社会にブロックチェーンを実装することはできるのか、ブロックチェーン・インテグレーター「Chaintope」の挑戦

「Chaintope」とは

みなさんは「Chaintope」という会社をご存知だろうか。ブロックチェーン業界に身を置く人はさまざまな実証実験やプロジェクトのメンバーとして名を連ねるこの会社の存在を1度は聞いたことがあるに違いない。

「Chaintope」は「ブロックチェーンインテグレーターとして社会にブロックチェーンを実装する」をミッションに掲げたブロックチェーンに特化した福岡県飯塚市に拠点を置くブロックチェーン・カンパニーだ。

彼らは技術開発やコンサルティングを通じて、ブロックチェーンを用いたサービスや事業、ひいては社会モデルを構築するためのエコシステム・ハブとなっていくことを目指して現在でも多くのプロジェクトを牽引している。

今年2月には「Electrowise」という電力業界向けにデザインされたブロックチェーンベースの新たなプラットフォームを発表。P2P、RECトレーディングをはじめ、電力業界での新たな社会モデルの実現を目指し実行環境やサービスを提供していく予定だ。そして「Electrowise」では分散エネルギー情報基盤アライアンス(略称:DELIA)との連携も発表している。

その他企業や団体との取り組みとしては、一般社団法人フィランドコイン協会とともに、長崎県平戸市と協力し、地方創生ICO実施に向けた検討を開始を発表。そして2月には株式会社三菱総合研究所(MRI)と「ブロックチェーン技術を活用した基盤・サービス等」の開発検討に、共同で取り組むことの合意も発表されている。

海外展開としては「Chaintope」の関連会社CHAINTOPE MALAYSIA SDN.BHD.が、クアラルンプールにBlockchain Innovation Labを昨年12月に開設し、キックオフイベントとしてマレーシア政府系機関であるMalaysia Digital Economy Corporation Sdn. Bhd.の全面協力のもとハッカソン「GBEC Hackathon Malaysia 2018」を開催した。

国内のブロックチェーンエンジニアの育成及び社会に価値のあるブロックチェーン関連プロダクトを業界から生み出すための基盤づくりのために、HashHubとFressetsと連携を3月に発表。「GBEC」というブロックチェーン開発コミュニティを通じて共同で活動を進めていく。

また自社でも多くのプロジェクトを現在進めている。昨年11月に社会関係資本を可視化するトークンエコノミーを生み出す「Masachain」のコンセプトをリリースし、現在開発中だ。

また今年の1月にはLightning Networkを拡張した独自トークンやコインを発行可能とするプラットフォーム「Inazma」を発表した。こちらのサービスも2019年中のサービス実装向けて実証実験が続いている。

ここ数ヶ月で発表されたプロジェクトをあげても、前述のようにブロックチェーンの社会実装のために多方面に対して積極的に活動をしている「Chaintope」。まさに日本のブロックチェーン業界におけるリーディングカンパニーの1社である。

今回は「Chaintope」の取締役COOである村上照明氏に、「Chaintope」の成り立ちから、実際にブロックチェーンを社会実装する上で必要なことなどについてお話を聞いた。

(「あたらしい経済」編集長 設楽悠介)

Chaintope 取締役COO 村上照明氏インタビュー

2015年からブロックチェーンの魅力を感じて研究や実証実験を実施

−「Chaintope」という会社がブロックチェーン領域で仕事を始めたきっかけを教えてください

「Chaintope」は1999年に設立したハウインターナショナルという福岡県飯塚市のシステム開発を行う会社が母体となっています。当時九州工業大学の学生だった「Chaintope」現共同代表である正田英樹と高橋剛という2人が学生起業した会社です。

私はハウインターナショナルが立ち上がってから約8年後にWebエンジニアとして新卒入社しました。当時は「着うた」がブームの時代で着うたサイトのシステム開発などをやっていましたね。30人ほどの社員でモバイルサイト・大学のシステムなどの開発・保守を主な事業としてやっていて売上も安定していました。

その後も会社として常に新しい技術の開発に対応していき、スマートフォンやクラウドの波が来たのに合わせて、スマートフォンのシステム開発に取り組んだり、AWSのパートナープログラムに登録するなど、その時代で最先端の技術分野で開発の仕事をしていました。

そんな中、2011年に近畿大学の山崎教授と九州工業大学の田中教授と一緒に技術勉強会 「e-ZUKA Tech Night」を始めました。その勉強会で、マウントゴックス事件の直後くらいに山崎教授が「ビットコインに使われているブロックチェーンという技術が面白い」と言って、共同研究をご提案して下さいました。

