暗号資産マーケットレポート
今週もSBI VCトレード提供の暗号資産(仮想通貨)に関するウィークリー・マーケットレポートをお届けします。
7/14~7/20週のサマリー
- トランプ前アメリカ大統領、ペンシルベニア州で演説中に銃撃を受ける(14日7時15分頃)
- 共和党副大統領候補として暗号資産に友好的なJ.D.ヴァンス上院議員が指名される
- CBOE(シカゴ・オプション取引所)、イーサリアム現物ETFの上場日を7月23日と発表
暗号資産市場概況
7/14~7/20週におけるBTC/JPYの週足終値は前週比+14.04%の10,560,000円、ETH/JPYの週足終値は同+10.78%の553,220円であった(※終値は7/20の当社現物EOD[7/21 6:59:59]レートMid値)。
先週は、前週までのドイツ政府・アメリカ政府によるビットコインの売却完了を受け調整が一服。週初のトランプ前大統領銃撃事件を契機に、トランプ・トレードに左右される週となった。
日本時間14日7時15分頃、ペンシルベニア州での選挙集会における演説中に、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が発生。命に別条がないことが判明すると、市場ではトランプ氏の再選見通しが拡大し、トランプ氏の政策によって恩恵を受ける資産に資金が集まる「トランプ・トレード」が席巻。トランプ氏は自身のNFTを発行しているほか、5月以降、暗号資産での寄付を受け入れ開始するなど、今回の選挙では“親暗号資産”的な姿勢を見せており、暗号資産の全面高という形で選挙結果の先取りが進んでいった。
16日、トランプ氏は暗号資産友好派として知られるJ.D.ヴァンス上院議員を副大統領候補に指名。ヴァンス氏は、2022年に最大25万ドル相当のビットコイン保有を報告している(現在価格で最大39万ドルに相当)ほか、SECの暗号資産会計ルール「SAB121」廃止への投票、SECの対デッドボックス社訴訟に際しゲンスラー委員長に書簡を送付する(本件は最終的にSEC側の証拠捏造が判明した)など、暗号資産側の立場で活動してきた実績がある。
週央にかけ、BloombergのETFアナリスト、エリック・バルチュナス氏に端を発し、市場関係者の間でイーサリアム現物ETFの上場は7月23日になるだろうとの推測が有力視され、ヴァンス氏の件とともにポジティブ材料となった。20日にはCBOE(シカゴ・オプション取引所)から23日の取引開始見込みが公示され、週末にかけてETF上場の事前織り込みが一旦は完了した。
今後の注目点は大きく4つある。イーサリアム現物ETFの上場後の値動き、Mt.GOXにより弁済されたビットコインの売却圧力、ビットコイン・カンファレンスにおけるトランプ大統領の演説、イギリス政府がビットコインの売り手となるか否かだ。このうち最注目となるイーサリアム現物ETFの上場については、最下部「今週のひとこと」で扱うこととする。
まずはMt.GOXについて、週央にMt.GOXのウォレットからビットコインが移動され、市場は小幅な調整を見せている。ここで移動されたビットコインの数量は約48,641BTC(チャートは下部に掲載)である。前週のドイツ政府・アメリカ政府による売却分が約54,807BTCであったことを考えると大きな量であるようにも思われるが、弁済プロセスは複数の取引所で行われており、取引所ごとに債権者への分配時期に差が出るため、全量が同時に売却圧力となるわけではないと考えられる(実際、Mt.GOXに関しては、マーケットはビットコインの移動という事象のみに反応している状況である:下部にGlassnodeのチャートを掲載)。
6/4号でも言及したとおり、売却しないことを約束している大口保有者が存在するほか、個人保有分は全量の46%程度と考えられ、長期間の価格上昇による課税問題も影響し、一斉の売り圧とはならないと考えられるため、米ビットコイン現物ETFの流入フローがあれば十分に吸収可能なのではないだろうか。
Mt.GOXウォレットの残量の変化(現在は約90,000BTCが残されている)については、引き続き観測していく必要があるだろう。
