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Web3時代のブラウザにあたるものを発明する〜Aerial Partners 代表取締役 沼澤健人氏インタビュー(1)
オンチェーンのトランザクションも管理しなければいけない
−前回はWeb3に関する沼澤さんの見解をお伺いしました。そんなWeb3時代に向けてエアリアルパートナーズはどのような事業展開をしていく構想がありますか?
まずエアリアルパートナーズの既存の事業である会計・税務領域の支援についても、Web3時代に向けて、そしてユーザーのニーズに合わせて進化させていかなければいけないと思っています。
今までは会計・税務サービスでは、ユーザーの仮想通貨取引所やウォレットのトランザクションだけを追跡して管理できれば良かったです。もちろんそれらのオフチェーンの取引をもっと簡単に取り込めるような機能拡張を私たちのサービスでも進めています。
そしてそれに加えて、これからはオンチェーンのトランザクションも管理できるような仕組みを提供できるようにしていかなければいけないと思っています。
具体的には個人の利用者がDappsゲームの利益やDEXでの取引を管理する仕組みなどを構築しています。また、事業者向けにはイーサリアム上で構築されるDapps提供者を対象にオンチェーンのトランザクションを管理・損益計算して、会計上の仕訳データを自動排出する仕組みの提供もスタートしています。
オンチェーンのトランザクションについて広範に対応していけるように外部のパートナーも増やしています。またその上でセキュリティへの対応が非常に大切になってくるので、今年John Flynnに社外取締役としてジョインしてもらいました。彼は2017年までゴールドマン・サックスの日本のテック部門でマネージメント・ダイレクターを務め、日本のペイメント部門の責任者やアジアパシフィックのインフラ責任者などを歴任していました。現在はAIGジャパンのCIO(最高情報責任者)も兼任しています。
このようにユーザーのニーズに合わせて既存のビジネスである会計・税務サポートもより広範に、より高い品質で提供できるように強化しています。
仮想通貨(暗号資産)やその秘密鍵をどう相続するか?
そして税金の計算だけでなく、「暗号資産を守ること」も今後必要性が高まると思っています。
例えば今年カナダの仮想通貨取引所のオーナーが亡くなって秘密鍵が分からなくなり、その取引所の顧客資産が取り出せないという事件がありました。この残念なニュースで考えなければいけないのが、現在は個人の仮想通貨を管理する安全で最適な方法が存在しないということです。
暗号資産の消失や相続の問題は誰にでも起こりうるリスクです。現在仮想通貨を持っている人が亡くなってなってしまうと、それを相続する家族は手探りでその情報を探すしか方法はありません。
例えば故人の手帳やPCやメールのやり取りなどを参考に、どこの仮想通貨取引所を使っていて、どのウォレットを使っていて、それぞれの秘密鍵はどれだ?などと調べていかなければならない。
国内の仮想通貨交換業者をはじめ、一般的な取引所に関しては故人が取引していたことがメールなどを辿って調べ、既存の大手金融機関と同様に遺族が死亡証明を出せば資産が引き出せると思います。それはあくまで現在の一般的な仮想通貨取引所が中央集権的な管理方法だからです。
銀行と違って通帳が机の引き出しに入っているわけではないので、メール履歴やブラウザのブックマークなどを探したりと、手間はかかりますが不可能ではありません。
ただ故人の資産がブロックチェーン上で管理されているとなると、それには管理者が不在で、上記のように中央に確認することができない。そうなるとやはり将来のことを考えて個々人が秘密鍵をどう管理していくかが重要な問題になると思います。
そのような情報を安全に適切に管理し、そして安全に引き継げるシステムが現状はありません。仮想通貨での取引はまだ始まったばかりですが、今後中長期的にこのような相続などの問題が浮かび上がってくると思います。
トラスト・イン・トラストレス
