独自のID管理技術を持つ「Concordium」とは?
独自のID管理技術を持つパブリックブロックチェーン「Concordium」が 今年6月9日にメインネットローンチした。「Concordium」は匿名性と説明責任のバランスをもつ、コンプライアンスを中心としたパーミッションレスな、Proof-of-Stakeのブロックチェーンだ。
具体的には、ユーザーのIDはチェーン上では匿名だが、政府機関などからの正当な要求に応じてのみ、そのIDが開示される仕組みを持つ。その特徴から、さまざまなビジネスや金融でのユースケースが期待されているエンタープライズ向けプロジェクトである。
URL(日本語):https://japan.concordium.com
URL(英語):https://concordium.com
日本の識者ら登壇した「Concordium Genesis」
Concordium財団は6月のメインネットローンチに合わせ、日本向けにイベント「Concordium Genesis」を株式会社HashHubが共催で6月12日に開催した。
このイベントでは、Concordiumの太田真氏がプロジェクトの紹介し、HashHubの藤田拓也氏がメカニズム、リサーチャーの菅野佑哉氏がIDプロトコル、ToyCashの日置玲於奈氏が分散型アイデンティティ、LIFULLの松坂維大氏が不動産STOとKYC、法律事務所ZeLoの高井雄紀氏がブロックチェーン×KYCの法的論点、在日スイス大使館の松田俊宏氏がスイスxブロックチェーンについてそれぞれプレゼンテーションを行った。
またこのイベントでは前述の藤田拓也氏、日置玲於奈氏、松坂維大氏、高井雄紀氏、モデレーターあたらしい経済の竹田によるトークセッションが開催された。この記事ではそのトークセッションの様子をお届けする。
エンジニア視点での、新興ブロックチェーンが拡大するために必要なこと
−「Concordium」のような新興のブロックチェーンが、社会で利用拡大されていくためにはどのようなことが必要だと思いますか?
藤田拓也:スマートコントラクト開発者である僕としては、スマートコントラクトの規格をしっかりと整備しないといけないと考えています。
現在、「Concordium」がイーサリアムのERC20やERC721のような規格に対応したスマートコントラクトのテンプレートを用意するという話はありますので、それはもちろん適応されるべきものだと思っています。
開発を進めていくという目線から見ると、現状まだまだスマートコントラクト開発者は世界的にそんなに多いとはいえません。だからこそイーサリアム開発者に「Concordium」に興味を持ってもらうためには、より規格の整備が必要だと思います。
CosmosのCOSMWASMやPlasm(現Aster)などもRustで書くWASMのコントラクトで進めていくという話になってます。スマートコントラクトのエンジニアが奪い合いになってしまう可能性があるので、そこで消耗するのではなく、同じRustベースでWASMに変換してコントラクトをのっけるというところは、COSMWASMやPlasm(現Aster)、そして「Concordium」も同じはず。
例えば、バイナンス・スマートチェーンがイーサリアムと同じ仕組みだから発展したというように、スマートコントラクト規格が整っていくことにって開発者に流動性が生まれ、各チェーンの発展が進んでいくのではないかと思います。
Concordium財団のメンバーにスイスで聞いたこと
−日置さんは実際にConcordium財団のメンバーに先日スイスでお会いになったと思うのですが、その際にどのようなお話をされたんですか?
日置玲於奈:Concordium財団のメンバーに会って、まずKYCとプライバシーはどのように両立させているのかについて質問しました。それについては、例えばスイスのアドレスと日本のアドレスがあった場合、日本の捜査当局は日本のアドレスに対して開示要求を行えますが、一方スイスのアドレスに対しては権限がないので開示要求ができないような仕組みとのことでした。
その上でKYCとアドレスの紐付けもできない仕組みがある。このようなKYCとプライバシー設計はゼロ知識証明技術によって、担保されているとのことでした。「Concordium」のCTOトルベン・ピーダーソン(Torben Pedersen)はゼロ知識証明界隈では、巨人中の巨人。だから「Concordium」には最新の暗号技術がふんだんに取り入れられて実装されているんですよね。
次に僕は、実際に変な動きがあった場合、捜査当局や銀行が規制をかけた場合のにどうなるのかについて質問しました。それについて「Concordium」では、基本的に(捜査当局に)情報開示はするが、アカウント凍結はしないとのことでした。これはユーザー視点では、非中央集権性などの文脈で最も重要視されるポイントです。
「Concordium」の場合、アドレスはKYCを照会する形で生成されているので、最小限の中央集権性はありますが、それ以外は非中央集権性の魅力が損なわれていないということです。その部分は聞けてよかったと思ってます。
そして最後は、どんなにいい仕組みがスマートコントラクト上に生まれたとしても、資本が公平に分配されないと結局意味がいないという点について話しました。分散性の3つのセキュリティ基準、セーフティー(安全性)、つまりお金が盗まれないこと。ライブネス(持続性)、つまりサービスが続くこと。そしてフェアネス(公平性)というものが必要です。
このフェアネスとはつまり、トークンディストリビューションがまともであり、ちゃんと誰でも参加できるパーミッションレスな部分が、資本的に開かれている部分が必要ということです。これについては、(「Concordium」の)マイニングは自由性がある、パブリック・ブロックチェーンの良さも入っているので、そこが重要というような話を聞きました。
全体を通して僕としては、財団のリサーチャーから良い返答が得られたと思っています。
eKYC普及への現場の課題は?
