これからのコミュニティの在り方と私たちのあたらしい働き方 / 「議論メシ」コミュニティデザイナー・黒田悠介インタビュー(後編)

黒田悠介

「議論メシ」コミュニティデザイナー、「FreelanceNow」発起人、ディスカッションパートナー、フリーランス研究家、「文系フリーランスって食べていけるの?」編集長などの様々な肩書きを持つ黒田悠介氏。彼は現在自身の運営するオンラインサロンコミュニティ「議論メシ」で1年以上前から独自トークンを発行し、独自のトークンエコノミーを築いてきた。そんな黒田氏にオンラインサロンのコミュニティ運営やトークンエコノミーの可能性について語ってもらったインタビュー後編。(→ 前編はこちら

会社とオンラインサロンの違いは?

−株式会社とサロンのようなコミュニティの間にはどのような違いがあるとお考えですか?

まずコミュニティの一種として株式会社があると考えています。そしてサロンコミュニティと株式会社が決定的に違うことは上場できるか否かと、株式発行できるくらいだと思います。

会社の組織がフラットになっていたり、逆にコミュニティも会社的なものになっていたりするので、あまり境目がないかもしれません。資金調達のしやすさが違うだけなので、資本集約型でレバレッジを効かせないといけない事業は、株式会社でやった方がいいと思いますが、そうじゃないことをやる場合にはコミュニティでもいいんじゃないかと思っています。

最近ではICO(Initial Coin Offering)やSTO(Security Token Offering)など、コミュニティにも資金調達の手段が増えてきているので、今後はさらに境目は曖昧になっていくでしょうね。

オンラインサロンがM&Aできるようになる

−黒田さんのサロンのようにコミュニティが独自のトークンエコノミーを作れるようになってきたこれから時代に、コミュニティにはどういう変化があると思いますか?

M&Aがコミュニティに適用されることがこれから出てくると思います。

そうなると、その時にデューデリジェンスをどうするのかという問題があると思いますが、

コミュニティにトークンエコノミーが入っていたら、トークンの流れによってデューデリジェンスすることはできると思います。メンバー全員の点をマッピングした時にいかにオーナーに集中していないかの分散度合いを数値化するなどの様々な評価手法が考えられます。

トークンの導入でコミュニティのM&Aのような概念がスムーズにいくようになる。それがコミュニティやサロン運営の出口の一つになりえるかもしれない。そういう意味でもトークンエコノミーに注目しています。

今までのコミュニティは、作ってその先に何があるのかがあまり見えていなかったと思っています。もちろんお金のためだけにコミュニティを作るわけではないですが、ただM&Aでイグジットするというような選択肢が出てくると面白いですよね。

そうなるとメンバーのコミュニティへの向き合い方も変わってくるはずです。イグジットした時にトークンの価値が上がるとしたら、サロンメンバーもストックオプションのような感覚で自分たちの持っているトークンの価値が上がります。全員がハッピーになれるので、コミュニティが活性化するはずです。

また市区町村をコミュニティに当てはめてみると、トークンエコノミーによってコミュニティが評価できることによって、トークンが回っているところには行政が積極的に助成金を出すなどの応用も考えられますね。

そして現在はWebサービスなどの評価も会員数で測られることも多いと思います。ただ一般的にWebの会員ってほとんどアクティブじゃないことも多いです。本質的には、ユーザーがストック化されていたとしても、そこにフローやトランザクションが存在するのかが重要で、それがトークンによって可視化され、評価されることもあると思います。

コミュニティの中でのトークンの考え方も同じで、ストックの観点でお金持ちになってもあまり意味がないんです。それよりもどれだけ価値の流通に貢献したかという方が重要です。ストックよりフローという考え方はこれからトークンのおかげで見えるようになると思います。

−黒田さんが企業とのディスカッションをする時も、コミュニティやトークンエコノミーの話題は増えてきていますか?

トークンエコノミーをどうするかというような話は増えてきていますね。しかし、多くの人々や企業がいきなり経済圏を作ろうとする傾向があるなと思っています。

それでトークンが回ることも投機的な要素があればあると思いますが、実は安定的に可動するコミュニティベースがないと経済圏を作っても形だけになってしまう。経済圏ができてその上にコミュニティ乗るのではなく、価値のあるコミュニティがあってその上に経済が乗るのが本来正しい方法だと思っています。

コミュニティは大きく2つに分けられる

−コミュニティを大きくするのに大切なことは何でしょうか?

