イーサリアムのヴィタリク・ブテリンが語る、Web3、NFT、メタバース(Web3 Conference Tokyo より)

Web3領域に関するグローバルカンファレンス「Web3 Conference Tokyo」が本日(1/28)開催中だ。Mask Network(マスクネットワーク)とグラコネのBlockchainPROseedが主催するイベントで、冒頭のスペシャルオープニングスピーチには、イーサリアム(Ethereum)の共同創設者であるヴィタリク・ブテリン(Vitalik Buterin)が登壇した。

この記事ではヴィタリク・ブテリンのスピーチ(インタビュー)の内容を全文公開する。

ヴィタリク・ブテリンへのインタビュー

–Web3.0がクリプト以外の分野でもホットな話題になっているのはなぜだと思いますか?

ブロックチェーンを金融アプリ以外で活用し、既存の中央集権的なインターネットアプリの代替になるというアイデアはクリプト業界の人が長年持っていたアイデアです。そのため、これまで多くのプロジェクトが分散型SNSや分散型IDに取り組んできました。Web3.0というワード自体、ギャビン・ウッドが2014か15年に提唱し始めたものです。

ブロックチェーンや暗号学を金融システムだけではなく、より新しく、分散化されたウェブのために使うという考えは多くの人が長年持っていたものです。最近の暗号資産の価格上昇によって、より多くの人が興味や関心を持つようになっていると思います。

これによって、より多くの人がブロックチェーン技術を知るようになり、その中には暗号資産や新しい投機商品を作ることには興味を持たなくても、ブロックチェーン上のアプリや分散性というブロックチェーンが実現できるコンセプトに興味を持っている人もいます。

2021年はNFTがブームとなりました。以前はクリプトとは全く関係がなかった人をNFTはクリプトに連れてきました。現在、例えば有名なミュージシャンやラッパー、セレブ、アーティストなどがTwitterのプロフィールに.ethをつけて実際に.ethのドメイン名を購入しています。

この事からもわかるように、5年前とは全く違う属性の人たちがクリプトに参入しています。Web3,0も似たようなトレンドだと考えています。​現在の集権的なインターネットに問題を感じてる人たちが、ブロックチェーンをその代替になれるかもとして注目しています。

-​-現在、一番興味を持っているNFTプロジェクトはどれですか?

私が興味を持っているNFTは、NFTであることだけが特徴ではないNFTです

絵画を作って、そのハッシュを作って、その絵画のハッシュをオンチェーンで数千ドルとかで売るというコンセプトは、アーティストが稼ぐための新しい方法を生み出すので、価値はあるとは思います。特に、アフリカやラテンアメリカなどのアーティストにとっては、より広い世界に進出することができるようになりました。

​しかし、こういった価値にも限界があります。私が興味のあるNFTは、NFTであること以外の意味を持っているものです。私は、ENSが一番良い例だと思います。ENSのドメイン名はNFTです。そういったドメイン名は非常に便利です。例えば、私はVitalik.ethというドメインを持っています。

多くの人がゲームなどでゲームアイテムとしてNFTを実装する実験をしていて、これも非常に面白いと思っています。NFTが別のアプリ内において別の目的を持ちます。例えば、「City DAO」というオンチェーンで統治される街を作ることを目的としたプロジェクトがあります。

このプロジェクトには市民権NFTというコンセプトがあります。このプロジェクトは、買ったら100倍になるかもしれない「City DAOトークン」みたいなコインはなく、市民権NFTだけです。このプロジェクトのガバナンスはこれまでのものとは大きく違います。コイン投票ガバナンスで、これまで見られてきた問題を回避しようとしています。

トークンを生み出すためのトークンではなく、より大きなアプリの一部であることによって、より大きな意味を持つNFTが出てくるのを楽しみにしています。

–Web3.0によって、社会がどうなっていくと考えていますか?

