シリコンバレーのブロックチェーン企業Chronicled(クロニクルド)で社員として働き、帰国後は国内最大の若者によるブロックチェーンコミュニティで活動している慶應義塾大学在学中の渡辺創太氏。そんな渡辺氏に、これからの日本のブロックチェーンと若い世代の可能性について語っていただいたインタビュー、第1回。
渡辺創太がブロックチェーンに興味を持ったきっかけ
−ブロックチェーンにはいつ頃興味を持ったのでしょうか?
僕は大学に入ってからすぐにインド、中国、ロシア、東南アジアに行ったんです。そしてインドとロシアで、英語教育を比較的低所得の人たちに提供するNPOで2ヶ月ずつくらい働きました。そこでたくさんの社会問題を目の当たりにしたんです。
特にインドで現地の子どもから道端で「お金をちょうだい」と言われたのがとてもショックでした。世界には貧困があるという事実は、日本人なら誰でも知っていると思うのですが、実際に直接そう言われた時に心に刺さるものがあったんです。
僕は自分が日本に生まれて、大学に通えていること自体がとても恵まれていることだと改めて実感しました。そして人生を通じ、こういった人たちにも社会的インパクトを与えられる人材になりたいと思ったんです。
帰国後、テクノロジーが一番大きな社会的インパクトを与えられるものだと思い、まずはAIに注力し、ソフトバンクロボティクスでPepperのインターンとして携わりました。しかしAIは僕が生まれるずっと前から研究されていて、今から僕がやっても、どれだけ社会にインパクトをを与えられるだろうかという焦りもありました。
一方で、ビットコインは先行研究があるものも登場してから当時10年も経っていなかった。これから来るブロックチェーンに人生を捧げた方が、インパクトを出せるのではないかと考えたんです。そして今の自分の力をブロックチェーンに注いで、10年後20年後に勝負しようと思い立ち、シリコンバレーに向かいました。
誰もの可能性を広げるブロックチェーン
—渡辺さんにとってのブロックチェーンの魅力はなんでしょうか?
ブロックチェーンを使えば誰でももっと自分の可能性が追求できるようになる点に魅力を感じました。
人種や性別、家庭環境、言語など様々な人達がいる中で、生まれた時点から自分の限界が決まってしまっている人たちがいます。例えば、銀行口座を持てない人達は、親が銀行口座を持っていないがために金融機関から信頼されず、子供も銀行口座が持てないというような負のサイクルの中にいます。
でも彼らが、ブロックチェーンを使ったウォレットをスマホで持つことができれば、そのアドレスでお金の送受信ができて、その人へダイレクトにお金が送れるようになります。そして、まだ先の話だと思いますが「その人がお金を使った履歴」が可視化されると、それが信頼スコアになって信頼が生まれる可能性もある。
そうすると今まで銀行口座を持っていなかったために信頼されていなかった人達が、これまで受けられなかったサービスを受けられるようになる。そういう可能性がある、ブロックチェーンに魅かれました。
ブロックチェーン企業の中でクロニクルドを選んだ理由
—シリコンバレーには沢山のブロックチェーン企業がある中で、クロニクルドで働こうと思った理由教えてください。
クロニクルドを選んだ理由は3つあります。
1つ目が、山ほどあるブロックチェーン企業の中でクロニクルドが有望であると思ったからです。僕は様々な研究機関が公表しているブロックチェーン領域で有望な企業を調査したレポートを徹底的に調べて、アプローチをしていました。その中でクロニクルドに非常に可能性を感じました。
2つ目が、経営陣が優秀であることです。CEOのライアンは、スタンフォード大学の当時の元教授で、かつクロニクルドが3社目でバイアウトの経験もありました。
僕の上司でもあったCMOのサムは、2017年に雑誌『Forbes』が選ぶ世界の30歳以下の30人のうちの1人に選抜されています。
バイスプレジデントは、アクセンチュアUSのグローバルのブロックチェーンの部門の元ヘッドでしたし、社員もカーネギーメロンやペンシルバニアといった一流大学を卒業してきた若い学生が入ってきていたので、間違いなく優秀な人達と共に働ける環境だと思いました。
そして3つ目が、日本人がいないことです。僕は頼れる人がいない環境の方が自分の能力が伸びると考えています。甘えられない環境が好きなんですよね。
非金融領域のクロニクルドの事業には、自分が必要だ
—日本人の学生がシリコンバレーの企業で働くのは簡単なことではないと思います。どのようにしてクロニクルドで働けることになったのですか?
