「議論メシ」コミュニティデザイナー、「FreelanceNow」発起人、ディスカッションパートナー、フリーランス研究家、「文系フリーランスって食べていけるの?」編集長などの様々な肩書きを持つ黒田悠介氏。彼は現在自身の運営するオンラインサロンコミュニティ「議論メシ」で1年以上前から独自トークンを発行し、独自のトークンエコノミーを築いてきた。そんな黒田氏にオンラインサロンのコミュニティ運営やトークンエコノミーの可能性について語ってもらった。
フリーランスだけ経験がなかったから、会社を辞めてフリーランスになった
−黒田さんがどのようにフリーランスという選択肢を選んで、ディスカッションパートナーの仕事やコミュニティ運営することになったのかを教えてください。
学生時代は、東京大学で心理学を学んでいました。そして大学卒業後はスタートアップやマーケティングの会社を経て、26歳で予約システムを法人向けに提供する起業しました。その会社ではレジャー施設やゴルフ場や人間ドックなど、まだ大手の予約システムが入り込んでいないところをどんどん開拓していき、28歳で売却するまでには年間で150万人ぐらいが使ってくれるサービスになりました。
当時会社を経営していた中で、一番辛かったのはお金のことではなくて、人が採用できないことでした。事業は順調に伸びていて面白いのに、本当に優秀な人を集めるのに苦労しました。
そこで事業を売却し、キャリアコンサルティングや採用支援をやっているスローガンという会社に入社しました。その会社いた2年間で2000人くらいの人のキャリアカウンセリングをしたと思います。正直飽きるほどいろいろな人のキャリアカウンセリングをしたことで、自分の中でキャリアというものにすごく関心が高まったんです。
そんなキャリアカウンセリングの中で何人かの学生から「フリーランスってどうですか?」という相談を受けました。それには明確に答えることができませんでした。その当時、私には幾つかの企業で働いた経験や、自分で起業してさらに事業売却した経験もありましたが、ただフリーランスの経験はなかったからです。
私のキャリアの中で、ある意味それを経験していないことは自分の欠陥だと感じ、そのパズルのピースを埋めたくて、それで会社を辞めてフリーランスになることにしたんです。
ただフリーランスになることが目的で会社を辞めたので、具体的に何をするかは決めていませんでした。最初は経験のあったWebディレクターをフリーランスですることにしましたが、ただ正直それはあまり興味がある分野ではなかったです。だから自分がやりたいことで、かつフリーランスとして成立する仕事はないかと考えるようになりました。
ディスカッションパートナーという仕事を作る
それで思いついたのがディスカッションパートナーという仕事です。ディスカッションパートナーとは、様々な企業の担当者と「そのビジネスをどういうコンセプトでやりましょう」とか、「どういうビジネスモデルで事業を作りましょう」といったようなビジネスの上流のディスカッションのパートナーになるという仕事です。
ただ僕がその時に作った仕事なので、最初の頃はいろいろな人に話しても「ディスカッションパートナーってどういうこと?コンサルタントと何が違うの?」と何度も聞かれるとこが多かったです。
コンサルタントとディスカッションパートナーは違います。コンサルタントは答えを持ってくる人ですけど、ディスカッションパートナーは答えを一緒に作る人というイメージです。
ただ始めた当初は認知もされていなかったですし、実績もなかったので、ココナラ(CtoCのスキルシェアサービス)で「500円で御社のサービス10個ダメ出しします」というような仕事をしていました。
