セキュリティトークンで広がる、投資の可能性 #03-3 AnyPay大野紗和子×フロンティアパートナーズ今井崇也

藤本真衣

ユーティリティトークンとセキュリティトークン

藤本:AnyPayさんが現在注力されているセキュリティトークン関連の事業では具体的にどのようなことをされているんでしょうか?

大野:去年からブロックチェーンの事業で、ICO(Initial Coin Offering)コンサルティングをやっていました。その中で今年のはじめころからセキュリティトークンが注目を集めるようになってきました。セキュリティトークンの今までのICOで主だったユーティリティトークンとの違いは、トークンの価値がセカンダリー市場や需給のバランスだけでなく、何かしらの価値に裏付けされていることです。

ユーティリティトークンは基本的にあるエコシステムの中での利用権や、共通通貨のように設計されています。だからそのエコシステムがどんどん成長していくと需給のバランスで需要が高まっていって価値が上がっていくという仕組みです。国が強くなったらその国の通貨も強くなるみたいな感覚と近いとものだと思います。

一方セキュリティトークンはより価値が裏付けされています。例えば、不動産の価値が裏付けされていて、不動産の価値が上がれば配当がもらえるとか、数%分のトークンを投資した会社の利益が出たら配当をトークンで株主のように受け取ることができるみたいなイメージです。

ICOプロジェクトでは資金調達をしたけど、事業が行われずに、そのユーティリティトークンの価値が曖昧になってしまっているようなことがありますよね。そんな背景からみんながより確実性を求めてセキュリティトークンが出てきたのだと思います。

私はユーティリティトークンとセキュリティトークンの適した用途が違うと思っています。それぞれで適した方法を選択していくってことが大切です。例えばブロックチェーン上に新しいプラットフォームやエコシステムを築くのであればユーティリティトークンが良い選択肢です。一方、ブロックチェーンを閉じてリアルなビジネスでシェアオフィスをやるなど世界中から資本を集めてっていうことであれば、セキュリティトークンがいい選択肢ではないかと思います。

そしてそれは従来の株式による資金調達やクラウドファンディングと何が違うのかというのはよく考えたほうがいいポイントです。

トークンが自分自身の振る舞いをコントロールできるようになる

大野:一つ言えるのは、今までの株は株自体を自分コントロールするっていう機能はないんですよね。だからやはり中央機関が国ごとにあって、きちんとその株券を持っている人の権利や配当のオペレーションをケアしていく必要がありました。

だから株式は国を跨いでの流動性の担保が難しい面がありましたし、大きな会社の案件でなければ、その株式調達することが見合わないというようなこともありました。

でも現在スマートコントラクトを持ったブロックチェーンが生まれて、株券自身が自分自身の振る舞いをコントロールできるようになるというのはすごい面白いと思います。

セキュリティトークンの現在のフェイズ

大野:現在のセキュリティトークンのフェイズは、セキュリティトークンを扱える取引所やプラットフォームが各国で徐々に出てきている段階です。そしてこれからそれが進んでいくと2019年はそのプラットフォーム間の連携をどうするのかなどを議論していく、仕組みづくりの年になると思います。

その時に考えなきゃいけないのが、やっぱり国ごとの証券法の違いがある中で、国を跨いで、あるトークンをやりとりするときにどうするかということです。

トークンをその送る側のfromの人と、受け取り側のレシーバーと両方の視点で、この人は送って大丈夫なのか、この人は受け取って大丈夫なのかっていうのをちゃんと担保していかなきゃいけない。

そうなるとKYC(Know Your Customer ・顧客確認情報とアドレスの紐づけが必須になってきます。そういった情報のリンク、共有をどうするか、それぞれのプレイヤー間でのスタンダードをどうやって作っていくかが、これからすごく大事になってくると思います。

来年セキュリティトークンは、国を跨いだ取り組みが進んで、エコシステムとしてちゃんと立ち上がってくるかというフェイズになるので、我々はアジアのプレイヤーとして、アジアがきちんとそのエコシステムに入っていくことを手伝っていきたいなと思います。

今井:資金調達って結構大問題というか、誰に話したらいいみたいな話って結構ありますよね。例えば今の株式の資金調達の方法でベンチャー企業なのに株主がものすごく沢山いるとか事実上やはり無理ですよね。手続きなどの法的なこと考えると例えば起業した瞬間にいきなり1万人の株主がいるとか絶対無理(笑)。