シリコンバレーで仕事を探すとなると、勝負するのはUCバークレーやスタンフォードの学生なんです。向こうの人に慶應義塾大学ですと言っても、全く知らないわけですよね。
その中でどうやって勝負するかを考えた時に、僕はアウトプットで勝負するしかありませんでした。ブロックチェーンの基本的な仕組みや著名なブロックチェーン企業50社について全部英語の資料でまとめたり、それを自分でホームページで公開したりしました。
そうした資料を送りまくって、メールでアポイントを取り、CEOのライアンと電話面接をした後に、再びライアンとオフィスで1時間くらい面接してもらい、採用していただきました。
オフィスでの最終面談では、僕が今このタイミングでクロニクルドで働かないといけない理由をプレゼンしました。
クロニクルドの事業内容は、主に医療やゴールド領域の「ブロックチェーン×サプライチェーン」でした。そして自分が活躍したいと思っている10年後20年後を見た時にブロックチェーンが一番使われてくるのは、まさに金融以外のところだと思っていたんです。金融以外の領域でのブロックチェーン活用は、今後伸びてくると思っていました。だから今からブロックチェーンの非金融領域への活用に焦点を当てているクロニクルド で僕が働かなければならないと熱弁しましたね。
—クロニクルドで働き始めてから、シリコンバレーではどういう生活を送っていたのでしょうか?
オフィスのすぐそば、サンフランシスコのど真ん中に住んで、毎日一番早く出社して、一番最後に帰るという生活をずっとしていましたね。
会社以外では、ブロックチェーン関連のイベントが週に3、4回は開かれていたので、とにかく参加して約半年間で115回くらいイベントに出ていました(笑)。
クロニクルドでの仕事
—クロニクルドではどのような仕事をしていたのでしょうか?
クロニクルドの「ブロックチェーン×サプライチェーン」領域の中でも医療領域が一番強い部分でした。アメリカには全ての医療製品に番号をつけて、それを電子上で管理することが定められたDSCSAという法律があるんですが、その管理にブロックチェーンを使うのがコストを考えると一番いいんです。それを業界トップの企業とコンソーシアムを組んでやっていました。現在はアメリカの製薬メーカーのトップ10社の内5社と連携しています。
独自チェーンでやろうという動きもありますが、現在クロニクルドはそれをイーサリアム上に作っています。独自ブロックチェーンでやるメリットは、通貨の発行益が入ってくることです。トランザクションごとに自分たちに数%入る仕組みにしておけば、医療の領域でのトランザクションと取引のたびに利益が得られます。
ただ、いきなり自分たちのブロックチェーンを作るとなると、ノードを自分達で立てないといけない上に、バグが出る可能性も高くなる。だからクロニクルドではコスト面と安全性を考慮してJPモルガンの開発したQuorumなどのチェーンを使うという考え方をしていました。
→つづき第2回はこちら「シリコンバレーではブロックチェーンを長期スパンで捉えている/渡辺創太インタビュー(2)」
編集:竹田匡宏(幻冬舎)・伊藤工太郎(幻冬舎)
ブロックチェーン記録情報
この記事のテキストデータは、パブリックブロックチェーンに保存されています。
記事名:シリコンバレーのクロニクルドで学んだブロックチェーンの可能性/渡辺創太インタビュー(1)
オリジナルURL:https://www.neweconomy.jp/features/svworker/23328
記録ブロック 1772014(アスターネットワーク)
Transaction Hash:
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