やはりトークン発行がWeb3の醍醐味、日本企業の挑戦をもっと成功させたい。マーケットメイク事業で目指すこと(暗号屋 紫竹佑騎)

福岡の老舗Web3企業、暗号屋が目指すこと

福岡県未来ITイニシアティブが、福岡県を拠点にWeb3を活用し事業を行う企業へインタビューをお届けする連載企画。第3回は、福岡を拠点にブロックチェーン関連の開発やコンサルティングや複数の自社サービスを展開する暗号屋の代表社員 紫竹佑騎氏のインタビューをお届けする。なお取材は、福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センターにて実施した。

暗号屋 紫竹佑騎氏インタビュー

–現在までのキャリアと暗号資産との出会いについて教えてください。

ファーストキャリアはサイバーエージェントでエンジニアとして、7年間東京で勤めていました。その頃ビットコインを買ったほうがいいとイギリス人上司に勧められて買ったら、マウントゴックスの被害にあって、「ワールドビジネスサテライト」で被害者としてテレビ出演したのが、一連のクリプトとの出会いです(笑)。

そして当時からブロックチェーンそのものが面白いと感じ、サイバーでエンジニアをしながらずっと追いかけていたんですよ。そのうち友人から暗号資産取引所をやろうと相談を受けたんです。アンチ中央集権で生まれたビットコインを扱う取引所が中央集権的ってダメじゃん、そう考えてDEX(分散型取引所)を作りました。それがCTOを勤めた前職のMr.Exchangeという取引所。当時金融庁からみなし交換業者として認可を受け、営業していました。

福岡に移住したのはその時ですね。偶然僕以外のMr.Exchangeの他のメンバーが福岡県に住んでいたので、僕も合流しました。

Mr.Exchangeは1年半ほど続けていたんですが、金融庁の規制が厳しくなり、残念ながら営業を維持することが難しくなったんです。ただブロックチェーン業界には携わっていきたかったので、そのまま福岡で暗号屋という会社を立ち上げました。

–暗号屋ではどのような事業を展開していますか?

暗号屋をはじめた2019年ごろも、大企業さんからブロックチェーン開発に関するご相談を多数いただけていたので、まず当初はそれらの企業さんのブロックチェーン関連システムの受託開発やコンサルティングなどを多数行ってきました。

またそれと並行して自社サービスも開発して、複数ローンチしてきました。2020年には分散型流動性システム「Choja(チョウジャ)」を、2021年にはNFT所有者のみ視聴や閲覧が出来るデジタルメディアプロトコル「VWBL(ビュアブル)」をリリースしました。また福岡市実証実験フルサポート事業に採択されたIoTデータ取引基盤「PTPF™」を、ぷらっとホーム、ベースドラムさんらと協業で開発/実証実験を同年から開始しています。

九州電力グループ企業とバリデータ事業を

–まず開発やコンサルティングを行っているプロジェクトとして、どのようなものがありますか?

福岡/九州地域では、九州電力グループのQTnetさんとバリデータ事業の実証実験をこの1年ぐらい実施しています。

QTnetさんはインターネットサービスプロバイダーで、ネットが安定供給され、データセンターも持っている。つまりブロックチェーンのバリデータ事業を実施できる環境が、もうすでに整っているんですよ。そのQTnetさんからWeb3事業をしたいとコンサルティングのご相談をいただき、そうであれば相性のいい、ど真ん中のバリデータにしましょうと提案しました。

QTnetさんのインフラを活かし、私たちがサポートに入ってステーキング事業が運用できるようになると、グローバルで有名なステーキング事業者と同レベルのメニューを出せると思っています。

これから細かい部分を固めていくのですが、取引所やVCなど、暗号資産をたくさん持っている事業者さん向けに、国内もちろんグローバルに事業を展開していきたいですね。明太子の次はステーキングみたいに、九州の新しい産業として拡大していくことを目指します。

「Choja」とは? マーケットメイクの仕組みは?