Web3.0が社会にもたらす良い面としてはよりオープンで、包括的な、世界中の誰もが簡単に社会に参加できる機会を作ることです。より多くのプロジェクトが、創業者や大口投資家の少数のグループではなく、ユーザーやコミュニティによって運営されるようになるでしょう。

これは多くの人が実現して欲しいと思っている事です。コミュニティがアプリの方向性に対するガバナンスに参加できるアプリなどを考えているでしょう。例えば、クラブを運営するために簡単にETHでDAOを使って、様々なことに資金の割当を行うようなことです。

現在の世界から、組織を作って、その組織が資金や資産を保有し、それを使って活動することが簡単になる世界に変わっていくでしょう。

こういった組織の運営を行うのが現状では難しい国や、国をまたいだコラボレーションをさらに増やしたい場合、特に役に立つと思います。例えば、共通の関心を持っている世界中の人が集まって、組織を作って、協力することができます。私はブロックチェーンとWeb3.0を使うことで、こういった世界の実現に近づくと思っています。

すでに、私たちが知っているように才能がある人にとっては、伝統的な中央集権的な会社に入社するより、暗号資産やWeb3.0の分野に参入する方が簡単です。

​また、徐々にこの10~20年間で失われてきたプライバシーを取り戻すことができます。自分の個人情報をより管理できるようになり、どの情報を誰に共有するのか選べるようになるでしょう。そして、GoogleやFacebookなどの会社に、インターネット上での全ての行動履歴を見られることもなくなるでしょう。

私がこれまで言ってきたことは、全てWeb3.0で実現できると思っています。もちろん、Web3.0で今言ってきたようなことを実現するためにはまだまだ多くの課題があります。ウォレットのセキュリティ強化、スケーラビリティの向上、安価なトランザクション手数料、プライバシーのための強化された暗号などの実現が必要です。

​現在多くの人がこれらの問題の解決に取り組んでいるので、私は将来に対しては楽観的です。

–アップグレードに関して、イーサリアムの2022年のロードマップについて教えてください。

現在一番力を入れているのは、「Proof of Stake」への移行のためのチェーンの統合です。Proof of Workを完全に止めて、「Proof of Stake」チェーンのみで稼働するようにします。​これによって、チェーンはより効率的で、環境に優しく、よりセキュアになり、さらに「Proof of Stake」になることで他にも多くの機能が簡単になります。

そして、コミュニティがこの7年ほど取り組んできたことがついに現実になろうとしていて、とても興奮していますそして、その日は間もなくやって来ます。​現在、テストネットが1カ月ほど稼働しており、メインネットとの統合の実現にどんどんと近づいています。

「​Proof of Stake」の次に優先度が高いのは、スケーラビリティの向上と考えています。シャーディングとロールアップについては色々と話してきました。イーサリアム財団とリサーチコミュニティはロールアップのコンセプトとなるアイデアに大きく貢献してきましたが、より新しいアイデアの多く、そして実際の開発の大半は独立したチームによって行われています。

Optimismチーム、スタークウェアチーム、zKSyncチームなどの素晴らしいプロジェクトたちがイーサリアム上に、そのセキュリティを最大限に活用しながら、よりスケーラブルなレイヤーを作ろうとしています。

しかし、ロールアップはレイヤー1、つまりイーサリアムチェーンからのサポートが必要です。​イーサリアムチェーンがより多くのデータを保有できることで、ロールアップはイーサリアムチェーンにデータを置けるようになり、セキュリティを向上させることができます。現在、この分野で多くの取り組みが行われていて、多くのシャーディングの提案が行われています。

この1か月イーサリアムのリサーチャーはこういった技術を迅速、かつ安全にどう実装するのかの議論を行っています。だから、統合が完了したらこれがみんなのメインフォーカスになると思っています。現在でも、リサーチチームにとってはスケーラビリティの向上が最優先です。統合はリサーチチームにとってはすでに終わった話で、開発の問題となっています。

シャーディングに関しては、開発に移るためには、まだリサーチチームが行わないといけないことがあります。

この2つ以外でも色んな新しい機能や技術的なアイデアによって、チェーンをよりシンプルに、より安全に、より良く、そしてより速くし、イーサリアム上でみんながやりたいことを実現できるようにします。

–Web3.0に関する大きなトピックの1つはマルチチェーンです。イーサリアムはPoSに移行しようとしており、多くのチェーンのレイヤー2も誕生しています。また、レイヤー1に留まるステイバックチェーンもあります。​既にたくさんのチェーンがある中で、Web3.0の未来はどうなると思いますか。個人的にはイーサリアムはその中でも特に重要と思っていて、イーサリアムがチェーンの王となるのか、どういったビジョンを持っていますか?

