NFT市場を牽引してきた「Dapper Labs」
ブロックチェーンを活用したトレーディングカードゲーム「NBA Top Shot」は、2020年末にサービスを開始して以来の流通取引総額が約400億円と驚くべき実績を生み出している。
この「NBA Top Shot」を開発・運営するのがブロックチェーン開発企業のダッパーラボ(Dapper Labs)だ。
ダッパーラボはNFTのファーストペンギンとして知られるクリプトキティーズ(CryptoKitties)を2017年にローンチした。まだブロックチェーンゲームが少ない当時、デジタルな猫の情報をNFTで表現しブロックチェーンに記録しながら、交配、トレードなどを行うこのゲームは大きな話題を呼んだ。
このクリプトキティーズの経験を生かし、ダッパーラボは前述の「NBA Top Shot」を開発した。
ゲームやエンタメ向けのブロックチェーン「Flow」
またダッパーラボのメンバーたちはFlowというブロックチェーンを開発した。Flowは新世代のゲーム、アプリ、そしてそれらを動かすデジタルアセットの基盤として設計されたパブリック・ブロックチェーンだ。
そもそもダッパーラボをイーサリアム上でこれまでゲーム開発を行なってきたが、スケーラビリティやGAS代高騰などの課題を感じ、その課題をクリアする新たなブロックチェーンを作ったわけだ。
現在Flowではダッパーラボのブロックチェーンゲームをはじめ、多くのゲームで基盤として利用されるようになってきている。
Dapper Labs「NBA Top Shot」プロデューサー ベニー・ジアン(Benny Giang)インタビュー
今回あたらしい経済はダッパーラボ「NBA Top Shot」のプロデューサーを務めるベニー・ジアン(Benny Giang)へ取材を行い、ダッパーラボやNFT市場に関する取り組みについて話してもらった。
ダッパーラボがNFTの可能性を信じ切れた理由
-ブロックチェーンゲームの分野で多くの実績をダッパーラボは残していますが、その理由は?
最大の理由は、ダッパーラボが人と人との繋がり、人の感情を大切にしてきたからだと思います。私たちは意識的に暗号資産の価格や市場動向を話してきませんでした。
私たちはユーザーの体験価値を第一に考えて、プロダクトを開発しています。例えばクリプトキティーズ(CryptoKitties)を開発した時は、日本の「たまごっち」を参考にしました。
私も子供の頃に「たまごっち」でバーチャルペットというとても楽しい体験をしました。その体験をクリプトキティーズに生かしたんです。
一方で「NBA Top Shot」のユーザーであるミレニアム世代は、父親や母親と一緒にバスケットボールや野球のリアルカードを買っていた世代です。その世代はカードのパッケージを開ける、その時ならではの嬉しさを知っています。
それはポケモンカードを買う時の嬉しさとも似ているでしょう。だから「NBA Top Shot」を開発した際には、そのような懐かしく嬉しい瞬間、つまりノスタルジックな瞬間を大切にしたいと思いました。
そのために私たちは数百時間かけて、NBAファン、スニーカーコレクターなどとコミュニケーションをとってきました。
また、私たちはクリプトキティーズを開発・運用の際に、暗号資産(仮想通貨)にも大きなコミュニティが存在していることがわかっていました。そしてそのコミュニティではクリプトキティーズに投資してくれる人がたくさんいました。
ただ、コミュニティに暗号資産系の人しか存在していなければ、可能性のあるNFTプロジェクトを構築することができないこともわかっていました。
だから私たちはユーザーとの対話に多くの時間を費やし、自分たちが作っているプロダクトに対するユーザーの理解とフィードバックを得ることにしました。
それらの努力が実って「NBA Top Shot」はデジタルカードでもファンの好奇心を掻き立てられたのだと思います。これは物理的なカードをデジタルカードに変えて表現するというような単純な話ではありません。
「NBA Top Shot」はNBA選手の素晴らしいプレーの数々をデジタルカードで表現しています。「NBA Top Shot」はファンがデジタルカードに求めるビジュアルとブロックチェーン技術を上手に組み合わせているからこそ、人々に愛されるプロダクトになったのだと考えています。
ダッパーラボはNFTブランドメーカー
-アメリカでのダッパーラボの評価はどのようなものでしょうか?
