「UNCHAIN」の新たな挑戦、「進捗2Earn」とは?
今年2月に創業から1年を迎えるweb3スタートアップのshiftbase。同社の手がける「UNCHAIN」は、スマートコントラクト開発やdAppsの構築など、プロジェクト開発を通してweb3を学び、実践経験を積みながらアイデアを形にする力を身につけるエンジニアのためのコミュニティだ。
ローンチ以降、教育コンテンツやサービスを充実化させ、現在はイーサリアム(Ethereum)6つ、ポリゴン(Polygon)3つ、ソラナ(Solana)4つ、ニア(NEAR)4つ、アバランチ(Avalanche)2つ、アスターネットワーク(Astar Network)1つ、インターネットコンピューター(ICP)で2つの合計7つのパブリックチェーンに関する学習コンテンツ22件を提供している。
またローンチ当初は招待制だった「UNCHAIN」だが、現在はユーザーがアカウントを作成するだけで学習コンテンツに無料でアクセスすることができる仕組みへとアップデートされた。また、ユーザーは技術スキルの審査基準を満たすと、Discordコミュニティにアクセスでき、UNCHAINメンバーとして活動することも可能だ。現在、1,200名以上のUNCHAINメンバーがコミュニティで技術を学び合っている。
そんな「UNCHAIN」で新たなプロジェクト「web3開発助成金プログラム:進捗2Earn」がスタートする。あたらしい経済編集部はshiftbase 取締役CCOの志村侑紀氏と取締役CTOの日原翔氏、そしてすでに助成金プログラムにプレ参加している起業家のkimi氏、エンジニアのkeit氏に取材した。
「web3開発助成金プログラム:進捗2Earn」とは?
–今回UNCHAINで立ち上げる「web3開発助成金プログラム:進捗2Earn」について、教えてください。
志村侑紀(以下 志村):web3領域でプロダクト開発に挑戦する個人やチームに、進捗に応じて最大200万円の助成金(Grant)を段階的に給付するプログラムです。
一般的にエンジニアを育成/助成する仕組みとして、ハッカソンがあります。私たちもこれまで複数のハッカソンの運営サポートをさせていただき、その重要性を強く感じています。しかし、まだまだそれらに改善の余地があるとも感じました。
そこでインキュベーションの要素を取り入れた、ハッカソンをできないかと考え、企画したのがこの「web3開発助成金プログラム:進捗2Earn」です。
–一般的なハッカソンに、どのような改善すべき点があると考えたのでしょうか?
志村:1つは、「プロセスではなく結果だけが評価される点」です。一般的なハッカソンは最後の結果だけの勝負になります。それによって参加者の「MVP(Minimum Viable Product/顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト)」開発のモチベーション維持が難しくなっています。それはハッカソン後のモチベーションにも関わってきます。
日原翔(以下 日原):入賞できなかったからプロジェクトがそこで止まってしまう。また入賞できたとしても、必ずしも起業につながるわけでもない。一種のコンテスト、お祭りのような要素は、ハッカソンのいい面でもあるものの、ただそこから果たして多くのプロジェクトが世に出ていけるのか、という点では課題だと感じています。
志村:2つ目は「ハッカソン参加後の起業と資金調達のハードル」ですね。入賞したとしても、資金調達のプロセスに時間を割かれて、開発のモメンタムが失われてしまう場合もあります。
そして3つ目は「プロダクトのユーザー獲得におけるハードル」です。ハッカソンに参加する段階ではPRやマーケティングにそこまで知見があるわけではないので、結局ユーザーにプロダクトを上手く届けられないという課題があると感じています。
「進捗2Earn」でハッカソンを新たなステージへ
–それらを「進捗2Earn」では、具体的にどう改善するのでしょうか?
