パブリックブロックチェーンは、金融インフラになる(HashHub 平野淳也氏)

平野淳也

HashHub CEO 平野淳也氏インタビュー

HashHubはブロックチェーン・暗号資産業界では知らない人はいない企業だろう。2013年に業界に参入した平野淳也氏が2018年に共同創業したHashHubは、これまでリサーチ事業やコワーキング事業を展開し、日本の業界発展を下支えしてきた企業。そして今年新たな金融事業「HashHub Lending」をスタートさせた(正式リリース版は今夏予定)。

そんなHashHubの共同創業者兼CEOの平野淳也氏に、この業界の変化、DeFiが切り開く未来、そしてHashHubが目指すビジョンについて語っていただいた。

未来の技術が、すでに使われるアプリケーションになった今

−平野さんがブロックチェーン・暗号資産業界に入ってから今日に至るまで、どのような変化があったと感じていますか?

僕がこの業界に入ったのは2013年なので、もう8年前になります。正直、一言で説明するのはかなり難しいですね(笑)。

でもその中で一番大きな変化は、昔は「未来にビットコインというベースレイヤーが非中央集権的な”お金”になる」など未来の話ばかりをしていたのが、今はそれが既に使われているアプリケーションになってるという点ですね。

僕がこの領域に入った2013年前半は、ビットコイン以外にそれに似た構造で色々なトークンが作れるというような話が出てきた頃で、またイーサリアムはもちろん、イーサリアムのホワイトペーパーすら発表される前。ちょうどその2013年11月にヴィタリック・ブテリンによってイーサリアムのホワイトペーパーが発表された、そんな頃でした。

そのイーサリアムが、現在これだけ経済規模が大きくなっているのって、今改めて考えるとすごい話ですよね。

ネットワークの経済規模が、ビットコインであれば数十兆円、イーサリアムでも数兆円あり、これだけ開発者がいて、様々なアプリケーションがどんどん生まれてきている。それがたった8年の間かと思うと、感慨深いものがあります。

 −この8年の中で、平野さんの印象に残っている転換点はどの年ですか?

色んな観点によりますが、暗号資産の市場や価格という観点では、前回のバブルが起こった2017年と、昨年から今年にかけてが大きな転換点だと思います。

暗号資産の世界は何かのきっかけでバブルが起こり、そのバブルで暗号資産全体の時価総額が上がり、それで儲けた人が資産を投資できる余力が生まれ、次のバブルのネタが育てられていく。そういったサイクルが3、4年周期で訪れています。

例えば昨年からDeFi(分散型金融)バブルといわれてますが、それは2017年のバブルの資金流入を元にしているプロジェクトもあります。だから現在のバブルの資金がどこに入っていくか、それが3年後の何かになるかもしれないと考えています。

パブリックブロックチェーンが金融インフラになる

−では現在、平野さんが注目している領域はなんですか?

DeFiですね。もちろんNFTや分散型コンピューティングや分散型ファイルシステムなども重要な領域だと認識してますが、まず会社として注目しているのがDeFi。

僕はパブリックブロックチェーンが金融サービスのインフラになると確信を持っているんです。

DeFiやイーサリアムのパブリックブロックチェーンは、いわば金融インフラです。最近ではVISAがUSDC(イーサリアム上で動くサークル社の米ドルステーブルコイン)を取り扱うことになって話題になってますが、そのように金融サービスを提供している人たちが、裏でパブリックブロックチェーンを使う、という世界観ってすごく想像できるんですよ。

例えば昨年、中央集権的な米国の大手暗号資産取引所コインベースの売上高を、DeFiの一種、分散型取引所であるユニスワップが超えましたよね。なぜDeFiがCeFi(中央集権型金融)を超えることができたかというと、答えは流動性のアーキテクチャのような話に行き着くかと思います。

DeFiはノンカストディアルなことや、コンポーザビリティなども注目されますが、一番すごいのは「流動性がパブリックブロックチェーンにのっかっている」ことです。

パブリックブロックチェーンの流動性に誰でもアクセスができ、構造的には誰でもDeFiの取次業ができたり、サードパーティの金融サービスができたりするわけです。それは1つのサーバーに流動性を閉じ込められた中央集権取引所だとできないことですよね。

これがDeFiの1番の革新的な点です。今でも多くの開発者がパブリックブロックチェーンで多くのプロダクトを開発しています。

そして新しいプロダクト、強いプロダクトが生まれれば、流動性が流動性を呼びます。パブリックブロックチェーンの流動性はどんどん大きくなる。

そして金融の世界においては、流動性こそが全て。

流動性が高くなれば、みんなが低いコストで取引ができるようになる。

もちろん今のパブリックブロックチェーンの性能が、ベースレイヤーの性能で頭打ちしている部分もありますが、それは時間が経てば解決されることです。

このようにパブリックブロックチェーンが金融インフラとして利用されるようになる世界というのを僕は想像しています。DeFiというのはその大きな1つの動きだと考えています。

DeFiとCeFiは共存するのか?

