サトシが示した法定通貨と既存金融システムの問題点、別フォーラムで投稿したビットコインの説明文

小宮自由

サトシが示した法定通貨と既存金融システムの問題点

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第19回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

サトシはp2pfoundation.ning.com上でビットコインのバージョン0.1を告知した。これはピアツーピア技術を扱うもう一つのフォーラムである。ここでサトシは、暗号法メーリングリストに投稿した告知と同じテキストをコピーするのではなく、公開用として微妙に異なる告知を書いた。

ビットコイン ピアツーピア通貨のオープンソースの実装 サトシ・ナカモト 2009年02月11日 22時27分

それではサトシのp2pfoundation.ning.comの投稿を見ていこう。

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私はビットコインというオープンソースのピアツーピア型の電子キャッシュシステムを新たに開発しました。これは全ての基盤を信用ではなく暗号証明に置くため、中央サーバも信用される第三者も必要とせず、完全に分散型のシステムです。お試し下さい。スクリーンショットと設計論文*1 をご覧下さい。

ビットコイン・バージョン0.1のダウンロード先は、http://www.bitcoin.org です。

旧来の通貨が抱える根本的な問題は、システムの稼動に信用を必要とする、という点に行き着きます。通貨価値の下落を防ぐには中央銀行への信用が不可欠ですが、法定通貨の歴史を紐解くと、信用破綻の事例は枚挙にいとまがありません。お金を預けたり電子送金したりするには銀行への信用が必要になりますが、銀行は信用バブルの波に乗って準備金をほとんど残さずに私たちの預金を貸し付けます。私たちは銀行を信用してプライバシーを預ける必要があります。個人情報を盗んで口座の預金を奪おうとする犯罪者から銀行が守ってくれると信用する必要があります。その巨額の間接経費がかかるために小額決済は不可能になります。

一世代前には、複数の利用者でタイムシェアするコンピューターシステムで似たような問題が起きていました。強力な暗号技術が登場する以前は、ファイルの安全性はパスワード保護に依存し、システム管理者が情報のプライバシーを守ることを前提に信用する必要がありました。私たちのプライバシーは、管理者がプライバシー原則を他の観点と比較検討した結果、無視されたり、上級者の命令によりプライバシーが侵害される危険が常にありました。その後、強力な暗号技術が一般化され、信用は必要なくなりました。データの安全性は、理由を問わず、どんなに優れた言い訳があっても、何があっても、他人によるアクセスを物理的に不可能にする形で実現しました。

同じことを貨幣で行える時代なのです。暗号証明に基づく電子通貨のシステムにより、第三者的な仲介者への信用が不要となり、安全な貨幣が実現し、より容易な取引が可能になります。

このシステムの基礎の一つがデジタル署名です。デジタルコインには所有者の公開鍵が含まれています。送金の際には、所有者の署名と次の所有者の公開鍵で署名します。この署名は誰でもチェックでき、所有者の連鎖関係を検証できます。これは所有関係の保証には優れたシステムですが、二重支払という未解決の重大な問題点が残ります。一度使ったコインに再度署名すれば別の所有者に再送金できてしまいます。通常では、これを解決するために、信用される第三者機関の中央データベースが二重支払をチェックする仕組みをとります。しかし、それでは旧来の信用モデルに戻るだけです。この第三者機関は中央的な立場を利用して利用者を侵害することが可能ですし、機関の存続に必要な手数料が上乗せされるために、小額決済は非実用的になります。

この解決のため、ビットコインでは二重支払のチェックにピアツーピアのネットワークを用います。簡潔に言えば、ネットワーク自体が分散型のタイムスタンプ・サーバのように働き、コインを利用する最初の取引にスタンプを付します。これは、拡散は容易だけれど抹消は困難、という情報の持つ特性を利用しています。どのように稼動するかについては、http://www.bitcoin.org/bitcoin.pdf の設計論文*1 をご覧下さい。

その結果として生まれたのが一点の失敗の余地もない分散型システムです。利用者は自分のお金の暗号鍵を所持し、他人と直接お金のやりとりができ、ピアツーピアのネットワークが二重支払をチェックします。

サトシ・ナカモト

http://www.bitcoin.org

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【訳注】
*1 https://bitcoin.org/files/bitcoin-paper/bitcoin_jp.pdf

解説

サトシが指摘した法定通貨と既存の金融システムの問題点に納得できる人は多いのではないでしょうか。これは、2023年前半期に相次いで起こった銀行の信用不安と政府・中央銀行の対応における問題そのものです。逆に言うと、昔からこの手の問題は変わっていない(改善していない)とも言えます。

ビットコインはこのように、中央集権的金融システムに内在する問題点の解決案として作られたという経緯があります。これは暗号資産業界の根底と言っても過言でない思想であり、多くの暗号資産プロジェクトがこの思想を前提としてプロダクトを作っています。

小宮自由

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小宮自由

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。
https://blendai.jp/
https://twitter.com/blendaijp
https://twitter.com/BorderlessJpn
https://twitter.com/BorderlessDAO

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。
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