志村:「進捗2Earn」は、チームの最終的なアウトプット(結果)ではなく、プロセスを評価し、プロダクト開発のマイルストーン到達ごとに参加者に助成金を給付していく仕組みです。
6段階の開発進捗の審査する基準を設け、段階的に給付、全てをクリアしたチームには前述の通り最大で200万円を給付します。これでまず1つの目の「モチベーション維持」の課題を解決し、より多くのチームがプロダクトのMVPをリリースできる状態を目指します。
2つ目の「ハッカソン参加後の起業・資金調達のハードル」に関しても、最大200万円の資金を獲得できる仕組みを導入することで、開発チームは株式を放出することなく、プロダクトの仮説検証に集中してもらうことができます。エンジェルラウンドの資金調達をスキップできるチームを増やしていきたいと思っています。
また3つ目の「プロダクトのユーザー獲得におけるハードル」に関しては、プログラム期間中に毎月開催されるピッチイベント(Demo Day)に参加するチームに対して、UNCHAINの運営チームが広報活動を支援する仕組みを導入します。プロダクト開発初期のチームが最初につまづくことが多い創業期のマーケティング活動をサポートしていきます。
–こういう仕組みのハッカソン、これまでにあったんでしょうか?
日原:私たちが調べられた範囲では、無いと思います。
志村:あと補足すると、これまでのハッカソンは、どうしても参加する他のチームとの比較になってしまう点も改善したかったんです。私たちのプログラムでは、他者と比べてどうではなく、まず自分たちの進捗に向き合ってもらう。それが評価軸となる。
自分の成長とちゃんと向き合える環境。そういう人たちが集まる場所で切磋琢磨できる場所を作っていきたいと思っています。
–6段階の開発進捗の審査の具体的なフェーズは?
日原:まず今回のフェーズを作りにあたって、既存の投資ラウンドの概念にプレエンジェルラウンドという、エンジェルラウンドの1つ前段階の投資ラウンドというコンセプトを独自で考え、取り入れました。エンジェルラウンドの調達金額の相場は500〜1,500万円(株式放出目安:1〜10%程度)といわれていいますが、一方、私たちの考えたプレエンジェルラウンドでは、1〜200万円を6段階に区分された審査基準を満たした個人及びチームに助成金という名目で、創業資金を給付していきます。
そして具体的な6段階ですが、最も獲得金額の小さいフェーズは、Pre-6と呼んでいます。Pre-6のフェーズでは、アイデア企画書を作成し、提出するのみで1万円相当の助成金を獲得できます。次のPre-5は企画書と要件定義書の提出で、助成金は5万円相当です。
それ以降は以下のように累計で6つのフェーズがあり、当社独自の審査基準を満たすことで最大で累計200万円相当の助成金を受け取ることがきます。
–これ、僕(設楽/あたらしい経済編集長)でも参加して、企画書出すだけで1万円貰えるってことですよね? 出してみようかな、企画書なら書けますよ。でもエンジニアどうしよう……。
志村:そうです、出すだけで、1万円もらえます、Why not?(笑)
そしてエンジニアはUNCHAINの中で仲間を募っていただければと思います。そうやってチームを作って、ぜひ200万円勝ち取っていただきたいです。そういう場所なんですよ、「UNCHAIN」は。
協賛企業へのメリットは?
–挑戦しようかな(笑)。ちなみに今回のプロジェクトでは協賛企業を集めていると思いますが、協賛企業側にはどんなメリットを提供するのですか?