トラストレスな取引を実現することのできるブロックチェーン技術においても、「トラスト・イン・トラストレス」という概念が大切になってくると考えています。信頼を必要せずとも取引などができるようになるトラストレスな状況においても、私たちが生きている現実世界では家族や大切な人がいて、その一部にだけはトラスト(信頼)が寄せられていく。そういう状況をどのように安全に成立させていくかという問題は、業界全体で解決しなければならない課題の一つだと思っています。
このようにブロックチェーン技術の社会実装が進むと、それと並行して多くの課題がでてきます。エアリアルパートナーズは、その課題を一足先に見つけて解決していくことで、間接的にブロックチェーンの社会実装を支えることを使命にしたチームです。
現在はメインの事業が会計・税務に関するものなのであまり見えていないと思いますが、エアリアルパートナーズのエンジニアは会計・税務に関わらずさまざまな将来的な課題を予測して、日々ブロックチェーン領域のR&D(研究開発)も進めています。
おかげざまで弊社のエンジニアは今年2月に開催された経産省主催の「ブロックチェーンハッカソン2019」でも優秀賞をいただきました。「会計・税務のサポートをするチーム」から、「ブロックチェーンの社会実装を行っているチーム」へ転換していかなければいけないフェーズに入ってきたと思っています。
あらゆるものが可視化されていく時代に
−確かにさまざまな新しい技術が社会実装されていくには、その利用者が不安なく利用できるかという点が非常に重要な気がします
今後Web3の世界が進んでいくと、個人のブロッチェーンへの接続チャネルが増えていくと思います。そしてそれに合わせて管理しなければいけない情報が増えてきます。
今までは基本的には価値の媒介アセットは法定通貨だけでした。だから法定通貨の動きを記録していけばよかった。フェイスブックで「いいね」をしても、もらっても損益計算は必要ないし、広告を出稿してお金を払ったとか、あるいはYouTubeで動画配信してお金をもらったなどについても法定通貨の動きに着目していれば損益計算は完結していました。
しかし、そんな時代から価値の媒介アセットに暗号資産が加わり始めると、その損益計算だけでも非常に複雑になってきます。会計・税務の面だけに限っても、それらの受け渡しを管理できないと問題になります。
これからは今まで経済的な価値とならなかったものも可視化をされて数値化されていく時代になります。そのデータをきちんと管理すること、それは会計や税金という事務上の問題だけではなく、私たちがどう生きていくか戦略を考えるときに必要な要素になってきます。オンチェーン上のものを含めて、自分を取り巻くデータが正確に管理できていないと、そこに待つのは混沌… といった状況になってしまいます。
ブロックチェーンは誰でもアクセスできるとか、透明性があるとかと言われていますが、それは技術的な意味合いで、もちろん間違いではないのですが、一般の人にとっては扱う難易度が非常に高い。
少なくともエンジニアでない人にとっては透明性のあるパブリックなブロックチェーンでも、スキル的に可視化できないわけです。
それは大きな問題だと思っています。
多くの人々が、技術リテラシーがなくても理解できるグラフィカルなインターフェースが必要になってきます。ブロックチェーン上の情報に一般の人たちがいかに簡単にユーザー体験として気持ちよくアクセスできるのかが重要です。
Web3の時代において、それを安心して気持ちよく使うプレイヤーがいないと結局その技術は発展しないです。ユーザーが使わなければイノベーションも起こりません。
だからこそ縁の下の力持ちとして、私たちは「Web3時代のブラウザ」的に人々がブロックチェーン上の情報を簡単に管理できる新しいインフラの発明をしたいと考えています。
(第3回へつづく)
→第3回はこちら「マルチインカム時代が来る〜Aerial Partners 代表取締役 沼澤健人氏インタビュー(3)」
→第1回はこちら「Web3時代のブラウザにあたるものを発明する〜Aerial Partners 代表取締役 沼澤健人氏インタビュー(1)」
編集:設楽悠介/大津賀新也(あたらしい経済)
撮影:大津賀新也