「ビットコイン」に代表される仮想通貨(暗号資産)によって幅広く知られるようになったブロックチェーン(分散型台帳システム)技術だが、転換期とも言える2019年は、金融的な側面での法令整備がさらに進み、金融以外のユースケースも登場している。
そこで仮想通貨や金融面の法令に詳しいアンダーソン毛利・友常法律事務所の河合健パートナー弁護士と、ブロックチェーン技術の導入コンサルティングを行うBlockBase株式会社 取締役 COOの山村賢太郎氏に話を聞いた。
資金決済法の改正とSTOとは
−昨今、仮想通貨を定義している資金決済法に改正の動きがあるという話を耳にします。
河合健(以下 河合):改正法案が2019年3月15日に国会に提出されました。これは資金決済法の仮想通貨関連部分の改正と、金融商品取引法(金商法)にセキュリティトークン(デジタルセキュリティ)の規制が加わるという内容で、順調に進むと国会での審議と衆参可決をもって公布されます。実際の施行は、2020年の春頃と予想しています。
−ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の次はSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)であるという論調の話をよく耳にしますが、STOとはどのようなものでしょうか?
河合:STOの「ST」は、「Securities Token」、つまりトークン化された有価証券ということですね。「O」のオファリングは、募集・販売という意味です。
これまではICOということで仮想通貨的なもの、例えば決済に使えるものなどがトークン化されてブロックチェーン上で流通していましたが、ファンドの持分・株式・債券などをトークン化してブロックチェーン上に載せることで、新たな発行や流通の仕組みを作ることを目指しているのがSTOです。
非金融領域でのブロックチェーン
−一方で、山村さん達は、非金融領域でのブロックチェーンのユースケース作りを行っていますね。BlockBase社ではどのような事例を取り扱っていますか?
山村賢太郎(以下 山村):私たちはブロックチェーンにおけるアイデンティティと、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)の領域を重点的に追っています。トークン同士がユニークである場合は通貨性が低い、つまり現在では法令上の仮想通貨には該当しないと言われています。ブロックチェーンゲームを例に挙げると、ゲームのカードがトークン、つまり仮想通貨のようなものです。
河合:NFTは一つの特定のものを表すんですね。個別のゲームアイテム、個別のダイヤモンド1個とか、中古車1台とか。この世に2つ存在しないものを表すトークンがNFTです。
それ自体で決済機能性は基本的に持たず、一つのものを一度にたくさんの人が取引することもない。そのため、仮想通貨とは見なされないケースが多いですね。
−BlockBase社は先日、NFTをユーザー間で交換できるサービス「bazaaar」をリリースしていましたが、これはどのようなものですか?
山村:海外ではNFTを交換させるプラットフォームがいくつもあり、全てのNFTが法令上の仮想通貨には当たらないと考えられていますが、日本ではまだそうとは断言できないので、NFTだと思われるもののみを扱うことで日本在住者が安心して使えるプラットフォームを目作っています。
河合:ゲーム間でアイテムを交換したいニーズがあるんですね。配信元の異なるゲーム間を超えるのは簡単なことではありませんが、ブロックチェーンゲームだと、資金を投入し育てたアイテムを別のゲームのアイテムに交換することで、前者のアイテムの価値を後者のゲームで実質的に使うことができるわけです。
NFTの中でもきちんと個性のあるものについては仮想通貨ではなく単なるデジタルデータとして認識できるのではないかと考えています。
ゲーム以外のNFTについて
−NFTはゲーム以外にも適用パターンはありそうでしょうか?