−ちなみにDeFiが進むということはCeFiをディスラプトしていくような未来になるのでしょうか?それとも共存するんでしょうか?

DeFi側が既存の金融機関やサービスを全てディスラプトするというのは、まずありえないでしょう。それが僕たちHashHubがDeFiに注目していながらも、株式会社の形態で貸し暗号資産サービス「HashHub Lending」をやっている理由でもあります。

DeFiはプロトコルが中心にあります。そしてそれを運営するのはDAO(自律分散型組織)になっていく。それ自体は理想的なことかもしれませんが、それで全ての今までの金融機関の機能を果たせるかというと、そうではないです。

わかりやすい例を挙げると、例えばDAOになったとして、テレビCMを打ってそれで増えたユーザーに対してカスタマーサポートをする、みたいなことはできないわけですよね。

だから既存の金融と、DeFiが共存していく、顧客のフロントにいる金融サービス事業者が裏側でDeFiのプロトコルを使っていくような世界をイメージしています。

あらゆるアセットクラスの中で最もパフォーマンスが良いのが暗号資産

−今お話に出た「HashHub Lending」という事業を開始した理由を教えて下さい。

ビットコインが生まれてから今に至る12年を振り返ってみると、あらゆるアセットクラスの中で暗号資産が最もパフォーマンスが良いんです。そしてその資産が、単一の企業に紐付く株式でもなければ、国が発行する通貨でもない、新しいデジタルコモディティなんです。

ビットコインは無国籍通貨のようなもの。イーサリアムは新しいインターネットの裏側で動くデジタルオイル、もしくは通貨以上に色々な役割を果たす新しいコモディティと言っていいでしょう。

ビットコインやイーサリアムのように、これまでと圧倒的に違うアセットクラスが生まれてきた歴史期的転換点でもあったのが、これまでです。

そして次の10年は、この新たなアセットクラスがより多くの人に届けられるようになるべきだと考えています。

例えばこれからは、貯金6割、株式投資3割、債権投資や保険などが1割だった人のポートフォリオの中に、1〜2割は暗号資産が普通に「デジタルインフラの資源への投資」として含まれていくようになる。個人的にはもう少し比率が高くてもいいかなとも思いますが(笑)。

僕はこれからの10年で、資産形成の手段として暗号資産が間違いなく人々にとって必要になってくると確信しています。だからその資産形成、トレードで細かく売り買いして儲けるのではなく、ちゃんと長期的に資産を増やす、それに特化したサービスはあるべきだと考え、「HashHub Lending」を始めました。

そしてパブリックブロックチェーンは、今までのインターネットにはない公共性をみんなにもたらす技術です。

NFTのようにゲーム管理者だけに左右されない新しいゲームアイテムを作ることができたり、あるいは特定の企業や組織に属さない新しい金融インフラができたり、誰にも止めることのできないWebサイトができたり。

そういったことができる世界がこれからやってくるのは間違いないと確信しています。

そしてそれを支える資源として暗号資産というのが、確実にこれからより必要となるなわけです。世界が公共性を求めて進化する以上、暗号資産も成長するはずです。

その暗号資産で資産形成をしましょうという提案を皆さんに「HashHub Lending」を通じてしたいと思っています。

−HashHubのもう一つの大きな事業であるリサーチサービス「HashHub Research」はどのような位置付けでしょうか?