そんな活動を地道にしていたら次第に「黒田に相談すれば超高速で的確な10個のフィードバックが返ってくる」ということが口コミで広がっていき、投げ銭をしてもらえたり、ダメだしをした人から次の仕事を紹介してもらえたりするようになってきました。そのうち企業の新規事業立ち上げの仕事もどんどん増えていきました。
フリーランスを繋ぐコミュニティ「FreelanceNow」
フリーランスで仕事をすることで、たくさんのフリーランスの人とも知り合うようになりました。またディスカッションパートナーとしての仕事相手の相談を受けていく中で、そんなフリーランス仲間を紹介する機会も増えてきたんです。
そこでコミュニティを作ろうと考えました。まず自分の知り合いのフリーランス100人くらいでFacebookグループを作って、ここに案件を投げてくださいという仕組みにしました。それが昨年2月に作った「FreelanceNow」です。
そしてそこに仕事が集まるようになると、それによってフリーランスのメンバーも増えていきました。今のメンバーは、2300人くらいです。メンバーはエンジニア、デザイナー、ライター、マーケター、カメラマン、コンサルタントなど様々です。
そして「FreelanceNow」はプライベートなクラウドソーシングプラットフォームとして、いろいろな仕事をメンバーに紹介していますが、もちろん仲介料とかは一切貰っていないです。
私のやりたいことの収益モデル全体で見た時、「FreelanceNow」はマネタイズエンジンではなく、あくまで信頼や人とのつながりを作るトラスタイズエンジンだと思っています。
私は全部のプロジェクトでお金を稼ぐ必要はなくて、信頼を稼ぐプロジェクト、お金を稼ぐプロジェクト、自分のスキルを高めるプロジェクトなど、いくつか並行させてポートフォリオを組んでいくのがこれからの働き方だと思い、実践しています。
一人で仕事を受けきれないから「議論メシ」を作った
−そのポートフォリオの一つでもあるコミュニティ「議論メシ」はどのような経緯で作ったんですか?
ありがたい話ですが、ディスカッションパートナーとしての仕事が、私一人では受けきれなくなってきました。そこでもっとディスカッションパートナーになれるメンバーも増やしたいし、なによりこの仕事をもっと世の中に広げたいと思っていました。
さらにディスカッションパートナーの仕事で、医療系や地方創生などの幅広い様々な分野の仕事が来るようになってきたんです。そのような様々な分野の方々とディスカッションをする上で、言語化されている構造を理解していることと、言語化されていない業界慣習などの背景を理解していることは別です。だからディスカッションの場で構造化して構想を作りつつも、現実としてどういう問題があるのかを理解して、それらを繋げられる多様な知見や経験を持つチームを作り、仕事を面で受けられる組織を作りたいと思い立ちました。
そこで「議論メシ」というサロンコミュニティを昨年の11月に作ることに決めました。6人ではじめて現在は190人のコミュニティになりました。メンバーの中には学生や主婦もいて、全員が高い専門性を持っているわけではないですが、みんな独自の視点や観点を持ってディスカッションに臨み、それらを混ぜ合わせて価値を出せるコミュニティになっています。
「議論メシ」ではディスカッションを通じて企業と一緒にプロジェクトを作り、そしてプロジェクトという箱ができたらそこに人を埋めないといけないので「FreelanceNow」からフリーランスの人を集めそれを実行に移すという、一気通貫でのサポートを実現できています。
私のサロン運営は、基本的に個人にアプローチすることはほとんどなくて、場をコーディネートに力を入れています。場を作る、文化を作るという形でコミュニティを作っています。
−最近オンラインサロンが流行っています。サロンの規模が大きくなりメンバーやコミュニティのスキルが高くなってきた時の1つの課題は、外部から仕事を受けた場合の利益分配だと思います。それに関して黒田さんはどう思われますか?