それでまずは、週に一度勉強会をするという形でブロックチェーンの技術を会社として研究・調査するようになったんです。

しばらくブロックチェーンについて調査した結果、実際にブロックチェーンを使ってトークンを発行する実験をすることにしました。当時、トークンを独自通貨という形で発行すると法律的に問題になるのではないかと思い、地元のグルメフェスの投票権という形で実証実験をしました。

Web上にウォレットを作っておいて、ユーザーはそれにブラウザでアクセスするという簡易的な形での実験でしたが、ビットコイン2.0と呼ばれる技術の1つである「Colored Coin」というものを使ってビットコインに色をつけて、フェスの投票権として使用したんです。

そのシステムで福岡県主催の「Ruby大賞」というコンテストで優秀賞を受賞しました。それがきっかけで福岡銀行さんや三井住友フィナンシャルグループさんなどと一緒に実験をさせてもらえるようになっていきましたね。

この頃からブロックチェーンの企業として名が知れてきたという感じで、2016年の年末に「Chaintope」を設立しました。

−当時はブロックチェーンで事業をしてもビジネスになることはなかったんではないでしょうか?

Ruby大賞を受賞した時期くらいから、世の中的にブロックチェーンというワードが出て来始めて、風向きが変わって来たとは思っていました。でも確かに現状でもそうですが、ビジネスにするのはとても難しいという状況でしたね。正直儲けるというよりは、単純に技術が面白いからやっていました。

ブロックチェーンの普及に必要な要素

−プロトコル開発に精力的に取り組まれている「Chaintope」からみて、ブロックチェーンが普及していくために重要な要素は何だと感じますか?

普及にまず大切な要素は、ゲーム理論的に上手くインセンティブ付けされたシステムを作れるかどうかだと思います。

現時点までで最も上手く機能しているブロックチェーンは恐らくビットコインなのですが、ビットコインは「正直者が得をするゲーム」になっているから上手く回っているわけですよね。

私たちがレイヤー2のプロトコルを作っていく中でも「どうやったら全員が正直に動くゲームを作れるか」が鍵だと思っています。それには、ゲーム理論や経済学、金融工学などのアカデミックな様々な知見も必要です。

またビジネスとして成り立たせることができるかどうかもとても重要だと思っています。現状それはとても難しいですが、重要な要素です。

−村上さんはどのようにブロックチェーンについていろいろな企業の担当者に説明をしているんですか? またその時の課題はなんですか?

まずはビットコインの仕組みから説明しますね。ブロックチェーンの基本はビットコインに全て詰まっていると思っています。

ビットコインはこういうロジックで成り立っているから非中央集権なシステムとして維持されているんですよということを説明して、興味を持ってもらえるかを一番意識しています。

ビットコインは純粋な金銭的欲求があるからこそマイナーがマイニングして成り立っているわけですが、これから出てくるチェーンは、金銭的欲求だけではなく承認欲求などの他の欲望を満たすために人々が行動するようなインセンティブ設計を作れるかもしれません。

そういった背景を理解してもらった上で、「ブロックチェーンに興味があります!」という人たちに「そもそもブロックチェーンで何ができるのか」を説明するようにしています。そしてパブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンの違いについてお話するようにしています。

その上で、パブリックでやることに価値があるという価値観に賛同してくれた企業さんと実際にビジネスを考えて行くのですが、その過程で必ず「作るのにお金かかるけど、パブリックでやるとなるとどこでマネタイズするの?」という話になっていきます。マネタイズを考えていくと、結局情報を寡占するような形になり、これパブリックじゃなくてプライベートですねという袋小路に入ってしまうという事はよくありますね。

中央集権と非中央集権の間で

いきなり世の中が全て非中央集権になるとは思っていなくて、中央集権のままで良い場合もありますし、段階を踏んで変わっていく必要があると思っています。

例えば、日本国民全員がSuicaを使うのをやめて、ビットコインを使うようになるというのは直ぐにはありえないわけですし、電力業界がブロックチェーンの応用に積極的ですが、電力は電線がないとそもそも送れないわけで、いきなりDecentralizedにするのは不可能な訳です。

インフラを持っている企業やコンソーシアムが必ず必要になってくるのですが、そのインフラをみんなが見られる状態になっていてその上にオープンな市場が生まれるというのが現実的かなと思っています。

そもそも分散化させることにメリットがあれば、分散化させれば良いですし、そうでなければ中央集権的なままで良いシステムもあるという前提も忘れてはいけません。

例えば、中央集権的に管理してくれている主体が存在するけれども、そのためにとても高い手数料を取られているという状況がある場合に、分散化して手数料が安くなって全員がハッピーになるのであれば分散化した方が良いし、そうでなくて中央で管理してくれていた方が信頼感があって良いならば分散化する必要はないですよね。

村上さんが考えるブロックチェーンの魅力

−ブロックチェーンの魅力は何だと思いますか?

