米国初、ブロックチェーン金融アプリで量子暗号通信の実用性が実証
東芝アメリカとJPモルガン・チェースが、ネットワーキング用のシステムなどを手掛ける米シエナと共に、ブロックチェーン上の通信保護における量子暗号通信(量子鍵配送:QKD)ネットワークの実用性を実証したことが2月18日分かった。
これによりブロックチェーンのセキュリティを破るとされる量子コンピューティングによるサイバー攻撃から、QKDネットワークを利用することで、ブロックチェーン上の情報保護が「実用可能」になることが実証されたことになる。
なお量子暗号通信とは、素粒子の一つである「光子」に鍵情報を載せることで量子力学的な性質で鍵を守る、原理的に破られることがないとされる次世代暗号技術による通信方法だ。量子鍵配送によって事前に暗号鍵を伝送共有し、ワンタイムパッドと呼ばれる暗号方式で通信を暗号化するという。
今回の実証実験で東芝アメリカら3社は、JPモルガンのブロックチェーンベースの銀行間情報プラットフォーム「Liink(リンク)」で送受される情報を保護するためにQKDネットワークを使用したという。なお「Liink」はイーサリアムベースのエンタープライズ向けブロックチェーン基盤であるQuorum(クオーラム)が基盤となっている。
また今回、金融アプリケーションにQKDネットワークを適用し、ブロックチェーンを保護する方法として検証されたのは米国初となるとのこと。
今回の実証の結果、大都市における最大100㎞の距離で、実用レベルとなる800Gbpsの伝送速度による暗号通信が可能であることを確認したという。これにより高速大容量かつ低遅延なデータ伝送が厳格に求められる金融分野において、盗聴者を即座に検出・防御できるとのことだ。
東芝は今回の実証について「来る量子コンピューター時代において、より安全で効率的なネットワークの構築が可能となる」としている。
またJPモルガン・チェースのDistinguished Engineer兼FLARE Researchグループの責任者であるマルコ・ピストイア(Marco Pistoia)博士は「JPモルガン・チェースにとってセキュリティは最優先事項です。東芝グループとシエナとの実証実験は、私たちが実用レベルの量子コンピューターの導入に向けて準備を進めている非常に重要なタイミングで行われています(一部略)」とコメントしている。
昨年6月、東芝は量子暗号通信を使い、世界最長となる600km以上の通信に成功したことを発表していた。この記録は既存システムの通信距離の3倍から6倍に相当するものだという。量子暗号技術は、通信に利用する光ファイバーが温度変化や振動による影響を受けることから、長距離の通信が困難とされていた。
今回の実証ではこの技術をJPモルガンの銀行間情報プラットフォーム「Liink」に適用したことになる。
当時の発表によると東芝は、2026年までに量子暗号通信の実用化を目指すとしていた。
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参考:東芝・JPモルガン
デザイン:一本寿和
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