−LIFULLさんは現在eKYCの拡大を進めているとの先程のプレゼンでお話になってましたが、具体的にどのような取り組みを行なっているか教えていただけますか?
松坂維大:厳密にいうと、私たちが直接eKYCを行なっているわけではなく、私たちのクライアントである不動産会社さんが行なっています。
私たちはクライアントさんに対して、eKYCのサービスやツールを提供していく立場にあります。eKYCはオンライン完結できるという便利で良いサービスです。でも実はまだ多くの方々が使えているわけではないです。それはeKYCが「できない人たちがいる」という実情があるんです。
投資家の方々には年齢層が高い方もいます。またスマホを持っていても、例えば運転免許証の角度を変えてスマホカメラで撮影する、といったような事に慣れていない人も多いんです。だからeKYCに一本化してしまうと、かなりの投資家の方々の登録がドロップしてしまうという実情が現在はあると思ってます。
eKYCのサービスもいくつかあって、一回ご自身がどこかのサービスを登録しておくと、次からKYC情報の使い回しができるようになっているんですが、これもまだ一番メジャーなeKYCサービスが決まっていないので、投資家は何度も最初からeKYCをしなければならない状況もあります。
だからなかなか現状だとeKYC一本でいくのは難しく、eKYCと既存のKYCサービスの両立させていかざるをえなかったりもします。そうするとそれにはコストが余計にかかるので、既存のKYC一本でいく選択をするケースもあります。
−そうなるとデジタル上に自らのIDを共有するメリットより、デメリットを感じているユーザーも多いんでしょうか?
デメリットまではいかないですが、メリットは感じていない気はしています。一つ登録しておけば色々なところで使えるというけど、実際どこで使えるの?という感じだと思います。
まさにネットワーク外部性の話で、使う側と提供する側がそれぞれたくさん存在しないと意味がないという状況ですよね。これはインターネットでもそうですが、だんだん両側が増えてくることによって、サービスの価値が上がっていくものなので、ここにはしばらく時間はかかると思います。
なので「Concordium」でも、「Concordium」のIDを持ってるという人が増えていけば、サービス側も「Concordium IDを使えるようにしよう」というインセンティブが湧いてくるのだろうと思います。
KYCのユーザーメリットはあるのか?
−KYCやIDに関して、個人のユーザー側のメリットは何なのでしょうか?
高井雄紀:仮に本人確認(KYC)が無いサービスの場合、とあるユーザーがサービスを健全利用していたとしても、他のユーザーが例えば資金洗浄など悪事を同じサービス働いていたとすると、そのサービスは犯罪行為に使われているサービスだと社会から評価されてしまいます。そうなると規制が及んで使えなくなるという最悪のケースも想定されます。
ここで健全に使っていたユーザーにとっては、サービスを利用できないというデメリットが生まれてしまいます。そのため、このようなことにならないようにサービス提供者はコストをかけて本人確認(KYC)のシステム整備を行い、不正を行えないようにし、ユーザーが安心してサービスを受けられる状態を構築しています。
このように、ユーザーが安心してサービスを使用できるということが本人確認(KYC)のシステムを構築するメリットなのかと思います。
−今後DIDが普及して、ビジネスが国内から国外に進出していくときに、直近ではどのような課題があるとお考えですか?
前提として、ブロックチェーンのメリットについてお話しさせてください。例えば海外取引で、海外企業とトラブルになった時には海外で裁判することになるかと思いますが、その裁判で勝ったとしても相手方が海外企業であることから執行手続きができないという事態もございます。
これがスマートコントラクトとなると、定められたルールに従って自動的に執行されるので、ブロックチェーンは海外取引においてメリットがあると思っています。
DIDが普及して国外にサービスが広がっていく際の課題としては、やはり各国の法制が異なることが挙げられます。
例えばアンチマネーロンダリング規制や個人情報保護法制など、各国様々な規制がある中、どのルールに基づくべきか明確に定まっていない問題があるかと思います。
そのため、DIDが全世界で浸透していった時に、どのルールで進めていくか曖昧となり、それがユーザーの不安感を抱かせる懸念があるかと思います。
解決策の一つとしては、スマートコントラクトによりサービス自体にルールを設けてしまう方法もあります。そうすればユーザーも安心して取引でき、DIDがより普及していくのではないかと思います。
Concordium Japan Leadの太田真氏が語る今後の展望
「あたらしい経済」はイベントの最後に、Concordium Japan Leadの太田氏に、今後の展望を語ってもらった。
太田真:オープンソースプラットフォームである以上、そこでのユースケースは、システムインテグレーターや企業が主導することになり、彼らに選ばれるシステムソリューションになる必要があります。「Concordium」ブロックチェーンが、業界が抱える既存の課題を解決するのもであり、ユーザー認証やKYCなど複雑化する規制に適応する、そしてコスト運用面で企業のビジネスモデルの中核をなすものであると考えています。
イベントを振り返って
ユーザーがブロックチェーンプラットフォーム上で安全かつ公平にサービスを受けられることはWeb3.0において重要な要素だと考えられる。
現在の多くのパブリックブロックチェーンでは問題が生じなければ、一定以上の公平性は保たれているが、問題が生じた際の法的論点における解決力は未熟だと考えられる。
そこで役に立ちうるのが「Concordium」かもしれない。