航空機STO、三菱UFJ信託らDCCが年内実施へ
三菱UFJ 信託銀行ら主催の「デジタルアセット共創コンソーシアム:DCC」が、「航空機STOワーキンググループ」の検討結果を報告書として4月19日に発表した。
その報告書で「航空機STO」のユースケースについて、これまで限定的な投資家しかアクセスできなかった航空機投資をSTO(セキュリティ・トークン・オファリング) により一般化し、航空機の資産特性を投資メリットとして享受できる上、ST(セキュリティ・トークン/証券トークン)ならではの必要十分な換金性も備える可能性があると、説明されている。
そして今後、具体的な航空機STO案件を、2022年度内に実現することを目標に、個別プロジェクトを会員企業と共同で実施していく方針とのこと。
DCCはデジタルアセット全般を対象とした新たなエコシステム共創を目的に、日本の大手企業らが参加するコンソーシアムだ。現時点で90社弱の企業が参画しており、複数のワーキンググループや個別プロジェクトが並走中とのこと。
今回の「航空機STO」は、DCCの取り組みの1つであり、オリジネーターが東京センチュリー、三井物産デジタルアセット・マネジメント、三菱HCキャピタルが参加企業として明らかになっている。
なお受託者は三菱UFJ信託銀行、レンダーは三菱UFJ銀行、証券会社はSBI証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、リーガルサーポートはアンダーソン・毛利・友常法律事務所となっている。
運用期間は最低でも5年で、早期償還や期間延長オプションが設けられる方針だ。また発行価格・申込単位は1万円から100万円未満の発行単位とし、申込単位1口以上を想定しているとのことだ。
航空機STOのスキームとして、米国以外の登録機は航空機現物を直接的に信託財産として受益証券発行信託を組成し、米国の登録機は米国信託を航空機の所有者としたまま、米国信託の受益権を信託財産として受益証券発行信託を組成するという。
またリース料等は米ドル建てのため、分配金が円建ての場合は、リース料等受領都度円転を行い、いずれのスキームにおいても、運用裁量を持つファンドマネージャーは運資運用業ライセンス不要とする建付けだという。
三菱UFJ信託銀行のプロダクトマネージャー齊藤達哉氏へ取材
「あたらしい経済」編集部は、三菱UFJ信託銀行経営企画部デジタル企画室のプロダクトマネージャー齊藤達哉氏へ取材を行なった。
−−既存の航空機ファイナンスの課題は何でしょうか?
これまでは、小口分割して大量の個人投資家の管理を行うためには、証券保管振替機関(以下、ほふり)様のインフラを利用する必要があり、ほふり様のインフラを利用するには、取引所に上場する必要がありました。
また、大量の個人投資家向けの商品を公募するためには、投資家保護の観点から、必要十分な流動性(換金性)を持つ必要があり、さもなければ運用の期間の短い商品設計とせざるを得ませんでした。
この点においても取引所に上場する必要がありました。 上場及びその維持には、相応の運営負荷とコストが必要となるため、結果として個人投資家向け小口商品の組成には至っておらず、大口で購入可能な機関投資家/法人投資家向けの市場となっていました。
このことは、リース会社様からすると、個人投資家向け市場が存在している不動産等と比較し、ビジネスフィールドが限定的であるという課題でした。 また個人投資家の皆様からすると、投資したくてもアクセシビリティが無かった(機会すら与えられない)という課題でした。
−−またSTOであれば、どのようにその課題を解決できうるのでしょうか?
一般論として、トークン化により、投資家の管理に必要なコストは投資家数に対して限界費用が極小化され、更に上場していなくても移転(換金)も容易になることで、小口化のうえで大量の個人投資家向けの商品設計がこれまでよりも実現性が高まります。
トークン化のインフラが有する本来の移転のしやすさが流動性に直結するには、証券会社やPTS等のマッチングプラットフォーム側の進化も必要となりますが、規制の議論を含めて関係者による取り組みが続々と進んでいますので、これは時間の問題です。
−−リース料取引において発生する米ドル/円の為替差損益や円転ニーズについて、具体的な対応方針はありますでしょうか?
海外アセットを日本の広範な個人投資家が円ベースで投資できる商品として、JDR(日本版預託証券)があります。
海外有価証券を日本の受益証券発行の資産として組み入れ、海外有価証券から発生するドル建ての分配金は信託銀行が受領時に直ちに円転し、投資家への分配時には円建てで行うもので、三菱UFJ信託銀行としてはJDRの取組実績も豊富です。
航空機トークンについては、受益権がトークンでありブロックチェーンで管理される部分は大きく異なりますが、同じ受益証券発行信託を使っており、円転を含むファンドの運営は類似している点も多くあるため、投資家様が円建ての投資を希望される場合も対応可能な態勢を有していると考えています。
参考:三菱UFJ信託銀行
デザイン:一本寿和
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