シンボルのキプロスハードフォークが実装
暗号資産シンボル(Symbol/XYM)のハードフォーク「キプロス(Cyprus)」が11月12日に実装された。「Symbol&NEM」公式アカウントが報告した。
シンボルは、ネム(NEM/XEM)の大型アップデートとして今年3月に誕生した新たなブロックチェーン。ネムがパブリックなブロックチェーンなのに対し、シンボルはパブリックとプライベートのハイブリッド型としても運用可能なブロックチェーンで、企業の利用も期待されている。なおネムはPoI(Proof of Importance)、シンボルはPoS+(Proof of Stake Plus)という異なるコンセンサスアルゴリズムを採用しているのも特徴だ。
そしてネム(XEM)がシンボルのサブチェーンになることを決定する、ネムのハードフォーク「ハーロック(Harlock)」の今後の実施も予定されている。
「あたらしい経済」編集部は、国内のSymbol & NEMコミュニティの有識者のトレスト氏(@TrendStream)に取材。今回成功した「キプロス」ハードフォークと、今後の「ハーロック」、そしてこれらのハードフォークが成功することの意義について、語っていただいた。
Symbol & NEMコミュニティの有識者 トレスト氏 に取材
−今回実装されたシンボルのハードフォーク「キプロス」はどのようなものでしょうか?
前提として、NEMからSymbolが生まれた時に、NEMで初期から確保されていたXEM建てのプロトコル資金とほぼ同量のXYMが、Symbol側のプロトコル資金としても生まれました。
その管理をしているのがNEMトラストという初期投資家からなる数名のグループで、過去のNEM財団やNEMグループ、NEMソフトウェアなどの設立にも力を与えてきました。
しかしながら財団の2度の失敗や、Symbolローンチ後のNEMグループによる「技術普及よりもマーケティング」、「コミュニティよりも対企業」という路線がうまくワークせず、コミュニティからも疑問や批判の声が噴出していました。そこで今回のハードフォークはコア開発者らによってコミュニティ中心主義の資金運用体制を再構築することが大きな目的でした。
ハードフォークというと敵対的なものからチェーンの分岐が想像されると思いますが、これはNEMトラストなどの組織の同意を得た上での友好的ハードフォークであり、別途コインが生まれるといったようなことはありません。簡単に言うとアップグレードです。
今回のキプロスフォークで分散していたおよそ25億XYMのプロトコル資金がバーンされ、それらのアカウントを無効にし、同数を再生成しいくつかのアカウントにまとめられることになりました。
ハーロックハードフォークについて
−今後のNEMのハードフォーク「ハーロック」とは?
「ハーロック」も資金管理体制の再構築の点ではSymbolと同じです。およそ30億XEMのプロトコル資金がバーンされ、それらのアカウントを無効にし、同数が再生成され新しいアカウントにて管理されます。
SymbolのキプロスフォークとNEMのハーロックフォークが大きく違うのは、このフォークによりNEMがSymbolのサブチェーンというものになることです。
サブチェーンとしてのNEMには、新たにロイヤリティ(著作権などの使用料)とタックス(税金)という概念が導入されます。ロイヤリティは既存のNEMにあるレヴィ(徴収)機能を応用したもので、あるトークンの販売額の一定割合をアカウントに振り分けることができたり(例えばSymbol NFTが二次流通した時に原作者にも収益が入る等)、タックスは送金に加えて追加料金を支払ったりするためのものです。
ロイヤリティとタックス、どちらの取引もXEM建てとなりますが、流動性提供ノードを介してXYMと交換することができる……ということも計画されています。NEMがサブチェーンになりメインチェーンSymbolを引き立てることになります。
サブチェーン計画には、例えば画像保存専用のサブチェーンや動画保存専用のサブチェーンなども構築するなどし、それら目的に応じて構築された小さなサブチェーンの群れが決済レイヤーとしてのSymbolに相互接続し、1つのブロックチェーンにオンチェーンでデータを記録するには難しいことを解決しようとしています。
また、フォーク後には、Coinbaseが採用しているブロックチェーンネットワークを取り扱うためのオープンソースの仕様であるRosettaとNEMを統合する予定で、こちらはSymbolにもまた同様の計画が予定されています。
ハードフォークの成功が意味するもの
−今回ハードフォークが成功することに、どのような意義があるとお考えですか?
XYMとXEMの新しく再生されたプロトコル資金は、スイスに設立される「不死鳥財団(Fushicho Foundation)」で保管され、イーサリアム財団などと同じような形で運用することが目的とされています。その名前には日本コミュニティへのこれまでのリスペクトが込められて日本語が採用されています。彼らはまず日本に注力をすることで、それが成功例として世界に広がることに期待しています。
その信託には3名のコア開発者と供に、米Valkyrieが新たに信託に加わることになります。Valkyrieの4人の連帯保証人とSymbolの3人のコア開発者による4of7の新しいマルチレベルのマルチシグアカウントに資金は保管されています。
Valkyrieは米国における暗号通貨規制の波を乗り越えるための支援と、欧米でのカストディアンや取引所の拡大を支援し、流動性提供、会計、監査、コンプライアンスの管理を行います。
その他にも、技術の研究開発に特化した非営利団体(501c3)「Symbolシンジケート」を米国デラウェア州に立ち上げる予定です。501c3を取得すると、米国拠点では数少ない暗号通貨NGOとなるようです。
また、バミューダ拠点の「リンガフランカ」という組織も立ち上げる予定です。これは取引所やマーケットメイカー、流動性プロバイダーとの関わりに焦点を置いた組織です。イーサリアムのエコシステム全体で大きな成功を収めている、クアドラティック・ファンディングという新しいタイプの民主的資金調達モデルをSymbolとNEMにも導入して、コミュニティ主導の資金調達を実現させようとしています。
取材:トレスト氏(@TrendStream)
参考資料
Header Image:iStock/ankarb・inkoly