英スタンダードチャータード銀行の招待型セミナーのセッションレポート
金融サービス大手の英スタンダードチャータード銀行の招待型セミナー「トレジャリーリーダーシップ フォーラム2024 “The Blueprint for Tomorrow”」が7月1日、ザ・キャピトルホテル東急(千代田区)で開催された。国内の企業向けに開催された招待型セミナーだ。
このイベントでは、伝統的金融やテクノロジーをテーマにした7つのプレゼンテーションやトークセッションが行われ、当日は国内外の企業から戦略部門・デジタル部門の担当者らが、約80名が参加した(→イベント全体のレポートはこちら)。
本記事では「トレジャリーリーダーシップ フォーラム2024 “The Blueprint for Tomorrow”」の中の、DX活用で叶う組織における運転資金効率改善をテーマにしたセッションをお届けする。
Unleashing Capital from Supplying Chain Digitization
「Unleashing Capital from Supplying Chain Digitization(サプライチェーンのデジタル化から資本を解き放つ)」と銘打たれたこのセッションへは、NECの金融ソリューション事業部門 デジタルファイナンス統括部 ディレクターである行武徹也氏、タスコネクト(TASConnect)のCEOであるキングシュク・ゴーシャル(Kingshuk Ghoshal)氏が登壇。モデレーターはスタンダートチャータード銀行東京支店 キャッシュ・マネジメント部 トランザクション・バンキング本部 部長の水口正彦氏が務めた。
このセッションでは、NECとタスコネクトのパートナーシップについてや、両社が共同で開発する共同テクノロジーソリューション、サプライチェーンファイナンスのビジネスモデルについて話された。
NEC歴20年以上の行武氏は、システムエンジニアとして開発、プロジェクト管理を行ってきた経歴も持つ。2020年からは金融×他業種の新規事業開発に携わり、国内外で活動中だ。
はじめに行武氏は、NECの3つの取り組みと同社提携の価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を紹介した。
NECは2019年からDX事業への取り組みを本格化。過去5年で「売り方を変える」、「売り物を変える」、「売る人のケイパビリティ(手腕)を変える」という3つの取り組みを行ってきたという。
まず、「売り方を変える」アプローチでは、国内SIerのベンダーとしての下流工程だけではなく、戦略的なコンサルのアプローチという体制をとり、上流に対し整備とプロセスの強化を行った。
続いて「売り物を変える」では、オファリングの整備とグローバルアライアンスを含むDXの共通基盤を強化したという。
最後の「売る人のケイパビリティ(手腕)を変える」では、全社的にDX人材を強化。こういった5年間の活動と実績を基にNECは今年5月、「BluStellar」を発表した。
エンドツーエンドでDX化をサポートする「Blustellar」
行武氏によれば、「Blustellar」は、顧客を未来へ導くための価値創造モデルだという。
イタリア語で「青い星」という意味をもつ「Blustellar」は、顧客をDXを通じて未来に導いていきたいという思いを込めて名付けられた。
具体的には顧客の経営アジェンダを起点に、戦略コンサルや新規事業・ビジネスモデル創造、組織・人材変革等を行っている。構想から実装までエンドツーエンドでのビジネスモデルでDX化を成功に導くことを目標としているとのことだ。
また行武氏はNECの保有する世界トップクラスと言われているAIの技術やセキュリティといった強みも活かして、「Blustellar」を推進していきたいとした。
またNECとタスコネクトが連携するプラットフォームは今後、「Blustellar」の一翼を担う潜在的な位置づけになるという。
行武氏によれば、NECは製造業・物流・卸の顧客に対し、サプライチェーンマネジメントのDX化およびファイナンス機能を提供したいと考えており、タスコネクトとの連携でそれが実現するのだという。本記事後半で同取り組みについて詳述する。
DXで日本の課題解決を目指す
また行武氏は、日本のマクロ環境を見て人口減少、また、新規事業における人材不足を指摘。
