次世代のブロックチェーン開発のあり方とは? Substrateの可能性(Stake Technologies 渡辺創太)

渡辺創太

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」

僕らの会社 Stake Technologies(ステイクテクノロジーズ 以下:Stake)は、Web3.0の実現を目指すブロックチェーン開発企業です。Stakeの最も得意とするのは、Substrate(サブストレート)というブロックチェーンフレームワークを用いたブロックチェーンそれ自体の開発です。

このSubstrateを使ったIoTや金融、製造業といった各業界に最適化したブロックチェーンが、今後多く作れられていくことが予想されています。Substrateは、イメージ的にはWebサイトやメディアにおけるワードプレスのようなものです。ワードプレスを使用すれば皆さんがインターネット上に独自のWebサイトやメディアやが作れるように、Substrateを用いれば皆さん独自のブロックチェーンが作れるようになります。

このSubstrateはオープンソースプロジェクトであり、Parity Technologiesを中心に世界中の開発者が開発に参加しています。世界中のプロジェクトが参画する中で、僕たちStakeも下の写真のように世界有数のSubstrateのコントリビューターとして認められ、エコシステムに貢献しています。

Web3 Summit 2019より

このSubstrateについてEthereum(イーサリアム)の共同創業者であり、Web3 Foundation、Parity Technologiesの創業者を務めるGavin Wood氏は「Substrateはブロックチェーン開発におけるLinuxである」「SubstrateはEthereum、Polkadotを作る上で学んだ全てのエッセンスを落としこんで作ったツールキットである」といった発言をしています。

今回は、何故数あるブロックチェーンの中で僕たちがSubstrateを用いた開発を推進するのかを、いくつかのゲームチェンジと合わせて、そのブレイクスルーを説明してきます。

Substrareの4つのブレイクスルー
1. 唯一生き延びることができるのは変化できるものである
2.ブロックチェーンに合わせた開発ではなく、アイデアに合わせた開発へ
3.世界有数のコミュニティ力
4.Polkadot(ポルカドット)との互換性 / Ethereumとの互換性

上記を1つずつ解説してきます。でもその前に、1つ宣伝させてください。Substrateが商用で利用できるレベルになったので、StakeはSubstrateを用いた開発、ならびにコンサルのパッケージを用意しました。ご関心いただけた方は  sota@stake.co.jp  までお問い合わせいただけましたら幸いです。

唯一生き延びることができるのは変化できるものである

ご存知の方も多いと思いますが、これはチャールズ・ダーウィンの言葉です。歴史的に生き残ってきたのは強いものでも賢いものでもなく、変化できるものという歴史的な事実があります。

Substrareのブレイクスルーその1は、ブロックチェーンのアップデートに予期しないハードフォークが存在しないということです。(ここでいうハードフォークとは、ネットワークのアップデートに関しアップデートの前と後で互換性がない問題です。思想の分裂などで、作ろうと思えばハードフォークは行なえますが、新しい機能を追加したりコンセンサス・アルゴリズムを切り替えるなどのアップデートにハードフォークはありません)。

https://twitter.com/WatanabeSota/status/1189038775118135297?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1189038775118135297%7Ctwgr%5E%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.neweconomy.jp%2Fwp-admin%2Fpost.php%3Fpost%3D36815action%3Dedit

このことでSubstrateは、常に5年後も10年後もその時々の最先端テクノロジーをシームレス(非断続的)に取り入れることができます。アップグレーダビリティというのは、ビジネスでブロックチェーンプラットフォームを選択する上でまだまだ過小評価されていると思います。それは一次的なPoC(実証実験)のレベルならまだ良いです。しかし10年、20年と稼働するシステムを構築する際には、ハードフォークなしでアップデートできる基盤が必要になるはず。何故なら今の最先端技術は10年後、20年後には時代遅れになっているからです。

言うまでもなくブロックチェーンを使用する際には、コンソーシアムチェーンでもパブリックチェーンでも複数のプレーヤーが同時に利用することを前提にしています。1社であればシステムを一回止めてアップデートしてまた動かす、といったことができます。しかし、この方法は通常ブロックチェーンには通用しません。

一方でSubstrateは、例えばPoWをPoSに変更するなどアップデートをシームレスにできるので、低コストで変更と修正を行うことができます。PoSで運用してみてうまく行かなければPoWに戻すような、通常のブロックチェーンでは難易度の高いことが可能になるので。これはいくら説明しても説明しきれないぐらいのメリットだと思っています。