まずそのコミュニティを大きくするべきかどうかという問題が最初にあると思っています。

組織にはその目的によって適切なサイズがあり、目的次第ではサイズ感が変わる気がします。全て大きければいいというわけではないです。

それを前提に置いた上でコミュニティを大きくすることを考えた時、その方法はコミュニティのタイプによって別れると思っています。

コミュニティのタイプは、大別すると、「共通の価値観でまとまっているコミュニティ」とそうではない「目的が明確で文化を作る必要がないコミュニティ」があります。

前者の「共通の価値観でまとまっているコミュニティ」の場合には、比較的ゆるやかにメンバーをコミュニティに入れていくのが良いと思います。急激にコミュニティを成長させないことがコツです。

なぜなら、共同体を作る時は、コミュニティ内にあまりにも価値観が異なる人が入ってくると既存のメンバーにとってはとても違和感があるんです。だから月あたりの入会上限数や、既存メンバーの紹介制などの仕組みなどを作って、文化を作りながら大きくしないといけないと思います。そうやって緩やかに醸成していったコミュニティにこそ文化ができ、持続可能性を持ってくると思っています。

文化が作れないとそのコミュニティはルールで縛るしかなくなってしまいますが、ルールで縛るよりも文化を作った方が面白くなっていくし、長生きもすると思っています。

ルールはルールの中でしか動かないですが、文化だと文化から発展したものが起きたりするので、創発性や外部拡張を考えると文化優先にしておくべきです。

一方で後者に当てはまる、「目的が決まっていて文化を作る必要がないコミュニティ」の場合はルールの方を作った上でメンバーが増えていく仕組みを作って、マーケティングしていけば良いと思います。

このように価値共同体か否かによってアプローチが真逆になると思っています。

私の場合は、「議論メシ」が前者の「価値共同体コミュニティ」、「FreelanceNow」が後者の「目的が決まっているコミュニティ」なので、両方のコミュニティを見てきました。「FreelanceNow」はフリーランスと案件のマッチングの場でしかなくて、それ以外の目的はありません。そこに「企業が投稿した案件に手を挙げて直接連絡してね」というシンプルなルールを作って運営しています。そうすることで「FreelanceNow」は、人と案件のループが回っていて、勝手にメンバーが増えていく状況ができています。

オンラインサロン運営に必要なこと

もう一つ、コミュニティ運営で意識していることは、「他の人のコミュニティの真似をしないようにする」ことです。

そもそもオーナーの人柄や特性、コミュニティの構造とフェーズ、またその目的はコミュニティによって違います。それぞれ千差万別なのに他のコミュニティと同じことをしても意味がないんです。

−オンラインサロンの運営には、メンバーとこまめにコミュニケーションを取らず、プラットフォームだけ提供するやり方と、マメにメンバーとコミュニケーションを取っていくやり方があると思うんですが、黒田さんはどちらでしょうか?

比較的マメなコミュニケーションをする方だと思います。ただ私が主役ではなくて、あくまで場のファシリテーターに徹しています。メンバーと私の間に場が存在していて、直接ユーザーにはアプローチしないで、場を作ることに専念しているんです。メンバーが勝手にイベント立てて、人が集まって価値が出るという形が理想です。

ただ、その状態に至るために2つ必要なことがあるんです。

まず1つにメンバーの熱量を高めること。メンバーをやる気にしたり、やってみたいと思わせることが必要です。

2つ目に、やる気になってもいざ実際にやる時には、様々なハードルがあったりするので、そのハードルを取り去ることが必要です。

これらはオーナーの役目だと思っていて、例えばイベントをやりたいけど、イベントページの立て方わかりませんという状況はすごくもったいないですよね。だったらそのマニュアル作っておくのがオーナーの役割です。イベントを立てて下さいで終わるのではなくて、イベントを作りたかったらこういうツールがあるから好きに使ってねと用意しておくようなコミュニケーションを意識しています。

オンラインサロンは、オーナーが発信するコンテンツ主体型になりがちです。でも、それでは、コミュニティじゃなくてメディアになってしまうと思っています。中央の人がコンテンツを配信し続ける形になると、それってただの会員限定メディアですよね。そうではなくて統制を手放してメンバーが自主的に動ける状況をいかに作るかがコミュニティの肝です。

