機械学習を活かして情報キュレーションアプリを提供する「Gunosy」と、ペイメントサービスやICOコンサルティング事業を展開する「AnyPay」、そして両社の合弁会社でありブロックチェーン関連事業を行う「LayerX(レイヤーエックス)」が共同で「テクノロジーと描く未来」というイベントを 2018年8月6日に開催しました。
「Gunosy」を創業し「LayerX」の代表を務める福島良典 氏と今年6月に「AnyPay」の代表に就任しICOコンサル部門を統括する大野 紗和子氏が登壇。このイベントでは「LayerX」を設立することになった経緯や、ブロックチェーンというテクノロジーが実世界にどういう影響を及ぼすのかについての話で盛り上がりました。
できるだけ登壇者本人の言葉を残したままイベントの内容を記事にまとめさせていただきました。
[スピーカー]
大野 紗和子 氏(AnyPay 代表取締役)
福島 良典 氏(LayerX 代表取締役社長)
[モデレータ]
日向 諒 氏(AnyPay 取締役)
ブロックチェーンに参入するのは今がラストチャンス
—福島氏がLayerXの代表取締役になった理由は?
福島(敬称略):僕は、ブロックチェーンというのは、20年ぶりに訪れた大チャンスであり、インターネット以来の物凄い大きな波だと思っています。
僕自身、インターネットの誕生を起業家として迎えることはできなかったんです。なぜならインターネットが誕生した時、僕は小学生でしたので(笑)。そもそも起業するチャンスもなかったのです。
インターネットで大きくなった会社は、ほとんどが1995年から1998年の間に生まれているんです。それ以外で大きくなった会社はかなり突発的な事情によるものしか無いと思っています。
僕が起業したのは2012年なんですが、その時はモバイルのインターネットが、PCのインターネットの次の波でした。モバイルインターネットの波で大きくなった会社は2009年から2012年に集中しています。それ以降もそれ以前も生まれていません。
ブロックチェーンの場合は、2013年から2015年の間に生まれているプロジェクトが今かなり支配的な地位にいるんですね。なので僕は、「今がブロックチェーンにかけられるラストチャンスだ」と思っています。
ブロックチェーンは世界中の天才達が200%人生をかけてやっているという状況の中で、中途半端なリソースの張り方では勝てないなと思い、「LayerX」という会社を作って僕がこちらの領域に専念することになりました。
—世界と比べて、日本はブロックチェーンの文化が遅れている印象があります。それについてどうお考えですか?
大野(敬称略):去年から事業をやっていて海外の方と話すと、日本はブロックチェーンは進んでいる国だと言われることが多かったです。
世界に先駆けて仮想通貨に関する法律が施行されたことや、世界の他の通貨と比べても日本円による仮想通貨の取引割合が多かったことが原因だったなと思います。
日本は取引所を中心として投資対象としての仮想通貨という意味で、注目があったのかなと思います。
一方で課題感としては、実利用(ユーティリティ)という意味でのブロックチェーンを使ったサービスの普及であったり、他のプロジェクトがそれを利用していくような新しいブロックチェーンの開発だったり、そのような規格を世の中に作っていくというところは、まだあまり進んでいないと思っています。
では何が必要なのかというと4つ考えるべきポイントがあります。
1つ目は法整備の部分だと思います。今の段階だと、ブロックチェーンのトークンを使ったサービスが全部、取引所と同じ水準の規制をクリアしないといけないのかという点です。
ブロックチェーン以外の世界で考えれば、証券とか株の取引所とチケットの交換プラットフォームの規制は同じかというと、そうじゃないわけですから、そこが実情にあったリーズナブルな制度になっていかなければいけないと思います。また、皆さんも確定申告で苦労されたと思いますが、会計・税務に関するルールも整備されていくべきだと思っています。
2つ目は、そのブロックチェーンサービスを使ったサービスの中身が何なのかという点です。
リアルの世界で既に存在しているものでも課題があるものを、より確実に透明性を持って早く解決できるということなのか、それともそもそもリアルな世界で行われていなかった新しい価値のトークン化が生まれていくのか。
3つ目は技術の部分で、現状ではいちいちトークンを送るのに時間と手数料がかかりすぎるという問題もありますし、クロスチェーンと言われるチェーン間の交換にもまだ課題があります。
4つ目としては、アプリケーションのレベルでのUI/UXの問題をどう向上させるのか、という点です。例えば「My ether wallet」なども女子高生が使えるかと言われれば、そうじゃないですよね。普及に向けては、一般の人にも使えるUI/UXが必要だと思います。
まとめると日本でいうとまだまだ仮想通貨の現状は、投機が多いですが、長い目で見ていくと法整備、技術の下地、その上に生まれてくるコンテンツを含めて、様々な要素を整えていけば、一般の人に使われていく可能性は凄くあるので期待したい思います。
—海外で法整備が進んでいる国はありますか?
