この連載「Dapps(自律分散型アプリケーション)の可能性」ではブロックチェーンによって活用できるようになった「Dapps(自律分散型アプリケーション)」について様々な可能性を解説してきます。第3回では「Dapps」が活用できるビジネス領域と、社会への影響について解説します。
いろいろな領域で流行しつつある「Dapps」
前回の記事で「Dapps」のそれぞれの利用者としてのメリット/デメリットを説明してきました。ここからはどのような領域で「Dapps」が活用できるか、その可能性を説明していきます。
1)決済
上述したビットコインには中央管理者はいません。そのため、最も代表的な「Dapps」になります。現状はブロックチェーンのスケーラビリティなどでなかなか利用が増えていませんが、セカンドレイヤーの技術が進むに連れて、少額決済用途でも利用されていくことになると想定されます。
2)ICO
スマートコントラクトの仕組みを活用して、予め決められた条件でプロジェクトのトークンへの投資を募ることができる仕組みです。2017年度だけでも当時の価格で4000億円といった金額の投資がされることになりました。現在は法律や規制等の問題で一旦は下火になっていますが、ルールが整えば新しい投資手法として今後も検討されていくことでしょう。
3)DEX(取引所)
ビットフライヤーやコインチェックといった中央管理された仮想通貨取引所に対して、中央管理者のいない取引所のことをDecentralized Exchange=DEXと呼びます。BancorNetworkやIDEXといったプロジェクトが著名ですが、スマートコントラクトを通じて、自動で処理が行われるため、セキュリティの高さに特徴があります。
4)個人情報管理
ブロックチェーン上の情報は公開されて永続的に記録されるゆえに、プライバシーや匿名性を持った上での個人情報の管理が必須です。uPortなどのプロジェクトではオフチェーンのウォレットで管理された個人情報を「Dapps」側から認証することで、中央管理されたサーバーではなく self sovereign(自己主権的)に個人情報を管理できるようになります。
5)ステーブルコイン
法定通貨と価値がペッグされたコインのことをステーブルコインといいます(例えば1$ =1トークンといったように)。現状「Dapps」としては、MakerDaoがDaiというステーブルコインを提供しています。法定通貨とボラティリティがない形で、「Dapps」で支払いができることになるため、利用用途の拡大が予想されます。
6)融資/マイクロレンディング
手数料や審査コストでできなかった少額融資については特に、「Dapps」の相性が良い分野です。例えばEthLendやDahmaProtocolなどといったプロジェクトがありますが、スマートコントラクトを通じて融資をすることができ、取引コストをかけずに処理を行うことができます。
7)保険
保険もdappsとの相性が良い分野です。例えば、Etheriscといったプロジェクトでは誰でもスマートコントラクトを通じて保険を作り、低い運営手数料で販売することができ、かつ透明性の高い運用を行うことができます。
8)ゲーム
「ブロックチェーンゲーム」などとも言われていますが、ブロックチェーンのデータの改竄耐性をもとに、コピーできないデジタルコンテンツをトークンとして発行し、その資産性とトーポータビリティを活かしたゲームが作られています。
特に有名なのがブロックチェーン上の猫を収集するCryptoKitteisというゲームアプリケーションです。ある猫については当時の金額で約1200万円の価格がオークションで付けられました。
ゲームで獲得した武器やアイテムがトークン化され、トークンの所有権が自分にあるからこそ別のゲームでも利用できるといった新しい世界観が作られていっています。
9)VR/AR
現代は現実と仮想が混ざる時代です。例えばTwitterのキャラクターでは実名でないアカウントと恋をすることもありますし、Vtuberなどもはやとらえどころのない存在も流行ってきています。最近だとエモモのようなVR空間上のアバターサービスも隆興を見せています。
もしVRに空間が作られ、今のSNSのように人格も別に持っていくのであれば、さながら映画「Ready Player 1」のOasisのように多くの時間をその空間過ごすようになるはずで、そうなると中央管理者のいない世界が求められていくはずです。
Decentralandといったアプリケーションでは、VRに向けてブロックチェーン上でアセットを提供することで、VRのプラットフォームを目指しています。