いかにメンバーを主体者にして、能動的にコミュニティに関わって、運営側に立ってもらうかがコミュニティの勝負だと思います。だから私は、なるべく自分の色はあまり出さないようにしているんです。「議論メシ」ってよく考えれば黒田さんのコミュニティだったんですねと言われるくらいが私の目標です。

そういう意味では、企業よりも個人の方が、ステークホルダーが少ない分、コミュニティビジネスに向いていると言えるかもしれません。

企業がコミュニティビジネスをしようとするとメンバーに自由にさせるのは難しくなって来ます。なので、企業もコミュニティを作りたいなら、コミュニティマネジメントができる個人を雇うというか業務委託してやってもらう方が現実的だと思います。

それによって、これからは、コミュニティのリテラシーがある人のニーズが出てきます。今までのサロンは、カリスマ型の運営が多く、非カリスマ型のサロン運営、コミュニティ運営ができる人が貴重になってくると思っているので、それを実践して研究しています。

コミュニティ時代のあたらしい働き方とは

−コミュニティビジネスが強くなってくる中で、これからそもそも働き方ってどうなっていくとお考えですか?

今までは、家庭と職場の往復をしていた人が多かったかもしれませんが、そこに自分が好きなことができる、やりたいことでつながったコミュニティができてきました。副業とはまた別の文脈で、複数のコミュニティに所属する生き方が出てくると思います。

−そもそもなぜ世の中的にコミュニティというものが盛り上がっているのでしょうか?

元々コミュニティとして存在していたものが、薄まって来たことが原因としてあげられます。家族の解体や、個の時代という言葉がありますが、個がむき出しで動かないといけない時代になってきました。

個人という概念そのものがもともと輸入されたもので、日本では、個人なんて文化は存在しなかったんです。そんな中で、むき出しになった個の状態では、みんな心細いし、みんなでやった方が楽しいよねとなってコミュニティに注目されるようになって来たんだと思います。

−そうするとフリーランスという概念も変わっていくのでしょうか?

フリーランスという言葉は雇用の状態を指してしかいないと思っています。例えば、週2で会社に通って、週3フリーランスとして働いて、残りはどこかのサロンで活動しているという状況を表すには、ポートフォリオワーカーなどの言葉の方が適していると思います。

そういう意味で、これからは個人のアイデンティティが捉えにくくなってくると思います。私はこういう人間ですと一言で表すことができなくなっていき、複層的にいくつかコミュニティに所属していて、いまはこのコミュニティに一番力を入れていますといった感じです。コミュニティが変われば自分も変わっていき、確固たるアイデンティティがなくなってくるのではないかなと思います。

コミュニティ時代を生き抜くには

−これからの新しい働き方の時代を生き抜くために、どのように仕事を選んでいけばいいでしょうか。

2つ観点があります。

1つ目は「連続的に専門性をつけることが重要」という観点です。専門家であることはこれから価値が下がっていき、1つの専門性だけを深掘りしてもいつか需要がなくなると思います。一方で、連続的に専門性を深められる人は生き残っていけます。なので、役割が固定されていない職場で働いた方がいいです。

2つ目が「コラボレーションのリテラシーが重要」という観点です。これだけ複雑な世の中なので、一つの会社や一つの組織内で何かを完結しようと思ってもうまくいかないと思っています。なので、外部をうまく使って、コラボレーションするリテラシーが必要です。

横にいろんな人を繋げられるコラボレーションのリテラシーが身につく場所に行ったほうがいいと思います。

具体的に企業に就職した方がいいのか、フリーランスか、起業がいいのかというのは、あくまで手段の話でしかないので、どの選択肢を取ってもいいと思っています。

世の中にはあたらしい働き方の情報が増えてきています。もしかしたら就職活動中の学生さんは「企業に就職しなくていいんじゃないか」という発想になるかもしれないですね。しかし会社はナレッジコミュニティで知識が貯まる場所なので、一旦そこに入って、そこに貯まっている知識や知恵を吸収するという意味では企業に就職という選択肢も良いです。

しかし、企業は知識のストックとしては素晴らしいですが、知識のフローは個人の方が早く補足できます。なので、一旦企業に入ってストックを吸収しきったら、あとは外で自分で活動した方が良いと思います。

(おわり)

