SNS「mixi」やスマホアプリ「モンスターストライク」(以下、モンスト)の開発に従事し、株式会社ミクシィ 執行役員CTOの村瀬龍馬氏にゲームエンジニアとしてのブロックチェーンの可能性や、ゲームの発展の可能性について語っていただきました。
村瀬龍馬がゲームプログラミングに興味を持った理由
−ブロックチェーンのお話の前に、まずは村瀬さんについて質問させてください。どのようなきっかけでゲームやプログラミングに興味をもったのですか?
初めてプログラミングに興味を持ったのは高校生の時でした。当時MMO RPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)にハマっていて、その世界の中で出会った人たちの多くがプログラマーだったんです。そこでどういう風に学べばゲームを作れるのかを、当時その人たちから教えて貰ったのがプログラムを勉強し始めたきっかけでした。そして勉強していくうちに自分でもゲームを本格的に作りたいと思うようになりました。
それでゲームの専門学校に入学したんですが、授業のスピードに満足できなかったんです。その頃はプログラミング自体に魅力を感じていて、一刻も早く仕事でプログラミングがしたいと思っていたので、その学校を辞めて2005年に「イー・マーキュリー」(現ミクシィ社)に入社しました。SNSの「mixi」が始まって1年ぐらい経った頃でした。
当時はSNS「mixi」の開発に関わっていました。とても楽しかったんですが、やはりゲームの技術が好きでその知識をさらに深めたいと思って退職し、とある出会いがあり「KH2O」というゲーム会社に取締役として入りました。その会社ではその頃ではまだ今ほど広まっていなかったUnity というゲームエンジンを使ってゲームを開発していました。残念ながらその会社ではゲームを出すことができなかったのですが、その後また違う縁があり、京都の「Q-games」というゲーム会社に転職しました。
ゲーム業界の優秀なエンジニアたちと仕事をすることで、自分のスキルを高められたと思っています。その後、改めてミクシィに戻りました。モンストのリリース直前の頃でした。
モンストは特に広告を打っていないにもかかわらず、口コミでどんどんユーザーが増えていきました。テレビCMも打とうと思っていたんですが、今やったら確実にサーバーが耐えられないことがわかるほどだったので数ヶ月先延ばしにして急遽負荷対策を行いました。うれしい悲鳴でしたね。
スマホゲームに感じた可能性
−村瀬さんはPCゲームからスマホゲームの開発にキャリアを進めてきていますが、そもそもPlayStationなどの家庭用のコンシューマーゲームの開発をする方向性は考えなかったのですか?
コンシューマーゲームは好きですが、当時からインディゲームからスマホゲームの方に魅力を感じていたので、そちらには進まなかったです。
コンシューマーゲームは開発に大変な時間がかかってしまいます。大規模なコンシューマーゲームだと製作に長くて5年ぐらい、つまり5年先を見て開発しなければいけない。しかし5年も経てば次々と新しい技術が出てきて時代が変わります。新しい技術や表現を取り入れ、いち早くユーザーの反応を見たかった当時の私にとっては、その部分が引っかかりました。
今だったらゲームエンジンや成熟したライブラリのおかげで、大規模なものでも開発時間を早くすることもできると思いますが、それでもやはりスマホゲームに比べれば時間がかかると思います。
また、ミクシィでSNSの開発などにも関わったことで、自分はやっぱり技術を通してコミュニケーションの場を作り出すことが好きだということに気がついたんです。
みんなでコミュニティを作って盛り上がることで、ゲームはもっと楽しくなると思ったのです。
一人でゲームをしていると、時間という人生の資産を浪費してしまっているような、可処分時間をどんどん短くしている意識になってしまいます。でもそこにコミュニケーションが加わると、途端にゲームが有意義なものになると思います。さらにスマートフォンの登場で、よりゲームが気軽にできるようになり、コミュニケーションの幅も広がっていると思います。
ここ数年でスマホゲームは急速に発展していて、現在ではコンシューマーゲームとほぼ同等のものが作れます。また一方では、ARなどの最新技術を取り入れた「ポケモンGO」のようなスマホゲームも出てきたりしています。
技術の組み合わせとそのタイミングは、とても重要だなと感じています。そのタイミングに柔軟に対応できるのも、スマホゲームの魅力ですね。
モンストのエンジニアはブロックチェーンゲームをどう見るか?
