米司法省のバイナンスへの調査実態、CZの関与記録提出も要請か

米司法省のバイナンスへの調査実態

ロイター通信が確認した2020年後半の要請書によれば、米国連邦検察は世界最大の暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)に対し、アンチマネーロンダリングのチェックに関する広範な内部記録と、同社の最高経営責任者で創業者のチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao:CZ)氏が関与するコミュニケーションの記録を提供するよう要請したとのことだ。

米国司法省のマネーロンダリング部門は、バイナンスに対し、取引所の違法取引の摘発や米国顧客の勧誘などに関するCZ氏をはじめとする12人の幹部やパートナーのメッセージを自主的に提出するよう求めた。また「文書を破壊、改ざん、バイナンスのファイルから削除する」または「米国から転送する」という指示のある会社の記録も求めている。

2020年12月の要請について、これまで報告がなされていないが、現在も進行中のバイナンスの米国金融犯罪法の遵守に関する司法省の調査の一環であったと、調査に詳しい4人の関係者は伝えている。

「米国当局はバイナンスが銀行機密保護法に違反したかどうかを調査している」と関係筋は述べている。

米国の銀行機密保護法は、暗号資産取引所が米国で実質的にビジネスを行う場合、米国財務省に登録し、マネーロンダリング防止要件に準拠することを要求している。米国の金融システムを不正金融から守るために作られたこの法律には、最高10年の懲役刑が定められている。

なおロイター通信はバイナンスと暗号資産分野の最も著名な人物の1人であるCZ氏が、当局の刑事部門からの要請にどのように対応したかを確認することはできなかった。

そしてロイターの質問に対して、バイナンスの最高コミュニケーション責任者であるパトリック・ヒルマン(Patrick Hillmann)氏は、「世界中の規制当局は、私たちの業界をより理解するために、すべての主要な暗号資産交換業者を調査している」と伝えた。

さらに同氏は「この調査はあらゆる規制された組織の標準的なプロセスであり、私たちは定期的に機関と連携し、彼らからの質問に対処している。バイナンスは、元規制当局や法執行機関を含む500人以上の従業員を擁する業界をリードするグローバルセキュリティとコンプライアンスチームを持っている」と説明した。

ただバイナンスが司法省の要請にどう対応したかは明言しなかった。また同省の広報担当者はコメントを控えた。

この要請書により、バイナンスに対する米国の調査の広範な範囲が明らかになった。この調査の存在は昨年、ブルームバーグが報じたが、これまでほとんど知られていなかった。バイナンスの広報担当者は当時、ブルームバーグに対し「私たちは法的義務を非常に真剣に受け止めており、規制当局や法執行機関と協調的な形で関わっている」と説明していた。

この要請書では、2017年以降に作成された文書について、同社の経営、構造、財務、マネーロンダリング防止と制裁の遵守、米国での事業などを対象とした29の個別の要求がなされている。またバイナンスは「その所有、保管、または管理下にあるこの書簡に対応するすべての文書および資料を提出するよう要請される」と記載されている。

バイナンスは、CZとして知られるジャオ氏が2017年に上海で立ち上げ、7月の時点で世界の暗号資産取引市場の半分以上を支配し、同月に2兆ドル以上の価値のある取引を処理した。中国で生まれ、市民権を持つカナダで教育を受けたジャオ氏は3月、ブルームバーグに対し、同月にバイナンスに一部業務を行うためのライセンスを付与したドバイに当面の間拠点を置くと述べている。

今年バイナンスに関して報じたロイターの一連の記事は、バイナンスが如何に緩い顧客チェック体制を維持し、規制当局から情報を隠しながら、その爆発的成長を推進したかを明らかにした。

ロイターは、バイナンスのコンプライアンス・プログラムのギャップによって、犯罪者が少なくとも23億5,000万ドル(約3,300億円)の不正資金を、米国の制裁にもかかわらずイランのトレーダーにもサービスを提供しているこの取引所を通して、洗浄することができたことを明らかにした。

また2021年半ばまで、バイナンスの顧客はメールアドレスだけで登録し、暗号資産を取引することが可能だった。

バイナンスはロイターの調査結果を 時代遅れとし、異議を唱えた。同取引所は「より高い業界標準を推進している」と述べ、「当社のプラットフォーム上で違法な暗号資産による経済活動を検出する能力をさらに向上させることを求めている」と伝えた。そして「ロイターの不正な資金の流れの計算が正確であるとは考えない」と説明した。

米国の綿密な調査

米国では暗号資産取引所に対する監視の目が厳しくなっており、今年に入りジャネット・イエレン(Janet Yellen)財務長官を含む政府高官がこの分野への規制強化を公然と支持している。司法省は2月、取引所に焦点を当て、「これらの技術に関わる犯罪の増加に取り組む」ため、国家暗号資産執行チーム(National Cryptocurrency Enforcement Team)を設立した。

