三井住友銀行 金タソム氏のプレゼンテーション
本日のアジェンダは3つです。
トレードファイナンス(貿易金融)と貿易金融のソリューションの活用の考え方、貿易取引におけるデジタライゼーションが注目を浴びて盛り上がっている背景について。最後は本日の本題である「Marco Polo」についてご説明させて頂きます。
トレードファイナンス(貿易金融)のソリューションについて
まずトレードファイナンス(貿易金融)のソリューションについてです。弊行のトレードファイナンス営業部ではお客さまの貿易取引における様々なニーズに対する金融ソリューションを提案する仕事を行っています。
お客さまの様々なニーズというのは、自国と異なる国のお客さまと取引をするにあたって発生する色々なリスクのことです。
主にはカントリーリスクと呼んでいるものや、代金回収に関するリスクです。または自社の財務諸表の改善といったニーズや、近年に関しては業務の効率化です。
さらには新しい付加価値を生み出すデジタルの活用というところ。私たちは様々なニーズに対して金融ソリューションをお客さまに提案しています。それによってお客さまが安心して貿易取引を行うことができるようにサポートするのがトレードファイナンスの考え方です。
次はトレードファイナンス(貿易金融)に期待すること、そして効果についてです。
トレードファイナンスは、ただいま申し上げたような輸出取引に関する様々なリスクの回避、リスクヘッジといった保全の考え方のみならず、自国と異なる金融環境にいらっしゃるお客さまとの取引の中で金融としてのメリットを付加することによって、さらに取引を伸ばす、ビジネスを広げるといった前向きな営業ツールとして活用が期待されています。
どの立場にいらっしゃるお客さまに、どのタイミングでどういったソリューションが必要になってくるのかというのは、かなり様々です。
お客さまの立場としてはサプライヤーさまやバイヤーさま、またはエンドユーザーさまであったりします。また資金の調達、リスクの保全が発生するタイミングもお客さまの取引ごとに異なってきます。
貿易取引×デジタライゼーションについて
私自身ここ10年ぐらい国内と海外でトレードファイナンスの取引を行うお客さまの貿易のサポートをする業務に携わってきました。特にそのなかでも直近の3年に関しては、貿易の取引とデジタルを掛けたような業務に主に注力して参りました。
貿易取引のDXへの取り組みは、どちらかというと日本よりは海外の大手のお客さま、そして海外の大手金融機関のほうが日本に比べるとややスピーディで、かつセンシティブに反応されていたというのを感じていました。
一方で日本でも直近、特に今年に入ってからのコロナ禍のなかでは、不安定な世界の経済のなかで貿易取引におけるリスクをどのように回避するのか。
さらには、すでに今ではニュー・ノーマルになってきているテレワークのなかでの業務の取り組みをいかに効率化させていくのか。
さらに新しい付加価値によって新しいビジネスチャンスをどのように見つけていくのか。こういったところにおいて、デジタルの力とアイデアを借りようじゃないかというムードが日本のなかでもかなり高まってきています。お客さまからも、そのようなご相談を頂く機会が非常に増えています。
なぜ貿易取引の中で、このデジタルに注目しているのか。デジタル化についてなぜ、世の中や国内海外が盛り上がりを見せているのかについてご説明します。
こちらの図は従来の貿易決済における信用状の取引のフローです。この図をご覧いただきますと、非常に複雑な流れの中で、関係者が非常に多くいることがお分かりになると思います。
A国とB国の貿易取引のなかでは、これだけの関係者が発生していて、この人々の間の情報のやりとりというのは、従来では基本的には原本、そして紙ベースでの情報のやり取りをしてきました。
それを背景に長年貿易に関わっている特に企業さまは、こういった貿易の煩雑で、かつ膨大なペーパーワークをしなければならない業務(取引)を改善していきたいというニーズを非常に求められています。
近年はこういった問題を解決できるのが、新しい技術や、新しい形のプラットフォームや、ネットワークではないかという期待が集まっているということです。
そこで新しいテクノロジーとして、特にブロックチェーンに関する期待が高まっています。輸出者、輸入者それぞれの関係者、例えば船会社、銀行またはその通関です。
このそれぞれの間の情報のやり取りは基本的には紙ベースであり、相対のシステムを使っての情報交換が行われてきました。
こういったやり取りにブロックチェーンが活用され、リアルタイムに一気通貫で情報の共有ができるようになれば、どれだけ貿易取引の効率化がされ、スムーズにできるのだろうと考えられています。ここがまさにブロックチェーンに期待が集まっている背景です。
貿易金融プラットフォーム「Marco Polo」とは
そういった期待の元で開発を進めてきているのが「Marco Polo」という貿易のグローバルプラットフォームです。Marco PoloはR3のCordaを基にアイルランドのベンダーTradeIXを中心に、世界中の金融機関が集まって開発を進めてきた貿易金融のプラットフォームです。
Marco PoloはR3の分散型台帳技術であるCordaを基盤に開発されており、様々な貿易金融のプロダクツがご利用できます。
三井住友銀行では2018年にこのMarco Poloのコンソーシアムが正式に立ち上がったタイミングから邦銀としては初めて参加をしました。
当初の10数行から、最近では30以上の金融機関が参加した大きいネットワークとして広がっており、弊行としてもかなり力をいれて進めて参りました。
「Marco Polo」で利用可能なソリューションと導入の検討事例
このMarco Poloで実際ご利用いただけるアプリケーション、機能がどのようなものなのかご説明させて頂きます。
大きく分けて現時点では3つです。