この状況を打破していくためにもDXが非常に重要になるとした。こういった課題へのアプローチをスピーディーに推進するためにも、AIを始めとしたテクノロジーの力が不可欠だと強調した。
またNECは「Blustellar」によりテクノロジーの活用を社会全体に広め、顧客の成長とともに同事業を拡大していく狙いもあるという。NECはバリュードライバーとして、自社の事業自体を変革し、日本の競争力強化を目指しているとのことだ。
タスコネクトとの共創について
SCベンチャーズの完全子会社でシンガポールに拠点を置くタスコネクトは、運転資金ソリューション・プラットフォーム「タスコネクト」を提供しており、サプライチェーンにおけるキャッシュフロー改善をサポートしている。
「タスコネクト」は、サプライヤーやバイヤー、銀行など複数のバリューチェーン・パートナーとの複雑なつながりを効率的に簡素化する役割もあり、買掛金と売掛金の資金調達プログラム効率向上や、特注の複雑なワークフローの自動化と簡素化、企業が独自のプログラムを安全にコントロールすること等を提供している。
これまでにコンピューターメーカーのレノボ(Lenovo)とも協業しており、レノボ社が抱える課題の一つであるサプライチェーンに関する問題解決に寄与した実績もある。
NECとタスコネクトは昨年9月より戦略的パートナーシップを結んでおり、組織の運転資本効率改善を目指す技術ソリューションを共同開発している。
このソリューションでは、組織が財務パフォーマンスを測定、監視、管理、強化する方法を変革し、最終的に持続可能な成長を促進し、組織の運転資本効率を改善することを目指している。
協業で両社は、「タスコネクト」とともに、強力なリアルタイム分析ツールを企業に提供し、十分な情報に基づいた意思決定で財務効率向上を目標にしている。
続いて水口氏は、タスコネクトのゴーシャル氏に同社がなぜNECそして日本マーケットに関心があるのかと聞いた。
かつてスタンダートチャータード銀行のバンカーであったゴーシャル氏は、長らく日本マーケットを担当していたという。
日本はASEANやアジア地域、インドネシア、フィリピン、インド、ベトナム等に対してかなりの海外直接投資を行っており、そういった面でも日本企業に対して常に魅力を感じていたという。
しかしゴーシャル氏は実際に日本や東京のマーケットをみる機会がなかったため、タスコネクトとして日本でどのように価値を創造していくかを考えた際に、日本や東京にビジネス機会があるかを探るべくNECと提携したという。
その結果、東京や日本には素晴らしい製品やコミュニティビジネスがあり、多くのビジネス機会があったため、このマーケットに注力していきたいとゴーシャル氏は語った。
次に水口氏は、NECがタスコネクトにバリューを感じている点について行武氏に質問した。
行武氏によれば、NECは元々、日本国内外の製造業の顧客に多くのソリューションを提供しているが、サプライチェーンファイナンスのようなソリューションをこれまで提供できていなかったという。
しかし昨今、サプライチェーンマネジメントの強化、領域拡大を考える中で、ファイナンス機能は関係の深いものになっていると行武氏は考察。そこへアプローチすべく、様々なソリューションを調べる中で、タスコネクトの有する幅広いソリューションに魅力を感じたのだという。
また、レノボとの実績を見ても、タスコネクトはNECの抱える大企業や中堅企業の顧客のサプライチェーンマネジメントに対し、ファイナンス側からの機能を提供できる可能性を感じたという。
レノボのように大きなサプライチェーンを保有する日系企業に対し、サプライチェーンファイナンスのソリューションをタスコネクトと提供していくイメージかとの問いに対し行武氏は次のように回答している。
日本国内のユースケースはもちろん、製造業の顧客は日本国内のみならず、クロスボーダーで事業を行っていると行武氏。NECとしては国内及び海外(特にAPAC地域)を含むクロスボーダー取引に対してのサプライチェーンファイナンス機能を提供していきたいとした。
→全体レポートはこちら <金融×テクノロジーでイノベーションの可能性を探る。「スタンダードチャータード銀行トレジャリーリーダーシップ フォーラム2024 “The Blueprint for Tomorrow”」レポート>
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取材/編集:髙橋知里