このレポートについて
暗号屋、PBADAO、幻冬舎「あたらしい経済」による、ブロックチェーンの社会実装に向け実証実験を行うプロジェクトチーム『ブロックチェーンエコシステム研究所「TRI」』。
今回は「TRI」の取り組みの第1弾として、「Learning Ecosystem 子供向けweb3学習プロジェクトにて夏期講習修了NFTを付与する実証実験 」のレポート を公開いたします。
「Learning Ecosystem」子供向けweb3学習プロジェクトにて夏期講習修了NFTを付与する実証実験
前提
初めに
2023年4月より暗号屋は、香港を中心に世界で9教室を展開する学習塾・epis Education Centreを運営するTBX Company Limitedが始動するweb3技術を活用した子供向け学習プロジェクト「Learning Ecosystem」にアドバイザーとして参画いたしました。
この「Learning Ecosystem」プロジェクトは、学習やコミュニティを通じて、生徒に対する価値と認定の形を多様に定義することを目的としています。学習やコミュニティ活動をした子供たちに対して、ブロックチェーン技術を活用したNFT(ノンファンジブルトークン)による認定やトークンインセンティブを提供する実証実験を行うことに対して、暗号屋はブロックチェーンに関する知見を生かしたコンサルティングを行いました。
本プロジェクトにより、子供たちはウォレット(DID)を利用して自分の学習ポートフォリオを管理することが可能になりました。従来の紙の認定書に代わり、デジタル(NFT)で認定されることで、これまで以上に多様で個人が持つ独自の価値や魅力をポートフォリオ化することが可能になり、背景に捕らわれることなく個人の価値を証明できる社会の実現を推進することが出来ました。
今後、本プロジェクトは、実証実験から必要な課題を抽出し、更に独自開発を行い、将来的には広く教育業界で利用されるOSS(オープンソースソフトウェア)化を目指して取り組んでまいります。これにより、ブロックチェーン技術が教育事業にも積極的に活用されるようになることを期待しています。
epis Education Centreについて
epis Education Centreは、2002年に香港で誕生した海外子女専門の学習塾です。香港には、日本人学校のほか、さまざまな国の教育制度に準じたインターナショナルスクールがあり、多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが数多く暮らしています。そのため、香港にはこうした海外子女をサポートする学習塾が数多くあり、episはこれらと切磋琢磨する中で海外子女教育に関するノウハウを培ってきました。
現在、香港2教室(香港島・九龍半島)、中国・深圳と蘇州、そしてオーストラリア・シドニー、メルボルン、ブリスベン、インド・グルガオン、ドイツ・フランクフルトの9教室に年長〜高校3年生まで多数の子どもたちが在籍しています。私たちはこうした海外子女の教育に携わるにあたって「我々が指導している子どもたちは、未来の日本、そして世界を担う貴重な存在である」ということを常に念頭に置いています。
プロジェクトの概要
「Learning Ecosystem」プロジェクトは、生徒に対する価値と認定の形を多様に定義することで
これまでにない新しい形の学習体験を創出することを目的としています。
この度、epis Education Centreに在籍する生徒のうち、特定のプロジェクトを修了した生徒に対して、ブロックチェーン技術を活用したNFT(ノンファンジブルトークン)による認定証を発行・付与する実証実験を行いました。
従来、学習塾は子供たちの学習をサポートしますが、価値の認定に関しては試験を行う機関などに委ねられていました。
epis Education Centreは子供たちの学力はもちろん、パーソナリティや努力、協力など、画一的な認定システムでは補えない子供たちの潜在的な価値を可視化し、子供たちが自己主権的に自分のポートフォリオを管理して就学や就業などで自身の価値をより明確にアピールできる仕組みを構築することを目的に今回の実証実験に至りました。
またepis Education Centerは海外子女向けの塾を世界9拠点で展開していますが、国内塾と比べて地理的制限がある環境の子供たちに対して、オンライン上でコミュニティを構築し、世界中に点在している日本の子供たちが交流できるシステムを作る必要があったことが、今回のプロジェクトを推進する原動力となっています。
epis Education Centreが持っていた課題
・子供たちが世界のどこに居ても、自分の価値を証明出来るようにしてあげたい
epis Education Centreの子供たちは海外子女の日本人です。進学する過程で日本に住む、また、他の国に移り住むなど幅広い可能性を持っている一方、移った先の国でこれまでの自分の学習や行動の履歴が正しく証明出来るとは限らないため不安定な部分もあります。
・各拠点にいる子供たち同士がコミュニケーション出来る場を提供したい
epis Education Centreは世界中に点在し、講師の方同士はオンラインで交流があるものの、子供たち同士は交流の場がありませんでした。
