「SalesForceを超える、Googleを超える」そのような強い意志をCryptoeconomics Labのチームから感じた。しかし、オープンソースなプロダクトを開発し、収益を上げることはスタートアップにとって非常に難しいと思う。そのような実情で、彼らはどのようなゴールと戦略を描いているのだろうか。
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0からグローバルマーケットへの突破口を作る方法
SalseForceはCryptoeconomics Labの理想の形
―Cryptoeconomics Labのゴールは何でしょうか?
部谷:僕たちのゴールは、Plasmaを開発することではなく、そのオープンソースのフレームワークを作ることです。つまり、開発者がLayer2のソリューション、特にPlasmaのアプリケーションを簡単に作れる仕組みを作ることがゴールなのです。
CELだけですべてのビジネスに対してソリューションを提供するのは難しいため、開発者たちの工数を減らすことで、彼らに様々なビジネス領域にフィットするサービスを作っていって欲しいと考えています。例えば、Salesforceは多くの人が簡単に使えて、自社のビジネスに活かされていますよね。Salesforceくらいのレベルで簡単にブロックチェーンを自社に導入できたらすごく良いと思います。
―オープンソースのフレームワークを作ることがゴールということですが、利便性と収益性をどう兼ね合わせていくのでしょうか?
部谷:僕はブロックチェーンのフレームワークのユーザーの利便性とビジネス収益性はグラデーションになっていくと思います。
例えば、Plasmaにはオフチェーンでのトランザクションを取りまとめるOperatorと呼ばれるノードがいるのですが、そのOperatorの運用をCELが肩代わりし、手数料を頂くビジネスに可能性を感じています。このサービスを使う層は、ブロックチェーンには精通していないかもしれません。そのためにより高度な開発ツールや時にはアドバイザリーサービスも必要かもしれません。
Plasmaを利用する企業が完全に自分たちではできないことは多いわけです。しかし我々は、このようなブロックチェーンに精通していない既存業界のユーザ層を必ず取り込まなければいけません。
なぜなら、既存業界のドメイン知識を使ってアイデアを出したりデザインをしなければ、ブロックチェーンが上手く機能しない領域が必ず存在するからです。
このようにマジョリティを取り込んでいく中で、私たちがやらなくてはいけない領域は、少なくとも今後10年は絶対残ります。10年間のうちに、私たちが儲かる云々ではなくて、ブロックチェーンを広げるために、動きつづけなければならないと思っています。そのためにCELは絶対に必要ですし、結果として、収益はついてくると信じています。
CELは儲かることが第一の目的ではなくて、正しい技術を広げた結果として確実に儲かるようにしていきたいと思っています。
―フレームワークビジネスとして参考にしている企業はありますか?
部谷:フレームワークビジネスではないですが、CELではブロックチェーンのAWSやSalesforceをイメージしています。特に私は、ブロックチェーン開発に参入できるエンジニアの領域が広がるようなフレームワークを想像していて、その意味で企業の必須ツールになっているSalesforceや今ではMSのOffice製品をイメージしています。
―2009年と2019年、環境の違いはありますか?
部谷:ブロックチェーンの場合、オープンソースでも収益を上げられる可能性が高いです。トークンモデルなどを考えると、開発者が技術力だけでビジネスを動かせるようになっています。つまり、技術的な優位性がそのままビジネスにも通用する時代になっているのです。
そして、昔よりもビジネスを立ち上げるコストが減り、必要な人材の種類も絞られてきています。
西島:ただ、最近はそのような有利なフェーズは長く続かないと思っています。仮に世界中からトップブレインが集まっているGoogleが私たちがやっているようなブロックチェーン研究開発を本気でやり始めれば、一瞬で抜かされ、追い込まれてしまうと思っています。
なので、CELが勝ち残るための戦略は早く汎用性を極めにいくことだと思います。それこそが、グローバルマーケットでの競争優位性につながると考えています。
部谷:一方で、2010年頃に比べると、Googleには負ける気がしなくなっているのも事実です。
スタートアップでも技術と知恵があれば、Ethereumのような世界的に巨大なコミュニティで広められるわけです。Ethereumの登場以前は、自分一人に技術があっても、OSを作ったところでとても勝てないと思っていました。しかし、今はEthereum上で機能するアプリケーションを作れば、コミュニティのみんなが味方なのです。技術が広まるコミュニティが既にあるという状況が決定的に8年前と状況が異なります。
プロトコルレイヤーの開発や運用に関しても、ブロックチェーンのおかげで、かなり運用コストが下がり、相互運用性も高くなりました。
誰もがブロックチェーンアプリを創れる時代へ
―プロダクトを通してどんな社会を生み出していきたいのでしょうか?
堤:僕らのプロダクトが広がった先に待っているのは、ブロックチェーンで動くアプリケーションを誰でも作れるようになっている未来です。例えば、小学生がブロックチェーン上で気軽に駄菓子屋を始められたら、素敵ですよね。
部谷:教育面全般でも大きな影響を与えていきたいです。現在の(日本の)プログラマー人口は全労働人口のたった1%ですが、ブロックチェーンやEthereumコミュニティは教育にもすごくいいと思っています。
フレームワークを作っているのも、ブロックチェーンサービスを簡単に開発できる環境を通して色んな人に力を与えたいと思っているからです。正しいフレームワークがあることは、多くの人のリテラシーの向上につながります。1%のプログラマー人口を少しでも引き上げると、その人もサービスを作ってEthereumコミュニティに入れるわけです。
そうすると、どんどんコミュニティも大きくなるし、その人自身も力を持てるようになります。個人を育て、コミュニティと適切に結びつけるために、フレームワークを作っていると僕は思っていますし、それをどんどん大きくしていってみんなの1%を引き上げるのが私たちのプロダクトの未来です。
―個人のリテラシーを高められないフレームワークもありますよね?
部谷:はい、僕もあると考えています。重要なのは、個人のリテラシーをちゃんと高められるようにフレームワークを実装していくことだと思います。
僕たちが開発しているPlasma Chamberは、プログラマー本人が適切な教育を受けながら知恵を着け、未来をサバイブできるようなフレームワークにしていかなければならないと思っています。
―もうすぐフレームワークが正式ローンチされますよね?
部谷:年明けの2020年Q1にはPlasma Chamberのフレームワークやそのフレームワークを使って作れるDapps例としてのウォレットアプリをテストネットでローンチする予定です。これらは全てオープンソースで開発しておりますが、ローンチと同時に開発に使われたPlasma clientのSDKも提供します。
テストネットでPlasmaのOperatorを立ち上げ向ける形になります。Q2には、さらに大きな発表も控えています。これからワークショップなどのコミュニティ活動にも力を入れていくので、あたらしい経済の読者さんにもぜひ僕たちのプロダクトを触って、気がるに質問を投げかけていただけたら嬉しいです。
Twitter: https://twitter.com/cryptoeconlab
Telegram:(英語)https://t.me/cryptoeocnomicslab(日本語)https://t.me/plasmaqanda
(おわり)
→第1回はこちら「ブロックチェーンの社会実装に向け、Plasma(プラズマ)のフレームワークを開発する日本のトップエンジニア集団」
→第2回はこちら「0からグローバルマーケットへの突破口を作る方法」
編集:竹田匡宏
撮影:大津賀新也