国内取引所らが語る日本の課題と可能性 / Sei Web3 Day for Japan
大手企業担当者やWeb3領域の国内外のプレイヤー/有識者らが多数参加したカンファレンス「Sei Web3 Day for Japan」が4月に東京・渋谷で開催された。レイヤー1ブロックチェーン「Sei(セイ)」と「KudasaiJP」、「あたらしい経済」「CryptoBase」の共催イベントだ(→イベント全体のレポートはこちら)。
この記事では「Sei Web3 Day for Japan」の中の国内の暗号資産取引所のリーダーらが集結したセッションの様子をお届けする。このセッションでは日本における暗号資産業界の課題についての議論が行われた。
スピーカーには、ビットポイントジャパン 代表取締役 小田玄紀氏、Binance Japan代表取締役 千野剛司氏、オーケーコイン・ジャパン 執行役員COO 八角大輔氏、ビットバンク 営業部門部門長兼事業開発部部長 桑原惇氏が登壇。モデレーターは、幻冬舎 あたらしい経済 編集長 設楽悠介が務めた。
取引所視点での注目トレンドは?
設楽はまず、登壇者らに今年の注目トレンドを聞いた。
オーケーコイン・ジャパン八角氏は国内・海外の2つの視点から注目している点を語った。
「まず国内の潮点では伝統的金融との融合が今年のキーワードなると注目している。特にオーケーコインに関係する部分だと特定投資家(プロトレーダー)・税制・デリバティブの3点が個人的に熱いのではないかと思っている」と述べた。
海外の視点では、「オンチェーン」というキーワードがよく挙げられているとした。「例えば大手監査法人EYがコントラクト管理用のL2チェーンを開発中であることや、大手資産運用会社ブラックロックがブロックチェーン上でETFを組成して管理していくという話が出てきていることなどに注目している」とした。
バイナンス千野氏は、伝統的金融との融合がトレンドになる感じているという。「ビットコインETFに相当額が流入している流れを見てもブロックチェーンの金融と株や債券などの伝統的金融との距離は縮まってきており、この流れは日本にもくるだろう」と見ているようだ。
また千野氏は「現実資産(RWA)」にも言及。「ブロックチェーン上に乗っているアセットが実体経済で使えるようになるRWAの流れは今年さらに加速を見せる」と予測した。
ビットポイントジャパンの小田氏は、国内における暗号資産口座開設数の増加を挙げた。
「2月末時点では国内の暗号資産口座数は955万口座だった。5~6月にはおそらく1000万口座に到達するだろう」とした(※なお開設数が1000万口座を突破したことが5月23日に日経新聞によって報じられている)。「口座解説数が1000万の大台に乗ることは、皆さんが思っているよりインパクトの大きく大切なこと」と述べた。
ビットバンクの桑原氏は、テクノロジーの観点でクリプト×AI領域が花開いていると感じるという。「ワールドコインやGPU領域を分散化するようなプロジェクトなどが最近散見される。また、グローバルで価格の盛り上がりを見せるDePIN領域をはじめ、AIや、ソラナに近いところが盛り上がっている印象がある」とした。
暗号資産ETFは日本では難しいのか? その課題は?