・他事業者と連携し、EPISだけでは提供出来ない専門的な授業も提供したい
epis Education CentreではSTEAM教育などの専門的な、学校では習えない授業を通じ子供たちの可能性を引き出す努力をされていました。専門的な教育をオンラインで行っている他事業者の方と連携することで、授業のバリエーションを増やしたい展望をお持ちでした。
実証項目と戦略
戦略① 課題解決
・NFT認定証により、世界のどこに居ても自分の価値を証明出来る
認定証を特定のサーバーでなくブロックチェーンに保存することで、事業者の都合によりサービスが終了し認定証も価値を失うようなことが起こりません。また、データをシームレスに活用出来るため、子供たちが地理や時代に捉われることなく安定的に自己の価値を証明することが可能になります。
・EPIS EDUCATION CENTREの子供たちが交流出来るオンラインコミュニティを提供する
Discord上にepisの子供たちが交流出来るオンラインコミュニティを作成し、朝晩の挨拶や特定のイベントへの参加、友人から感謝を送られた際に「epis」と呼ばれるピアトークンを受け取ることが出来る機能を実装しました。ピアトークンはガチャを回すことに使え、それによってお菓子や文房具を受け取ることが出来ます。
・他事業者と連携し、学校で習えない授業を子供たちに提供する
Discord上にepisの子供たちが交流出来るオンラインコミュニティを作成し、朝晩の挨拶や特定のイベントへの参加、友人から感謝を送られた際に「epis」と呼ばれるピアトークンを受け取ることが出来る機能を実装しました。ピアトークンはガチャを回すことに使え、それによってお菓子や文房具を受け取ることが出来ます。
戦略② コンサルティング
・限られた予算の中でプロジェクトを遂行させる
今回の実証に必要な環境の開発を行なったのはepis Education Centreの山家先生で、暗号屋は用件定義、ノーコードで開発出来るツールの選定などを行いました。それによりフルスクラッチで開発した場合と比較して小規模な予算で開発を行うことが出来ました。
・コンサルティングした内容が、資産として残るようにTIPSを拡充する
NFTを発行・活用するにあたり必要な作業の流れはもちろん、ブロックチェーンに関する知識も含めたLearning Ecosystemの全体像をドキュメントとして残し、epis Educationn Centreの講師の方が引き続き参照できる環境を提供します。
・子供たちの目線でリスクを回避する
パブリックチェーン上のトランザクションは全て可視化されているため、子供たちのウォレットアドレスから誰でもNFT認定証を閲覧することが出来てしまいます。現実のトロフィーや表彰状には名前が印されていることが多いですが、セキュリティの観点からメタデータに格納する情報の範囲を制限し、子供たちが安全にノンカストディアルウォレットを利用出来る環境を構築します。
・NFTやブロックチェーンに全く知見が無い方でも使えるように設計する
今日のブロックチェーン技術は基本的に技術に明るい方に使われていますが、全く知見がない方に使ってもらうには、言語やインターフェイスなど直感的な部分のハードルを下げていくことが重要だと考えました。講師の方や、子供たちの保護者の方にも分かりやすい形で技術やツールを選定し、全体の設計を行います。
実証項目 ① NFTによる認定証の発行・付与
NFTを発行システムのプロトタイプを構築し、子供たちのウォレットにNFTを送付するために必要な業務のTIPS作成やワークショップを社内向けに実施し、全ての講師がNFTの発行と付与の業務を再現できました。
今回の夏期講習では11名に夏期講習受講NFTを付与することに成功しております。また別途、STEAM学習受講生9名にもSTEAM受講NFTを付与し、合計20名の子供たちにNFTを付与しました。
実証項目② コミュニティの構築
海外に点在するEPIS EDUCATION CENTREの子供たちが交流できるオンラインコミュニティを構築しました。コミュニティ内では行動に応じてEPISコイン(ピアトークン)が獲得できてガチャを回して景品を獲得できる仕組みを実装しました。
コミュニティ内では定期的にイベントが行われており、画像生成AIを使って子供たちに『Techonology makes world better』をテーマにプロンプト文を作成、画像を生成してもらい、コミュニティで投票を実施。選ばれたデザインをNFTのデザインに採用しました。
実証項目③ 他事業者との協業スキーム
LEARNING ECOSYSTEMのNFT発行システムやコミュニティに他事業者も参加できる仕組みを構築しました。これにより今後、EPISだけでは提供し得なかった多様な学習のイベントやコンテンツを子供たちに提供できるようになりました。
導入ツールと選定理由
導入ツール① UPBOND WALLET
本プロジェクトにおいては、NFT(ノンファンジブルトークン)による認定証を付与するために、子供たちやその保護者様、講師の方々にノンカストディアル・ウォレットを持ったり、それについて理解してもらう必要がありました。「Metamask」や「Trust Wallet」などが一般的なノンカストディアル・ウォレットとして知られていますが、
