LayerXの3つの事業
藤本:福島さんはLayerXで具体的にどういった事業をされていく予定でしょうか?
福島:トークンの設計のコンサルとコードオーディットとマイニングの3つの事業を予定しています。
今後ブロックチェーンでの最初に一番盛り上がっていくのは資金調達だと思っています。投資家とイシュアーのインセンティブをどう組んでいき、それをどうやってイシュアーのパワーに変えていくかです。
ただし今のICOの課題でいうと、資金調達だけして何も作らないといった詐欺が溢れていることです。
ICOによって投資へのアクセサビリティが下がったので、投資したい人がめちゃくちゃいるということはわかったんですが。でも結果としてその裏側にある証券は残念な状態です。
でもこの状態がこの1年で急速に変わっていくだろうなと思っています。ちゃんとアセットに紐付いたものとか、価値に紐付いたトークンが増えてくると思います。
でもそうなった時に、価値や経済圏を持っている会社とかアセットを持っている会社は、必ずしもブロックチェーンに詳しいわけじゃないですよね。
そういった会社に対して、こういうトークンの設計がありますよ、今のブロックチェーンのスケーリングの問題とかオラクルの問題とかも含めて、現実的にはここはオンチェーンでやって、こっちはオフチェーンでやりましょうとか、この部分はDecentralized(非中央集権化)できないから中央を信頼しましょうとか、そういうコンサルや設計ができるちゃんと会社が必要だと思っています。
コードオーディットというのは設計のチェックですね。コードにバグがあると資産が盗まれるのでそれをチェックして防いだり、イーサリアム上のガスのコストをどう最適化するかを提案したりします。これからは色々な会社にとってそういうアドバイスの需要が増えてくると思っています。
本来ブロックチェーンのパワーを借りるともっとお金を集められて事業を推進できるような会社が、真っ当にブロックチェーンを使えるようにするテックサポートの事業をしていきます。
世界のマイニングの偏りをどうにかしたい
福島:そして前述の2つの事業と少し毛色は違いますが、マイニングも行います。
ブロックチェーンを支えている一番下のレイヤーはマイニングです。そんなマイニングは今は中国がハッシュレートをほぼ抑えていることに危機感を感じています。今状態は実は全然分散されていないわけです。
つまり中国で大停電が起こるとか、政府の規制が入ってマイニングのマシーンが一切動かせないとなった瞬間にビットコインが止まってしまう危険性だってあるわけです。
理想はやはりいろんな政治主体とか考え方の主体とかが、ある程度分散された形で、ハッシュレートを持っているのが安全だと思っています。だから日本に眠っているお金を、ちゃんとマイニングのリソースに変えていきたいですね。
でもマイニングは日本国内では効率が悪いので、海外の良い場所をおさえていって、ちゃんと日本人の意思でコントロールできるハッシュレートを持つようにしていきたいと思っています。
マイニングも自社でやるというより、運用する場所とクリーンなエネルギーを使った安い電気代はひっぱってきて、安心してみんなが使えるような仕組みを作っていきたいと思っています。
栗元:僕がLayerX設立のニュースを聞いて驚いたのが、福島さんがGunosyの代表を降りて専任でやられるというところです。そして一社だけではなくAnyPayと一緒にやるというのも驚きました。そのニュースからタイミング的に相当早く立ち上げる気なんだろうなと伝わってきましたよ。
ブロックチェーンにベットする理由
福島:そうですね。僕がGunosyの代表を降りてまでなんでやるのかというと、世の中が大きく変わる時ってそんなに無いと思っているからです。結局この20年で何が発展したかというとインターネットですよね。そしてここ5年で何に張るべきでしたかというとモバイルでした。そして今、自分が完全にゼロの状態で起業家として何に賭けるかなというと、やっぱりブロックチェーンだと強く感じました。
周りの状況を見ていると、ブロックチェーンはまだまだ儲からないとはいえ、取引所やマイナーたちはそれなりに儲かっているわけです。
でもそれらはブロックチェーンの応用の本丸ではないなと感じています。どちらか流動性を提供しますとか、ブロックチェーン自体のセキュリティを提供しますみたいに、インフラ的なものだった。ですがここ1、2年でICOが立ち上がって、急激にプロジェクトにお金が流れるようになって、いよいよこれから社会実装が始まるタイミングだなと感じています。
半年間くらいかなりいろんなプロジェクトのリサーチをしていたんですが、かなり世間で言われているよりも技術的な進化のスピードが速いと感じました。全然違う概念がいっぱい出てきていて、だからこそ今のタイミングを逃すともうついていけないんじゃないかっていう危機感があるんです。
一方で海外の天才たちは、今でも120%かけてブロックチェーンをやっています。だから僕が他の会社の代表を掛け持ちながらやっても世界で勝てない、そう思ってフルコミットしようと思ってGunosyの代表を離れることにしたんです。
そして事業の性質上、技術だけで成り立つものではないと思っています。ブロックチェーンって技術×インセンティブとか、技術×経済学っぽい要素が必要になるんです。
だからこそこのビジネスとかに長けてる会社と一緒にやる必要がどうしてもあると思って、ICOコンサルに参入していてそこの知見が日本だと間違いなくナンバーワンである会社AnyPayさんといっしょにやることにしたんです。
垂直に一気に事業を起ち上げようと思っています。そしてここで稼いだお金はどんどん技術開発に突っ込むっていう、それをやらないと世界についていけないと思っています。
藤本:LayerXがライバル視する企業とか団体ありますか?