今後、toBの領域で大きくSubstrateは活躍すると考えています。

ブロックチェーンに合わせた開発から、アイデアに合わせたブロックチェーンの開発へ

Substrateのブレイクスルーその2は、ブロックチェーンに合わせた開発からアイデアに合わせた開発になるということです。現在ブロックチェーン上でアプリケーションを開発する際には、どうしても開発するアプリケーションをブロックチェーンに合わせる必要があります。例えばコンセンサス・アルゴリズムやブロックサイズ、ファイナリティなどは規定されており、その中でアプリケーションを作る必要があります。だから必然的にブロックチェーンが先にあり、その次にアプリケーションを作るという思考になってしまいます。

一方で、Substrateの場合、ブロックチェーンそれ自体をワードプレスのPluginのようにカスタマイズできるので、アイデアに合わせてコンセンサスアルゴリズムを変えたり、ブロックを大きくしたり、ファイナリティを短くしたりすることができます。

SRMLとはSubstrate Runtime Module Libraryの略

これによって、既存のブロックチェーンではできなかった応用例が生み出せるようになります。

Ethereumの現在優れているのは、Ethereumの上に載るDAppsの数と、それが生むネットワークエフェクトでしょう。一方でSubstrateはカスタマイズの多様性に優れています。Substrate Coreはブロックチェーンを作るための基盤なのであまり変わることはないと思いますが、Substrateのモジュールが増えれば増えるほど、可能性は無限大に広がります。

世界有数のコミュニティ力

そしてSubstrateがEthereumの共同創業者であり、Web3 FoundationとParity Technologiesの創業者でもあるGavin Wood氏によって開発がリードされていることが、コミュニティ的な意味合いで一番の強みでしょう。彼はPolkadotとSubstrateのグループチャットでも毎日アクティブに発信をしており、質問に対して真摯に対応してくれます。

Parity TechnologiesとWeb3 Foundationを中心に、数々のプレーヤーが日々このチャネルの中でやり取りをしています。多いチャネルには4700人程度が属しており、普段から改善点の洗い出しや実装のアドバイスなどが行われています。

PolkadotならびにEthereumとの互換性

Polkadotとは、異なるブロックチェーンを繋ぐためのブロックチェーンですが、Substrateを用いて開発されたブロックチェーンはPolkadotに接続することができます。Polkadotに接続することで、Polkadotに接続された他のブロックチェーンとトークンやデータの交換ができるようになります。また、パブリックブロックチェーンである、Polkadotのセキュリティをインポートすることもできます。そしてSubstrateで作ったブロックチェーンはEthereumとも互換性を持ちます。

https://www.parity.io/substrate-evm/

具体的にはEthereum Virtual MachineをSubstrateに実装できるので、Substrate上でEthereumの開発言語であるSolidityを書くことができるのです。これによりEthereumと互換性が生まれるだけではなく、すでにEthereumを開発してスマートコントラクトを書いたものがあるのであれば、SubstrateベースのチェーンにデプロイするだけでPolkadotの恩恵をうけることができる可能性もあります。

この動きは、PolkadotならびSubstrateの開発を加速させると僕は考えています。


今回は「今までのブロックチェーン開発をSubstrateはどう変えるのか?」について、そのブレイクスルーポイントを解説しました。

この「Web3への挑戦」では、Substrateや僕らのPlasmについて、さらに最新のブロックチェーンテクノロジーに関する情報を連載していきたいと思っています。ぜひ次回もお楽しみに!

 

(Header images : iStock / Campwillowlake )

この記事の著者・インタビューイ

渡辺創太

Astar Network・Stake Technologies CEO/Founder
1995年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国、アメリカでインターンシップ活動を経験後、2018年シリコンバレーのブロックチェーン企業Chronicledに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て、Stake Technologiesを創業。同社でパブリック・ブロックチェーン「Astar Network」を立ち上げる。日本ブロックチェーン協会理事や、内閣官房Trusted Web推進協議会のタスクフォースメンバー、株式会社丸井グループのアドバイザーも務める。2022年、雑誌『Forbes』の「Forbes30 Under 30 Asia」に選出される。

Astar Network・Stake Technologies CEO/Founder
1995年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国、アメリカでインターンシップ活動を経験後、2018年シリコンバレーのブロックチェーン企業Chronicledに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て、Stake Technologiesを創業。同社でパブリック・ブロックチェーン「Astar Network」を立ち上げる。日本ブロックチェーン協会理事や、内閣官房Trusted Web推進協議会のタスクフォースメンバー、株式会社丸井グループのアドバイザーも務める。2022年、雑誌『Forbes』の「Forbes30 Under 30 Asia」に選出される。