スタートアップのエクイティに価値がつく仕組み
スタートアップに投資する投資家はホームランを狙っています。IPO時の時価総額は安くても数十億円、高ければ数千億円になります。1000億円を超える時価総額のスタートアップをユニコーンと言いますが、アメリカには150社に投資して6社がユニコーンになったエンジェル投資家もいます。
目利き次第で大きなリターンを得られるので、スタートアップに投資したい投資家は増えています。
また、大企業はお金が余っており、スタートアップと協業したい大企業やそのCVCがスタートアップに投資することも増えています。そのスタートアップの将来の予想価値を現在の価値に割り引いたものが、スタートアップのバリュエーションです。
例えば1年で2倍ずつ毎年成長しそうなスタートアップがあり、5年後に1000億円の時価総額になることが見込まれるとします。
単純化すると、4年後に500億円、3年後に250億円、2年後に125億円、1年後に60億円、なので今は30億円のバリュエーションとなります。
すると10%の株式を放出して3億円を調達できます。スタートアップは3億円を有効に使うことで、1年後には60億円のバリュエーションを目指すことになります。投資家も1年後に2倍、2年後に4倍の価値になりそうなら、リスクをとって投資することができます。スタートアップが急成長を宿命づけられていることと、スタートアップのエクイティに価値がつくことは表裏一体の関係です。
スタートアップのトークンに価値がつく仕組み
スタートアップは課題を一刻も早く解決したいと思っています。
急成長の為にはスピードが命です。ゆっくりしていると、他のスタートアップとの競争に負けてしまいます。
スピードが遅くなってしまうと、最悪、大企業との体力勝負になってしまい、負けてしまいます。トークンを発行するスタートアップは社内外を問わず、様々な人や会社の協力を得てスピードを上げるにトークンを活用します。
しかし、発行した瞬間のトークンは無価値です。トークンの時価総額を急上昇させなければスタートアップの急成長は見込めません。ですのでスタートアップは全力でトークンの時価総額を急上昇させようとします。
具体的な方法としては、スタートアップはトークンの使い道を用意し、提携企業を増すことが挙げられます。
使い道ができればトークンに使用価値が生まれます。
例えば、リアルワールドゲームスは高精度の地図や位置情報データベースを作っています。1トークン払うと10000回地図データを取得できるようにすれば、企業からトークンに需要が生まれます。1トークン払うと1人お客さんをお店に誘客するようにすれば、お店からトークンに需要が生まれます。
このようにあらゆる知恵を絞ってプラットフォームの機能を追加することになります。トークン同士も競争しあう関係ですので、機能や使い道が増えるトークンは競争に勝ちやすいと考えられます。
機能追加に必要な活動資金は原則としてエクイティで調達した資金を使うことになります。
トークンを用いたプラットフォームが完成し、そのプラットフォームを利用したい人が増えれば増えるほど、トークンの価値は上昇します。
さらに、仮想通貨取引所で取り扱われるようになると、流動性が増してトークンの価値がより上昇します。
トークンを用いたプラットフォームが将来生み出す予想価値の合計を現在の価値に割り引いたものが、トークンの割引後現在価値です。ブロックチェーン技術により発行枚数が決まっている場合、上記の割引後現在価値を発行枚数で割ったものが1トークンの理論的な価値になります。
割引の考え方はエクイティの場合と全く同じです。
しかし、使用価値という視点でみると、スタートアップのエクイティの使用価値は議決権くらいしかなく、ほぼ無価値ですが、トークンは上述のように使い道を増やすことで現在の使用価値に応じて最低限の価格がつきます。
多くの人が期待しているスタートアップのトークンの場合、使用価値より割引後の現在価値のほうが高くなります。従って、バリュエーション10億円のスタートアップが発行したトークンは、使用価値だけで数億円、割引後の現在価値は数十億円の価値がつくのです。
急成長を志向するスタートアップと急成長を志向するトークンエコノミーは相性が良いことがわかります。
トークンのメリットデメリット
メリット:
- シニョリッジをインセンティブに様々な人の協力を得られる可能性がある
- 株式が希薄化しない
- トークンエコノミーを理解する投資家から投資を受けやすくなる
- エクイティとトークンを組み合わせた新しい財務政策が可能
デメリット:
- 法律・会計・税務が定まっていない部分が多く、コストがかかる
- IPO審査の際にどのような障害があるかわからない
- トークンエコノミーの理解が浅い投資家からは投資を受けられない
- トークンエコノミーに強い人材が社内に必要
上記に書き出したように、トークンにはメリットとデメリットがあります。ただ見ていただければ、スタートアップにとっては、メリットが上回るのがわかると思います。
トークンとエクイティの利益相反
エクイティで調達した資金をトークンエコシステムの為に使うことは、エクイティ投資家にとって利益相反になる可能性があります。
というのも、トークンを持っているだけでは、シニョリッジは会計上の利益として財務諸表に反映されないからです。
トークンエコノミーの理解が浅い投資家が見た場合、シニョリッジが反映されていない財務諸表を見て、赤字を垂れ流しているように捉えてしまうかもしれません。
多くのトークンを保有した上で、トークンの価値を増やして、シニョリッジを増やすことが、エクイティ投資家の利益に資することをしっかり説明し、エクイティ投資家の理解を得る必要があります。
トークンの価値が増えれば、潰れにくくなるだけでなく、EXIT(売却/IPO)時のバリュエーションが大きくなりますので、最終的にはエクイティ投資家の理解を得られると思います。
まとめ
・急成長が宿命のスタートアップとトークンは相性が良い
・多くのスタートアップがトークンエコノミーに注目している
・トークンを発行すれば、潰れにくくなり、EXIT時の価値が上がる
・スタートアップの株式に使用価値は無いが、トークンは使用価値がある
・トークンの価値は「使用価値」と「割引後の現在価値」の高い方
・シニョリッジという財務諸表に反映されない含み益が生まれる
・トークンを使って協力者を増やすことができる
・利益相反にならないようにエクイティ投資家に説明が必要
新しいスタートアップファイナンス
最近スタートアップのバリュエーションが急上昇していると言われていますが、私はトークンエコノミーと無関係だとは思えません。
この分野は最先端の論点の宝庫だと思います。起業家やCFO、法律家や会計士、経済学者、投資家や金融機関等が立場や利害を超えてディスカッションすることで「あたらしい経済」が生まれるに違いありません。
ディスカッションのご依頼は大歓迎で、出来る限り時間を作りたいと思っています。https://www.facebook.com/noritaka.okabe までお気軽にご連絡下さい。
次回はトークンのインセンティブとしての性質について書きます。
お楽しみに!
(編集:飯田諒)
images:iStock / Vasyl Dolmatov