今国内でいくつかの有料リサーチサービスがありますが、規模としては僕たちの「HashHub Research」が最も利用いただけていると思います。

そして有料のサービスなので、しっかり値段相応あるいはそれ以上の価値を感じてもらえるサービスとして続けていきたいと思っています。

投資家や、しっかりと暗号資産・ブロックチェーン領域で事業を進めている人、そしてその開発者など、この産業に対して何かしらのリソースや資金を投資している人に向けてこのサービスを作っています。

そして僕たちHashHubもこの産業におけるプレイヤーの1社です。もちろんリサーチの読者のためにリサーチしているんですが、この未来の産業に賭ける自分たちのためでもあるわけです。

だから僕は「HashHub Research」を使ってくれている方々のことを、読者やユーザーという感覚で捉えていると同時に、一緒にこの未来の産業にリソースを投じている仲間であるという感覚もある面で持っています。

また現在本リリース前の先行受付版ですが、それでも多くの方に「HashHub Lending」を使っていただけているのは、リサーチ事業でのHashHubへの信頼があってこそだと思っています。

これからもHashHubはリサーチ事業で、広く信頼できる情報を発信し続け、金融企業としてもさらに信頼を得ていかなければいけません。リサーチ事業はそこに寄与する重要なコンポーネントの1つだと考えています。

そして「HashHub Lending」はHashHubの金融事業の第一歩です。僕たちは金融の分野で他にも実現したい事業構想が多数あります。それに向けて現在スタッフも増やして、どんどんと会社の規模を拡大していきたいと思っています。

−どのようなメンバーを増やしていきたいですか? 

リサーチャーもエンジニアも、アセットマネジメント部門も、マーケティング担当も、全般的に採用をしています。一緒に仕事したい人はクリプト・ブロックチェーンが好きな人がまず1点目。

そのうえで、それを土台にしたサービスで社会に価値を届けたい人というのが2点目。

加えて、それを世界標準のレベルで高いクオリティで実行・挑戦したい人というのが3点目です。 

あたらしい経済の読者は暗号資産・パブリックブロックチェーンが好きな人が多く、当社のリサーチャーやアセットマネジメント部門の潜在候補の人もいるのではないかと思いますので、そういった側面でもお話します。

この業界でリサーチャー・アセットマネジメント的な考え方ができる人は、チームで仕事をすることに躊躇している人も少なくないと理解しています。生々しい話をすれば、暗号資産の投資家の方で、まとまった金額、人によっては1~3億円ぐらいを円建てで持っている人って今全然少なくはないと思うんです。あるいは今そういった状況になくてもこれからそうなる自信があるという人もいるでしょう。

それぐらい資産を作れるリサーチ力がある方や、投資家として能力ある方は、その能力面ではぜひうちに来てほしいですが、それ「だけ」の人は採用したくないと思っています。 

これからもビットコインの価格は、僕たちがこの未来を信じているのであれば上がっていくはずです。そして今ある程度資産を持っている人ならば、自然と増えていくでしょう。

そうなった時、「あなたはその大きな資産を社会のためにうまく使える人間ですか?」というのが一番クリティカルな問いだと思っています。正直、それに「Yes」って答えられる人は業界を見ていてもとても少ないように思えます。 

これからの世界は、10億円を持っている人より、10億円を社会にベクトルを向いてリスクテイクできる人、10億円を有効活用できる人の方が明らかに希少価値があるんですよね。そして投資家的な考え方をするんだったら、自分が希少な人間になるシナリオに賭ける方が、投資判断としては明らかに正しいんです。

暗号資産の世界にいれば、10億稼ぐことは想像の範囲だと思います。だけどその資産をうまく使える人間になれるかどうかは本当に難しい。 

HashHubで本気で仕事をしたら、それができるようになるんじゃないかと私自身も思っていますし、HashHubをそういうことができる場にしたい。こういった考え方に共感していただける方と働きたいと思っていますし、そういう人たちと成功を分かち合える会社作りをしていきたいです。それは個人としてブロックチェーンのリサーチャーや暗号資産のアセットマネジメントをしているだけでは出来ない当社の仕事場の価値です。

もちろん暗号資産で稼げる人が採用の主ターゲットではなく、これは一側面です。ただし、これはリサーチャーやアセットマネジメント部門の潜在候補者に対してよく考えていることですし、自分自身にも思っていることです。

HashHubでは私たちのビジョンや事業の考え方に共感してくれる様々な人からの応募をお待ちしています。

−ありがとうございます。HashHubをまずこれから5年後、どういう会社にしたいと考えていますか?