私は外部から仕事が来ても、コミュニティとして受けるのではなくて、その中の担当する個々人がそれぞれその相手と契約して仕事をするのがいいと思っています。
そういったビジネスは「議論メシ」で作られたものではなく、「議論メシ」から派生したプロジェクトとして勝手に起きていることにしたい。だから「議論メシ」はあくまで人を繋いだり、ディスカッションの場を提供したりするだけというスタンスにしています。
サロンのメンバーは「議論メシ」のブランドを使うのも当然OKで、その対価の手数料などをもらったりはしません。「議論メシ」はあくまで自己実現のための「装置」なので好きな時に接続したり、外したりして良い場所でありたいです。
また「議論メシ」の中でメンバーから生まれてくるプロジェクトは、公序良俗違反なもの以外は自由に進めてもらうようにしています。それが仮につまらないプロジェクトであれば、人が集まらず自然消滅していくという適者生存でいいと思っています。
仮にコミュニティの管理者が、そのプロジェクトはブランドが毀損されるなどの理由で、メンバーの中で発生するアクションを無理に押さえつけたりすると、余計にプロジェクトが上がってこなくなるんですよね。それよりは、許可より謝罪と考えてやっちゃってくれと思っています。
そしてコミュニティに貢献してくれた分の報酬は、トークンで配布することで、活動するモチベーションや感謝の気持ちをこちらからも示すという仕組みにしています。
ブロックチェーンはあくまで手段、重要なのはコミュニティ内に価値をスムーズな流通
−「議論メシ」の中で発行されているトークンの仕組みは具体的を教えてください
簡単に言ってしまうとサロン内の独自トークンです。ポイントをイメージしていただくとわかりやすいかと思います。そしてそのトークンをGRN(ギロン)という単位で呼んでいます。
昨年の11月に発行を開始した頃はトークンといってもブロックチェーンの仕組みではなく、スプレッドシートをみんなで共通取引台帳として共有して管理することろからはじめました。
トークンといっても最初はブロックチェーンを使わなくてもいいと思っています。ブロックチェーンは、コミュニティが大規模になった時に中央がなくてもトランザクションがスムーズに行われるためのものです。それが小さい規模なら、管理人を信じてもらうことで信頼はある程度担保できます。管理用のスプレッドシートもみんなが見られるようにしていて、分散はしていませんが、合意形成はできています。
ブロックチェーンはあくまで手段であって、重要なのはコミュニティ内に価値をスムーズに流通させることです。それに見合う手段として、まずは集中型台帳で良いと思い、このような仕組みからはじめました。
トークンの配布はコミュニティへの貢献を基準にしています。メンバーはコミュニティへの貢献度に応じて事前に約束されたトークンを得られる仕組みです。またメンバーはその得られたトークンでグッズやお米、他のメンバーのスキルを手にいれることがができたり、イベントに参加することができたりするような仕組みにしました。
昨年発行してから積極的にメンバーがトークンを利用してくれるようになって、どんどんと取引量も増えていきました。次第にスプレッドシートの管理も大変になってきたので、その時のタイミングよくリリースされたfeverというコミュニティ内のトークンを発行できるプラットフォームに、8月から仕組みを乗り換えてGRN(ギロン)の発行や配布、管理をしています。
コミュニティ内のメンバーの貢献を可視化するためにトークンを発行
−そもそもコミュニティトークンをなぜ発行しようと思ったのですか?
最初はメンバーの貢献を「見える化」したいと思っただけなんです。このコミュニティにコミットしてくれている人はどれだけいるのか、どの人が一番貢献してくれているのかを私自身が可視化したくて始めました。
最初は貢献ポイントでしかなくて、それがどこかで使えるなんて考えていませんでした。次第に、これって信頼残高と考えたらお金とイコールだなと思い、ギロンという名前をつけてコミュニティ内通貨のように使えるようにしたんです。そうしたらそれがたまたまコミュニティと相性がよくトークンエコノミーが出来上がってきたんです。
トークンエコノミーは、自然発生的に生まれうる、原理的なものだと思います。今トークンエコノミーというとブロックチェーンの文脈で語られることが多いです。でもトークンエコノミーがたまたまブロックチェーンという今の技術にのっかっただけで、それ自体が新しいトレンドというよりは、今まで埋もれていた価値がブロックチェーンによって顕在化させやすく運用しやすくなったのがトークンエコノミーが取り沙汰されている現状の理由だと思います。
トークンエコノミーが「見える化」されて、価値が顕在化してコミュニティ全体の評価ができるような時代になってきたと思います。価値の流通の見える化が、コミュニティにとって一番重要なポイントになると思っているので、そこを今突き詰めています。
(後編につづく→後編「これからのコミュニティの在り方と私たちのあたらしい働き方」)
編集:設楽悠介・伊藤工太郎