大野:ブロックチェーンの法整備は数ヶ月ごとにどんどんと変わっていくので、私たちもキャッチアップできるように努めています。
まず、大きな変化でいうと去年アメリカでDAOが有価証券だというニュースが出てきたのは、大きな衝撃だったと思います。
それまではブロックチェーンの世界だったら何やってもいいみたいな風潮がありましたけど、結局そのプロジェクトがどういう機能を持っているのかという中身で判断される流れになりました。
アメリカは世界の中でも有価証券と判断する範囲が広い、コンサバティブな印象です。
シンガポールはトークンであっても有価証券なのかデジタルアセットなのか、通貨なのかを中身によって分類していこうよという基準になっているので、個人的には実質利用にあった枠組みかなと思っています。
東ヨーロッパの国とかは税金も法整備も仮想通貨にフレンドリーな枠組みを出していて、それを世界に向けてアピールしていることが多いですよね。エストニアは国家としてICOを検討していますという話を出したりなど、国の資源が豊富ではなくても、ブロックチェーンに対する積極的な姿勢を見せることでいい技術者が集まってきたり、新しい産業が生まれるという可能性もあると思っています。
ブロックチェーン技術が発達しやすいのは、中央集権すぎない国
技術の視点から見て、日本のブロックチェーンはいかがでしょうか?
福島:日本は取引所が盛り上がり過ぎてしまったと思っています。取引所というのは、実はブロックチェーン関係ないのですよね。もちろん自分が持っている資産を最後は書き込んでいるのですけど、ほとんどがデータベース上でやりとりされている取引板なのですよね。そこがブロックチェーンだと、一般人が思い込んでしまったのが不幸なところだと思います。
日本だとブロックチェーンプロジェクトがほぼ無いという状態ですが、日本のエンジニアが海外のエンジニアに負けてるかというと決してそうでは無いと思います。
ブロックチェーンが盛り上がっている国ってインフラが整ってなかったりする国なのですよね。日本では多くの人が中央を信頼しています。日本の政府は信頼に足りることをしているし、情報の改ざんもほぼしないじゃないですか。
一方で、旧共産圏の国だったりすると、中央を全く信頼していないが故に、システムやプロトコルによってどう信頼を担保するかということが凄く考えられています。
vitalikのイーサリアムもtelegramもロシア発ですよね。実際にビットコインが盛り上がった時も、ギリシャ危機や、アルゼンチンのハイパーインフレや、中国のキャピタルフライトの規制などの中央への信頼のなさというところで技術が発展してきたという背景があります。日本はそういうものが出やすい土壌じゃ無いですよね。
ブロックチェーンのような新しい技術領域で良いエンジニアが出てくる条件を考えると、僕はチャンスが人を育てると思っているので、チャンスの中で頭を使ってどんどんプロジェクトを生み出していくという点が最も足りていないのかなと思っています。
イスラエルやロシアなどのブロックチェーンの面白いプロジェクトが多く出ている国は、今まで中心じゃなかった国の傾向があります。一方で、ここ数年ではシンガポールとかアメリカなどが賢く対応してきて、今後どうなっていくかという状況になっていると思っています。
ブロックチェーンは強いイデオロギーから出てきている技術革新だと思っています。
ブロックチェーンとセキュリティートークンの発展
—法整備とか技術面がどんどん育ってはいくと思うんですが、どの領域からブロックチェーン技術が活用されていくと思いますか?
大野:まず最初は「ブロックチェーンで解決される課題は何なのか」という点を考える必要があると思います。
1つ目は透明性がないというところ。
2つ目がトレーサビリティが低く、記録を追いかけたいのに追いかけづらいところ。
3つ目は経済圏・コミュニティに価値を提供している人とそこから得られる経済的なメリットの受け取りのバランスがうまくいっていないところ。
その3つが世の中にたくさんあると思います。
いくつか具体例をあげると、みなさんFacebookなどのSNSを使っていても、自分が無償で提供している個人情報に、実は価値があることを意識しづらいと思います。でも実は企業側はその情報を活かしてビジネスをやっているので、皆さんの個人情報は本当は価値があるものです。
ブロックチェーンには、それをしっかりと提供者に還元できるようにするプロジェクトがあります。
そのような今まで価値化されていなかったことの価値化が進んでくると思っています。
他にも例えばアートの領域では、まだ有名じゃないアーティストが作った作品を目利きをする人が、その時の安い価格で買って、有名になった後にその作品を売ったら高額で売れたりするわけです。
でも将来その作品がすごい価値を持っても、そのコンテンツを一番最初に作った人にとっては、最初に売った時以外の価値は還元されませんよね。
このような問題はあらゆる業界で生じており、そのような経済圏のバランスの悪さをブロックチェーンを用いて解決する、ということが今後どんどん生じていくと思います。
私たちはICOのアドバイザリー業務を行なっているので、ICOの文脈でお話しすると、もともとICOの世界はユーティリティトークンと言われる「これから新しくゲーム作るから、このトークン買っておいてくれたらゲーム内で使えるよ」というようなトークンがほとんどでした。