同月、別の取引所ビットメックス(BitMEX)の創設者が銀行機密保護法違反を認め、その後最長2年半の保護観察処分を受けた。ビットメックスは、同法違反の別の告発を解決するために、1億ドル(約140億円)の罰金を支払うことに同意した。現在ビットメックスは、適用されるすべての法律を遵守して事業を運営することを完全に約束し、コンプライアンスプログラムに多額の投資を行っているとのことだ。

司法省の2020年書簡には、ケイマン諸島の企業であるバイナンス・ホールディングスと、法律事務所ポール・ワイス(Paul・Weiss)のワシントン在住の弁護士ロベルト・ゴンザレス(Roberto Gonzalez)に宛てられたものだ。バイナンス・ホールディングスはバイナンスの商標を所有しており、規制当局への提出書類によると、CZ氏が所有しているようだ。なおゴンザレスとポール・ワイスはコメントの要請に応じなかった。

バイナンスは不透明な企業体質を持っている。その理由は、2019年半ば以降、米国で顧客を受け入れていないメインの「バイナンスドットコム(Binance.com)」ドメインの取引所の所有権や場所の詳細を明らかにすることを拒否しているからだ。米国での顧客は、代わりにバイナンスUS(Binance.US)という米国を拠点とする別の取引所に誘導されており、ここもCZ氏が支配していることが規制当局への提出書類で示されている。バイナンスUSは2019年に財務省に登録したが、「バイナンスドットコム」は登録されていない。

昨年から世界中の10以上の金融規制当局が、バイナンスについて、ライセンスのないユーザーにサービスを提供しているか、マネーロンダリング防止規則に違反しているとして警告を発している。今年の7月には、オランダの中央銀行が、バイナンスが金融犯罪法に違反して営業しているとして、300万ユーロ(4.1億円)を超える罰金を科したと発表した。バイナンスの広報担当者は当時、この罰金について、中央銀行との「継続的な協力関係の軸となるもの」であると述べている。

2020年の要請書では、米国司法省は銀行機密法の遵守を担当するバイナンスの従業員を特定するすべての文書、違法金融に対抗するポリシーの詳細、当局に提出した疑わしい金融活動に関する報告書を求めている。バイナンスは、米国の制裁対象者とともに、ランサムウェア、テロ、ダークネット市場などに関与するユーザーと取引所の間のあらゆる取引に関する情報を提供するよう求められた。

当局はまた、バイナンスUSを設立したビジネス上の根拠に関連する文書も要求した。バイナンスUSの設立とバイナンスとの関係をテーマに、CZ氏、共同創業者のイ・フ(Yi He)氏、コンプライアンス最高責任者のサムエル・リム(Samuel Lim)氏ら13人の幹部とパートナーが関わるコミュニケーションを求めている。フ氏とリム氏はまだバイナンスに在籍する。

ロイターは今年1月、同通信社が確認した社内メッセージによると、リム氏や他の上級社員はバイナンスのマネーロンダリングチェックが厳格でないことを認識していたと報じた。リム氏もバイナンスも、このメッセージについてコメントしていない。

司法省の要請に加えて、米国証券取引委員会は同月、バイナンスUSの運営会社であるBAMトレーディングサービス(BAM Trading Services)に召喚状を発行した。ロイターが確認した召喚状では、BAMに対して、バイナンスの主要取引所でも働いている従業員がいるかどうか、米国企業にどのようなサービスを提供しているかを示す文書の提出を要求している。

バイナンスUSはロイターの質問に対して回答していない。またSECは調査の可能性についてコメントしないとしている。

※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
(reporting by Angus Berwick and Tom Wilson; editing by Janet McBride)
翻訳:竹田匡宏(あたらしい経済)

関連ニュース

ビットバンク、イーサリアム「マージ」による「ETHW」対応方針を発表

ビットフライヤー、イーサリアム「マージ」後のハードフォーク対応について方針発表

イーサリアム最大のマイニングプール「Ethermine」、マージ後のPoWフォークに非対応を表明

イーサリアム財団、「マージ」に関する8つの誤解について解説

OpenSeaの新プロトコル「Seaport」がポリゴン(MATIC)のサポート開始

images:Reuters

関連するキーワード

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。
「あたらしい経済」の編集者・記者。

合わせて読みたい記事

【12/20話題】NTTドコモのERC6551搭載ゲームβ版、「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」正式承認など(音声ニュース)

ブロックチェーン・仮想通貨(暗号資産)・フィンテックについてのニュース解説を「あたらしい経済」編集部が、平日毎日ポッドキャストでお届けします。Apple Podcast、Spotify、Voicyなどで配信中。ぜひとも各サービスでチャンネルをフォロー(購読登録)して、日々の情報収集にお役立てください。

Sponsored