三菱UFJ信託らの「Progmat Coin」、クロスチェーン決済実現に向けDatachainと協業
ステーブルコインの発行・管理基盤「Progmat Coin(プログマコイン)」が、複数のST(セキュリティトークン/証券トークン)基盤とのクロスチェーン実現に向けた技術検証を開始する。三菱UFJ信託銀行が9月29日に発表した。
なお「Progmat Coin」 は、ブロックチェーンと受益証券発行信託スキームを組み合わせたステーブルコインで、1Progmat coin=1円に相当するように設計されている。
また「Progmat(プログマ)」はブロックチェーンを活用した独自のデジタル証券発行・管理プラットフォームであり、エンタープライズ向けブロックチェーン「Corda(コルダ)」が技術基盤に採用されている。
今後のクロスチェーン技術に関する取り組みとしては、まず係る机上検証を行い、実装方式案を策定すると共に、業界横断的な技術検証計画を取り纏め、Datachain(データチェーン)と技術提携のうえ10 月より共同で検証を開始するとのことだ。
データチェーンのリリースによれば、Progmat上のDVP(Delivery Versus Payment)決済は2023年に商用化予定であり、また異なるブロックチェーン基盤間のクロスチェーン決済についても、今回の実証実験を皮切りに2024年までの商用化を目指していくとしている。
また2023年の改正資金決済法施行を踏まえたリリースを目標としているステーブルコイン発行・管理基盤の「Progmat Coin1.0(初回スコープ)」については、すでに要件を整理し、業務フロー・データフロー案を策定したとのことだ。
そして10月より実装フェーズに移行し、システム化に向けて各種フローについて各社との合意形成を行なっていくとのことだ。
あわせて三菱UFJ信託銀行は、同行が主催する「デジタルアセット共創コンソーシアム(略称:DCC、会員企業数134社)」のなかで、2022年4月に設置した「資金決済WG(ワーキンググループ)」の検討状況を中間報告書で発表した。
「Progmat内のRTGS(即時グロス決済) スキームおよび契約構成と法的論点」については「ステーブルコインは個人を含むエンドユーザーがステーブルコイン残高を直接保有しない『ホールセ ール(WS)型』と、エンドユーザーがステーブルコイン残高を直接保有する『リテール型』 に大別される」とし、「まずはセキュリティトークンのセカンダリ取引の決済効率化が必須目標であり、当該ユースケ ースでは金商業者間決済のステーブルコイン利用のみで要件充足するため、『WS 』を実装する。 複数金商業者を委託者兼受益者とする受益証券発行信託を銘柄別に組成(目的別に複数ステーブルコイン銘柄発行が可能)し、資金決済法上の電子決済手段(ステーブルコイン)として特定信託受益権を発行する」と説明されている。
また「クロスチェーンのRTGSの技術検証」については「必要な技術検証内容の策定に向けて、机上検証によりクロスチェーン実装方式の主案を定めた。チェーン(BC)間の接続/認証方式として、『API方式』『相互認証方式 (TTP方式、HTLC方式、Relay方式)』で比較し、拡張性制約や一 定のケースにおける取りはぐれを回避すべく『Relay方式』を主案とした」とし、『Relay方式』のアーキテクチャとして、『IBC』プロトコル(通信規格)活用が望ましい前提で、実装方式である『直接検証型』『プロキシ型(BC上)』『プロキシ型(TEE上)』で比較し、拡張性とセキュリティ・性能面から『プロキシ型(TEE上)』を主案とした」と説明されている。
また「コルダ(Corda)における実装方法として、トランザクションの正当性を担保するためのバリデーター(Validators)を導入すると共に、コルダ側のロック/アンロックを行いアトミック(一体不可分)な処理を実現すべく、エンベランス(Encumbrance)機構(トランザクション消費条件の任意追加)を活用する」としている。
ちなみに三菱UFJ信託銀行は東京ドームと共に、NFTの技術を用いて、株主優待等の特典や特定のアセットやサービスに関する利用権や会員権といった権利をトークンとして発行する取り組みを7月29日開始している。
この際に東京ドームが発行したトークンは「東京ドームホテル」と「東京ドーム天然温泉スパラクーア」に関するものであり、トークン保有者は「東京ドームホテル」の「スイートルームに贅沢ステイ 夕朝食付宿泊プラン」を特別優待価格(約60%OFF)で利用できることになっている。
三菱UFJ信託銀行のプロダクトマネージャー齊藤達哉氏へ取材
「あたらしい経済」編集部は、三菱UFJ信託銀行デジタル企画部デジタルアセット事業室のプロダクトマネージャー齊藤達哉氏へ取材を行なった
––クロスチェーン対応は、そのアセットの収益性もしくは流動性の向上など、具体的にどのような狙いがあるのでしょうか?