その類のトークンの価値の評価は凄く難しくて、人気や期待感を判断基準にしていました。
他方で、DAOに代表される一部トークンは有価証券であると整理されることもあると思います。最近はSTO(セキュリティートークンオファリング)と言われるアセットやプロジェクトの収益の分配権が付いているようなトークンを用いたプロジェクトもあります。今後は現実の世界のアセットと何らかの方法で紐づけられたトークンがより流通してくるのではないでしょうか。
もともと株式などにもいろんな種類があるのになんでわざわざブロックチェーンでやるのか、というところで、「トークンはセルフガバナンスする存在である」という説明が面白いなと思っています。
株券は、その株券を持って居る人が何ができるか、例えば株主総会に出ることができて議決権があるいうのが株券にいくら書いてあっても、それは自動的には起きないわけです。
そのルールを示した契約書があったり、実際に配当を行う機関が存在するなど、それらが全て合わさって株というシステムを作っているわけです。つまり中央を信頼する必要があります。
一方でトークンが面白いのは、トークンというもの自体に実際にどういう条件で契約が執行されるか、持っている人が何ができるかという契約のルールが、スマートコントラクトとしてトークンとセットで存在しているわけです。だからトークンはセルフガバナンスする存在であって、それを外側で担保してくれる人がいなくても動きます。
ではそれで何ができるかというと、例えば、会社というものの概念がブロックチェーン上で資金調達をして、サービスを提供して、ユーザーからの支払いを受け取って、利益を出して、配当を配って、という一連の流れを誰かがチェックしなくても動くことになります。そうなると最初に決めたルールに従って動く共同体としての会社が生まれていくでしょうし、それを媒介する存在としてのセキュリティトークン(STO) が今後伸びていくんじゃないかと思っています。
福島:広義の意味でいう金融が変わると思います。
価値の移転と価値の流動性を出すことがブロックチェーンの強みなので、今まで金融と思ってなかったものも全て金融として扱えるという革命が起こると思っています。
インターネットの世界において、アプリのユーザーが「私たち、いまインターネット技術を使っている」と考えながら、技術を使っていないのと同様に、ユーザーから見えないところで起こるので、ユーザーからすると手触り感がないのだと思います。
ただブロックチェーン技術の浸透により、より安い手数料でマッチングできるとか、その金融システムがなかったら存在しなかった商品がより多く供給されるというような体験を、ユーザー側が最後に得られるようになると思います。
Drivezy(インドのカーシェアリングのICO)などは、凄くいい例だと思います。車というのがある種、公共財のように動いていて、ここでの資本は車を供給することの価値が配当という形で示されたとしたら、投資したい人がそのプロジェクトに投資します。
その結果としてインドに車は増えて消費者は便益を得ていますよね。けれど、消費者からしたらわかりづらい変化です。こんなイメージの変化が起きると思っています。
僕は、ブロックチェーンの技術が凄く大事だと思っていて、法定通貨とか今の仕組みで回っているものにブロックチェーンを持ち込んでも全く上手く行かないと思っています。
ブロックチェーンの根本的なところは、透明性と非改ざん性を少なくともデータ上では第三者の承認なく証明できるという点で、これはつまり新しい信用創造です。
まず間違いなく最初に、台帳を使った信用創造が世の中のどういうところにあるんだろうといったところに対する金融の手段として、普及してくるだろうなと思っています。
また、自動執行されるというのは金融の領域では凄く良くて、例えば新興国に投資したい時に一番困るのはどうやって取り立てようというところだと思います。デジタル上の資産でお金を貸すことができて返済が強制執行できるとするならば、それはどんな投資商品になるんだろうというような考え方が、これから生まれてくるんじゃないかなと思います。
—現在、DrivezyのようなSTOは増えていますか?
大野:今年に入って如実に波は感じています。Drivezyみたいなアセットのキャッシュフローをトークンにしましたというパターンもあれば、未上場の会社の株をトークン化したパターンなど様々です。
面白いのは、今までのICOでは主にテックの世界の人が投資をしたり個人が投資をしたりしていたのに対して、これからはこれまで既存の金融に投資をしていた人たちもセキュリティトークン が出てくると興味を示してくるのかなと思います。
それが金融に対してブロックチェーン技術が入っていく土壌を広げていくんじゃないかなと思っています。
一口にセキュリティトークン といっても裏側が何かということによって、関わってくる法規制やビジネスの仕組み、必要とされるプロトコルは違ってきます。金の価格に連動するようなコインなのか、不動産の所有権に関するコインなのか、車の利益を配分するコインなのかなど、セキュリティトークンは千差万別です。
それを一つ一つどうやってブロックチェーンとつなげて、その事業にとっての価値、投資する側から見た魅力を作っていくのかが大事なところだと思っています。
それをビジネス、リーガル、テックを組み合わせて、先進的で面白いことをやって世の中に出していくというのが今後やっていきたいことです。