私はイーサリアムは多くのレイヤー2チェーンにセキュリティを提供していくと思っています。色んなレイヤー2チェーンはハッシュをイーサリアムチェーンでコミットしていて、イーサリアムエコシステムの一部です。

また、多くの資産がイーサリアム上で発行されていて、この傾向は変わらないでしょう。どんどん多くのプロジェクトがイーサリアム外で様々なアイデアを試すでしょう。

ブロックチェーンとそのエコシステムの仕組みに関して、様々なアイデアや哲学を試すことは、クリプトのエコシステムにとって良いことだと思っています。個人的には、パーミッションブロックチェーンやガバメントブロックチェーンのような、中央集権的なチェーンに対してはあまり可能性がないと考えています。

なぜなら、1人、もしくは複数の信用しないといけないアクターがいるというアイデアで構築を行った場合、そのアクターが関わらないコミュニティを作るのは困難で、そのアクターを信じるのがシンプルだとどんどん考えるようになります。

そして、結局現在の中央集権的なシステムと大差ないシステムになってしまうでしょう。中国の電子人民元がそのいい例です。最初は、中国人民銀行のリサーチャーがブロックチェーンの活用を検討していました。​最終的に出来上がったものはブロックチェーンを活用しているとはとても思えません。また、「WeChatPay」などすでに存在しているものと大きく違うものとも思えません。

私はこういったプロジェクトは結局こういう方向性になっていくだろうと思っています。そしてオープンパブリックチェーンがより成功していくでしょう。

​様々なトレンドがあり、分散型であることでメリットを受けるチェーンか、分散型と言っているだけのチェーンのどちらかです。

現在、分散型のチェーンはビットコイン、イーサリアム、ソラナなど複数のエコシステムがあります。哲学、カルチャー、そして適したアプリなどに関して、それぞれが違うアイデアを持っています。違う体験ができるチェーンがいくつもあることは大きなメリットだと思っています。

–今メタバースはバズワードとなっています。Web3.0やブロックチェーンは人々がメタバースについて話すときに必ず一緒に言及されます。ぜひ、様々な国にたくさんのメタバースが誕生するのか、それともイーサリアム上に、ユニバーサルメタバースが誕生するのか、意見を聞かせてください。

まだメタバースの定義がはっきり定まっていないと思っています。

人々はメタバースがどうあるべきかそれぞれ違う定義で話しています。マーク・ザッカバーグの言うメタバースは数個のVRアプリさえあれば良いものです。様々な人が開発した資産や交流するアプリが、オープンブロックチェーン上にあるというアイデアもあります。

物理世界から完全に別の、インターネット上で日常を過ごすことができるというより哲学的なコンセプトもあります。メタバースと言う単語は、みんなが合意できる1つだけの意味を持つというより、より哲学的な単語と言えます。

人々がどのようなメタバースを作っていくかは非常に興味深いと思っています。これから様々なメタバースを私たちは見ることになるでしょう。

​クリプト業界のプロジェクトとゲーム会社はどちらもバーチャルな世界とゲームのようなルールを設計しようとしているので協力しあった方が良いと思います。今後、この両者のコンビネーションで新しいものがどんどん生まれると思っています。とても楽しみにしています。

–最後に日本の(イベントに参加する)皆さんにメッセージを

現在、クリプトとWeb3.0の分野では多くの面白いことが起きています 今は構築するのに最高の時期です。また、色んな人たちが素晴らしい取り組みを行っているのも知っています。