山村:音楽やデジタル画像も、もしかするとNFTの発行型となるかもしれませんね。あらゆるデジタルデータに可能性があるのではと思っているところです。例えば、先日弊社はNFTを用いて音楽の原盤権を管理するための取り組みの発表(「BlockBaseとMaltine RecordsがNFT <Non Fungible Token> を活用した楽曲配信の実証実験を開始」)をさせて頂きました。
河合:デジタルデータの世界でユニークネスを持たせることができるものが、一番可能性が高いです。同じものを複数作らないようにすることで、「これがオリジナルです」と判別できるようにする。
例えば、版画の一番初めに刷った一枚。しかし、実物と一対一で結びつけるには、難しい面もあります。例えば「このダイヤモンド実物はAさんからBさんに譲渡されたけれども、だそのダイヤモンドを表すトークンはAさんからCさんに移ってしまった」という事象も発生し得るので、どうやって、トークンと実物の結びつけを維持し続けられるのかが結構難しいですよね。
仮に信頼できる倉庫業者さんが実物を管理して、トークンをその引換証として結びつけることができたら、可能性が広がると思っているんですけどね。
−仮想通貨の取引所は新興企業が中心に産業を作っていった印象があるのですが、新しい枠組みであるSTOも同様の形になりそうでしょうか。
河合:STは基本的に証券に該当しますが、証券については日本含めどの国にも既存の規制があります。STOはそこがICOや仮想通貨とは違うんですね。仮想通貨は日本では2017年からレギュレーションが始まりましたが、世界では今でも規制のない国の方が圧倒的に多い。
STOは既存のルールがあるので、そのルールを守ってプレイする必要がある。ここが、多くの国で規制枠組みが固まっていない仮想通貨とは大きく違います。発行を予定している国の証券規制を遵守しないと、違法になるので、仮想通貨のように、とりあえずやってみようということはできないわけです。
山村:証券ということに着目すると、コンプライアンスのガバナンスとモニタリングの話が展開されていくと思います。知見を持った金融業者が中心となって産業を作るべきだと思っているので、あまり発行や媒介の部分は追ってはいないですね。
河合:イノベーションの進む方向性として、いかに規制順守のコストをテクノロジーで下げられるかが焦点になるかなと思います。人と人との間での紙での契約などであれば、例えば流通範囲を100%完璧にコントロールするのは難しい。これがブロックチェーン上であれば、流通範囲が全部テクノロジーでコントロールすることも可能です。
アメリカでは今はもうそういう方向に進み始めいているところがあるんですよ。
「ブロックチェーンハッカソン2019」の開催
−経済産業省が主体となった、同庁初となる「ブロックチェーンハッカソン2019」が2月に開催され、河合先生は審査員を務められました。どのような内容だったのでしょうか?
河合:学位や成績の証明をブロックチェーンでできるかどうか。研究不正をブロックチェーンの活用で防ぐことができるかどうか。そういったテーマで経産省の研究会が開かれているのですが、有識者間での検討だけでなく民間の知恵を出してもらって実際に作ってもらおうという試みのハッカソンです。
最終的には20を超えるチームが結成されて、学位証明や研究データの改ざん防止についてのアイデアと実装を競ってもらいました。山村さんが参加されたチームが、最優秀賞を受賞されていましたね。
山村:はい、ありがたい賞をいただきました。
学位をブロックチェーン上に載せるところは、アイデンティティみたいなものが重要になってきますし。技術の話は従前からしていたので、あまり課題はなさそうに見えていましたが、学位の話になると「実際に大学の職員たちがどうやって運用するか」はまだあまり議論されていない。そこに知恵をしぼると良いアイデアが生まれると感じました。
−様々な事件を背景に、昨年は仮想通貨やブロックチェーンに対して誤解やネガティブな印象が世間に広まったように思いますが、今年はどんな年になると予想していますか?
河合:2018年は仮想通貨業界で事故の続いた年でした。さらに価格が乱高下してバブルが発生し取引で損をされた方も少なからずいたので、「怖いもの」「触れちゃいけいないもの」といったイメージが世間的にはできてしまったように思います。
一方、技術自体は進化しており、仮想通貨に限らず一つ一つのブロックチェーンプロジェクトに丁寧に着目し見極めていくのが2019年かなと考えています。日本ではレギュレーションがはっきりして来るタイミングでもあります。
規制や監督の側面から見れば、去年まではいわゆる「緊急モード」だったものが、今は「通常モード」に戻っていく過程にあるので、取引所もコンプライアンスやセキュリティ対策を充実させてくると思うので、産業として徐々に成熟する過程に入っていくだろうなと思っています。
山村:私は今、ブロックチェーン技術を活用する会社を経営していますが、「これが絶対にいい」と断言してしまうよりも、技術のリスク評価を継続的に進める姿勢が見られてきているように思います。
昔ブロックチェーンの技術を試したけれど結果が出せなかった人が、もう一度ブロックチェーンを試したいという発想に繋がりやすくなっているのは良い傾向だと思います。
2016〜2017年に言われていたユースケースがやっと実装に入れる年になるのではないかと期待しています。
(おわり)
インタビューイ・プロフィール
河合 健(かわい・けん)
1988年3月、京都大学法学部卒。1988年4月から2005年3月まで、東京銀行、東京三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)で勤務。2008年3月、神戸大学法科大学院(法務博士(専門職))修了。2009年12月、司法修習(62期)を経てビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所。2015年3月、同事務所カウンセル就任。2015年4月、統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル就任。2018年1月、同事務所パートナー就任。
山村 賢太郎(やまむら・けんたろう)
多摩美術大学卒。モバイルコンテンツプロバイダーやモバイルシステム開発企業、ネット広告企業の事業開発を担当。2016年よりブロックチェーンの専門メディアの編集長、仮想通貨取引所の創業、株式会社CAMPFIREの仮想通貨領域の責任者など、仮想通貨・ブロックチェーン領域の経験豊富。サプライチェーンや医療、ライセンス管理などセクターを問わずブロックチェーン技術の導入コンサルを行うブロックベース株式会社を2018年に創業。