Dappsが社会に与える影響
ここまでは「Dapps」の活用が期待される領域について解説しました。ここからはその「Dapps」が社会に与える影響について説明していきます。
「Dapps」が社会に与える影響について、それを一言で言うと「企業や法人の必要性が薄れる」ということになります。
つまり、企業が「法人」という信用を利用して実施してきたことが、Dapps(スマートコントラクト)によって企業じゃなくても実施できるようになります。結果的に以下のことが起きていくと考えられます。
−個人の力が強くなる
サービスの提供にかかるコストがさがり、参入障壁が低くなるので、今まではコストの関係でできなかったサービスが提供できるようになります。またプライバシーを自分で管理し、適切なサービスを自らで選ぶ能力を取り戻します。
−法人といった概念の必要性が薄まる
いままでは「法人」を信じてきましたが、スマートコントラクトに書かれている「コード」を信じることになります。結果的に、法人に対して支払っていた「仲介コスト」や「保証コスト」がかからない直接的なやりとりへ移行していきます。
−法人にとって、独占的な利益を創出しづらくなる
データやロジックが公開され、オープンに利用できるようになるということは、web2.0の時代で一世を風靡した企業群の競争優位が失われて、独占的な利益を出しづらくなることを示します。
つまり、参入コストの下がった大量の個人との競争になるので、それはTVとyoutuberのような関係かもしれません。さらに、競争がより活発になるが独占できないので、より個々に分散されたニーズに答える必要があるようになっていきます。それは巨大企業が今までのようにやってくと非効率になっていくため変化を促します。
「Dapps」にまつわる懸念
多くのメリットが期待できる「Dapps」ですが、もちろん現段階において幾つかの懸念点はあります。ここからはその懸念について説明していきます。
まず「DApps」が拡大する上での一番の懸念は「スケーラビリティ」です。
現状では、スケーラビリティが不足しており、到底処理しきれません。特に元祖ともいえるetheruemではPlasmaやShadring/Casperなどといったスケーラビリティを改善するために日夜議論/実装がされていますが、現状まだ完全には実現はできていない状態です。スケーラビリティのソリューションが適切に機能することが待たれます。
また現在では、イーサリアムにとどまらずEOSなどのスマートコントラクトを有したブロックチェーンプロジェクトも続々と創設されております。
もう一つの懸念は、「実質は中央集権的なサービスがDappsを名乗ることが多い」ということです。
この背景には、完全に「Dapps」の実現はまだまだ難しく、ウェブサーバー等どうしても主体となる管理者が必要だったり、IPFSなどはまだまだ発展途上だったりといった問題に加えて、ユーザー側にとって実質的に中央管理者がいたほうが極度に自己責任にならず使いやすいということがあります。
更に、「法律的な整合性」との懸念もあります。「Dapps」は非中央集権であり、消すことのできない、止めることもできません。そのため、違法なアプリケーションが存在する場合に、通常であれば運営者が摘発されて停止されますが、止めることができません。
このあたりの違法な「Dapps」については利用者が逮捕されるといった形になると思いますので、法律との整合性というものの整備が進む必要があります。
「Dapps」を支えるもの、それが「トークンエコノミー」
前述のように懸念点はいくつかありますが、それらは技術の発展やルールが整うことで、将来は解消されていくことが期待されます。その上で「Dapps」を動かすのに大切なのが、トークンエコノミーです。
中央管理者がいないがゆえに、「Dapps」では、その仕組みを保つため、経済インセンティブが必要であり、そのためにトークンが利用されます。
そのトークンを保有し、トークンの価値を高めるように活動することで、「Dapps」の成功とともに、実質的な報酬をえることができるようになることこそがトークンエコノミーと呼ばれるものです。
この投資家/事業者/ユーザーが共通の目的を目指す形態は、既存の資本主義の形態よりもインセンティブが働きやすいため、資本主義の次なる姿として顕現しつつあるとみるのも面白いかもしれません。
←前回の記事「Dappsの特徴とそのメリット/デメリットを考察」はこちら
(編集:設楽悠介/竹田匡宏)images:iStock /bee32