Proof Of Talkについて
「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。
(今までのすべての「Proof Of Talk(PoT)」はこちら)
医療情報を集めるためにはブロックチェーンが理想的な技術
藤本真衣(以下 藤本):水島先生はなぜ医療とブロックチェーンの研究をはじめられたのですか?
水島洋(以下 水島):もともと私は分子生物、DNAを使った研究やガンの研究をしていまして、最近では難病や災害医療の研究もしています。そして日本で医療情報がうまく活用されていないと、今まで医療の研究をしていて強く感じていたため、日本で医療のブロックチェーンの研究会の代表をしているのです。
一方で、世界的に見ても医療情報を活用の仕組み作りをしている国は多数ありますが、それらの現在の仕組みについても疑問を持っています。多くの仕組みは、匿名で集められた医療情報が患者さんの元を離れ、具体的にどのように使われているかが患者さん自身も分からないという状況にあるのです。その状況にも私は危惧しています。
理想は患者さん自身が自分の情報を上手く活用する仕組みが必要だと思うのです。そのような仕組みをどうにか作れないかなと考えていた時に、ブロックチェーンに出会いました。この仕組みは医療情報の分野でも非常に良いツールになると確信し、ブロックチェーンの研究分野に入っていったのです。
藤本:ありがとうございます。患者が自分の医療情報を活用できるようになると、例えばいろいろな病院に行っても手間なく情報を共有できますよね。そしてさらに自分の意思で研究機関に自分の情報を提供して貢献することで、同じような患者さんの助けになったりするというようなこともできる。それを自分が決められるというのが大きいことですよね。
水島:難病・希少疾患などを研究していましたが、やはりそういった病気は患者さんの数はすごく少ないのですよ。まずその患者さんがどこにいるのかがすぐに分からないのです。そして患者さんに辿り着けたとしても、そのデータをどう活用するのがベストか分からないという状況が続いていました。
しかしブロックチェーン技術を使って、その患者さんが自分の意思で「このプロジェクトには協力したい」と自分の情報を共有してくれる仕組みできるだけでも非常にメリットがあると思っています。情報を患者さん自身の意思でコントロールできることが大切です。
既存の仕組みでも病気になった患者さんから匿名で医療情報をもらうことができますが、当然ですが病気になる前の患者さんから情報をもらうことはできないわけです。つまり健康な時のデータって医療業界は持っていないのですよね。
だから健康の時のデータ、「Personal Health Record」をもらうための仕組みとして、ウェアラブル端末とかに常に記録されて管理されたデータがブロックチェーン技術などで本人の意思で共有されると、病気になった時にも活用できるようになります。そのように病気の時と健康な時のデータが共有されていくような仕組みができたらいいと思っています。
藤本:確かに、今はいろんなウェアラブル端末が出てきていて、せっかくそれを着けるなら、最大限に活用できる方が理想的ですよね。現在はそういった健康データの仕組みはバラバラに管理されていまっている印象がありますよね。
医療情報は個人が活用できるようになることが重要
コ・ウギュン(以下 コ):私も色んなところで個人の健康情報がまったく活用されていないという現状に課題を感じ、「メディブロック」というブロックチェーンベースのプラットフォームを作っています。
医療のビッグデータの使い道について最近話題になっていますが、なかなか具体的な仕組みは実現していないです。その一番の理由は、水島先生や真衣さんがおっしゃる通り健康情報がいろんなところに散在しているからです。
現状の世界の医療情報や健康情報は、完全には誰も保有していない状況です。しかも患者さん自身も完全に自分のデータを持っていませんので、その活用方法も見出せていないのです。
そのため私たち「メディブロック」が患者さんを中心に健康情報を集めて、個人がそれを活用できるようにしようとしています。
水島先生がおっしゃったように、現在は誰かが病気にかかってから、その関連情報を収集することはできますが、そうしたやり方はあまりにも効率が悪いです。毎日健康情報を集めることができれば、本当はその方がどのような病気になる可能性が高いかなども予測でき、未然にその病気を防ぐこともできます。
病気を未然に防ぐことができる未来
コ:例えばハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、遺伝子の問題で乳がんの可能性があるという情報をご自身で持ったことで、発病前にその可能性のある患部を切除されたようです。将来は多くの人たちがそのようにして普通に病気を防ぐことになっていくと思っています。しかし現在はそれをするには非常に費用がかかる。そのため今はまだすごく金のある人しかそれができない状況です。それをなんとかしたいと思っています。
「メディブロック」のようにブロックチェーン技術を活用して医療情報を集めて、それを多くの人が活用できるようにすることの大きなメリットの一つはコスト削減だと思います。
現在でも多くの患者さんが複数の病院を利用されています。例えば、A病院を利用して、そこからB病院に転院されたとき、同じ検査をまた受けることがあります。それは結局、時間的にもコスト的にも本来は不要なことです。そういった無駄を「メディブロック」のようなシステムを使っていただくことによって無くすことができます。
そしてそれだけではなく、ブロックチェーンを活用して自分の情報を患者さん自身が持つことで、当然なのですが、自分の健康状態をもっともっと知っていただけます。そうして自分が、より健康になれるように自分自身をマネージメントすることができることもまた大きなメリットです。私はそういうことができるような環境を整えたいと思っています。
水島:そしてみんながウェアラブルから情報を吸い上げて、それをブロックチェーン上に貯めることができていけば、本人が病気だということに気付かなくても、本人に知らせることもできるようになりますよね。
このような仕組みは「逆ナースコール」とも呼ばれているのですが、ウェアラブルから発生する情報を見て、どうもこの人はどこか病気なのではないかということがブロックチェーンにAIを組み合わせたりして分かると、その本人に「そろそろ病院に行ったほうがいいですよ」なんていうような通知をすることも可能になってくると思いますね。
藤本:私の家系はすごい病気になりやすいんですね。それで小さいころから自分自身も苦労していて……。そのような仕組みができたらいいのにというのは本当に思うところですね。「逆ナースコール」という言葉、初めて聞きましたけど、体調が悪くなる前にデータが教えてくれるのは、素晴らしい仕組みだと思います。
(第2回に続く)
→第2回「医療・健康情報は非中央集権で管理すべきか」はこちら
インタビューイ・プロフィール
水島洋(みずしま ひろし)
国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター長
1983年東京大学薬学部卒業。1988年薬学博士。国立がんセンターがん情報研究部室長、東京医科歯科大学オミックス医療情報学講座教授などを経て、現在に至る。ITヘルスケア学会代表理事、医療ブロックチェーン研究会会長など兼務。専門領域はゲノム研究のほか、医療情報学、公衆衛生学、希少疾患・難病、災害など。
コ・ウギュン
メディブロック共同創業者
2006年韓国のKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)にてコンピュータサイエンス学位を取得した後、2008年アメリカのコロンビア大学にてコンピュータサイエンスの修士号を取得。2008年から2012年までサムスン電子でリードソフトウェアエンジニアとして勤める。2012年、慶熙大学歯医学専門大学院にて歯科医の修士号を取得した後、2017年3月まで歯科医として勤務。2017年4月、医療情報システムに問題意識を持ち、ブロックチェーン技術を用いてその問題を解決しようと「メディブロック」を設立。