「ダッパーラボがおそらく世界で最も早く成長するテクノロジー企業の1つになるだろう」とアメリカNo .1スニーカーマーケットプレイスのStockXのCTOが言ってくれました。
彼の意見に対して、私は反対意見を持ちました。なぜならFacebook、Google、AirBnbなど名だたる企業が凄まじいスピードで成長した実績があるからです。
しかし後日、私は、なぜ彼がそのような意見を伝えてくれたかを考えました。きっとStockXのCTOは「ダッパーラボはNFTのブランドメーカーである」と伝えたかったのでしょう。
もう少し説明すると、アディダスがスニーカーブランドとして考えられているように、ダッパーラボはNFTブランドと捉えることができます。
ちなみにNFTはデータを活用するだけなのでその原価は、スニーカを作る原価よりはるかに安い。だから自ずと、利益率は高くなります。
私たちはNFTのブランドメーカーとして、NBA選手やNBAと協力して「NBA Top Shop」というブランドを確立しつつあります。
「NBA Top Shot」は24時間365日世界中の人が、いつでも取引できるマーケットプレイスです。そこにはデジタルカードを転売したり、購入したり、取引したりする人たちが存在します。
現在、ダッパーラボがNFT領域で世界最大の企業であるのは、私たちがNFTを製造し、独自のブロックチェーンを活用して流通網を作っているからです。
そしてそれだけでなく「NBA Top Shot」のNFTを買いたい人が何十万人もいることが明らかになっています。
なぜNFT関連企業が世界最大の企業になるポテンシャルを持つのか、その市場規模を正しく計算すればわかるはずです。
私たちのビジネスモデルは、デジタルアイテムを完璧に組み合わせたものになっています。
従来のゲーム会社のように広告モデルではなく、トランザクションモデルで収益が生み出されます。トランザクションモデルはECサイトに似ていて、規模としては従来のモデルの10倍、100倍の規模で、何度も何度もチャンスが訪れると考えます。
そして日本でも、私たちと同様に、メインストリームに向けたNFTを作ろうとする企業がもっと増えるべきだとも思っています
時代はソーシャルグラフからトークングラフへ
-NFTはどのような未来を作っていくと考えますか。
将来的に、私はほとんどの人や企業がNFTを作っていると思います。NFTを売っている人もいるでしょう。そして何千ものNFTを集めるコレクターも増えるでしょう。
そのような状況になったとき、大きな課題が発生すると思います。それは「NFTを作ることが、私たちの生活にもたらす価値とは何か」を分からなくなる人や企業が多くなることです。
そしてこの課題に対する私の答えは、NFTがどのように作られるべきかのプロセスを考えることだと思います。
つまり、人が他の人々とつながり、自分が持っているものを見せたり話したりできるような社会的体験を、どのようにしてNFTを活かして構築するかということです。
私がプレゼンテーションでよく話すのは、Googleのような世界最大の企業の話です。なぜGoogleがそんなに大きい企業になれたかというと、検索エンジンを作ったからです。
検索エンジンを通して、Googleはユーザーが何を入力しているか、何を検索しているかを把握することができます。そして、Googleはインタレストグラフというものを作ったのです。このグラフは、あなたがGoogleで検索したすべての事柄をつなぐものです。
Facebookも同様にソーシャルグラフと呼ばれるものを生み出しました。ソーシャルグラフとは、誰が友達の友達で、誰が高校の友達で、誰が小学校の友達で、誰がお母さんの友達かを表示して、みんなを繋げていくものです。
そして次の段階として、私はトークングラフが生まれると考えています。
トークングラフとは、人々がどのようなNFTを所有しているかを示すものです。そして、トークングラフは人々の間にどのような人間的な繋がりが生まれるのかを示します。
さまざまな人がトークングラフを通して繋がり始めるのは時間の問題だと思っています。
そうなれば「普段はあなたとは友達にならないけど、あなたが「NBA Top Shot」を使っているのを知っているから、友達になってもいいかもしれない」という人たちのネットワークができあがると考えます。それがNFTの次のフェーズであり、未来でもあると思います。
取材:竹田匡宏
編集:竹田匡宏、設楽悠介