ビットコインの歴史をたどる旅へ
ビットコインを発明したサトシ・ナカモト。彼はビットコインを世界に送り出した後、ある日突然、一切の消息を絶ち音信不通となった。いったいサトシは誰だったのか、現在も知る人はいない。
世界中に広がったビットコインのネットワーク、それの元になったホワイトペーパー、そして2008年11月01日から2010年12月12日の約2年間にメーリングリストとフォーラムで公開されたサトシ本人の文章が、今私たちに残された財産だ。
この連載では、その2年間のサトシの公開した文章を日本語に翻訳し、時系列で公開していく。それらのサトシの文章は、2017年に刊行され現在はすでに絶版の書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』フィル・シャンパーニュ(著)を元にしたものだ。そしてこの書籍の発行人である小宮自由氏が、それぞれのサトシの文章に解説を加えていく。
日本人名を名乗りながら本当に日本人なのか、果たして個人なのか集団なのかも分からない、神秘のベールに包まれたサトシという人物。そんな彼がどんな人物なのか、そして彼がビットコインに託した想いは何なのか、サトシの心の奥底を探る旅へ、ビットコインの歴史をたどる旅へと、この連載を読んで出発しよう。
サトシナカモト、初めての投稿
それではサトシ・ナカモトの最初の投稿の原文をみていこう。この投稿からビットコインの歴史は始まった。
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ビットコイン ピア・ツー・ピア 電子キャッシュ 論文
サトシ・ナカモト 2008年11月01日 土曜日 16時16分33秒 -0700
私は、第三者への信用を伴わず、完全にピア・ツー・ピア型である新たな電子キャッシュシステムを開発しました。
主な特徴は次の通りです。
・二重支払はピア・ツー・ピアのネットワークで防止される。
・造幣局も第三者への信用も不要。
・匿名で参加できる。
・新たなコインはハッシュキャッシュ型のプルーフ・オブ・ワークにより作られる。
・新たなコインの生成のためのプルーフ・オブ・ワークもまた、ネットワークに対して二重支払の防止を助ける。
ビットコイン:ピア・ツー・ピア型の電子キャッシュシステム
要旨。純粋なピア・ツー・ピア・バージョンの電子キャッシュにより、オンライン決済は金融機関を通さずに、直接、一方から他方へ送金することが可能になる。その解決策の一つがデジタル署名だが、二重支払の防止のために、第三者への信用がその都度必要になるならば、その主たる利点は失われてしまう。私たちが提案するのは、ピア・ツー・ピア・ネットワークの活用による二重支払問題の解決である。ネットワークによる取引のタイムスタンプには、取引をハッシュ化して現在進行中のハッシュ基盤のプルーフ・オブ・ワークのチェーンへ編入し、プルーフ・オブ・ワークをやり直さない限り改変できない記録を作り出す手法を用いる。最長のチェーンは一連の取引イベントの目撃証明になるのと同時に、最大規模のCPUパワーのプールから生み出されたことの証明にもなる。誠実なノード*1 が過半数のCPUパワーをコントロールすれば、それが最長のチェーンを生成し、攻撃者を凌駕していく。ネットワーク自体は最小限の構成を持てば済む。メッセージのブロードキャストはベストエフォート型*2 で行われ、ノードは自由にネットワークからの離脱と再接続ができるが、不在中にネットワーク内で進行した事実の証明として最長のプルーフ・オブ・ワーク・チェーンを承認しなければならない。
論文の全文はこちらです。http://www.bitcoin.org/bitcoin.pdf
サトシ・ナカモト
暗号学メーリングリスト
【訳注】
*1 情報の改ざん等の不正行為を行わないノードのこと。ノードとは、ビットコインの取引データを保持し、他のノードと通信を行っているコンピュータのこと。
*2 常に一定の品質を保証しているわけではないが、最善を尽くすために可能な限り努力すること
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解説
これは記念すべきサトシの初投稿です。サトシは2008年11月1日、唐突にビットコインのホワイトペーパーを公開しました。「プルーフ・オブ・ワーク」という言葉はこのときに定義されます。
要旨の途中に「取引をハッシュ化して現在進行中のハッシュ基盤のプルーフ・オブ・ワークのチェーンへ編入し、プルーフ・オブ・ワークをやり直さない限り改変できない記録を作り出す手法」とありますが、これがまさにブロックチェーンの定義です。
フォーク(チェーンの分岐)の解決法や、マイニングに関して等、暗号資産の基本的な仕組みは、全てこのホワイトペーパーに記されています。このわずか9ページの論文が、時価総額何数百兆円にもなる(2021年12月現在)暗号資産市場を生み出したのです。
小宮自由
記事更新 2021/12/22 13:05
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