今日、ここにいる皆さんには、みんなが住むことになるもう1つの世界を一緒に構築することに参加できる機会があります。そして、これはとても面白い機会です。

「Web3 Conference Tokyo」について

本日1月28日、以下のタイムスケジュールで開催中です。

10:45~10:50:「オープニング」登壇者はMaskNetworkのNachan氏

10:50~11:15:「スペシャルオープニングスピーチ」登壇者はVitalik Buterin氏

11:15~11:30:「インターネットの歴史とMaskNetworkの紹介」登壇者はMaskNetworkのCEOであるSujiYan氏。Web1~3の歴史の振り返りやMaskNetworkを紹介する内容だ。

11:35~12:05:「オープンソースソフトウェアの歴史からみるWeb3について」登壇者はDeFiGeekである猫井夕菜氏。Web1からWeb3のOSSの変化についてや、新しいWebの時代で何ができるのか?がテーマとなる。

12:05~12:35:「Web3を語るなら、まずDeFiを学ぼう」。参加者がDeFi(分散型金融)について学べる講演となる。登壇者はKyber Network JapanのManagerである堀次泰介氏とBlockchainPROseedの絢斗優氏。モデレーターはグラコネCEOの藤本真衣氏が務める。

12:40~13:20:「Web3.0が、Web1.0の理念を復活できるのか?」と題したトークセッション。登壇者はTokyo Otaku ModeのCOOである安宅基氏、キャンプファイヤーCEOの家入一真氏、ホットリンクCEOの内山幸樹氏。モデレーターはFacebookの元Directorで現在はPwCのManaging Directorである馬渕邦美氏が務める。

13:25~13:55:「既存IPの効果的なweb3.0へのアプローチ方法」と題し、既存IPがWeb3とのコラボで成功した事例や日本でできるNFTの可能性などを語るトークセッションとなる。登壇者はMintoのCEOである水野和寛氏、FIREBUGのCPOである佐藤詳悟氏、アカツキのDirector熊谷祐二氏、メルカリのNFT担当執行役員である伏見慎剛氏。モデレーターは渋谷未来デザインの理事/事務局次長である長田新子氏が務める。

14:30~15:00:「Web3.0事業例(1)インフラ」と題したトークセッション。登壇者には、gumiのファウンダー國光宏尚氏、HokusaiのCEO原沢陽水氏、JPYCのCEO岡部典孝氏、わらしべのCEO井元秀彰氏。モデレーターはTOKEN ECONOMIST代表の加藤順弥氏が務める。

15:05~15:35:「Web3.0事業例(2)メタバース/NFT関連」と題したトークセッション。登壇者には、コルク代表の佐渡島庸平氏、ARIGATOBANKのCEO白石陽介氏、Web3 VC/Web3 Researcherのコムギ氏、HIKKYのCOO/CQOさわえみか氏。モデレーターは「あたらしい経済」編集長の設楽悠介が務める。

16:05~16:15:「社会実装に使えるブロックチェーン技術(国内)」はユニカスク(Unicask)の共同創業者であるクリス・ダイ氏が登壇する。

16:20~16:50:「社会実装に使えるブロックチェーン技術(海外)」にはNumbers protocolが説明を行う(登壇者未定)。

16:55~17:55:「超スタートアップピッチタイム」ではWeb3関連スタートアップ企業が6組程度が登壇。モデレーターはFracton VenturesのCo-Founder亀井聡彦氏が務める。

16:55~17:55:「DAOはどう世界を変えていくのか」と題したトークセッション。登壇者はENS(Ethereum Name Service)の開発者であるMakotoInoue氏、PolygonのHead of CommunicationsであるKathleen Chu氏、MaskNetworkのCEOであるSujiYan氏。モデレーターはロクブンノニのCEO新井進悟氏が務める。

18:35~18:45「エンディングトーク」は本イベントのオーガナイザーを務めるNachan氏、Nefer氏、Vivian氏、藤本真衣氏が登壇する。

→ライブ配信を見る(Youtube)

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あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。

これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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