個人の動向に関し、興味深いデータが存在する。海外SNS「reddit」の債権者コミュニティで、「ビットコインを受け取ったらすぐに何パーセントを売却しますか?」というアンケートが7月6日~13日にかけて行われた(下部にスクリーンショット掲載)。このアンケートでは、全467票のうち260票が0%を選択(260票が0%、68票が1~25%、26票が25~50%、14票が50~75%、11票が75~99%、88票が100%)。実際には成立しない仮定であるが、各参加者に均等にビットコインが配分され、各選択肢の範囲の最大値(1~25%であれば25%)を売却した場合、全体で均すと売却圧力は個人弁済分の30%相当となる。アンケート参加者のうち、少なくとも半数以上が売却しない択を採ったことは注目に値する。
次に、ビットコイン・カンファレンスである。例年1万人以上が集まる年次イベントであり、今年は7月25日から27日までの3日間、ナッシュビルで開催される。トランプ氏はビットコイン・カンファレンスへの出席を取りやめない意向を表明しており、銃撃事件直後という熱狂の中、トランプ氏がどのような発言を行うのかは、先週のトランプ・トレードを経た現在、市場にとって重要な材料となっている。トランプ氏の登壇は27日を予定しているが、リアルタイムで追われる場合、情報の変更や更新には留意されたい。
最後に、イギリス政府の動向について。19日にBloombergのコラムニスト、メリン・サマセット・ウェブ氏がイギリス政府保有のビットコイン売却を提言し、話題となっている。氏はイギリス政府が保有中のビットコインを売却することで、追加課税を必要とせずに経済復興資金を獲得できると主張。イギリス政府は61,245BTCを保有しており、直近の相場下落原因となったドイツ・米国の売却総量(54,807BTC)を上回る規模である。仮に全量売却が実現した場合には、一定のマーケットインパクトが発生しうるため、イギリス政府の意思決定は継続的に注視する必要がある。
次週以降は、上述してきた内容に加え、最大の注目点となるイーサリアム現物ETF上場後の動向を踏まえ、無理のない運用を心掛けたい。
1)BTC/USD週間チャート(30分足)
2)BTC/JPY週間チャート(30分足)
3)MT.GOXのビットコイン残高
4)ドイツ政府・アメリカ政府の現物売りとMt.GOXから移動されたビットコインの総量
5)Redditのアンケート結果- ビットコインを受け取ったらすぐに何パーセントを売却しますか?
6)各国政府のビットコイン保有枚数
7)ビットコイン現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計、ビットコイン価格
7/14~7/20週の主な出来事
7/21~7/27週の主な予定
【今週のひとこと】イーサリアム現物ETF上場後の値動きを考える
イーサリアム現物ETFの上場が間近に迫ってきました。CBOE(シカゴ・オプション取引所)が7月23日の上場見込みを公表していることからも、(各社申請書類に特段の問題がなければ)23日上場は確度が高いと考えてよいでしょう。ビットコインの現物ETF上場時を参考にすると、日本時間での上場タイミングは23日の22時30分(サマータイム考慮)となることが予想されます。今回の「ひとこと」では、現在確認できる情報を下地に、上場後の値動きを考えます。必ずしも考察と同様の値動きとなることを保証するものではありませんので、その点はご了承ください。
1~2週間の中期について
以下に「ビットコイン現物ETF上場後のチャート」「ビットコイン先物ETF上場後のチャート」「イーサリアム先物ETF上場後のチャート」を列挙します。
[ BTC/USD 現物ETF上場後のチャート(4時間足)2024年1月]
[ BTC/USD 先物ETF上場後のチャート(4時間足)2021年10月]
[ ETH/USD 先物ETF上場後のチャート(4時間足) 2023年10月]
いずれのチャートからも、上場のファンダメンタルズについては上場前に織り込まれており、上場直後の1~2週間は事実売りの展開となってきたことが読み取れます。上場が確定した段階ですぐにイーサリアムを購入するよりは、買い場を待って購入を検討する方が望ましいでしょう。事実売りの展開が一服した後の動向を左右するのは、ETFによる現物需要の有無となることが想定されるため、ビットコインと同様、ETFの資金流入出を確認した上で判断することが推奨されます。