−ゲームエンジニアの立場からブロックチェーンゲーム(Dappsゲーム)についてはどのように感じていますか?
現在のDappsゲームの多くは、ゲーム自体を楽しむというよりは、ゲーミフィケーション的な要素を使ってトークンを得ていく、つまり資産を得るための活動という要素が強いものが多いと思っています。もちろんまだ初期段階だと思うので、その部分は今後落ち着いてくるとは思いますが。
ただ、それは完全な分散型アプリケーションとは違って、あくまでビューアという中央にあるものがあって、しかもそれが現在だとモバイルアプリとしてモバイルプラットフォームに乗っているのは間違いありません。ですから、それにどのくらい価値を出せるかというのはIP やゲームの面白さが重要になってきますね。
理想を言えば、ゲームが魅力的になって、さらにゲーム内のIPも人気になった段階で、初めて分散化した要素が加わっていくというのが良いと感じています。そもそもブロックチェーンを利用したゲームを作る側がルールを押し付けている状態だと、そのルールが楽しいゲームプレイの障壁になるのではないかと思うからです。
あとDappsに関しては、ゲームに限らずですが、UI/UXの部分はこれからの課題だと感じます。本当に今のものはわかりづらいです。Dappsのゲームをやろうとしても、いきなりウォレットのサービスを登録するところから始まることが多い。この登録障壁は結構高いですよね。
—エンジニアとしてブロックチェーンの技術に魅力は感じますか?
まずブロックチェーンのスマートコントラクトの部分と、トークンが発行できて価値の所有や移動ができる部分に魅力を感じています。私もスマートコントラクトをうまく利用したものは作ってみたいです。
あとトークンも魅力的です。ただそもそもそのトークンがパブリックなものなのか、それともゲームやSNSの世界の中だけで使えるものなのかによっても、いろいろな可能性の違いがあると思っています。
ブロックチェーンを使うといっぱい面白そうなことができそうなので、それが今実現可能なのか、それとも未来の話なのか、というような議論をもっとブロックチェーン業界のエンジニアとしてやっていきたいと思っています。
ブロックチェーンを使えば、ちゃんとしたゲーム資産の流通みたいなことも安心してできるようになると思います。たとえばトークンという形で権利を譲渡や貸与できて、それをトレースできて、プレイで活躍すると一次側にも協力という形で収益が入る、とか。そういった正しい二次流通のあり方みたいなことも実現できる可能性がありますね。
これからの時代、トレーサビリティは重要だと思います。つまり所有権の透明性ですね。だからブロックチェーンを使うことによって、ゲームのキャラレンタルとかアイテムレンタル時に所有権やその履歴がすべて正しくトレースできれば魅力的ですよね。
一般のゲームがブロックチェーンを利用する可能性
—今の一般のゲームもどんどんとブロックチェーンを利用していくようになるのでしょうか?
私のやっている一般のゲーム分野に実装していくのは、まだ時間がかかるのではないかと思っています。もしくはデータベースとしての分散台帳の技術だけを利用するようなことでとどまるのかもしれません。
また現在のブロックチェーンゲームを作っている方々は、よく非中央集権のメリットを強調されているように感じます。分散化しているから正しい!みたいな。
でも少なくとも現在は、ゲームのジャンルに関して中央集権であることの課題はそんなにないのではと私は思っています。そんなに今のゲームでみんな困ってないですよね。
確かにあくまで例え話ですが、モンストが急に来月停止しますとなったとして、ユーザーの方々がゲームで手に入れたあのキャラクターを自分の手元に残しておきたいと思えば、もしかしたら非中央集権の仕組みの方がいいかもしれないです。
ただ仮にその状況でトークンという形でキャラクターを非中央集権的に保持して残せたとしても、そのキャラクターを見るためのビューアは結局誰かが作らなくてはいけないわけです。そのためにはアセットを含め、いろいろなものをオープンにしていく必要がある。
だからゲームを非中央集権にするのと合わせて、オープンソースでビューアアプリなどを配布して、拡張できるようにして、デジタルコンテンツをプラットフォームに縛られない状態にすることが重要になりますね。
将来的にはブロックチェーンが広がっていくと思いますが、現在の多くのゲームが実装していくには、お話したようなブロックチェーン以外の要素も整える必要がありそうですし、まだまだ環境的にも時間がかかると考えています。
(第2回に続く)
編集:設楽悠介・大津賀新也