福島:ライバルというのもちょっとおこがましいんですけど、海外のConsenSysとかZeppelinとかは意識はしていますね。
藤本:ちなみにGunosyとLayerXは具体的にどのような連携をしていこうと考えているんでしょうか?」
GunosyとLayerXの連携の可能性
福島:Gunosyはメディアや広告をやっている会社です。一方LayerXは資金調達×技術提供みたいな会社で、その2社はけっこう遠く見えると思います。今すぐにブロックチェーンが、BtoCのサービスの裏側に使われだすことはないと思っています。しかしいつかは使われるようになると思ってるんですよ。
そうなった時にメディアみたいな情報を扱ったり広告を扱ったりする事業で採用される可能性はかなり高いと思っています。
現在のメディアのインセンティブだと例えば嘘のニュースを流してもトラフィックを稼いだ方がいいみたいな問題がありますよね。
このような問題にトークンのインセンティブを持ち込んで、良い記事でPVを稼ぐ人がちゃんと儲かって、インセンティブがもらえる仕組みに将来親和性があると思ってます。
メディアの在り方や広告の在り方が変わってくると思っていますし、ニュースや広告も正しく評価されるべきだと思ってるんですよ。
でもその仕組みが透明になってないから、みんなよく分からない。だから価値の配分が適切になってないんです。
本当はもうちょっとそこの配分を、トークンのインセンティブの仕組みで変えられるんじゃないかと思ってますね。すごい遠い将来かもしれないですが、そういうところでGunosyとLayerXが絡んでくるんじゃないかと思ってます。
分散テクノロジーにキャッシュポイントはつくれるか?
栗元:分散テクノロジーって究極の理想を実現すると、なかなかキャッシュポイントがないじゃないですか。でもビジネスでやるとしたら、どこかでキャッシュポイントを作らなきゃいけないですよね。それでキャッシュポイント作ると、次にキャッシュポイントなくした人たちが出てくると思うんです。どのタイミングでどうキャッシュポイント作ってどう勝負するのがいいのか、福島さんのお考えあれば教えてください。
福島:結局、適切なコストを適切に誰に払わせるかみたいな話だと思います。ブロックチェーンって公共財とか政府みたいなものだと思っているんで、税金的に徴収するようになると思うんですよ。
たとえばフリマのアプリとかって手数料取っているじゃないですか。でもいくらの手数料が適切かって分からないじゃないですか。でも適切な手数料ってあると思うんですよね。それに落ち着かせるようなインセンティブ設計にするっていう感じですね。
イーサリアムも現在のマイニングで勝った人に報酬が払われるPoWの仕組みから、持っているトークンのシェアによってその手数料の分配がちゃんと決まってくPoSに移行してこうみたいな動きがありますよね。賛否もありますが。
少なくとも今後は、価値の移転だけを示すのはメインチェーンというかある種のパブリックなチェーンで行われ、それにペックされたサイドチェーンみたいなところで自由な経済圏が生まれてくる流れになるんじゃないかと思ってます。
そしてそのサイドチェーンのガバナンスを提供するっていう仕組みに対して、手数料が入ってくるようなビジネスモデルになってくんじゃないかなと。
栗元:仕組みを回している中でそこに乗っかってくる人たち皆が腹落ちするような、まさに税金的なものになれば永続性のあるビジネスになるんじゃないかと僕も思っています。
福島:おそらくそういった手数料とか報酬をさらに安くするのは難しいと思うんですよ。逆に高くしようとする人は競争に負けてしまうので。だから適切な手数料っていうのをみんなが探ってくんじゃないかなと思っています。
(おわり)
→このインタビュー前回まで記事を読む「Proof of Talk #01 LayerX 福島良典×Nayuta 栗元憲一×グラコネ 藤本真衣」
インタビューイ・プロフィール
福島良典(ふくしま・よしのり)
株式会社LayerX 代表取締役社長
1988年生まれ、愛知県出身。東京大学大学院工学系研究科修了。大学院在学中に「Gunosy(グノシー)」のサービスを開発し、2012年11月に当社を創業、代表取締役に就任後、2013年11月代表取締役最高経営責任者に就任。同社は創業より約2年半というスピードで東証マザーズに上場、2017年12月には東証第一部へ市場変更する。2018年8月よりブロックチェーン領域の技術開発のために新たに設立した、Gunosyの子会社である「株式会社LayerX」の代表取締役社長に注力するために異動。2012年度情報処理推進機構(IPA)「未踏スーパークリエータ」。2016年にはForbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出される。
栗元憲一(くりもと・けんいち)
株式会社Nayuta 代表取締役CEO
福岡市出身。先端SoCの開発やLSI開発のためのEDAソフトウェアアルゴリズム研究などに十数年取り組む。2011年からAndroidとハードウェアを組み合わせたソリューションを開発している。2011年 google developer day の developer sandbox採択。著書に「FPGAキットで始めるハード&ソフト丸ごと設計」がある。
Proof Of Talkについて
「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。
記念すべき第1回は株式会社Gunosyの創業者で8月1日にAnyPay株式会社とブロックチェーンに特化した合弁会社 株式会社LayerXを立ち上げた福島良典氏と、ブロックチェーンとIoTに積極的に取り組む 株式会社Nayuta 栗元憲一氏のトークセッションをお届けします。
(編集:設楽悠介)