遊んで稼げるだけじゃない、世界の誰かを助けられる「web3ゲーム」
シンガポールを拠点にグローバルでGameFiプラットフォーム事業を展開する「Digital Entertainment Asset Pte. Ltd. (DEA)」。同社は東証マザーズ上場企業のイオレ取締役会長の吉田直人氏と元テレビ東京の番組プロデューサーの山田耕三氏が創業した企業だ。
2018年8月に創業し、『JobTribes』をはじめとした暗号資産、NFTを活用したゲームをリリースしてきた同社は、今期半期決算で4,200万SGD(約39億円)の売上、利益で2,600万SGD(約24億円)という業績を発表し話題を呼んだ。また同社のゲーム内で活用できる暗号資産「DEAPcoin」は今年1月に国内暗号資産(仮想通貨)取引所「BITPOINT」に上場している。
今回「あたらしい経済」は同社Founder & Co-CEOの山田耕三氏を取材。起業の経緯や、同社が展開する『PlayMining』プラットフォームについて、web3ゲームの可能性などについて語っていただいた(インタビュー前編)。
ブロックチェーンはエンタメを変える技術
–web3領域で起業しようと思った理由は?
ブロックチェーンや暗号資産に興味を持ったのは2017年頃、私がテレビ局でプロデューサーとして様々な番組を制作していた頃でした。それは長年働いたテレビ業界に対し「ここは本当に面白いエンタメを作り出すベストな場所なのか」と悩んでいた時期でもありました。
そんな中ブロックチェーン技術のことを知り、これこそがコンテンツ、エンターテインメント業界を大きく変えるに違いないと感じたんです。この技術革新の中で、これまで私がやってきた「面白いコンテンツを作る」スキルが活かせるのではと。
当時はまだまだこの領域は技術的な話が中心で、クリプトキティーズが高額で取引されたという話題はあったものの、コンテンツやエンターテインメント×ブロックチェーンの話は本当に少なかった。
だからこそ「この領域はいけるぞ、私たちならもっとできる」と、共同創業者の吉田直人と2018年にDEAを起業しました。
–ブロックチェーンの中でもゲーム分野に取り組んだ理由は?
起業する前から吉田と議論して、「ゲームで遊ぶと暗号資産を稼げる」サービスを作る構想がありました。
ブロックチェーンやトークンの仕組みを使えば、それが実現できることは確信していました。それで『PlayMining』という複数のゲームとNFTマーケットプレイスが一緒になったプラットフォームを作ることにしました。
今は「Play to Earn」という言葉がトレンドになっていますが、当時はそんな言葉もなかった頃です。このプラットフォームにマイニングという言葉を使ったのは、ゲームで遊ぶことで、あたかもトークンをマイニングするよう稼げるというコンセプトからでした。
今振り返ると、私たちはかなりブームを先取りしていたのではと感じています。
『PlayMining』が生むエコシステム
–『PlayMining』のゲームでは、どのように遊んで暗号資産を稼げるのですか?
起業して初めにリリースしたゲームは、職業をテーマにしたNFTカードバトルゲーム『JobTribes』です。
このゲームは、プレイに応じてー定条件で報酬として暗号資産「DEAPcoin(DEP)」が獲得できる仕組みになっています。そして獲得した「DEAPcoin」でNFTを買ってクエストをこなし、報酬の獲得量を上げることもできます。その「DEAPcoin」でさらにNFTを買ってより強いプレイヤーを目指すこともできますし、 もちろん外部の暗号資産取引所で法定通貨に交換することもできます。
このようなゲームプレイに対して暗号資産のインセンティブのあるゲームを『PlayMining』の中でこれまでも数作リリースしてきました。そして今年、夏にかけて、オリジナルの新作タイトルを複数用意しています。
–「Play to Earn」の取り組みとしては、早い時期からスタートされていますね。
『JobTribes』をリリースしたのが2020年5月26日で、暗号資産取引所OKXへのゲームトークン「DEAPcoin」の上場は、その年の4月でした。
独自トークンを発行し、そのトークンが世界の主要取引所で流通し、ゲーム内でそのトークンが獲得できる、といういわば「Play to Earnトークン経済圏」を作り上げたのは、私たちが世界初だと自負しています。
海外からスタート、世界のユーザー属性
–海外で事業開始したのは何故ですか?
