インセンティブデザインとモチベーションコントロール
その経済圏に生息するステークホルダーの趣味嗜好や特性を理解していなければ、バウンティリストを作ることは容易ではない。
ステークホルダーの行動心理に訴えかける仕組みがなければ、いくらリストを作成しコントラクト化したところで、ステークホルダーは動いてくれない。
すべてのステークホルダーが取引できるような巧妙な報酬の仕組みと、報酬によって次の行動を促す行動喚起。
筆者はこれを「インセンティブデザイン」と「モチベーションコントロール」と呼んでいる。
マイクロペイメントとスマートコントラクトを使えば、どんな小さいアクションにもインセンティブを発生させることができる。
例えば、「いいね!」で報酬がもらうことができたり、広告を閲覧することで広告主から直接報酬を得ることができたしするかもしれない。法定通貨の経済圏ではあり得なかったインセンティブの選択肢が生まれるのだ。
また、即時的な支払いと取引の見える化で、モチベーションを持続させることができる。アクションから報酬を得るまでに時間を要さないことは、ステークホルダーの行動心理に作用する。これらが上手く作用すると、すぐに次のアクションを起こそうというステークホルダーのモチベーションに繋がり、トークンを手に入れるための良質な意思が働く。
これらすべてのアクションと発生する報酬のやりとりを、ブロックチェーンの耐改ざん性が担保している。ブロックチェーンが可能にする5つの仕組みを土台に、こうしてトークンエコノミーが完成するのだ。
人びとが根源的に求めてきた暮らし
トークンエコノミーの設計には、webサービスなどの既存のビジネス設計とはまったく異なる視点が必要だ。
しかし、そこで実現される未来は、トークンエコノミーだけが描いてきたものではないと筆者は考えている。
特性を活かし、自由に選択しながら、自分の可能性を伸ばして生きていく。
精神的にも物質的にも満たされる経済圏。
トークンエコノミーならそんな社会が実現できるかもしれない。
これは我々人類がかねてから描いてきた未来でもある。
しかし個人の特性を活かした自由な暮らしを実現するための道筋は一つではないし、そもそもトークンエコノミーが目指すところは決して目新しいものではない。
評価経済は個の特性を活かそうとする試みから生まれたものだし、シェアリングエコノミーは遊休資産を効率的に使うことで働き方の多様化を追求している。
誤解を恐れずにいえば、民主主義も社会主義も、人びとの生活をより豊かに、人間的なものにしようとする手段のはずだ。
つまりトークンエコノミーは、たくさんの人が根源的に求めてきたことを実現しようとする、手段の一つなのだ。
トークンの価値を最大化することで、そのトークンエコノミーの循環が促進される。
トークンエコノミーの循環が加速すれば、正当な報酬が手に入るステークホルダーは増え、自由で豊かな生活を手に入れる人びとは増えるのではないか。
だからこそ、トークンの価値を最大化することは社会や人びとの暮らしに大きな意味をもたらす。
ブロックチェーン技術が経済を支え、トークンエコノミーが成立すれば、社会的、人間的な意義の追求に帰結すると考えている。
個の重要性が高まれば、自ずと個人に帰属する範囲は広くなるだろう。
個々が蓄積する日々の営みが持つ意味は増大化する。
次回は、そんなトークンエコノミーの実現において、個の営みの蓄積である「KYC(Know your customer)」がどのように機能して信用を担保するか、その展望を語りたい。
塩谷雅子
DMMスマートコントラクト開発部 メディアチーム編集長。
元雑誌編集記者。サッカーを中心にスポーツ系メディアに携わった後、2016年DMM.comラボに入社。オウンドメディア「DMM inside」をはじめ、DMM picturesからDMMフットボール事業まで、各種コンテンツの取材、執筆に携わる。仕事の原動力は「熱量」。ブロックチェーン、スマートコントラクト界隈にほとばしる熱気に導かれ、2017年2月より現職。トークンエコノミーの母を目指しながら、小学4年生女児の母も兼務