・日本語がメインで表示されていること
・Web3Authが使えるため、鍵管理の必要がないこと
・ブラウザで完結するため、環境への依存度が低いこと
などの理由から「UPBOND WALLET」を推奨いたしました。もちろん他のノンカストディアル・ウォレットでも問題無いのですが、導入のハードルを下げることでより多くの方にご理解いただくことを重視しました。
また、実証実験を通じて、episの拠点の一つである中国においてはメール認証が上手くいかないなど、Web3Auth認証に関する地理的な制約を検知することが出来ました。
導入ツール ②Unyte
当初の構想から、コミュニティへの貢献度を可視化出来るトークンを発行したいというご意向を伺っていた中で、コミュニティをDiscordに選定したことから、Discordの周辺ツールで近いことが出来ないかと模索する中で見つけたのが「Unyte」です。
トークンの場合は流動性を持たせないように設計したり、発行にも手間がかかるものの、Unyteにピアトークン(ポイントプログラム)を付与する機能があったため、それを使うことで開発における工数を削減することが出来ました。
また、Discord上でしか使えず、金銭や仮想通貨と紐づかないことが子供がトラブルに巻き込まれないために重要だと考えました。プロジェクトの設計中にDiscordが「ファミリーセンター」という、子供のアカウントを保護者が監視出来る機能を追加したこともあり、子供たちにも安全に使っていただけるコミュニティを構築することが出来ました。
導入ツール③ Zaiku
本プロジェクトにおいて発行→付与されたNFT認定証を、子供たちが「見せる」ことで自己の価値をアピールする場面を考えたとき、ウォレット上のNFTの一覧を見せるだけでは分かり辛いと感じたため、子供たちがより分かりやすいインターフェイスでNFTを配置し、コメントを付加してポートフォリオを作成することが出来るアプリケーション「Zaiku」を導入しました。
近い機能を持ったツールは他にも存在しますが、
・日本語がメインで表示されていること
・機能がシンプルで、子供でも操作が可能であること
などの理由からZaikuを選択いたしました。
これにより子供たちは貰ったトロフィや賞状を飾ったショーケースを持ち歩くような感覚で、自分が受けた評価を分かりやすく可視化し、制約に囚われることなく自己の価値をアピールすることが出来るようになりました。
導入ツール④ thirdweb
本プロジェクトにおいてNFTの発行は最重要事項だったため、ツールの選定も慎重に行いました。
ThirdwebをはじめとするBaaS(Blockchain as a Service)は数多く存在し、すべて日本語化されているものもありました。しかし実証実験の段階ではNFTの発行は全ての講師の方が行うものではなく、プロジェクトの指揮をとる山家先生のみがMINT出来れば良かったため、分かりやすさよりも価格を含めた機能性を比較し、無料で出来ることの範囲が最も多かっThirdwebを採用いたしました。
現在Learning Ecosystem専用のNFT発行およびミントサイトの作成・管理ができるオリジナルのソフトウェアを、Unyteとepisで開発しております。
実証の成果と今後の見通し
実証の成果
①NFTによる認定証の発行・付与
NFTによる認定証を持った子供は単純に友達同士で見せあったりして楽しむ他に、
③の他事業者による授業を優先的に受講することが出来るなど、一般的なNFTプロジェクトのようにホルダー向けのインセンティブを与えることにより、モチベーションの向上に寄与することが出来ました。
②コミュニティの構築
これまで触れ合うことのなかった別の拠点にいる子供たちが、各拠点の特色を生かした投稿をしたり、勉強を教え合ったりと、これまでになかったコミュニケーションが生まれる起点となりました。
③他事業者との協業スキーム
他事業舎による3DCGの講座をepisの子供たちに受講させることが出来ました。また、行政やメディアからもお問い合わせいただくなど大きな反響があり、野村證券株式会社が運営するWeb3メディア「ポケットキャンパス」から山家先生、暗号屋の舘が取材を受けました。
今後の見通し
①NFTによる認定証の発行・付与
NFTによる認定証を持った子供は単純に友達同士で見せあったりして楽しむ他に、③の他事業者による授業を優先的に受講することが出来るなど、一般的なNFTプロジェクトのようにホルダー向けのインセンティブを与えることにより、モチベーションの向上に寄与することが出来ました。
②コミュニティの構築
これまで触れ合うことのなかった別の拠点にいる子供たちが、各拠点の特色を生かした投稿をしたり、勉強を教え合ったりと、これまでになかったコミュニケーションが生まれる起点となりました。
③他事業者との協業スキーム
他事業舎による3DCGの講座をepisの子供たちに受講させることが出来ました。また、行政やメディアからもお問い合わせいただくなど大きな反響があり、野村證券株式会社が運営するWeb3メディア「ポケットキャンパス」から山家先生、暗号屋の舘が取材を受けました。
関連リンク