企業としてトークンを発行することの規制が明確だったこと、そして当初からワールドワイドでサービス展開を考えていたことが、シンガポールで起業した理由です。
『JobTribes』はリリース時から、日本語、英語、中国語に対応して世界に向けてローンチしました。そして初めにインドネシアで火がつきました。リリース後にすぐインドネシアの暗号資産取引所「INDODAX」に「DEAPcoin」が上場できたんです。「INDODAX」はすべての取扱通貨が現地のインドネシアルピアと交換できる取引所でした。
トークン上場したことで、私たちの思想の1つ「ゲームで稼いだお金で暮らすこと」が実現できる状況が、インドネシアで早期に揃ったことが要因だと振り返っています。
そこで私たちもインドネシア語をゲームに実装しました。そのためローンチ後の半年ぐらいは『JobTribes』のユーザーの約8割がインドネシアの方々でした。
その後東南アジアで「Play to Earn」ブームが訪れ、私たちのゲームも自然に注目してもらえるようになり、フィリピンやベトナムでもユーザーを伸ばしていけました。
2022年4月に調査した段階での『JobTribes』のユーザー分布は、ベトナムが33.68%、インドネシアが30.18%、フィリピンが22.5%、日本が8.83%、米国2.24、中国1.01%、残りその他の国々になっています。
日本のユーザー比率がまだ少ないのは、ゲームリリース時に国内取引所での「DEAPcoin」の取り扱いがなかったからだと考えています。そして今年1月、ついに「BITPOINT」で「DEAPcoin」が上場することができました。それから数ヶ月で、現在は日本のユーザー数もおかげさまで増加しています。
–国内で上場までの道のりに苦労はありましたか?
日本展開は当初からロードマップにあり、国内の各取引所と交渉を続けてきました。正直交渉は大変でしたが、そんな中「BITPOINT」さんが真っ先に取り扱っていただけて、本当に嬉しく思ってます。日本のユーザーからも「やった!逆輸入」と言ったように喜んでいただけました。
現在、日本の暗号資産取引所で上場している「Play to Earn」ゲームのトークンは、私たちの「DEAPcoin」のみです。次に続いて欲しいと思ってますので、この領域をより盛り上げるためにも私たちは責任を持って日本のユーザーに、素晴らしいGameFi体験を届けていきたいと思っています。
そして今後も国内外で「DEAPcoin」を取り扱っていただける取引所を増やしていきたいですね。
まずはゲームを楽しんでもらう設計
–トークン付与に関するの設計でこだわった部分はありますか?
一般的に多くのブロックチェーンゲームは、初めにプレイするために有料のNFTを購入しなければなりません。そのために取引所に口座開設して、暗号資産を購入して、ウォレットに移して、NFTを購入して、という手順が必要です。
このような手順は、正直多くの一般ユーザーにとっては簡単ではないです。このままだとweb3ゲームのマスアダプションは時間がかかってしまうと考えました。だから『JobTribes』では、煩雑な手続きをせずメールアドレス登録だけでゲームを遊べる、そして少額ですが暗号資産も稼げる設計にしたんです。
そのように入って来てくれたユーザーは、無料でゲームで遊んでいるうちに暗号資産に交換できるポイントが貯まることに気が付きます。そしてそのポイントを暗号資産に交換して受け取るために電話番号認証をしてウォレットを作り、それを外部に出金したいと思ったらKYC(本人確認)をする。入口からゲームを遊びたいユーザーの気持ちを邪魔しない、自然な流れを設計しました。
この仕組みもあってか、ローンチからものすごい勢いでユーザーを増やすことができました。
web3ゲームのユーザーをもっともっと増やすために、できるだけスムーズで分かりやすい仕組みを作ること。それは創業の頃から大切にしたいと思っているコンセプトの1つです。これから『PlayMining』でリリースする新作ゲームも、全て同様の設計にしていく予定です。
ぶっちゃけ、どのぐらい稼げるの?
