氏は、声明を出すことを拒否している。

Hodl Lawのパートナーのフレデリック・リスポリ(Frederick Rispoli)氏は、「SECがデジタル資産ユーザーを事後的な強制措置で攻撃した多くの事例について、SECの却下の申し立ては前向きに検討されていない」と電子メールを通して伝えている。リスポリ氏によれば、ワヒ訴訟を含むこれらのケースは、イーサリアムユーザーが直面する差し迫った危険を示しているとのことだ。

SECの複数の対象者は、訴訟で問題となった暗号資産が、SEC v. W.J. Howey Co.の米国最高裁判所の1946年のハウイテストでは証券の定義を満たさないと連邦判事を説得しようとした。

私の知る限り、SECに対し反対意見を持つ裁判官はいない。昨年11月、ニューハンプシャー州の連邦裁判官は、暗号資産は、購入者が暗号資産発行会社がコインの蓄積を利用して通貨全体の価値を高めることを期待する場合に証券であるというSECの理論を採用し、勝利を収めた。

SECの暗号資産規制の次の大きなテストは、リップルラボ(Ripple Labs)に対する注目の訴訟で行われると予想されている。両社はマンハッタンのアナリサ・トレス(Analisa Torres)連邦地裁判事に対して、決闘の略式裁判の申し立てを行った。

2月6日に提出されたワヒ氏の報告書は、リップル社の略式裁判の提出書類と同じ主張を多くしている。しかしそれはSECの暗号資産に関連した事件で最も丁寧に説明された提出書類となっている。

ワヒ氏によれば、SECの強制捜査は最高裁が最近明確にした「major questions doctrine(大問主義)」によって排除されるとのことだ。

ワヒ氏は「昨年6月のウェストバージニア州対環境保護庁(West Virginia v. Environmental Protection Agency)で明文化された新しい基本原則により、SECが議会からの指針なしに、暗号資産業界を規制するために強制措置を用いることができなくなった」と主張している。

その主張がSECの考えを変えるとは思えない。裁判官がそれを活用するかどうかを見なければならないだろう。

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 ※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
(Reporting By Alison Frankel; editing by Leigh Jones)

images:Reuters

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竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

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