日本のクリプトアートの先駆者 mera takeru
暗号資産・ブロックチェーン技術を活用したNFT(非代替性トークン)。リアルなモノや、デジタルデータと紐付けることで、固有の価値を表現できるという特性を持つこのNFT技術は、今年に入りブームといってもいいほど盛り上がりをみせている。
これまでNFTを牽引してきたのがブロックチェーンゲームとデジタルアートの分野だ。特にデジタルアートの分野では、NFTを活用してアート作品を発表・販売するアーティストのことを、暗号通貨技術を使うということになぞらえて「クリプトアーティスト」と呼ぶ。
今回「あたらしい経済」は、現在のNFTブームの前、2019年から日本でクリプトアーティストとして活躍しているmera takeru(メラ タケル)氏にインタビューを実施。既に数百点の作品を発表し、昨今はクリプトアートのコレクターとしても活躍しているmera氏に、どのようにクリプトアートの世界に飛び込んだのか、そして現在のNFTブームをどう捉えているかについて語っていただいた。
クリプトアーティストになった、きっかけ
−meraさんが暗号資産やブロックチェーンに興味を持って、NFTアート(クリプトアート)を作成しようと思ったきっかけはなんですか?
僕が暗号資産に興味を持ったのは2016年の終わり頃でした。当時はまだビットコインを持っておらず、そこからいわゆる「2017年の仮想通貨バブル」が訪れ・・・少しでも買っておけばよかったと後悔したことをよく覚えています。
初めはそんな投資目的がきっかけだったんですが、そこからビットコインやイーサリアムのブロックチェーンの仕組みについても興味を持ちはじめました。
そして当時流行り出していた「ブロックチェーンゲーム」にも惹かれていきました。元祖NFTゲームといってもいい「クリプトキティーズ」はもちろんですが、その後日本でローンチされた「マイクリプトヒーローズ」のプレセールにも参加しました。
そうして投資やゲームを楽しんでいるうちに、今度は自分で独自トークンを発行してブロックチェーンのサービスを提供したいと思うようになりました。まだ誰もやっていない新しいものを作ってみたい、そう思いながら2018年の半ば頃からその準備をはじめました。
そのサービスに関しては、トークンなどの発行も終えていたのですが、その頃から日本でも暗号資産に関する規制が整備されるようになり、開発も行き詰まってしまい、残念ながらローンチさせることはできませんでした。
それでも、暗号資産とブロックチェーンの領域にハマっていった2019年。ここで、今はもう無くなってしまったのですが、「エディショナル(Editional)」というサービスに出会ったんです。
エディショナルは自分の画像データをアップロードできるインスタグラムのようなiOSアプリでした。そして画像がアップされると同時に、OpenSeaにその画像と紐づいたNFTが発行できるという特徴がありました。
−エディショナルを使ってのNFT発行のガス代は、ユーザー負担だったんですか?
いいえ、エディショナルがNFT発行のガス代をプラットフォーム側が負担してくれていたんです。当時だからできたことだと思いますが、無料かつ発行制限もなかったので、ユーザーとしてはありがたかったですね。
そして画像をアップするユーザーは、1から50までのエディション数を自由に選んでNFTを発行できました。さらにその発行したNFTの1つ目は自身が所持でき、残りは早いもの勝ちで他のユーザーが無料で獲得できる仕組みになっていました。そうすると手に入れられなかった人が出てくるわけで、それでも手に入れたいユーザーがOpenSeaで値段をつけて買ってくれる、という独自のNFT流通のシステムが形成されていきました。
初めは自分で撮った写真をただただアップしていたんですが、だんだんと凝りたくなってしまい、その写真を加工したアート作品のようなものを発表するようになりました。それが僕がクリプトアーティストとしての活動のスタートでした。
−今あれば流行りそうなプラットフォームですね。お話聞いてると今のラリブル(Rarible)みたいに、使いやすそう。
そうなんですよね。当時は今みたいにNFTが流行っていなかったのであまり知られていなかったのですが、直感的に使いやすく革新的なプラットフォームだったと思います。
ただ先ほどお話しした通り、ガス代によるプラットフォーム側の負担が大きかったですし、現在のNFTの課題でもあるんですが、エディショナルもKYCを行わないプラットフォームだったので、著作権侵害の作品がどんどん上がるような無法地帯になってしまいました。そして結果的に閉鎖に追い込まれてしまったんですよね。
クリプトアートで世界に繋がる
−なるほど、そこからmeraさんのクリプトアーティストとしての活動が本格化して行くわけですね。
はい。エディショナルで作品をアップしていると、世界中のいろいろな人からコメントがもらえるようになりました。
「エディショナルで活躍するアーティスト10人」にも選んでいただけたりして、当時のクリプトアーティストのコミュニティに入っていくことになりました。そこでいろんなアーティストに出会い、お互いの作品を紹介しあったり、コラボレーション作品の制作などを手がけていったりしました。
−そこから現在に至るまで、いろいろな作品の発表の場が生まれていますよね。
エディショナルを使いはじめたのが2019年4月頃で、その翌月からSuperRareとか、KnownOrigin、MakersPlaceといった審査制の今では老舗といわれているNFTアートのプラットフォームにアーティスト申請をして、作品発表の場を広げていきました。当時の作品のクオリティは、今見ると恥ずかしいものばかりですが、逆に後々価値が生まれるのではないかという淡い期待もあるんです・・・(笑)。
このブームを一過性のブームで終わらせないために
−昨年後半から世界でもNFTアートへの注目が高まり、今年に入って日本でも一般のメディアが報じるなど、ブームといっていい状況になってきましたね。meraさんはどうお感じですか?