–生々しい質問なのですが、ぶっちゃけゲームでどのぐらい稼げるもんなのですか?
『JobTribes』の場合、無料ユーザーは1ヶ月頑張ってプレイしていただいて200DEPぐらいです。ゲーム内に月に2回、給料日というイベントがあり、そこでDEPに交換できるポイントが付与されます。
一方、有料のNFTを購入いただいてNFTクエストをプレイすることで、より多くの「DEAPcoin」を獲得することができます。
大前提としてプレイの結果にもよるのですが、仮にかなり頑張っていただいて結果を出せた場合、6万DEP分ぐらいのNFTを購入いただいて月に18,000DEPぐらい、180万DEP分の最高クラスのNFTだと40万DEP以上が稼げる規模になります(報酬水準はシーズンにより変動します)。
ちなみにDEPは暗号資産ですので価格が変動します。現在の相場だと今1DEPが約1.6円です(2022/5/23時点)。
日本円だと少し物足りないと感じるユーザーさんもいるかもしれません。しかし東南アジアの国々の方であれば、仕事の代わりになるぐらい収益を上げているユーザーさんもいます。
ゲームを通じて、世界の誰かをサポートできる
–『JobTribes』はweb3ゲームのトレンドでもある、スカラーシップ制度を導入しています。それに可能性を感じますか?
『JobTribes』をはじめとして、『PlayMining』のゲームが無料でプレイできるとはいえ、ご説明したように効率的にディープコインを手に入れるためには、有料のNFTが必要になります。でもはじめからNFTを購入できる資金を捻出できないユーザーも多い。
スカラーシップ制度はそんなユーザーがスカラーとなって、他のユーザー(オーナー)からNFTを借りて、借りたユーザーの代わりにゲームをプレイして暗号資産を稼ぐことのできる仕組みです。
スカラーがゲームで稼いだ暗号資産は、そのNFTオーナーとあらかじめ取り決めた配分率でシェアすることになります。『JobTribes』では公式プラットフォーム上で安心してオーナーやスカラーを探すことができます。
現在『JobTribes』でスカラーとしてこの仕組みを活用してくれているユーザーは、東南アジア、特にフィリピンの方々が多いです。また日本でも高卒資格取得を支援する団体NPO法⼈「⾼卒⽀援会」がスカラーシップを利用していただいています。『JobTribes』での収益が、なかなかアルバイト先がみつからない学生さんたちのサポートになっているんです。
まだまだ一般的にゲームは「ただの遊び」だと認識されていると思います。ゲームばっかりしてないで、勉強しなさい、と私も昔から怒られてきました。
でもゲームでもお金を稼ぐことができるということが、ゲームに対する価値観を大きく変えてくれると思っています。
そしてただ稼げるだけではなく、例えばスカラーシップでオーナーになれば、東南アジアで仕事探しに困っている方々の雇用を生む、ということが個人単位でも実現したりするのです。
稼ぐだけでなく、世界中の困った誰かを助けることができる。スカラーシップ制度は持続可能な社会・経済活動に寄与する仕組みだと思っています。
これからも私たちはゲームとフィンテックが融合した持続可能な仕組みを拡大していき、GameFiのリーディングカンパニーとして、人々にweb3エンタメの新たな可能性を世界に広めていきたいと思っています。
(後編につづく)
関連リンク:「PlayMining」公式サイト
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取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
撮影:堅田ひとみ