Receivable Discountingという債権の買取によるファイナンスの機能と、Payment Commitmentという電子的な支払いの保証の機能です。そして最後にSupplier Payという所謂サプライチェーンファイナンスの機能です。
Receivable DiscountingとPayment Commitmentに関してはアプリケーションの開発は完了していまして、それぞれメンバー銀行による商用化のステージに入っています。
サプライチェーンファイナンス(Supplier Pay)に関しては、3つめの機能として年内に追加を予定している機能です。
他にも様々な機能はあるのですが、Marco Poloのネットワークの考え方としては、ひとつずつ追加して全ての機能をこのプラットフォームの中に載せようといった物では実はありません。どちらかというと繋がる、連携するというところがキーワードです。
主なこのトレードファイナンスの機能に関してはMarco Poloのなかでご利用頂きながら、お客さまの基幹システムERPの中にお持ちの取引のデータと繋げていったり、または船会社や保険会社が既に持っているデータベースといかに連携するかというところです。ここがまさにデータの利活用の世界になるのかなと考えています。
この様々なネットワークと繋げていくことによって、初めてMarco Poloがブロックチェーンをベースにしているメリットが最大になり、このプラットフォームの活用の拡張性が最大に活かせると考えています。
今申し上げたMarco Poloの3つの機能についてお話しをします。色で囲んでいるところが、まさに取引に関わる当事者とそのフローを表した図です。
白の箱ですが、このReceivable Discouting(売掛債権の流動化)は、基本的には輸出者とその取引銀行の2者間で取引が完結する機能です。バイヤーさまが海外の輸入者さまに対して持っている債権を買取することによって資金化をする。早急にファイナンスを得ることが出来るプロダクトです。
従来の業務では、エビデンスはコピーやPDFをとって申込書を紙で作成して提出頂くことによって取引をしていました。
今までは紙ベースで処理されていたものが、すでに輸出者さまがお持ちの請求のデータをプラットフォームの中に載せて頂くことによって、自動的に作成された申込書に基づいて銀行との間でペーパーレスで取引を行うという考え方になります。
次は二つ目の機能についてです。全体の青色の箱がPayment Commitment(支払保証)という取引に関わる4社全てが必要となる機能です。
こちらはデジタル決済ツールとしてユニークで面白いものでして、従来100年に渡って変わらない方法で取引をしてきた信用状の取引の将来の代替となります。その意味で国内海外で多くのお客さまのところで行われていた煩雑な紙ベースの信用状の取引の代替として、ご検討いただいている機能になります。
基本的にはオリジナルの書類に基づく保証と決済ではなく、輸出者輸入者さまが手元にお持ちの請求データと発注のデータ、さらには船積みなどのデリバリーに関わるデータ。
この3つのデータが自動的にマッチングすることによって、海外の輸入者さまの支払いを銀行が保証して、その保証に基づいてファイナンスも得ることができるという考え方のプロダクトです。
最後にピンクの箱にあるのが、3つめのSupplier Pay(サプライヤーファイナンス)です。プロダクトとしては、バイヤーさまが様々なところから原材料や部品を仕入れると思いますが、その際のサプライヤーに対するファイナンスのサポートを行うツールになります。
最後に
今回はMarco Poloについて簡単に説明しましたが、三井住友銀行では貿易分野のデジタルの取り組みとして、同じCordaをベースにしている「CONTOUR」や、欧州が中心のコモディティという特定のインダストリーにフォーカスしたプラットフォームである「KOMGO」にも正式に参加をしております。
背景としては、まだまだエコシステムも含めてお客さまのニーズがどこにあるのか、どのようにご活用頂けるのかがまだ過渡期であるというなかで、お客さまのニーズとお取引に合わせて必要なプラットフォームをご検討頂けるようなオプションをできるだけ用意できればと思っております。
マーケットのトレンドとお客さまのニーズに基づいて、マーケットをリードし、新しいソリューションがご提案できるようにして参りたいと思います。
本日はありがとうございました。
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登壇者プロフィール
山田宗俊
SBI R3 Japan株式会社/ビジネス開発部長 。Cordaエバンジェリスト 日立コンサルティングにて金融機関向けITコンサルティングの経験を経て、2016年、エンタープライズ・ブロックチェーンCordaを開発するR3に、日本人社員第一号として参画。業務改善の視点を軸に、日本企業へのブロックチェーン導入を推進。R3 Cordaを活用したビジネス開発における第一人者。2019年からは、R3とSBIの合弁会社SBI R3 Japanにて、営業およびマーケティングの責任者として陣頭指揮を執る。FLOCブロックチェーン大学校では、ビジネスコースのクラス(金融・証券分野への応用)を担当。Mediumブログを通じて、ブロックチェーン情報を発信中。ブロックチェーン・イベントでの登壇経験多数あり。
金タソム
三井住友銀行/トレードファイナンス営業部/Trade Innovation Asia部長代理
2010年から10年間、東京及び香港で貿易金融及びサプライチェーンファイナンスの商品開発、日系及び非日系コーポレート向けマーケティング業務を担当。2018年より、貿易分野におけるブロックチェーンプラットフォームのプロジェクトを専担し、貿易取引のデジタライゼーションに関わる業務に携わっている。