IT企業の役員を経て政界に飛び込み、2011年統一地方選挙にて27歳で初当選し、神奈川県政史上最年少議員となった中谷一馬氏。彼は現在立憲民主党衆議院議員として活動しながら、自身の経験を活かしてテクノロジーを推進するデジタルネイティブ世代の政治家だ。前回のインタビューでブロックチェーンの発展のためのアクションについて語っていただいた中谷氏に、政治家を目指した理由、そして政治とテクノロジーの可能性についてきいた。
貧困で苦しんだ僕は、世の中の矛盾を変えたかった
−なぜ政治家の道に進もうと考えたのですか?
自分自身が貧しい生活をしていたことが原点にあります。僕が小学校の頃に両親が離婚し、母子家庭で育ちました。母親は家庭を支えるために頑張って働いてくれていたんですが、無理が祟りある時期に身体を壊してしまったんです。それで生活保護を受けることになりました。
その時、子どもだった僕は、ただ無力で、母の代わりに働きに出て家計を支える力はありませんでした。
中学を卒業してすぐに社会に出るのですけど、中卒で働き先を探しても全然うまく行きませんでした。それで挫折してしまった僕は、やんちゃ坊主のリーダーをしていたことがあります。今考えると若気の至りで恥ずかしい限りですが、そのころはそういったコミュニティに身を置く選択肢以外に進むべき道を見出すことができないほどの閉塞感がありました。貧困の問題に自らが直面し、そこからなかなか抜け出すことのできない歯がゆさを常に感じていたからです。そしてそういったことをリカバリーする制度が整っていない、まだまだ世の中にはたくさんの問題や矛盾があると幼少期から青年期にかけて僕は痛感したんです。
でも文句を言っていても仕方がない、どうすればそれを正していけるのかを考えるようになりました。それで世の中のルールや制度、それに対する予算をつけている政治を変えたい考え、僕は政治の道を志すようになりました。周りの友人には、「中卒で政治家になんてなれるわけがないだろう」、「まず高校行けよ」と言われ続けました。
それでも、僕は、諦められませんでした。「現状に屈するのか、未来を拓くのか。全ては、自分自身の行動が未来を決める」、そう自分に言い聞かせ、一念発起をして通信制高校に通い、21歳の時に卒業することができました。
しかし、その当時、僕は政治家になるにも、お金がなかったんです。そこで飲食店を立ち上げ、お金を貯めることにしました。その仕事を通して色々な人と出会いました。そしてそこで出会った国光宏尚さんとアットムービー・パイレーツというスタートアップを立ち上げました。ちなみに後にその会社は、gumiという会社に社名変更し、東証一部に上場することになります。
そんな経験を経て私は24歳の時に菅直人さんの秘書となり、本格的に政界で修行をはじめました。その後、菅さんが総理大臣となる2010年6月まで支え、地元横浜で神奈川県議会議員に立候補して当選し、現在は衆議院議員として活動させて頂いております。
デジタルネイチャー時代の政治家の使命
−政治家となった中谷さんは、どのようなことを実現したいと思っていますか?
僕は使命として、世の中の貧困と暴力を根絶したいと思っています。一言で言えば”世界平和”を実現したい。ずいぶん大きな話だと思うかもしれませんが、一人ひとりの人間の生活が豊かになる経済政策をしっかりと進めることができれば、貧困や暴力は減っていき、世界平和を実現できると思っております。
ではどのように多くの人が豊かになる経済政策を進めることができるか、その鍵となるのは、テクノロジーを健全に育てることだと思います。僕たちの世代は、デジタルネイティブ世代の政治家の走りです。そしてやっと僕らの世代が政治家として前線で戦えるようになってきたわけです。
まさに時代の変革期のテクノロジーを進化させ、社会のデジタル化を推進していくのは僕たち世代の使命だと思っています。
テクノロジーの発展とその弊害
−テクノロジーの発展は社会を良くすると思いますが、一方テクノロジーは社会格差を拡大する可能性も秘めています
その通りで、テクノロジーの発展はさらなる格差を生む可能性が有ります。テクノロジーは、基本的に進化していくものであり、それを止めようとしたとしても結果は不毛です。ただその発展の過程で、そこから得られる恩恵は適正に分配がなされなければなりません。
例えばテクノロジーの発展で得た利益を一部の企業やその企業の一部の経営者や株主だけが多くを搾取してしまったら、社会が健全に機能しなくなります。
テクノロジーの恩恵をみんなが享受できる社会を作っていかなければいけない、だからこそ政治による適切なルール作りが大切だと思っています。
テクノロジーの発展に合わせた適切なルール作りの必要性
−テクノロジーによる格差を生まないために具体的にどのようなアクションが必要でしょうか?