それを考えると株式とセキュリティトークンを上手く紐づけて新しく見えてくるものがいっぱいあるだろうと思います。

セキュリティトークンで広がる、投資の可能性

大野:トークンを使って資金調達するメリットは本当に色々あると思います。新しい調達の機会でもありますし、今まで基本的には別だったサービスを使いたいと思っている人と出資者が近づけるということで、より本質的に事業が向かいたい方向に長期的な視野で取り組めるかもしれないということもあると思います。

あとはセキュリティトークンの面白さは、裏付けを何にするかという色んな切り方があるところです。もちろん会社に投資してその会社全体の利益に紐づけるってこともできますが、それをもうちょっと分けていくとこができます。

例えば会社の中の一部の事業の利益を裏づけにしたセキュリティトークンなども可能です。さらに分けていけばIoTデバイスごとみたいなこともできる。

つまり何に対して自分が出資しているのかという切り方を、きちんとコントラクトできることによって明確にできるわけです。

それはなんかどっちもありうると思うんですよ。私はこの会社の未来に全体的に賭けたいという人もいるかもしれないですし、いやそうじゃなくてもうちょっと明確にこの会社のこのアセットが生み出す収益に参加したいんだって人もいると思います。

その会社側にとっても投資家側にとっても選択肢を広く持てるっていうのがセキュリティトークンの面白いところだと思います。

アジアの魅力的なプロジェクトをセキュリティトークン化

藤本:AnyPayさんがSTO(Security Token Offering)領域で現在どのように事業を展開されるのか教えていただきたいです。

大野:私たちAnyPayの使命はセキュリティトークンを発行して事業したい会社側と、今までにない機会に投資したいっていう投資家側をアジアのプレイヤーとして結び付けていくことだと思っています。

今世界を見渡してみても、アジア地域は魅力的なプロジェクトがいろんな国で生まれていて、東南アジアやインドだけでなく日本にも色々あります。その中でビジネスとしてきちんと社会的意義があって成長が見込める事業の会社の方と一緒に、その事業をセキュリティトークン化して、さらに他の地域からの投資もきちんと入ってくるようにすることで企業の成長をサポートすることが私たちの役割だと思っています。

(つづく →第4回「スタンダードとなるプロトコルの必要性」

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インタビューイ・プロフィール

大野紗和子
AnyPay株式会社 代表取締役
東京大学大学院理学系研究科修了。株式会社ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、Google株式会社にてインダストリーアナリストとして、経営・マーケティングのアドバイザリーを行うと共に、オンラインマーケティング関連のリサーチプロジェクトに従事。東京大学教育学研究科特任研究員として、スマートフォンを用いた認知行動学研究に参加。2016年よりAnyPay株式会社にて取締役COOを務めた後、2018年より代表取締役に就任。

今井崇也
Frontier Partners合同会社 代表CEO
1980年新潟県生まれ。小学校5年のときにMS-DOS, Basic, Cでプログラムを書いてコンピュータで遊び始める。27歳で新潟大学大学院にて素粒子理論物理学で博士号(理学), Ph. D. を取得。カカクコム株式会社に入社し、検索エンジンのサーバ運用開発/ソフトウェア開発/R&D/大規模データ分析/チームマネジメントの業務を経験。そこで商品画像から商品の色情報を自動的に取得する画像処理アルゴリズムを研究し、色による商品検索システムを開発および実用化。入社当初10人未満だったBizMobile株式会社に転職し、MDM(Mobile Device Management)のデータ蓄積システム構築/データ分析/データ可視化業務を経験。マスタリングビットコイン日本語訳書籍「暗号通貨を支える技術」代表翻訳者。また、33カ国を旅してきた経験も持つ。ヨーロッパ、東アジア、東南アジア、インド、北米、南米、イースター島、アフリカ。バックパッカーとして一人旅をし安宿をまわり多様な文化、民族、人種と交流。特に南米、インド、アフリカでの旅から大きな影響を受けた。2014年4月21日にFrontier Partners合同会社を設立し、現在代表CEO&創業者。データタワー株式会社代表取締役。United Bitcoiners Inc. 取締役&共同創業者。東京大学客員研究員。日本初のライトニングネットワークハッカソン主催者。

(編集:設楽悠介・大塚真裕子 / 写真:堅田ひとみ)

Proof Of Talkについて

「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。

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この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

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