僕がブロックチェーンに可能性を感じているのは、既存の国や地域を超えて「特定の価値観を持った人だけでの経済圏が出来上がるんじゃないか」というところです。

例えば、イスラム教のハラールという考え方は、イスラム教の人にはとても重要ですが、他宗教の人からすると、それほど重要ではなかったりします。

また福岡では「山笠」というお祭りがある日は多くの人が仕事を休んだりしますが、「祭りぐらいで仕事を休むのはおかしい」と思う人もいるわけですし、祭り好きな人にとっては「祭りを手伝ってくれた」ことの価値は高いけれども、祭りに興味がない人にとっては価値がなかったりしますよね。

そのように世の中には様々な価値観がある中で、それぞれの価値観を既存の通貨の枠で表現しようとすると難しいですが、それぞれの価値観に通貨と経済圏があれば、彼らの価値観を表現できるのではないかと思っています。

僕たち「Chaintope」は現在、「Masachain」という「人間同士の信頼関係を可視化する」ためのプロジェクトに取り組んでいます。

実際のビジネスでも、信頼できる人からの紹介などがきっかけで面白いものが生まれたりすることって多いじゃないですか。ただそれは現在可視化されていません。「あの人がこれだけ感謝している人だから信頼できそうだ」と、人々の信頼が可視化されれば、今よりももっとそのような信頼のネットワークによる新しいものの創出を促進することができると思っています。

ただし、どのように他人への感謝を測定するのかという問題があります。「人に感謝をした時に、わざわざアプリを開いて感謝ボタンをタップしたりするか」と言われたら、多くの人がNoと答えるでしょう。だからそこは、現在人々が自然に行っている行為の中に組み込むような形で仕組み作りをする必要があると思っています。

国境や宗教も跨いで使えるサービスにして行きたいと思っているので、日本だけではなくて、海外の大学などとも連携しています。

「Masachain」は凄く長期的なプロジェクトだと思っているので、焦らずに進めて行きたいです。

「Chaintope」のさまざまな取り組み

−昨年から今年にかけてさまざまなプロジェクトをスタートさせていますよね

はい、業種を絞らずに如何にスピード感を持って進められるかを重視しています。

まず独自チェーンやセカンドレイヤーの開発としては、昨年11月に社会関係資本を可視化するトークンエコノミー(トークンを活用した経済圏)を生み出す「Masachain」のコンセプトをリリースし、現在開発しています。プロジェクトメンバーや、社会学などの学術的見地、及び技術的見地からフィードバックをくださる方、導入をご検討いただける方を募集しています。

そして今年1月にはLightning Networkを拡張した独自トークンやコインを発行可能とするプラットフォーム「Inazma」を発表しました。Inazmaではパブリックブロックチェーンを用いたプラットフォームとして高い分散性を保持し、ビットコインのセカンドレイヤー技術として実質的なデファクトスタンダードであるLightning Networkを拡張することによって処理の高速化を図りつつ、ブロックチェーン上で資産などを表象する独自のトークンやコインを発行することを可能とします。今後は実証実験などを通じ、2019年中のサービス実装を目指しています。

我々は引き続きパブリックブロックチェーンのプロトコルレイヤーに注力して参ります。

今後も国内外、規模の大小など境界を定めることなく、新しい社会モデルの構築に一番に取り組まれるパートナーの皆さんと共にチャレンジして行きたいですね。

(おわり)

「Chaintope」からのお知らせとリンク

「Chaintope」では共にパブリックブロックチェーンにチャレンジする仲間を募集しています。お気軽に以下からお問い合わせください。

https://www.chaintope.com/joinus/

※プロジェクト参考リンク
本記事で紹介したプロジェクトのリンクは以下の通りです。

chaintope
https://www.chaintope.com/

Masachain
https://masachain.world/

Electrowise
https://www.chaintope.com/electrowise/

Inazma
https://www.chaintope.com/inazma/

GBEC
https://goblockchain.network/

 

(編集・設楽悠介)

この記事の著者・インタビューイ

村上照明

Chaintope取締役COO
福岡県北九州市出身。ChaintopeのCOOとして国内、海外での事業開発を担当。元エンジニアのバックグラウンドを活かし提案から雑用まで幅広く対応する。2007年ハウインターナショナル入社後、エンジニア、営業、マネージャーを経て現在に至る。畳み人。

Chaintope取締役COO
福岡県北九州市出身。ChaintopeのCOOとして国内、海外での事業開発を担当。元エンジニアのバックグラウンドを活かし提案から雑用まで幅広く対応する。2007年ハウインターナショナル入社後、エンジニア、営業、マネージャーを経て現在に至る。畳み人。

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