–自社の事業である「Choja」について詳しく教えてください。

「Choja」は中央集権型の暗号資産取引所向けにAMM(オートマーケットメーカー)サービス、分散型の流動性供給するサービスです。個人投資家向けにはマーケットメイカーの一部になっていただいてトレードいただくサービスでもあります。

まずこのマーケットメーカー/マーケットメイクについて説明しますね。ユーザーが取引所でトレードするときに売りたい人が売りたい時に売れて、買いたい人が買いたい時に買えるっていう、いわゆる交換しやすい状態、これが流動性で、この流動性を提供する事業者のことを主にマーケットメーカーと呼びます。

例えば今100万円のトークンがあったとしたら100万100円と99万9900円みたいな、売りと買いの注文を両方出しておいて、今の市場価格ぴったりでは買えないけどちょっと高く/安く売り買いできるという状態をキープします。このスプレッドという、売りと買いの幅、これが安く買って高く売るという注文になるので、これがずっと繰り返されるとスプレッドがマーケットメーカーの収益になるという仕組みです。

注文には、メーカー(注文を出しておく)とテイカー(その注文を取る人)の2種類あるんですが、基本的にはメーカー注文しか出さないのが、文字通りマーケットメイカーです。簡単にいうと暗号資産の売り買いの品出しを行って、その差額の収益で儲けるみたいな仕事ですね。

ただ一応補足しておくと、マーケットメイクは必ず儲かるわけではなく、リスクもあります。要は安く買って高く売る、もしくは高く売って安く買い戻す、この二つが利益になるので、価格が一定期間で上がったり下がったりを繰り返せば収益が得やすいです。しかし例えば価格がずっと上がりっぱなしだと、売り続けて買い戻せない状況が続き、損失が出ることもあるんです。

暗号資産取引所やトークン発行企業は、自己資金でマーケットメイクをするか、外部の事業者に依頼するのが一般的です。ただそれを一つの事業体ではなく、個人投資家の資産を集めてプログラムで行うようにしたのが「Choja」です。

個人向けにはボットを使って流動性提供しマーケットメークすることで、それによる収益を得られるサービスです。一方トークン発行企業側には「Choja」を採用することで、自己資金に頼ったり、事業者に依存したマーケットメークをしたりしなくてよくなるというメリットを提供できます。

おかげさまで「Choja」は2020年にローンチしてから、多くの個人投資家や事業者に活用いただいています。

マーケットメイク事業が目指すこと

–最近、暗号屋さんとして、マーケットメイク事業の開始も発表されていましたよね? それは「Choja」とは異なるサービスでしょうか?

はい、延長線上ではあるんですが異なります。私たちが「Choja」を提供していくうちに、超初期の流動性、つまり「Choja」を使っていただくより前の、トークンが上昇してから価格が安定するまでの、本当に初めの頃のマーケットメイクにもニーズがあることが分かってきたんです。

僕らが「Choja」を提供してきた過程で、流動性まで考えたトークノミクスや戦略を提案できるようになりました。それではじめは「Choja」を採用してもらうトークン発行企業さん向けのカスタマーサクセスの一環として提供していたサービスなんですが、今回正式に事業化した流れです。

上場直後の「超初期流動性」フェーズをはじめ、流動性が十分に確保されていないあらゆるプロジェクトに対して、アドバイスやサポートを提供します。具体的には上場直後からの流動性に関する戦略のコンサルティング、ホワイトペーパーの改善提案、ステーキング以外のトークノミクスの選択肢についてのアドバイスなどを実施します。

–このマーケットメイク事業で目指すことは?