志村:一般的なハッカソンでの主な企業協賛のメリットは、広告や自社サービスの認知拡大、業界とのコネクション作り、採用、出資先探し、などが挙げられると思います。
私たちのプログラムでもそれらの機会をご提供できるのですが、その中でも採用や出資についてより踏み込んでメリットを感じていただける仕組みを考えました。それは私たちが企業様をこれまでヒアリングしてきた中で、最も需要のある部分だったからです。
web3のスピードは速い。これから参入する企業にとって、部署を立ち上げリサーチから始めるために、やはり人材が必要、だから採用を強化したいし、場合によっては出資して関わりたい。
しかしそんな企業側の目的に対して、ハッカソンに参加する方たちとの温度差は否めないんですよね。前述の通り一過性のイベントとして参加している方も多く、例えば転職したいとは考えていない、力試しや面白いことやりたいという人も多い。そこにミスマッチがあると考えたんです。
私たちのプログラムに協賛いただければ、まず「UNCHAIN」の公式ウェブサイトでの採用情報掲載させていただきます。プログラム参加者に限らず、広く「UNCHAIN」のユーザーに情報告知が可能です。あわせて「UNCHAIN」メンバーへのスカウト権、「UNCHAIN」メンバーへの受託開発依頼ができる権利もご提供します。
これまで培った「UNCHAIN」のコミュニティの強さを、しっかり中長期的にweb3を推進していきたいという企業様に、コラボレーションという形で提供していきます。また今回ご協賛いただければ、今後私たちが提供する新サービスなどの割引などの特典もご用意していこうと思っています。
–ちなみに現時点でどのような企業が協賛される予定ですか?
志村:第1回目の本プログラムの予算は、web3エンジニアを採用したい企業及びshiftbaseから協賛金として3,000万円を準備しています。現時点で、株式会社Catalyst・Data・Partners、double jump.tokyo株式会社、JPYC株式会社、株式会社RiskTakerからご協賛いただけています。2月末までスポンサーを継続して募集していますので、ぜひご興味ある企業様のご連絡お待ちしてます。
–この協賛の資金は、プロジェクトのもろもろの運営費用を抜いて、このプログラムの助成金に回されるイメージですよね?
志村:いえ、全額全てこのプログラムの助成金に回させていただきます。つまり全部が参加エンジニアへの「進捗2Earn」の資金となります。プログラム運営の費用やPRの費用はshiftbaseの持ち出しなんです。
–すごい、そこも普通のハッカソンと違いポイントかもしれませんね。ちなみに「JPYC」を利用する理由は?
日原:一般的なハッカソンの入賞賞金の支払いまでに1-2ヶ月ほど時間がかかるケースが多いです。そのタイムラグは創業して間もないスタートアップにとっては、経営判断に大きな影響因子になることもあります。だからERC20で簡単に送金のできる「JPYC」を採用し給付することで、即時入金(1週間以内)を実現し、キャッシュフローの安定化を目指したいと思い、採用しました。
今回のプロジェクトは進捗ごとに助成金を給付するので、通常のハッカソンと比べものにならない支払い回数が発生します。そこの運営面での利便性も考慮しました。
協賛企業様から日本円で受領した協賛金は、日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」に弊社で交換し、参加ブロジェクトの進捗に応じてできるだけ早く、順次参加者のウォレットに直接送金していく予定です。
参加者「全く新しい仕組み、モチベーションが上がる」
–このプログラムは本日からパブリックに参加者を募集されるとのことですが、「UNCHAIN」メンバー内では事前告知されてすでに少し動き始めていますよね。今参加されている、keitさん、kimiさんは、このプログラムをどう感じていますか? 今の進捗状況は?
keit:現在私はkimiさんとチームを組んで、企画書の提出(Pre-6)を終えたフェーズです。「FANBASE」という、地域への推し活により、経済循環を促進させる地域プラットフォームの開発を進めています。
そして私もこれまで幾つかのハッカソンに参加してきましたが、結果ではなくその過程も重視される仕組みは初めてで、モチベーションが上がっています。
用意されたステップに準じて頑張っていけば、前述の通り自社株も切らないでいいですし、かつ、定期的なタイミングで評価していただいてお金が貰え、最終的にやり切ればプロダクトが出来上がってユーザーもいる状態になれるわけですから。
全く新しいと思いましたし、だから実はUNCHAINメンバーにもなっていないkimiに声をかけて、参加することにしたんですよ。
kimi:私もこれまでいくつかハッカソンに参加してきまして、締め切りに2時間間に合わなくってエントリーできなかった苦い経験もありました。このプログラムは期間はあるものの、自分たちのペースで進められますし、進捗が評価されるから、それでちゃんと進捗を意識していけ、結果的にちゃんとプロダクトが形にできるのではと思っています。
さらに昨年起業してこれからどう「FANBASE」を開発する資金を集めて行こうかと考えていたところでしたので、この仕組みを聞いてすぐ参加を決めたんです。
志村:心理学でも、いきなり大きなハードルを超えることは難しいけれど、少しずつ小さなハードル超えていくことで最後のハードルを超えるモチベーションを維持できるという研究があります。実はそこからもインスピレーションを受けて今回のプログラムを考えました。
shiftbaseが目指すもの
–先ほど今回のプログラムもマネタイズしないというお話がありました。そして今UNCHAIN自体も無料で提供されています。今後shiftbaseさんはどのようにビジネスを拡大していく予定なのでしょうか?
