サトシが考えた、スパムを減らす未実現のメールサービスとは?
ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第18回。
まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。
フィル・シャンパーニュ氏の解説
ここでは、暗号産業の著名な開発者であるHal Finneyとサトシ・ナカモトの間で、ビットコインのプルーフ・オブ・ワークをスパマーの制限とスパム受信者の報酬にどう用いれば良い か、興味深い会話が交わされている。
Hal Finneyは「再利用可能なプルーフ・オブ・ワーク・システム」を最初に開発したとされている。これはビットコインのプルーフ・オブ・ワークの一つの変形だが、その知識はここのテーマを理解するのに必要ではない。ちなみに、ビットコインの一番最初の取引の送金人はサトシ自身で、その受取人がHal Finneyだった。
Re:ビットコイン・バージョン0.1のリリース サトシ・ナカモト 2009年01月25日 日曜日 08時34分34秒 -0800
それでは2009年01月25日 08時34分34秒のサトシのメールをみていこう。
(注:斜体部分は、サトシ以外の者の質問を指す)
Hal Finneyは書きました:
*スパマーのボットネットが有料送信Eメールフィルターにより多少の損害を被るかもしれません。
プルーフ・オブ・ワークのトークンが便利になって、とりわけ、そのトークンが貨幣になれば、マシンがアイドル状態のままでいることはもうないでしょう。利用者はコンピューターがお金を稼いでくれると期待できます(報酬が運用コストを上回ると仮定して)。コンピューターの儲けがボットネットに盗まれれば、今よりも所有者の目につきやすくなります。そのため、そういう世界では、利用者はコンピューターを保守し、ボットネットの侵入から守ろうと力を入れるようになります。
プルーフ・オブ・ワークのトークンが価値を持つときにスパム *1を減らせるもう一つの要因があります。偽のEメールアカウントを大量に作ってプルーフ・オブ・ワークのトークンをスパムから収穫しようとする人は、利益をその動機としています。そういう人は、スパマーが自動メールボックスを持ちながら、プルーフ・オブ・ワークを集めてメッセージを読まないのに対して、本質的に逆スパム攻撃をしていることになります。現実の人々に対する偽メールボックスの比率は高すぎるため、スパムは費用対効果が薄れます。
このプロセスにはまず第一に、ボットネットを持たないスパマーは収穫者からトークンを買うので、プルーフ・オブ・ワークのトークンの価値を確立できる潜在的可能性があります。買い戻しは一時的にスパムの数を増やすので、自己防衛のサイクルを急がせるのみとなり、スパマーを搾取する収穫者が増えすぎる結果となります。
興味深いことに、E-Goldシステムの一つには、すでに「ちり掃除(dusting)」と呼ばれるスパムの形態があります。スパマーはわずかな量の金のちりを送り、取引のコメント欄にスパムメッセージを付加します。システムが利用者に対し、受取を希望する最低額の支払の設定を認めるか、少なくとも添付メッセージを受け取っても良い最低額の設定を認めれば、利用者は希望するスパム受信対価を設定できます。
サトシ・ナカモト
暗号学メーリングリスト
========================
【訳注】
*1 これ以降の文章において、サトシは「メールを送る際に受取人への少額の BTC の支払いが必要なサービス」を想定している。このようなサービスにおいては、スパム送信者は原資となる BTC を保有者から購入するので、BTC の価格形成に寄与する。また、偽の名義でのメールアドレスを作り、そのアドレスでスパムメールを受け取ることにより大量の BTC を集めるという者も現れ、これがスパマーと共倒れになり結果としてスパムが減る、などということを説明している。
解説
サトシは「メールの受取人が送信者から少額のトークンを受け取れるサービス」の話を何度かしています。これが一般化すると、スパムメッセージを送るのにもコストがかかるので、スパムが抑制されます。また、受信の対価を受取人が設定することにより、ユーザの経済学的厚生を最大化できます。
現状、このようなシステムは広く使われていません。投げ銭付きメッセージなど、類似のサービスは存在しますが、一般的ではありません。BTC を始めとした多くのトークンが普及し、シームレスに支払いを行うUIがウェブブラウザ等の汎用ツールに実装されれば、将来的に実現するかもしれません。
小宮自由