ステーブルコインが違法取引の大半占める
ブロックチェーン分析会社チェイナリシス(Chainalysis)が、1月15日に公開したレポートによれば、オンチェーン犯罪は多様化・専門化し、2024年の違法な暗号資産取引の総額は510億ドル(約7.9兆円)を超える可能性があるという。
チェイナリシスによれば、現在判明している不正アドレスが2024年に受け取った金額は409億ドル(約6.3兆円)とのこと。だたし、2020年以降、違法行為の年間推定額は年次報告期間中に平均25%増加しているという。この傾向を考慮すると、2024年の総額は510億ドルに近づく可能性があるとのことだ。
また、チェイナリシスは詐欺で使用される暗号資産の種類の変化についても報告している。
2021年までは流動性の高さから、サイバー犯罪者にとって暗号資産の選択肢としてビットコイン(BTC)が圧倒的優位を占めていたという。
しかし2021年以降、ステーブルコインがすべての違法取引量の大半(すべての違法取引の63%)を占めるようになったとのこと。
この現象は暗号資産エコシステム全体のトレンドの一部であり、ステーブルコインが暗号資産活動全体の相当な割合を占めるようになっているとも言えると、チェイナリシスは指摘する。また、ステーブルコインの活動は前年比で約77%増加したと報告している。
しかし、このような傾向にもかかわらず、ランサムウェアやダークネット市場(DNM)での販売など、一部の暗号資産犯罪では依然としてBTCが主流だという。
詐欺や盗難資金の洗浄など、その他の違法行為ではより多様なアプローチが取られることが多く、あらゆる種類の資産に分散する傾向があるが、制裁対象の事業体に関連する取引はステーブルコインに移行しているという。
これは、制裁対象の管轄区域で事業を展開する個人を含む制裁対象の事業体(違法行為者)が、従来の方法では米ドルにアクセスするのが困難であるため、ステーブルコインを使用するインセンティブが高まっているためだという。
2024年の暗号資産犯罪の傾向
チェイナリシスは2024年の暗号資産犯罪における主な傾向についても言及した。
チェイナリシスによれば、盗難資金と詐欺は依然として多発しているという。
盗難資金は前年比で約21%増加し、22億ドル(約3,436億円)に達した。盗難資金の最大の割合は分散型金融(DeFi)サービスから奪われたものだが、第2四半期と第3四半期には中央集権型サービス(CEX)が最も標的になったという。
2024年に盗まれた暗号資産の43.8%を占めたのは秘密鍵の侵害であり、北朝鮮のハッカーが暗号資産プラットフォームから13.4億ドル(約2093億円)を盗み、この額は年間総盗難額の61%を占めたという。
また、2024年に最も成功した詐欺の種類は「高利回り投資詐欺」や「豚の食肉解体(pig butchering)」と呼ばれるロマンス詐欺であったという。
チェイナリシスのレポートでは、詐欺に人工知能(AI)がますます統合されるようになっている点にも言及されている。これにより、詐欺師たちはセックストーション(性的な脅迫)を含む、より巧妙な手口を実行できるようになっていると指摘している。
具体的には、AIを活用して顧客確認(Know Your Customer:KYC)要件を回避するサービスの登場などが挙げられる。
チェイナリシスはまた、詐欺の手口としてランサムウェアは依然として主流である一方で、ダークネットマーケットや詐欺ショップは減少傾向にあると指摘した。
詐欺ショップの大幅な減少については、米国とオランダによる大規模な摘発が要因とされている。この摘発では、数百の詐欺ショップの取引を促進していた暗号資産決済プロセッサ「ユニバーサル・アノニマス・ペイメント・システム(UAPS)」が閉鎖されたことが影響しているという。
最後にチェイナリシスは、暗号資産犯罪が多様化・専門化していることに言及した。
国際的な組織犯罪グループを含むさまざまな違法行為者が、従来の犯罪形態において暗号資産をより活用するようになっているという。
チェイナリシスによれば、2024年に不正な暗号資産アドレスが受け取った総額409億ドル(約6.3兆円)のうち、108億ドル(約1.6兆円)は「不正行為者組織」が受け取ったものだという。
なお「不正行為者組織」とは、ハッキング、恐喝、人身売買、詐欺などのサイバー犯罪を直接行うサービスや個人向けの包括的な用語である。これらの犯罪行為によって利益を得るために必要な基盤となるインフラ、ツール、サービスを販売することで、それらの活動を促進する者(マネーロンダリング・アズ・ア・サービスなど)も含まれる。
参考:チェイナリシス
画像:iStock/Blue-Planet-Studi