僕が一緒に仕事をするメンバーに「人生の基準を上げましょう」と言っています。それは仕事の質、目標の目線、いかに経済的成功を収めるか、あと仕事以外の家族などプライベートの幸せも追求しましょう、と。

もちろんそういった基準は人と比べるものではないかもしれませんが、HashHubで仕事をする全員に、自分の人生の基準がとても高い状態にあると自信をもっていて欲しいと思っています。

そういうふうに働いてもらい、その上でみんなで世界標準のプロダクトを作り出せる会社にしたいですね。

そしてこの会社の製品やサービスを使うことが、社会にとって良いことだとユーザーに思ってもらえるようになりたいと思っています。

例えばテスラを見ていてそう感じます。テスラのユーザーやそれを宣伝するYouTuberは本当に気持ちよく自信を持ってテスラを紹介しているように感じるんです。ブランドもかっこいいし、化石燃料でない電気で走るので地球や人類にとっていいサービスだ、と紹介されています。

社会にとって貢献価値のあることが、これからの企業やそのサービスでは重要です。

例えば日本の企業でも、ハチドリ電力という会社があります。ハチドリ電力はまず再生エネルギーが100%、実は一部再エネを取り入れている会社は多いんですが全部というのは珍しいんです。

そしてユーザーがハチドリ電力に加入するときに「どんな地球の社会的課題に対して貢献したいか」が選べるようになっており、ユーザーの使った電力の売上の一部が、その社会的課題を解決しようと活動しているNPOやNGOに寄付されるというサービスを展開しています。この会社は、売上を一切広告費などに使わずに、しかし口コミでどんどんとユーザーを増やしているそうです。

顧客へ高いロイヤリティを生み出している企業だと感じます。

これらは一例ですが「このサービスは10年後20年後の人類にとってあるべきだ」と思ってもらえるようなサービスを提供する会社になることが、まずこの5年の目標です。 

そしてレンディングサービスだけではなく、パブリックブロックチェーンを活用した、さまざまな金融サービスを展開していきたいと考えています。

関連リンク

→採用情報(公式サイト)

→HashHub Lending

→HashHub Research

 

取材/編集:設楽悠介・竹田匡宏
写真:大津賀新也

この記事の著者・インタビューイ

平野淳也

株式会社HashHub 共同創業者兼CEO
起業家。服飾事業を売却、2013年にビットコインに関心を持ち、ブロックチェーン業界に。2018年にHashHubを共同創業。2019年にCEOに就任。

株式会社HashHub 共同創業者兼CEO
起業家。服飾事業を売却、2013年にビットコインに関心を持ち、ブロックチェーン業界に。2018年にHashHubを共同創業。2019年にCEOに就任。

この特集のその他の記事

パブリックブロックチェーンは、金融インフラになる(HashHub 平野淳也氏)

HashHubはブロックチェーン・暗号資産業界では知らない人はいない企業だろう。2013年に業界に参入した平野淳也氏が2018年に共同創業したHashHubは、これまでリサーチ事業やコワーキング事業を展開し、日本の業界発展を下支えしてきた企業。そして今年新たな金融事業「HashHub Lending」をスタートさせた(正式リリース版は今夏予定)。

暗号資産/ブロックチェーン・リサーチャーという仕事(HashHub 平山翔/indiv 氏)

HashHubの平山翔氏。indivという名称で業界内でご存知の方も多いだろう。以前から個人ブログや暗号資産特化のリサーチコミュニティ「TokenLab」を運営してきた平山氏は、2019年にHashHubに入社、現在はHashHubの主要事業の一つである「HashHub Research」をヘッドオブリサーチという立場で牽引している人物だ。

個人をエンパワーメントしたい、その想いでプロアスリートからブロックチェーン・エンジニアに(HashHub 白井俊太氏)

元パルクールの世界大会にも出場した選手であり、その後Webエンジニアを経てブロックチェーンエンジニアになるという異色の経歴を持つ白井俊太氏。2018年にHashHubへ社員1号として入社した白井氏は、リサーチサービス「HashHub Research」のリードエンジニアと会社全体採用責任者を務めている。

証券会社から暗号資産業界へ、転身のワケは「ビットコインやイーサが あたりまえ の世界が来るから」(HashHub COO/CIO 川浪創氏)

大和証券グループ・クレディセゾンの子会社Fintertechで、日本で唯一の仮想通貨担保ローン事業を立ち上げた川浪創氏が、今年5月HashHubのCOO/CIOに就任したことは業界内で大きな話題となった。新たな活躍の場を暗号資産専門企業に移した川浪氏は、これまでの経験、知見を生かし「HashHub Lending」事業に注力するとのことだ。