現在日本でもいくつかの企業がトークン発行して頑張っていますが、あまりいい成果が出ていない事例も出てきていると感じています。このような状況が続くと、日本政府もWeb3を盛り上げるといっていて、さらに法人の税制も変わったり、IEOの仕組みを整備されたりしているのに、このムーブメントが冷めていってしまうのではないかと。そうなるのは長年この業界にいる自分としては本当にもったいないと感じているんです。

企業がトークンを発行して上場を目指すのって、Web3事業の大きな醍醐味の一つだと思うんです。トークン発行者をちゃんと成功させていくことでもっと、「トークン調達っていいじゃん」という選択肢にならないと、「普通に株式調達でいいんじゃないか、Web3でなくてもいいよね」となっていってしまうと思うんです。

そうならないように盛り上げることを、暗号屋としても少しでもサポートしたい。ちゃんとトークノミクスを組み込んだプロジェクトをもっと増やしていくことで、今一度Web3自体も盛り上げていきたいと考えています。

日本大企業、どう参入すればいい?

–日本の大企業もWeb3への参入が増えています。それらの企業がトークン発行などで参入する場合、どのようなサービスがいいと考えますか?

その企業ごとにベストな事業は異なると思いますが、前述したようにトークン発行にはまだチャンスがあると思っています。そして特にDePIN(分散型物理インフラネットワーク)領域のサービス展開、トークン発行は日本の企業にも可能性があると思います。

現在でもポイントなどのインセンティブを企業がビジネスに活用する企業は多いですよね。そのような形で、ポイントより価値が変動する、ある意味レバレッジの効くトークンの力を使う。トークンのインセンティブがある物理インフラネットワークの考え方って、すでに日本でさまざまなビジネスを展開している、顧客を持っている大企業に相性がいいのではないでしょうか。

––参加予定の第5回ブロックチェーンEXPO(秋)で、どういう方々と出会いたいですか?

EXPOではトークン発行を考えている企業さんには前述の通りトークノミクスの設計からマーケットメイクまでサポートできますので、ちょっとでも検討している企業さんがいらっしゃればお声がけいただきたいです。

またすでにトークンを発行している事業者さんにはマーケットメイクをできますし、取引所さんやVCさんにはステーキングサービスも提供できます。

またデジタルメディアプロトコル「VWBL」では、NFT/ブロックチェーンを使ってコンテンツビジネスやメディア事業を考えている企業さんのお手伝いもできると思います。

その他コンサルや開発もやっていますので、とにかくWeb3で何かやりたい企業さんと直接お話しできればと思っています(参考:第5回ブロックチェーンEXPO【秋】(1120日~22 幕張メッセで開催)の福岡県出展企業)。

インタビューイプロフィール

紫竹佑騎
合同会社暗号屋 代表社員
1986年生まれ、新潟出身。新卒入社したサイバーエージェントではエンジニアとしてゲーム、フレームワーク、動画メディア等の様々プロジェクトを担当し2017年に独立。後に福岡で仮想通貨取引所 Mr. Exchange を CTO として設立・運用を担当し、退職後はブロックチェーン事業に特化した合同会社暗号屋を設立。マーケットメーク事業やブロックチェーンを活用したプロトコルの社会実装を中心に、医療、アート、ゲーム等の分野で複数企業のブロックチェーンプロジェクトへのテクニカルディレクションや研究開発を行なっている。著書に「Web制作者のためのGitHubの教科書」

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福岡県未来ITイニシアティブは、「新しいITを生み出す人やITを活用する人とともに、より豊かに生活できる未来を創造する」を理念としています。福岡県には、ITを活用した製品・サービスの研究・開発を行う企業・エンジニア・大学等が多数集積しています。これらのITに関わるすべての人とともに、新しいITの創出と活用の促進、起業家やエンジニアが協力して挑戦を続ける環境づくり、未来のIT産業を支える人材の育成を行い、県内のIT産業の持続的な発展を目指します。

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取材/インタビュー/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:堅田ひとみ
取材場所:福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター

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これらのITに関わるすべての人とともに、新しいITの創出と活用の促進、起業家やエンジニアが協力して挑戦を続ける環境づくり、未来のIT産業を支える人材の育成を行い、県内のIT産業の持続的な発展を目指します。

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