ブロックチェーンに関する言説は様々ですが、3つの確かな事実があります。
(1)ブロックチェーン(分散型台帳技術一般を含む)のいわゆる“Layer1”について、 BitcoinやEthereum以外にも様々なプロジェクトが勃興していること
(2)国内だけでも、デジタル証券案件の規模は既に400億円(うちProgmat関連は300億円弱)を突破していること
(3)2023年にデジタル証券の2次流通市場が本格的に立ち上がるが、「ブロックチェーン上で完結する安定的な資金決済手段」が無ければ、市場の効率性は著しく損なわれること
以上の3つの事実を踏まえると、「ブロックチェーン基盤の違い」に囚われず、「大量のデジタル証券の決済に利用可能」な、「ステーブルコイン」の存在は不可欠といえます。
更に視野を拡げると、いわゆるNFTの分野に参入するプレーヤーが拡大の一途を辿っていますが、なぜNFTか?の意義を考えると、“世界市場×パーミッションレスブロックチェーン”上のプロジェクトが前提と捉えています。
“世界市場×パーミッションレスブロックチェーン”上のNFT取引において、円貨やクレジットカードでの決済は、多くの事業者/プロジェクト参加者の負担が発生しています。他方、「ブロックチェーン上で完結するが、“価値が不安定”な資金決済手段」である暗号資産の決済利用も、特に事業者にとって課題が存在することも事実です。
したがい、デジタル証券のみならず、NFT取引市場においても、「ブロックチェーン上で完結する安定的な資金決済手段」が強く求められていると認識しています。 幸い、日本は世界に先駆けて、上記のような存在を「電子決済手段」として法律上の取扱いを明確化しました。
本取り組みにより、技術面でも「ブロックチェーン基盤の違い」に囚われないことを実証し、「Progmat Coin」基盤が様々なユースケースの課題を解決できることを証明できればと考えています。
––また『API方式』『相互認証方式 (TTP方式、HTLC方式、Relay方式)』で比較し、『Relay方式』を主案とした具体的な理由について教えていただけますか?
クロスチェーンの実現方法は、中間報告書としてまとめたとおり様々な方法があります。 主案を定める議論の中で、私たちが重要視したのは「グローバルな市場を前提にしても、商用化の蓋然性が高いか?」です。
クロスチェーンを実現するうえで、新たなトラストポイントが生じてしまうと、そのようなトラストポイントに対する各国規制の違いを受けて、一部では利用できなくなってしまう、といった拡張性の制約を受けてしまう可能性があります。 (APIやTTP)
また、金融ユースケースにおける証券決済を想定すると、資金決済の相手方となる証券(いわゆるST)に譲渡制限等が入っている可能性があり、資金決済側だけが処理されて、証券側は受け取れない、といった事態の発生は許されません。(HTLC)
このように1つずつ課題を消し込んでいき、残った方式が「Relay」でした。
––また今回Datachainと連携する決め手となった理由はなんでしょうか?
少なくとも「Progmat Coin」基盤の金融ユースケース利用においては、「IBC」プロトコルの利用が適合的と考えています。 Datachain様はIBCを前提とした「Cross Framework」を提供しているだけでなく、もっとプリミティブなところで、”マルチチェーンの世界観”として同じ未来を見ていると感じ、WGにお声がけした経緯です。
––今後の具体的な方針について説明していただけますか?
「Progmat」としては、「クロスチェーン」と「マルチチェーン」に対応していきます。 現在の「Progmat」は、DLT層をパーミッションド(コンソーシアム型)プロックチェーンとして構築しています。
「Progmat」のDLT層を既存のものとしたまま、他のプロックチェーン上のアセットとの相互交換を実現していくのが「クロスチェーン対応」で、その1歩が今回の取り組みです。
2023年3月に、今回の取り組みを踏まえた結果を取りまとめ、「資金決済WG」として再度報告書を公表します。 DLT層としてパーミッションレスプロックチェーンにも拡張するのが「マルチチェーン対応」です。
ユースケースによっては、こちらの方がよりお客様の顧客体験が向上する可能性があると考えており、ステーブルコインを巡る規制の考え方にうまくアラインするよう、並行して検討していきたいと考えています。
参考:三菱UFJ信託銀行