志村:web3に関して私たちがすごく共感したのは、サービスやプロダクトに貢献した人たちがその利益を得ることができるという仕組みです。みんなでコミュニティを作り上げていき、プロダクトや世の中に価値を生み出していくっていうムーブメント自体が、web3の根幹にある、ブレてはいけない思想だと思っています。
投資家にお金があって、起業家にはアイデアがある。だだそれに加えて、エンジニアやデザイナー、PMの方々などなどが、実際手を動かして作り、プロダクトを前進させてMVPを作って世の中にまずリリースしないと、お金もいいアイデアも、うまく循環しないと思っています。
日原:web3でもそういうお金の流れが作れないと、結局よく分かんないリバタリアンの集まりみたいになってしまうかもしれない。
志村:だから「UNCHAIN」は、web3業界にとっての、人を育てて、学びから挑戦へ、挑戦から価値創造への循環を生み出すインフラになりたいと思っています。
現在shiftbaseとして、「UNCHAIN」のコミュニティマネジメントという形で貢献しているという立ち位置だと思ってますし、最終的には自走できるようにshiftbaseから切り離してしまってもいいと思っています。私たちはクライアントとして次の事業を始めるときに「UNCHAIN」に仕事を頼む、という未来を描いています。
ただshiftbaseとしては、もちろん収益を上げていかないと「UNCHAIN」への貢献もできません。だから別の新規事業をいくつか立ち上げていく予定です。今後、法整備に伴いステーブルコインが普及すると暗号資産を保有する企業が増えてくると思うので、そこに刺さるサービスを仕込んでいます。
『西遊記』は、みんなで天竺を目指して旅をして、最後に何かあるかと思っていたら、何もなく実はそれまでの道のりが価値だったというお話ですよね。個人的にこのお話の「価値」の見出し方に深く共感して、だから今回も「道のり」を評価するプロジェクトを開始しました。
「UNCHAIN」というコミュニティで人が出会って、新しい出会いや価値が生まれ、それがどんどん世の中に循環していくプロセスが生まれる、そこに関わったこと自体が価値になる。それが、「UNCHAIN」を通して私が見たい未来です。
日原:今はクリプトの冬の時代とも言われていますが、こんな時期こそ腰を据え手を動かしていいものを作るタイミングです。今に限らず過去もそうでした。いつだって、盛り上がってるプロダクトが開発されていた時期は、冬なんですよ。
そしてこの時期に、ちゃんと手を動かす人が報われるような仕組みを「UNCHAIN」と今回のプログラムを通じて提供していきたいと思っています。
関連リンク
●「進捗2Earn」への応募や、企業協賛についてのお問い合わせは、以下「UNCHAIN」公式サイトまで
※「進捗2Earn」への応募は、「UNCHAIN」のdiscordサーバー(審査制)への参加が必要となる。discordへの参加申し込みは「UNCHAIN」公式サイトより可能。
※企業協賛のお問い合わせは、公式サイトの「Contact」より受付中。
●【取材】web3で「学び」を変える、shiftbase「UNCHAIN」とは?(2022-03-2)
取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
撮影:堅田ひとみ