僕自身はNFTアートの未来をずっと信じてきたので、正直「やっと来たか」という感覚です。そして率直に嬉しいですね。話題になることで、間口が広がると思います。昔から僕のアートを買ってくださっていた方々にもメリットがあるし、僕自身も自分の作品に興味を持ってくださる方が増えるのはとてもありがたいです。
でも一方で、このブームを一過性のもので終わらせないようにしなければとも思います。ブームになると、どうしてもそれに便乗しようとする怪しい人達も増えてしまいます。少し前からはじめていた僕らには、新しく入ってくるユーザーをうまく導くことで、健全な市場に育てていかなければいけない、そういう使命感もあります。
それに日本にはたくさんの素敵なアーティストの方々がいらっしゃいます。そういった人たちにクリプトアートを知っていただくことで、日本の素晴らしいアートの存在をもっと世界に広められると思うんです。
そういったお手伝いをさせていただきたいと思い、現在、日本初の「クリプトアーティスト養成のための無料オンラインサロン」の開設準備も進めています。
また株式会社スマートアプリの日本発のNFTアートのマーケットプレイス「nanakusa」では、公認クリプトアーティストにレクチャーを行う特別講師も務めさせていただいています。
もっと日本を世界にアピールしたい
−作品作りで意識されていることはなんですか?
日本はやはり閉鎖的な島国ですので、固有の文化が世界にまだまだ知られていないことがたくさんあると思っています。クリプトアートはここまでお話ししたように簡単に海を越えられるので、そういった日本文化の要素を作品に取り入れることを意識しています。漢字一字と英単語を結びつけた「暗号漢字-CryptoKanji-」もその一つです。
あとは、もともと僕は音楽を長くやっていたので、ライブで生まれるハプニングみたいなものが好きなんです。自分で自分の作品に驚きたいというか。なので、「偶然性」というコンセプトも大事にして表現するようにしています。
最近、発表した「Note Fungible Token」というピアノの鍵盤88鍵すべてをNFT化したプロジェクトがあるんですが、OpenSea上で再生ボタンを押すと、一つの音が無限にループされるので、次々に鍵盤を再生していくことで偶発的に音楽を作ることができるんです。こちらのリンクが分かりやすいので、ぜひ一度触っていただきたいです。
−ちなみにmeraさんがNFTアートを買うこともあるんですか?
はい。最近は、コレクターとしての活動にも力を入れています。もちろん投資的な意図もありますが、ありがたいことに僕自身が世界のコレクターの方々にある程度認知していただけるようになったので、新しいアーティストさんの作品を買ったことを海外に発信することで、次の作品販売の機会に繋がってほしいという思いがあります。
−この先どのようにNFTは盛り上がっていくと考えていますか?
既に著名なアーティストもNFTに取り組みはじめてますよね。現在はまだアートや音楽の分野が多いですが、それに留まらず、もっと幅広い層に受け入れられるようなバーチャルとリアルを結びつける新しい活用方法が次々に生み出されていくと思っています。
そして先ほどお話ししたnanakusaやコインチェックさんもマーケットプレイスを日本でスタートさせました。そしてGMOインターネットさんも始めると先日発表されていましたよね。これからますます日本のプラットフォームの参入が進むことで、アーティストが売りやすく、コレクターも買いやすい、という理想的な環境が整うことを期待しています。
そうした中で、「いま自分に何ができるか」を常に考えています。ありがたいことに、大きな企業さんからお声掛けいただく機会も増えました。クリプトアートやNFT、ブロックチェーンを活用して、どんな新しいことができるだろうかと毎日ワクワクしています。
取材/編集:設楽悠介