テクノロジーの進化よる労働の変化に対応した、政策制度のあり方を真剣に考える必要があります。これから社会を生き抜くための基礎教養は大きく変化しています。まず僕たちがそういうリテラシーを持ち、その必要性を発信していくことからはじめます。
そしてデジタルデバイド層の方が、テクノロジーに触れる機会や能力を身につけられるような研修や教育をする環境整備が非常に重要だと思います。
理想を突き詰めれば、テクノロジーの発展によって、人々は労働することなく、自動的にあらゆる物の生産とサービスの提供がなされる社会が実現されるという可能性に繋がります。
しかしながら、そうした社会に移行する時には、苦労する人が出てくる可能性があります。なので、そうならないように政治・行政でそれをどこまでサポートできるのかというのは、まさに僕たちがどういう発信をして、どういう制度を作っていくのかにかかっていると思います。
少子高齢化が進む日本においては、ビジネス、教育、医療、福祉、介護、防災、農林、水産、ものづくりなど生活に関わるあらゆる分野において、新たなテクノロジーを活用し、その利益を一部の特権階級者が得るのではなく、全体が利益を得られる健全なデジタル社会の発展に向けて、僕も尽力していきたいと思います。
政治家として、ブロックチェーン発展のためにできること
−テクノロジーの発展の1つの大きな技術となりうるブロックチェーン技術の発展に関して、中谷さんは政治家としてこれからどのようなアクションをしていく予定ですか?
ブロックチェーン自体が、社会的に良い影響を与える可能性があると思っています。だからまずはこれがいいものだという世間に認識がされるような啓蒙活動や発信をしていきたいです。
具体的には現在でも世界にはユースケースが生まれつつあり、また日本でも多くの実証実験がされています。このようなものの中で良い事例を応援して、社会的な理解もしっかりと得られるような体制を国会の中でも作り上げて行くことだと考えています。
中央銀行のデジタル通貨発行の可能性
また個人的には中央銀行のデジタル通貨発行についての政策は進めていきたいと思っています。
例えばシンガポールでは紙の決済のシステムを維持するにはGDPの0.52%お金がかかるという試算が出ています。カナダの中央銀行の行員はデジタルカレンシーにしたら消費が伸びるというレポートを出しています。これらの可能性を日本も積極的に調査して検討していくべきだと思っています。
キャシュレス化は、金融政策的にも世界中で始まってくることなので、ちゃんと対応していかないと日本が不利になる可能性もあります。
逆算すると、10年後20年後むしろ世界が全体的にそういう時代になるんだから、今から研究してとりかかるべきだと強く思っています。むしろ50年後に紙幣の1万円札が一般的に使われているのかという方がイメージするのが難しい。
国家が信頼するもとでステーブルコインを発行するということに非常に価値があると思っています。それをすすめることができれば日本は金融政策でも強くなれると思っています。
僕はこれからも政治家の立場から、あたらしい金融の動きも推し進めていきたいと思っています。
←前回記事「ブロックチェーンの発展が世の中をよりよく変えると確信があるからこそ、政治家として今できることを前に進める〜衆議院議員 中谷一馬インタビュー(1)」はこちら
編集:設楽悠介/竹田匡弘
撮影:堅田ひとみ