3週間~1ヶ月の中期について
以下はビットコイン現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計、ビットコイン価格を表したグラフです。
[ビットコイン現物 ETF の資金流入出と運用資産残高合計、ビットコイン価格]
黄色い矢印で示した箇所(ETF上場から約2週間が経過した1月26日)に注目すると、ETF全体での資金流入出(以下ネットフロー)がプラスに転じ、その後ようやくビットコイン価格が上昇し始めていることがわかります。この間、ネットフローを下押ししていた最大の要因は、GBTC(現物転換したGrayscaleのETF)からの資金流出でした。GBTCは長らく私募投信として現物で償還できない状況が続き、ディスカウント価格で取引されていましたが、現物ETFへの転換によりディスカウントがなくなったことで、長期保有者が次々に退避(資金流出)することとなったのです。
上記の内容は、「GBTCの資金流出を現物ETF全体の資金流入が上回る状況が続くようになった後に、ビットコイン価格が上昇し始めた」と言い換えることができます。そして、この状況はイーサリアムでも同様に発生することが予想されます。
Grayscaleの投信ETHEのプレミアム / ディスカウント 2021年2月~現在
上図は、Grayscaleの投信ETHEのプレミアム・ディスカウントの推移です。最低時には約-60%のディスカウント価格で取引されており、多くの保有者にとって売却しにくい状況が長期間続いていたことが読み取れます。長期間ディスカウント価格で保有していた参加者は、資本を退避するか、他のETFに比べ格段に高い(他社の10~16倍)Grayscaleの手数料を回避するため、他社のETFへの乗り換えを進めることでしょう(このような乗り換えの動きもビットコインのケースで観測されました)。
ビットコイン(GBTC)との違いは、
- 現物転換後のGrayscaleの手数料率が更に高額(ビットコイン:1.5% / イーサリアム:2.5%)であること
- ビットコインよりも転換後すぐに売却しなければならない債務者(FTXなど)が少ないこと
- 現時点では、どのETFにもステーキング機能が盛り込まれていない(現物を購入してステーキングした方が年率3%前後アウトパフォームできる)こと
- Grayscaleの手数料0.15%のミニ・イーサリアムETF($ETH)が同時に承認される見込みであること(ETHE保有者には10%分が分配される)
などが挙げられます。
Grayscaleが現在保有しているイーサリアムの数量は約296万ETH(約104億ドル)であり、退避需要の大半が消化されるまでには数カ月以上かかることが予想されます。一方でネットフロー自体が流入超になるか否かは全体のETF需要が左右することになるため、3週間~1ヶ月の中期での値動きを考える際は、Grayscaleからの資金流出状況と、他ETFへの資金流入状況、ならびにビットコイン・イーサリアムの値動きへの反映状況を考えればよいのではないかと考えます。
1ヶ月以降の長期での値動きについては、特に9月のFOMCにおいて利下げが実施されるかなど、よりマクロ経済の影響を大きく受けて決まっていくことになるはずです。
このレポートについて
国内の暗号資産(仮想通貨)取引所「SBI VCトレード」提供の週間マーケットレポートです。毎週月曜日に最新のレポートをお届けします。
<暗号資産を利用する際の注意点>
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暗号資産は、価格変動により損失が生じる可能性があります。
暗号資産は、移転記録の仕組みの破綻によりその価値が失われる可能性があります。
当社が倒産した場合には、預託された金銭及び暗号資産を返還することができない可能性があります。
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暗号資産は支払いを受ける者の同意がある場合に限り、代価の支払いのために使用することができます。
写真:USA TODAY NETWORK via Reuters Connect