前編はこちら「オンラインサロンとトークンエコノミーの可能性」

編集:設楽悠介・伊藤工太郎

この記事の著者・インタビューイ

黒田悠介

黒田 悠介
議論メシ コミュニティデザイナー/FreelanceNow発起人/ディスカッションパートナー/フリーランス研究家/「文系フリーランスって食べていけるの?」編集長/他
「フリーランスを実験し、世に活かす」という活動ビジョンを掲げて自分自身を実験台にしているフリーランス研究家。新しい『事業』と『働き方』を推し進めることが生業。『事業推進』としては、スタートアップから大企業の新規事業までディスカッションパートナー(プロの壁打ち相手)として年間30社の事業立ち上げを支援。思考の枠組みを提供したり、逆に壊したりズラしたり。いわゆる文系フリーランスやビジネス系フリーランスと呼ばれる存在。
『働き方推進』としてはフリーランスに関する実験結果を発信する「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営し、登壇実績多数。約2,300人の日本最大級フリーランスコミュニティ「FreelanceNow」発起人。多彩なメンバーがディスカッションで繋がる約180人の会員制サロン「議論メシ」代表。
帽子とメガネがトレードマーク。東京大学文学部心理学→ベンチャー社員×2→起業(売却)→キャリアカウンセラー→フリーランス→サロンオーナーという紆余曲折なジャングルジム型のキャリア。

黒田 悠介
議論メシ コミュニティデザイナー/FreelanceNow発起人/ディスカッションパートナー/フリーランス研究家/「文系フリーランスって食べていけるの?」編集長/他
「フリーランスを実験し、世に活かす」という活動ビジョンを掲げて自分自身を実験台にしているフリーランス研究家。新しい『事業』と『働き方』を推し進めることが生業。『事業推進』としては、スタートアップから大企業の新規事業までディスカッションパートナー(プロの壁打ち相手)として年間30社の事業立ち上げを支援。思考の枠組みを提供したり、逆に壊したりズラしたり。いわゆる文系フリーランスやビジネス系フリーランスと呼ばれる存在。
『働き方推進』としてはフリーランスに関する実験結果を発信する「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを運営し、登壇実績多数。約2,300人の日本最大級フリーランスコミュニティ「FreelanceNow」発起人。多彩なメンバーがディスカッションで繋がる約180人の会員制サロン「議論メシ」代表。
帽子とメガネがトレードマーク。東京大学文学部心理学→ベンチャー社員×2→起業(売却)→キャリアカウンセラー→フリーランス→サロンオーナーという紆余曲折なジャングルジム型のキャリア。

この特集のその他の記事

オンラインサロンの産みの親が語るトークンエコノミーの可能性/田村健太郎

「個人の発信者とファンをつなぐオンラインサロンプラットフォーム」Synapse(シナプス)の生みの親である田村健太郎氏。今年の春から「自分だけのオリジナルポイントをファンに送れるアプリ」・ミントをスタートしました。田村氏がこれまでのコミュニティ運営で培ったノウハウでどのようにトークンエコノミーを形成するサービスを提供しようとしているのかについてお話を聞きました。

オンラインサロンとトークンエコノミーの可能性 / 「議論メシ」コミュニティデザイナー 黒田悠介 インタビュー(前編)

「議論メシ」コミュニティデザイナー、「FreelanceNow」発起人、ディスカッションパートナー、フリーランス研究家、「文系フリーランスって食べていけるの?」編集長などの様々な肩書きを持つ黒田悠介氏。彼は現在自身の運営するオンラインサロンコミュニティ「議論メシ」で1年以上前から独自トークンを発行し、独自のトークンエコノミーを築いてきた。そんな黒田氏にオンラインサロンのコミュニティ運営やトークンエコノミーの可能性について語ってもらった。

これからのコミュニティの在り方と私たちのあたらしい働き方 / 「議論メシ」コミュニティデザイナー・黒田悠介インタビュー(後編)

まずコミュニティの一種として株式会社があると考えています。そしてサロンコミュニティと株式会社が決定的に違うことは上場できるか否かと、株式発行できるくらいだと思います。 会社の組織がフラットになっていたり、逆にコミュニティも会社的なものになっていたりするので、あまり境目がないかもしれません。資金調達のしやすさが違うだけなので、資本集約型でレバレッジを効かせないといけない事業は、株式会社でやった方がいいと思いますが、そうじゃないことをやる場合にはコミュニティでもいいんじゃないかと思っています。 最近ではICO(Initial Coin Offering)やSTO(Security Token Offering)など、コミュニティにも資金調達の手段が増えてきているので、今後はさらに境目は曖昧になっていくでしょうね。