設楽は次に、暗号資産ETFについて質問した。米国で現物ビットコイン(BTC)EFT承認後、香港でBTC・イーサリアム(ETH)のETFが取引開始し、グローバルでの暗号資産ETF関連の動きは日々目まぐるしい。「では日本では暗号資産ETFの承認・取引は難しいのか?」と登壇者に問いかけた。
小田氏は、税制の観点から回答した。小田氏によれば、日本だと投資信託法で暗号資産を含まないとしている。しかしそれを変えれば国内でも暗号資産ETFの取り扱いはできるという。「これは法改正ではなく府令の改正で実現可能な話だ」と小田氏は続けた。
また議論すべきことの一つに、ビットコイン現物ETFは申告分離課税であるという点があるという。一方でビットコインなど暗号資産は現状、総合課税だ。つまり、暗号資産交換業者からすると、ビットコインETFが認められるとユーザーが証券会社に流れる懸念がなくはない。「ただ、だからこそETFが取引されるなら、暗号資産の税制も申告分離課税にしなくては、というような議論が起こることは期待したい。ETF承認と合わせて、やはり暗号資産の税制改正が急務であると議論している」とした。
「米国や香港の流れを受け、日本国内でも変革の雰囲気はある」と小田氏。問題はどう調整していくかという点であり、小田氏は、約1年かけてこの辺りの調整が行われるのではないかと見ているようだ。
千野氏は「税制を変えるには、その制度を考える人たちが暗号資産が社会に役立つものと捉えるかどうかがポイント」とした。「だからETFにビットコインが加えられれば、(暗号資産への)信頼性も高まると感じている。日本にETFが来れば税制にもポジティブな影響を与えるのではないか」との考えを示した。
桑原氏も、今年の自民党のweb3PTによる「web3ホワイトペーパー」でも税制改正について詳細に触れられていることを挙げ、「暗号資産が経済活動に有益であることを業界として示していくことが重要」と述べた。
八角氏も、今回のホワイトペーパーでは色々踏み込んで言及されていると感じたという。「ETN化してまずは特定投資家向けに提供するという話も言及されており、やり方にも様々なスキームがあるのでは」と可能性を感じたことを話した。
小田氏は「その文脈でも、(暗号資産取引所の)口座数が1000万を超えることは重要打。数字のインパクトで世論を変えられる可能性がある」と見解を示した。「先月のweb3PTにて、いままでクリプトに関心薄であった自民党金融調査会と話をしたところ、1000万口座を突破するなら要件等が必要との回答を得た」と小田氏は語った。
海外とのギャップ。どうすれば日本のトレード量が増えるのか?
次に設楽は、海外とのギャップを挙げた。「ここ数年で海外取引所との差は開いており、具体的にどういうサービスが日本で提供されると、口座増加につながると考えるか」と質問した。
八角氏は、海外では取引所がアカデミープログラムに注力している点を指摘。「取引所においても、トークン上場で終わるのではなく、トークンやチェーンについての情報を伝える啓蒙も大切だ」とした。
「さらに日本では、インカムゲインの文脈でステーキングサービスのウケがいい」と八角氏。国内では分離保管・コールドウォレットが前提のサービスになっているため、そういった面でも日本人との相性がいいのではないかとした。
桑原氏は「海外で提供されている主だったものを国内でも提供していくことが大事だ」と述べた。「海外でも提供されているL2の入出金・レバレッジの提供、そして銘柄については海外取り扱い銘柄でも日本人か機会損失しないようなスピードで提供していくことが大事だ」とした。
千野氏は、グローバルのバイナンスの事業をそのまま日本でやることは、規制上難しいとしながらも「できることは意外と広い」と述べた。「例えば、4月15日にグルーバルのバイナンスが発表したトークンローンチパッド「Megadrop *」などを国内で実施できないか、色々解決すべき法的な部分はあるが、考えている」とし、意欲を見せた。
レバレッジ規制緩和について
次に設楽は、暗号資産に関するレバレッジ規制の緩和の兆しがあるかと質問。
小田氏は「去年1月から動いており、実は去年10月の段階で一時承認が取れかけたものの、色々あって結果としては難しかった。しかし今はまき直して動いている」とした。レバレッジ規制が厳しいと海外流出がみられ、個人の5~10倍を認めても良いのではという潮目にあると見解を示した。
レバレッジ規制が緩和すれば、ユーザーは増える(戻ってくる)と思うかという設楽の質問に、八角氏は「レバレッジ、デリバティブは、投資家が暗号資産を投資商品のポートフォリオとして取り込むときのヘッジをどうとるかという観点からすると、なくてはならない」話と回答。
また千野氏は、ETFのマーケットにおいてもデリバティブは重要だと指摘。「ETFの流動性を担保するためにはマーケットメイカーの活躍が重要であり、彼らがヘッジする場合、先物の板でヘッジすることが通例。先物が使えない状況は日本のETFマーケットを盛り上げる上でもデメリットになる」と指摘した。
*Megadropは、グローバルのバイナンスで提供されているエアドロップとクエストに参加できるプラットフォーム。ユーザーがBNBトークンを「BNB Locked Products」にデポジットし、プロジェクトのトークンがバイナンスに上場する前に、選ばれたプロジェクトからの報酬にいち早くアクセスすることができるもの。(*なお同サービスは日本居住者は対象外だ)
→全体レポートはこちら <Web3に挑戦する日本企業が集結!「Sei Web3 Day for Japan」>
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取材/編集:髙橋知里