サトシが示した、ビットコインの相対取引の容易さ

小宮自由

サトシが示した、ビットコインの相対取引の容易さ

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第37回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

この投稿でサトシが提案しているサービスとは、ビットコインの買い手と売り手が実際に会ってビットコイン売買を完了し、その結果、あらゆる規制を回避できる、というものである。両者がインターネット接続可能な機器を持ち寄るか、公共のネットアクセス可能なコンピューターのある場所(例えば図書館、インターネットカフェ)で会う。買い手は現金で支払い、自分のアドレスを売り手に知らせ、送金を完了する。買い手と売り手がお互いを見つけるサービスは今ではすでに存在する(例えばlocalbitcoins.com )。

サトシ・ナカモト 2010年03月03日 午前04時28分56秒

それではサトシの投稿をみていこう。

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Re:送金の規則

十分な規模があれば、eBay(イーベイ)のように、送金は行わず、買い手と売り手のマッチングのみを仲介して両者が直接交換できるようにする交換サイトはたぶんありえます。

安全な取引とするために、交換サイトはビットコイン側の支払のエスクロー(預託所、預託サービス、第三者預託)の役割を担います。売り手はビットコインの支払をエスクローに入れ、買い手は通常の支払を売り手に直接送ります。交換サービスでは現実世界の現金は扱いません。

これはeBayよりも優れたステップです。eBayは、支払が失敗に終わった際に発送済みの商品を取り戻せなくてもうまく機能しています。

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解説

ここで述べていることは、いわゆる相対取引(英語でOver The Counter、略してOTC)のことです。株式などの証券においては、現物を直接相手に譲渡することは手間がかかりますが、ビットコインはインターネットに繋がったコンピュータさえあればいつでも譲渡可能です。

しかし現在、少なくとも日本においては暗号資産は暗号資産取引所で容易に現金化可能です。したがってほとんどの暗号資産ホルダーは OTC をした経験が無いでしょう。

現物交換が必要な場合は、居住している国の法定通貨を暗号資産取引所がサポートしてない場合が考えられます。また、当局に発覚しづらいという性質があるので、マネーロンダリングや脱税など違法な目的で利用されている実態もあるでしょう。

なお、フィル・シャンパーニュ氏は「あらゆる規制を回避できる」と述べていますが、これは当時そう考えられていたという話であって、2023年現在は暗号資産での取引は世界中ほとんどの国で何らかの規制に服します。

小宮自由

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東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。
https://blendai.jp/
https://twitter.com/blendaijp
https://twitter.com/BorderlessJpn
https://twitter.com/BorderlessDAO

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。
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